たっくんとゆうちゃん

kromin

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番外編 組織の皆の様々な日常

かぐやとアカネが二人で仕事した時

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組織に俺達がスカウトされてから一年近くが経ち、珍しく俺とアカネだけで任務を受けた時の事。


「んー、かぐやと俺だけってほんと珍しいね。御堂さんそこまで難しくないだろうし安心してねって言ってたけど」
「…ああ、そうだな」

「まあ、俺もお仕事かなり慣れて来たし、かぐやも強いし。たっくんさん程じゃないけどこの年ではランクもかなり高い方だって御堂さん達から褒められてるしきっと大丈夫だよね。あーまたさん付けて呼んじゃった。年そこまで離れて無いしなんかさん付けだと変だからそのままで良いよって言われてるのに」
「…まあ、今は彼も居ないし別にそのくらい良いだろう。どんな相手でも普段から敬語で接しているのは礼節的にも良い事だしな」

「うん、自慢したくはないけど俺達そこそこ良い家柄だし、その辺の作法はきっちり教えられてるしね。フランクで良いよって言われてても敬語で損する事はそんなに無いだろうしね。で、今回の任務はっと。えーっとS県の少し都市部から離れた結構お金持ちの男性からで、大量の動物霊に絡まれてて殺されそうなんで何とかして欲しい…か。大変だね、すぐ行ってあげよう」

「……」

「…ん、どうしたのかぐや?なんか難しい顔して」

「…いや、何でもない。…そうだな、高速バスなどは組織が既に手配してくれたというし、早く赴こう」


そうして俺達は恙なく交通機関を乗り継ぎ、依頼者の下へ向かった。

「わー、お金持ちって聞いてたけど本当立派なお家だね。かぐやの家程じゃ無いけど、俺の実家と同じくらいの大きさかな。じゃあチャイム押してっと。すみません、組織から依頼を受けて来ましたー」

そして少し後に門扉が開き現れたのは、三十代半ばくらいに見える、言い方は良く無いがやや偏屈そうな中肉中背の男性だった。

「…ああ、来てくれてどうも。…思ってたのより随分若いが大丈夫なのかい。霊能力者っていうと大概中年や老人のイメージだが」

「あー、確かに映画やドラマだとそんな感じの事多いですが、意外とうち若い方も多いし、自慢じゃ無いけど俺達けっこう強くて上司からもお墨付きもらってるし大丈夫ですよー。あ、俺は神奈塚アカネっていいます、本日はよろしくお願いしまーす」
「…三笠山かぐやです。俺もそれなりに腕に覚えはありますので、どうかご心配なく」

「…ふん、なら良いけどね。じゃあこっちだ、巻き込まれたらまずいから今日は使用人達は全員暇をやっている。屋敷にいるのは私達だけだ。どういう戦い方をするのかは知らんがなるべく家や調度品を傷付けないでくれるとありがたいがね。まあ命には代えられないし、多少は目をつぶるが」
「あー、ですよね。立派なお屋敷ですし、高価な物も当然あるでしょうし。かぐやは呪術使いだから大丈夫ですが俺はボウガンや銃で戦うんで、なるべくお庭で討伐するよう心がけますので」
「…ええ、俺も可能な限りは結界で住居を保護させてもらいます。万一高級品を傷付けてしまった際は、組織がある程度負担致しますので」

「ふうん、悪いが胡散臭い連中だと思ってたが案外その辺はしっかりしてるんだな。まあ期待してるよ」
「ええ、確かに性質上表沙汰には出来ない組織ですが、国家の中枢部が絡んでいるしっかりした機関ですのでどうかご安心くださいねー。えっと、それで動物霊たちに絡まれてるとの事ですが。何かお心当たりとかあったりしますか?失礼な事を言って申し訳ありませんが、例えば飛び出して来た猫や犬を轢いちゃったとか」

「…本当に失礼だな、まあそっちも仕事だし仕方ないんだろうが。…心当たりなんか無いね。免許は一応持っているが大半は運転手に頼むし、運転手も公私ともにここ数年で動物を轢いて死なせた事なんか無いよ」

「…そうですか、不愉快な思いをさせ申し訳ありません。…では、何者かに外部から呪いをかけられているという可能性もありますね。山奥で狩猟を営んでいるなどなら兎も角、町で暮らしていて通りすがりの動物霊に呪われる事はあまり無いと思うので」
「んー、そうだね。何か確かにこのお屋敷着いた時からなんか強烈な怨念っぽいもの感じるし。やっぱり失礼で申し訳ないですがお金持ちだったり大きいお仕事されていたら、いわれも無い恨みを買って悪質な術師雇って呪われちゃう事とかも時々ありますので」

「…ふん、それは全く勘弁して欲しいんだがな。まあ確かに私はそこそこの企業を運営してて、ブラック経営は世間が煩いし気を付けているがどうしてもライバル企業とぶつかって何度か潰したり大損させた事はあるんで、その可能性は否定できんがね」

「わー、そうなんですか。まだお若いのにご立派ですね。俺家柄はそれなりですがたぶん会社員とか実業家とか絶対性格的に無理でしょうから尊敬します。あー、でもまあかなり特殊だけど組織も一応会社といえば会社か、いや公務員のほうが近いのかな」
「…俺は昔は家を継ぐ事も想定して教育されていたし、全く向いてない訳では無いと思うが。組織には本当に恩があるし、今の仕事が性に合っているのでスカウトされて良かったと思っている」

「…あんた達の素性なんかどうでもいいがね、殺されたくないんで仕事はしっかりしてくれよ。で、茶くらいは出すが後は私はどうしてれば良いんだ。自宅でも仕事があるし、妙な儀式だとかに協力させられるのは鬱陶しいのだが」

「あ、そういうのは別に大丈夫ですよー。ただ貴方を狙っているとの事なので、同じ部屋でなくても大丈夫ですがなるべく近くに待機して下さっていると助かります。ずっと監視されてたら当然落ち着かないでしょうし、この状況じゃ難しいでしょうが楽にしてて下さいね」
「…ええ、後は我々にお任せ下さい」


「ふん、そうかい。ならまあ良いが。こっちも高い金払ってるんだから早めに片付けてくれるとありがたいね。ここ一週間くらい命狙われたり毎晩周りで吠えたり唸られて、まともに眠れていないんでね」

そうして第一印象通りかなり偏屈な依頼者は、俺達に無造作に茶と茶菓子を出し別室へ去って行った。

「んー、失礼だけど一目見た時から癖の強そうな人だなーと思ってたけど、本当そんな感じの人だったね。まあずっと命狙われてたらピリピリもしちゃうだろうけど」
「…そうだな。だがおそらく彼は、普段からああだと思う」

「そっかー、確かにそうかもね。でもかぐやがちょっと会っただけでそこまで言うって珍しいね。まあかぐやも礼儀正しいけど言う時はきっちり言うタイプだけどさ」

「ああ、…それに見当違いであって欲しいのだが。彼は何か重大な事を隠している気がする」
「えー、重大な事って?」

「…ああ、俺の推測では、あの依頼者は相当悪辣な事をしている」


応接室から数部屋離れた、普段は使用人達の仮眠室となっている小部屋にて。

「…ったく、本当面倒臭えな。…ここ最近あいつらのせいでストレス解消出来てねえし、あのガキ共さっさとなんとかしろよな」


そして出された茶や菓子を頂き、茶が無くなったら持参していた飲料を各々飲んだり、交替で小用を済ませたりして数時間が経過した頃。

「んー、なるべく早めの時間から来たけどそろそろ日が暮れちゃうね。まあ大概の怪異や霊って夜や夕方に出るし、真っ昼間から来る方が少ないけどさ。…あ、なんか獣臭が強くなって来た。これそろそろかな、銃構えとくね」
「…ああ、邪気も濃くなってきている。姿を見せたらすぐに結界を張るが、依頼者に文句を言われたくないし姿を現したらすぐに庭へ出よう」

それから間もなく、饐えたような獣の臭いが部屋中に立ち込め恨めしそうな唸り声が四方から響き渡り、邪気を纏った無数の動物霊が現れた。

「うわー、大量に出るって聞いてたけど予想以上の数だな、一部融合や変質してるやつもいるし。ってか犬や猫はわかるけど小鳥とか蛇にハムスターもいるし、どんだけ念入りに呪ったんだろ。儀式に使われた動物達かわいそうだなー」

「……そうだな。結界は貼った、すぐに外へ出よう」

俺達は素早く応接室の窓から庭に飛び出し、それぞれの武器を構え、精神を集中させた。

融合し神話の番犬のように三つ首になった猛犬や、尻尾が割れ同じく怪異と化した猫に、激しい憎悪を顔に浮かべた動物霊たちが四方八方から襲い掛かる。

広範囲からの攻撃に対処するため俺は防御に専念し、攻撃はアカネに任せた。

的の小ささと獣特有の素早さゆえ正確な腕を誇るアカネの射撃技術をもってしても相手を捉えきれない事もあり、かなり苦労したが一体一体着実に撃破し数を減らしていった。

「うーん、一体ずつは大した事無いけど本当数が多いなー。どんだけ依頼者さん恨まれてるんだろ、動物の言葉は分からないけどもう殺意まんまんだし」

「…そうだな。数が減って来たので俺も結界は維持しつつ攻撃に移る。もう少し辛抱してくれ」

「うん、よろしく。俺も数多いって聞いたから矢や銃弾多めに持って来たし、もし弾切れしてもこの程度ならかぐやの作る銃弾で倒せるだろうし。かぐやも結界と同時並行で疲れるでしょ、ごめんねー」
「…ああ、昨夜睡眠は十分取ったし、待機中に瞑想したので霊力はまだ余裕がある。気にするな」


そしてそれからさらに四半刻ほど経ち、俺達はようやく動物霊たちをすべて祓う事に成功した。

「ふー、弾や矢は大丈夫だったけど結構危なかったし流石に疲れたー。まあ例のゆうちゃんのライバルとか最近出始めた眷属ほどじゃなくて良かったけど。かぐやもお疲れ様」
「…ああ、アカネも。お互い怪我は殆ど無くて良かったが」

「で、このままじゃまた呪われちゃうかもだし、今日中には難しいかもだけど呪いの出どころも突き止めて根本的に始末しないとね。じゃあ依頼者さんに報告して帰ろっか」

「…いや、まだここでやる事がある」
「え、やる事って?」

「…呪いの発生源は見当がつく。この家の中だ」

「…え」


俺達は屋敷に戻り、戸惑うアカネをよそに俺は怨念を辿りそこへ近付いて行った。

「…え、えっとかぐや。とりあえず依頼者さんに報告した方がよくない?あの人の事だから勝手にお屋敷探ってたらクレーム付けられちゃうかもだし」

「…いや、知られたら面倒だ。こういう事なら人道的に組織も許してくれるだろう。…ああ、ここか」

俺は廊下の隅にあった改装中の為立ち入り禁止とプレートの掛けられた小さな鉄扉を見つけ、倫理的にやや気が咎められたが霊力を応用し開錠し、そのまま扉を開け狭く長い階段を降りて行った。

「…ああ、やはりそうだったか」

「こ、これって。…ひどいよ」

降りた先のコンクリート製の小部屋には、狭い檻の中に閉じ込められ死に絶えたり衰弱した犬や無数の小動物が居た。

「お、お前ら庭が静かになったが報告に来ないから探してみたら何勝手に入ってるんだ、立ち入り禁止の字が読めなかったのかこのクソガキ共」

「…依頼人さん。これ、あなたがやったんですか」

アカネが慌てて部屋に駆け込んで来た依頼人を睨み付ける。

「ああ、向けられた憎悪の念から見て間違い無いだろう。…貴方も色々事情があるのでしょうが、これは倫理的に許された事ではありません。完全に法にも触れています」

「…う、うるせえよ人の苦労も知らねえでよ。お前ら育ちの良さそうなクソガキに説教される筋合いなんかねえよ」

「…人の事悪く言いたくは無いですけど、あなたにクソと言われたくはありませんね」
「…ああ、そうだな」

「…俺は実家もかなりの家柄だったが、両親や姉兄弟は外面だけは良いがクズ揃いだった。生まれた時から体形や容姿を馬鹿にされ、家業の才能が無い事も相まって毎日のように罵倒されずっと失敗作のゴミ扱いだった。産んだ癖して母や姉も豚だの才能無しのクズだの好き勝手言われて、家庭内では最底辺だった俺はそれより小さい存在を踏みつけて息抜きしなきゃやってられなかった」

「大学に上がったらすぐに家を出て貯金で整形し、必死にダイエットして自分の才能で会社を興し成功したが、それでもそのストレス解消法は一度やったら止められなかった。…労基法はきっちり守って外面も気を付けてるのにクソ我が儘な社員は文句言ったり、使用人も雇ってやってるのに生意気に陰口言いやがってよ。こいつら俺が金出して買った所有物なんだし何したって勝手だろうが」

「…あなたも気の毒ですが、それは理由になりません。申し訳ありませんが、通報させてもらいますよ」

アカネがスマートフォンを取り出したその時、近くの無惨な状態になった死骸から飛び出した霊が激しい憎悪を振りまきながら依頼人を鋭い爪で引き裂こうとした。

「…ひ、ひっ」
「…え、嘘。間に合わない」

俺は咄嗟に依頼人を庇い、片目をその爪で引き裂かれた。

「…え、ひぃっ」

「…か、かぐや。…可哀想だけど、仕留めさせてもらうよ」

アカネがスマートフォンを放り出し構えた拳銃でその動物霊を撃ち抜き除霊し、アカネは心配そうに蹲る俺を見る。

「…かぐや、大丈夫じゃないだろうけど。…平気?」
「…ああ、傷は呪法で癒せるし、目も壊れたが帰還すれば修理してもらえるし、問題無い」

「…そっか、なら良かったけど。…嫌な事思い出しちゃったでしょ、すぐ帰って治療してもらおう。組織に連絡してヘリとか呼んでもらうね」

「…え、修理って、お前」

「…あんまり言いたく無かったけど、かぐや昔相当いろいろあって普通の体じゃないので。知られたくないだろうから俺からは言えませんが、目以外にもあちこち人工物ですし」
「…普段は問題なく健常に生活できているので構いませんが。…俺からも詳細は言えませんが、それは隣のこいつも同様です」

「……」

俺は戸惑い気まずそうに立ち竦む依頼人に、出来る限り淡々と言った。

「…貴方も生家で酷な扱いを受け辛かったのは気の毒だと思います。ですがそれは無関係な他者を殺めたり傷付けて良い理由にはなりません。それは動物でも同しです」

「…ええ、俺も同じ気持ちです。…確かに俺達あなたよりだいぶ年下だし、偉そうな事言いたくはありませんが。一見幸せで苦労してなさそうな人だって、実は色々あったりしますよ。でも、それでも大半は世界を呪わず真面目に生きてます。…罪も無いのに殺されたりそうされかけた動物達があんまりです。これは呪いたくもなりますよ」

「………」

しばらくの沈黙の後、依頼人は絞り出すように呟いた。

「……悪かったよ。あんた達が出て行った後すぐに自首する。それで許してくれるか」

「…分かりました、貴方を信用します。…ただこの事は組織にも報告させてもらいますので、どうかそれは御理解下さい」

「…分かった、勝手にするといい」


依頼人はそれ以上何も言わなかったので、俺は呪法で傷を塞いだ後心配そうなアカネと共にそのまま屋敷を出た。

「…かぐや、応急処置はしたけどしんどい事思い出しちゃったでしょ。…俺、対処間に合わなくてごめんね」

「…手が塞がっていたので仕方ない。仕事をしている以上この程度の事は覚悟しているし、お前が気にする必要は無い」

「…うん、ありがと。…俺も痛いの嫌だけど常にある程度のケガは覚悟してるし、自分が傷つくのは割と平気だけど。でも、やっぱりかぐやがこれ以上傷付くの見たくは無いからさ。…もっと早く反応出来るよう腕上げるね。ごめん」

「…気持ちは嬉しいがお前も既に十分頑張っているし、あまり無理するな」

「…うん、頑張りすぎて仕事に差し支えたら意味無いし、そこは気を付ける。御堂さんと組織に連絡したらすぐヘリ寄こしてくれるって言ってたから、どこか広い所で待ってよ。…あー、片目そのままだと可哀想だし、俺どっかで眼帯買って来るよ。ここ郊外だけどドラッグストアくらいならそこらにあるだろうしさ、そのくらいは出来るから。かぐやはそこでゆっくりしてて」

「…いや、俺も一緒に行く。…少し、歩きたい気分なのでな」

「…ん、そっか。じゃあゆっくり行こ。俺スマホで売ってそうなお店探すから。俺が買うからかぐやはお店の外で待ってて」
「…そうか、ありがとう」


俺とアカネは、そのまましばらく何も言わずゆっくりと陽の落ちた見慣れぬ町を歩いた。

「…アカネ」

「…ん、どうしたの?」

「…昔、百物語をした時も話したが。いつか機会があれば、俺は組織に許可を得た上であいつを直々に討ちたい」
「…ああ、かぐやに最低な事したあいつね。うん、その時はよかったら俺も一緒に行くよ」

「…ありがとう。…この組織に入った時からそう思っていたが、今日、より一層そう思った」

「…うん、そうだろうね。分かるよ。…あ、ドラッグストア見えて来た。じゃ、郊外だから駐車場広いしヘリもここに降りてもらおうか。ヘリそろそろ来るだろうし悪いけどかぐや連絡しといてくれる?」
「ああ、分かった」

「ありがとね、御堂さんも何か相当性格悪そうな依頼者だったから嫌な予感はしてたけど、危ない目遭わせてごめんなって言ってたよ。帰ったらすぐ直してくれるってさ。じゃ、行って来るね。あー、でもいきなりヘリ降りて来たら店員さんびっくりしちゃうよね。しょうがないけどさ」

「…ふふ、そうだな」
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