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最終章 変わるアレな世界
ハートフルクインテット
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ずっと昔の事。
「おいこらクソガキ。今月のショバ代払えや」
「…僕、家も無いし仕事もしてません」
「うっせえな、お前しょっちゅう俺の管理する店で食い逃げとかかっぱらいしてんだろうが。見逃してやってんだからケジメとしてあるだけ払えやコラ」
「…お金なんて、持ってません」
「あーまあそうだろうがよ。ったくしょうがねえな。んじゃ体で払え」
「…そういう事は、嫌いです」
「金も無いしアレも嫌って本当どうしようもねえガキだな。まあお前確かに小汚なくて萎えるし連れ帰って洗うのも面倒だしな。じゃーせめてキスくらいさせろや、それも嫌とか言ったらぶっ殺すぞ。お前可愛い以外に取り柄無いクズだしそのくらい良いだろ」
「…分かりました。それくらいなら」
「…もう、いいですか」
「あーはいはい、あーやっぱ汚くて臭えな萎える。今度は川にでも突っ込んで洗ってからするか。じゃーまた来月な。嫌なら盗みでもして金作るんだな」
「…はい」
それから、僕がクロになった後の事。
「ねークロ、あのさ」
「うん、何?」
「ほら、僕達とっくに相思相愛だったけどこの前正式に恋人になったじゃん。そういう訳でキスしようよ。まあアレな事は流石に僕達まだ子供だし良いけどさ」
「…」
「ん、どしたのクロ?」
「…ごめん。キスは、何かしたくない」
「えー何で?恋人だしそのくらい良いじゃん」
「…ごめんね。よく覚えて無いけど、キスに嫌な思い出がある気がするんだ」
「えー?まあクロ結構そういう事言うけどさ。何度も言ってるけどクロ引き取られたの5歳かそのくらいでしょ。いくらクソな国で海外の生まれとは言ってもそんなショタにアレな事する変態もそこまでいないと思うけどなー」
「…うん、そのはずなんだけど。やっぱりキスは嫌だな。…ごめんね」
「んーまあしょうがないか。クロが嫌がる事はしたくないしー。クロ以外の奴等には進んで嫌がる事やりたいけどさ」
「…シロ。僕以外の人にも、もっと優しくなって」
「うーん、クロのお願いでも悪いけどそれは難しいかも。自覚はあるけど僕相当クソだし」
「…そっか」
「まあ僕も今はリアルショタだけど、年取ったら少しは丸くなるかもだし。僕達ほぼ不老みたいな物だし気長に付き合ってよ。あー、でもクロはてうてうだけどちょっと変わった体質だし、僕よりは年取っちゃうか」
「…そうだね。研究員さん達もそう言ってた」
「んー、じゃあどうにか僕と同じ体質になってくれればずっと一緒にいられるよね。…あー、これならいけるかっての今思いついたけど。でもそれしたらクロが可哀想だしなー」
「…そうなんだ」
「まあ、僕も大好きなクロのためとは言えお前にそんな事したくないしそれは良いや。この国クソだけどクソだからそういう技術はすごい勢いで発展するしさ。そのうちアレしなくてもきっと不老になれるよね。それだけは楽しみだなー」
「…うん、そうだね」
「でさ。クロが大丈夫になったらキスしようよ。まあクロメンタル強いし、僕達今も超幸せでラブラブだしそう遠くないうちに出来るよね!」
「…分かった、良いよ。…出来るだけ早く大丈夫になれるよう、頑張るね」
シロが何か思い付いた日の翌朝、やっぱりアレな料理が大量に残されつつもまだマシな物は多少食べられたシロの自室にて。
「…うん、一応一晩考えたけど、やっぱこうしよ。まあ僕寝るのも好きだから8時間くらいはしっかり寝たけど」
「おし、クロにLINEするか」
同時刻、クロが泊まったエターナルの部屋にて。
「…え」
「んー?どしたのクロ。お前がそんな驚くなんて珍しいね」
「…うん。シロからLINEが久しぶりに来て。…僕にちゃんと謝りたいから、夕方会いたいって」
「えっ」
「え」
「え?」
俺達は一斉にクロの方を向いた。
「…え、嘘。クロ今なんて?」
「…うん。僕に謝りたいから会って欲しいって」
「「「え、えええええ」」」
俺達は間違いなくここ数年で一番驚いた。
大事な事なので二回聞いたが、それでも自分の耳を疑った。たぶん全員保健室に聴力検査受けに行こうと思った。
「…え、えええ。いやこれ夢じゃないよね」
「…うん、僕もかなり不安だけど、アレな国とはいえ3人揃って同じ夢を見る事もそうそう無いと思うし」
「…ああ、俺もついにボケが始まったかと不安だが不老不死だしたぶん違うな」
「…うん、僕も正直夢じゃないかと思うけど、たぶん違うよね」
「…い、いや確かにあのクソ思い出した時に速攻謝れよとはずっと思ってたけど。あのプライドの塊のクソ野郎が自分から申し出るとか意外過ぎるんだけど」
「うん、僕も正直予想して無かった」
「ああ、あいつ根っからの謝ったら死ぬ病だもんな」
「…うん、僕も50年以上の付き合いだけど、シロが謝ったの一度も見た事無い」
「…いや、何か裏が無いかとかなり怖いんだけど。でもこの前全校生徒もろとも狂わせようとして相当締められた後だし、いくらあいつでもまた同じ事やる程救いようの無いアホじゃないよね」
「…うん。今度やったら確実に退学だろうし、これ以上アレな事したら流石の裏政府も手足1・2本じゃ済まさないかもだし」
「ああ、相当終わってるアホとは言え自分がケガするのは嫌いだろうし、わざわざ罰則増やすような事は流石にしねえだろ」
「…うん、そうだろうね。シロ戦時中もケガするの嫌いだったし」
「…えー、じゃあまだ信じられないけどあいつも少しは己のクソさを省みたのかな」
「うーん、僕もかなり信じられないけど。ここまで転落してもう国中からフルボッコにされたら流石に反省したんじゃない?」
「あー、あいつケガするの嫌だからさっさと謝って手足ぶった斬りは勘弁してもらおうって魂胆かもな。緘口令敷かれてるとはいえ、ひょっとしたらあいつもぶった斬り許可出そうなのどっかで耳にしてるかもだし」
「あー、確かに。表向きだけとりあえず謝っとこうって事かもね。もう相当やらかしてるから、あのバカでもそのくらいは想像付くかもだし」
「うん、あれ程アレな子が心の底から反省するとかそうそう無いだろうし、そういう事かもね」
「…うん。僕も人の事疑いたくは無いけど、そうだと思う」
「じゃあそういう事ならクソな事もしないだろうし、当然その程度じゃ許せないだろうけどクロ行ってくれば?」
「…うん、そうしようかな」
「良いと思うよ。でも少し謝ったからって、許す必要なんて全く無いからね」
「ああ、あれだけクソな事して一言二言謝ったくらいじゃ許されねえよ」
「うん、死んで詫びたって良いくらいの事してるんだし。もう謝った後フルボッコに言ってやんなよ。クロそういうの嫌いだろうけどさ」
「…そうだね。でも少しはきつい事、言っちゃうかも」
「良いよ良いよ、いくらでも罵詈雑言吐きなよ。全世界許すし神様だって絶対許してくれるよ」
「うん、実際こっくりさんとか託宣であいつ死ねとか言う方結構いるみたいだし」
「あー、俺も知り合いのシャーマンが神降ろしした時シロマジで殺してやりたいって言ってたの見た事ある」
「…そうなんだ」
「うん、んじゃこの事たぶん全校生徒に言っても良いだろうし、俺達皆に伝えとくね」
「うん、絶対強制アレ事件知ってる皆驚くだろうけどね」
「ああ、確実に学園が震撼するな」
「…うん、よろしく」
そして早速俺達は強制アレ事件を知ってる生徒達にグループLINEした。
やはり速攻で学園中が揺れた。アレな耐震構造の校舎だがマジで揺れた気がした。
そして学園が揺れた少し後、てうてう達の自室にて。
「…隊長。ついにあの子も少しだけ反省する時が来たのかもね」
「そうだね。…まあ、あの子の事だし本心からでは無いかもしれないけどね」
「あー、ですよね。たぶん手足ぶった斬りは嫌だからクソウザいけどとりあえず謝っとこうって魂胆でしょうねー」
「うん、そういう事だと思う。僕も人を疑いたくなんて無いし、あの子にも一片くらいは良心があると信じたいけどね」
「いやー、まな兄には悪いけどあいつには一ミクロンたりとも良心なんて無いと思うぞ」
「…」
「…千里、また眼帯外してどうしたの?」
「…うん、これだけ愚行を重ねた上でまたおかしな事をする程あの子も愚かでは無いと思いたいんだけど。…強制アレ事件の時もそうだったし、僕達では考えもつかないようなアレな事をする気じゃないかと思うと心配で」
「…あー、千里確かにアレ発覚後ずっと責任感じてたもんな。まあいくらなんでもアレを上回るくらいアレな事もそうそう無いだろ」
「…そうだね。そう思いたいんだけど。…もう二度と、あんな悲惨な事件は起こしたく無いから」
「うん、そうだね。…僕も心配だし、こっそり見守っておこうかな」
そうして学園が震撼したまま昼休みになり、強制アレ事件を知っている主要な生徒一同は食堂で緊急アレ集会を開いた。
「いやー、シロ君から謝る日が来るとはね。私あのLINE5度見した」
「うん俺も。表示バグったかと思った」
「…ああ、俺もだ」
「うん、僕も義眼壊れたかと焦った」
「うん、僕もこの前結構激しい戦闘あったからスマホ壊れたかと思った」
「僕もー。いやーあいつがスライディング土下座するの超楽しみだなー」
「ううん、僕も見たいですが彼プライドの塊だからせいぜい頭を下げるくらいだと思いますよ」
「いやー、あいつが頭下げるの見るの超楽しみだね蓬くん!」
「だねー!三人目の子も絶対超テンション上がってるだろうし」
「出来るなら僕も一緒に行って、そのまま猫ちゃん義肢パンチ喰らわせたいくらいだけどねー」
「いやー、俺この学園入ってから毎日ビビり倒してたけど今日一番ビビったかも」
「うん、ボクも直接聞いてたら疑似耳壊れたかと絶対焦ったと思う」
「あーオレも。どっかでアレ殺人鬼に襲われて頭打ったのかと焦った」
「いやー、僕達も超焦ったよね鈴くん」
「ケケケー、そうだね。僕脳味噌腐ったかと思った」
「まあ実際腐ってるけどしっかり防腐処置してあるし大丈夫だよ」
「…う、うんそうだね一回死んでるもんね…」
「ええ、僕も一回死んで蘇った身ですが驚きすぎてまた魂が飛び出るかと思いました」
「僕もそうですね。脳味噌は流石にした事ありませんが臓器提供しすぎて神経が異常をきたしたのかと思いました」
「…み、みんな驚き方独特だよね…」
「まあこういうアレな学園だし仕方ないよね」
「で、いっちーは今レッスン延びててここ来れないけど、やっぱ驚いたしテンション上がってた」
「うん、そうだろうね。あの子も中二だけど良い子だもんね」
「うーん、本当皆で行って全員で笑い飛ばしてやりたいけど。それやったらクロ君気まずいだろうし遠慮した方が良いよね」
「だねー。皆で笑い飛ばしたらシロの奴ブチ切れて何するか分からないし」
「そうだな。…クロの方が実力は上だろうし問題無いだろうが、俺も物陰から見守っていようかと思う」
「あー、良いんじゃないかな。みな君いるなら絶対安全だよ」
「いや、悪いけどそれは遠慮して欲しいな」
その時、アレな食堂では珍しい声が響き渡った。
「あれ、代行さん。ここに来るなんて珍しいですね」
「うん、きっと皆ここで彼の件について話してると思ってね。たまには皆としっかり交流もしたいし」
「そうですか。それで遠慮して欲しいというのはどうしてでしょうか」
「うん、僕も心配ではあるんだけど。やはり正式な謝罪の場だし二人きりにさせてあげたいと思ってね。佐紀君も見守りを考えていたみたいだけど、悪いけど何かあったら僕が全責任を持つのでと説得して遠慮してもらったよ」
「…そうか。だが、最悪の事が起きたらどうするつもりだ」
「ああ、もちろんそれは対策を考えているよ。対外的には二人きりという事にしておくが、ステルス迷彩を発動した金目に上空で待機してもらい、少しでも不審な行動をしたら即刻確保してもらうように頼んでいるから大丈夫だよ」
「あー、そうなんですか。ステルス化も出来るとか金目さん凄いですねー」
「うん、みな君やてうてうの子達を除けば国内最強クラスだと思うよ。だから安心してね」
「…分かった。今回だけは代行を信じる。絶対にあいつに、これ以上の愚行を犯させないようにしてくれ」
「ああ、約束するよ」
そうして代行は静かにアレな食堂を去って行った。
「いやー、表向きだけだろうけどシロ君が謝るとか世界も変わるもんだね」
「うん、絶対謝った時歴史が動くよね」
「実際歴史的事件だしね」
「ああ、そうだな。あいつの存在自体表の歴史には出せないが、裏の歴史には永遠に残るだろうな」
「うん、アレ歴史書に絶対残るね」
「あ、前野が言ってたけど裏政府もやっぱ相当驚いてるみたい。裏があるんじゃないかとかなり警戒してるってさ」
「あー、だろうね。裏政府の人達もあの子の事大嫌いだったしね」
「うん、基本学園内の事にはノータッチの裏政府も今回ばかりは監視を送ろうかって言ってたみたいだけど、代行がやっぱ権限でそれは止めたみたい」
「ふーん、そうなんだ。…なんだろ、何か嫌な予感がするような。大丈夫かな」
「…うん、代行基本裏政府とは協力するのにね。俺もちょっと嫌な予感がする」
「…ああ、俺もだ。何が起きるかまでは想像出来ないが」
「…うん、僕も。並みの思考回路では想像も付かないような、アレな事が起きる予感がする」
そしてアレな緊急集会を終え各自教室に戻り、正直期待と不安で授業が身に入らなかったがどうにかアレな授業をこなし、放課後になった。やっぱりアレな教師陣も期待半分不安半分といった感じだった。
「あ、クロ待ち合わせ夕方って言ってたからもうすぐだよね。どこで会うの?」
「…うん、僕が前ユニット解消の話した、あのお社の前で会おうって」
「あー、確かにあそこ人気無くてゆっくり話すには良いんじゃない?まあ金目こっそり上空で待機してくれてるし平気だとは思うけど、一応気を付けてね」
「うん、ありがとう面影。じゃあ皆、行ってくるね」
「うん、気を付けて」
「ああ、思いっきりあいつに毒舌吐いてやんな」
「…そうだね。やっぱり少し複雑だけど。じゃあね」
そうクロは俺達の自室から静かに去って行った。
「…クロ、本当に良い奴だから。やっぱそれ程ひどい事は言えないんだろうな」
「…そうだね。あれ程最低な事をされたのだから、一生無視しても良いくらいなのにね」
「だよな。もう一生顔見たく無くなっても無理はないレベルだよな」
「…あとさ、シロのクソっぷり知ってる奴等全員そう思ってるだろうけど。…俺もかなり嫌な予感がするんだよね」
「…うん、僕も。何やらかすかまでは想像出来ないんだけど、もうこの上なくアレな事をする気がする」
「俺もだ。900年ちょいの人生で相当アレな物は見て来たが、想像も付かないくらいのアレな事件が起きる気がする」
「…もう二度と、あいつ可哀想な目に遭って欲しくないんだけどな。俺あんまり神様に祈る方じゃ無いけど、今回は祈っておこうかな」
「うん、僕も神様は信じているけど頼るのは嫌い。でも今回はお願いしておこうかな」
「あー、そうだな。正直神も仏も無いアレな世界だとは思うが、俺も一応祈っとくか」
「…神様。どうかあいつに、これ以上クソな事をさせないで下さい」
俺達は静かに神に祈りを捧げた。
一方その頃、ハッピーチャイルドの活動時に使う部室にて。
「…うーん。たぶん強制アレ事件知ってる皆そう思ってるだろうけど。僕楽しみな反面、なんか心配なんだよね」
「うん、僕も。いくら手足ぶった斬られそうとはいえ、あのクソ野郎がそんな簡単に謝るのかなーって」
「そうですね。僕も人の謝意を疑いたくは無いのですが、あれ程アレな子ですと心配になってしまいます」
「だから本当は僕もこっそり行ってクロ見守りたいんだけど。流石にクロの為とはいえ代行の命令に逆らったら僕も何されるか分からないし、そうも行かないんだよね」
「だよねー。僕や幸野クン前世でひどい目に遭ってたから代行そこまで意地悪はしないけど、流石に命令に真っ向から逆らったらそれなりに処罰されるだろうしね」
「そうでしょうね。折角ユニット活動も順調なのに経歴に傷をつけたくも無いですものね」
「…で、学園内では可能な限り平等とはいえ代行権限で佐紀さんの見守りも禁止するって、代行何か企んでるんじゃないのかって僕心配なんだよね」
「確かに。平等とはいえやっぱ相当な身分だし、代行てうてうの人達の意思は基本尊重するのにね」
「…ええ。あの人の事ですから、何か恐ろしい事を企てているのではないかと僕も不安です」
「あ、そういえばさ幸野クン。例のアレ厳重に保管してるって事だったけど、まあ超強い清掃員さんが常に巡回してるし平気だろうけど、アレな奴が入って来て無理矢理こじ開けたりしたら危なくない?」
「うん、僕もそれは不安だから、仕事人の人脈を使ってアレな警備会社さんが開発した超強固なナンバーロック型金庫を安価で譲ってもらってそこに入れてある。ほらあそこ」
「そうなんだー。じゃあ平気かな。解除ナンバー何にしてあるの?」
「うん、誕生日とか簡単に推測できそうなものだとアレだから、普通思いつかないような数字にした。僕の叔父さんのペンションでアレな殺人事件が起きた日付」
「あー、確かにそれなら推理できないね。良いんじゃないかな」
「まあ、幸野君の叔父さんからしたら複雑でしょうけどね」
「うん、当然皆にも絶対言ってないしメモとかも残して無いから大丈夫だと思う」
その時、アレな獲物が多数置かれた部室のドアがノックされた。
「ん、誰だろ。はーい、どうぞー」
「…ちょっと、失礼するね」
入って来たのはどこか不安そうな顔をした振子だった。
「あれ、振子どうしたの?」
「…うん、代行様がユニットの皆と打ち合わせしたいって事だから、急で悪いけどすぐ学園長室に来て欲しいって」
「え、本当急だね?僕達クロの事が心配だからすぐ迎えられるようなるべくここにいたいんだけど、まあ代行命令なら仕方ないか。じゃあ皆、行こ」
「うん、りょうかーい。あーごめん、その前にトイレだけ寄らせて。長くなったら困るし」
「ああ、念の為僕も行っておきましょうかね。振子君、そのくらいは大丈夫ですよね?」
「…うん、別に良いと思うよ。…あー、今この部室の最寄りのトイレアレ清掃員さんが掃除中だから、悪いけど学園長室の近くの所使って」
「え、そうなんだ?夕暮れ近いこんな時間に清掃ってだいぶ珍しいけど。…うん、まあ分かった」
「…はい、分かりました」
そうして僕達はどことなく不穏な物を感じながら、振子について学園長室へと向かった。
「……」
「…どうしたの、振子?なんか不安そうだけど」
「…あーいや、なんでもない。ごめんね。じゃあアレも済ませなきゃだし、早く行こ」
僕は、後ろの三人に悟られないよう考える。
(…代行様。もうこれ以上、僕を失望させないでください)
そうして、それから小1時間くらい後。
僕は色々な思いを巡らせながらゆっくりと山道を登り、シロと会う約束をした小さい社に辿り着いた。
「あ、クロ。…その、久しぶり。まあまだ一週間そこらしか経ってないけどさ」
「…うん、そうだね」
ものの数日とはいえ今までの関係からすれば相当久しぶりに見るシロの顔は、アレな彼なりにも思う所があるのか少し沈みがちだった。
「……」
「…えっと、その。まあ立ち話もなんだし、適当に座ろうか。セーラー服汚したくはないけどさ」
「…そうだね」
「あー、ちょうど手頃なサイズの岩二つある。ほらここ座ろうよ。やっぱちょっと汚れるかもだけど、まあいいでしょ」
「…うん、いいよ」
僕とシロは、黙ってその岩に並んで腰かけた。
「……」
僕は予測通り落ち合った彼等の10メートルほど上空で、ステルス迷彩を発動し滞空しながら厳重に見守っていた。
カメラや集音スピーカーも元々相当高性能だが、少しでも彼が怪しい言動をしたら即座に対処できるよう各種機能の感度も最高にしておいた。
《…金目、あいつ大丈夫そう?》
振子から心配そうに通信が入る。
《…ええ、今の所は。まだ他愛もない話ばかりで、謝罪には至っていませんが》
《…ほんっと、あいつ分かっちゃいるけどどうしようもないな。普通顔見た瞬間に速攻土下座するだろ》
《…まあ、こういう事を言いたくもありませんが根本から腐りきっているような子ですからね。謝罪するという選択肢が出ただけでも奇跡的でしょう》
《あーうん、そうかもね。…金目。お願いだからこれ以上、クロを気の毒な目に遭わせないであげて》
《…ええ、僕の命に代えても守って見せます》
《…うん、頼むよ》
《…振子、心配なのは分かりますがどうしたのです?君にしてはかなり声が震えていますが》
《…うん、あのさ。あの方もまさかそこまで外道ではないと思いたいけど。…すごく、嫌な予感がして》
《…そうですか。同じ護衛とはいえ守秘義務があるでしょうから深くは聞けませんが。…正直、僕も同じ気持ちです》
ちょうどその頃、てうてう達の自室にて。
「…え、そ、そんな」
「…千里、どうしたの?」
「…かなり顔色が悪いよ。良くない物でも見えたの?」
「…そんな、ひどい。神様、こんなのはあんまりです」
「…千里、しっかりして」
「…桃太、お願い。今すぐ、あの社へ行って」
「……」
僕とシロは岩に腰かけたまま、他愛もない会話を交わしていた。
「あー、もうすっかり日も沈んで来たね。ここ、夕焼け綺麗だよね」
「…うん、そうだね」
「…あー、早く本題に入れよってきっと思ってるだろうけどさ。僕こんなの初めてで自覚はあるけど超クソだから、悪いけどもうちょっとだけ雑談付き合って」
「…うん、分かった」
「…僕さ。クロと初めて会ったその日から、お前の事大好きだったよ。まあ初対面の時はガチで命狙われたけど本当は嫌なんだろうなってのはよく分かったし、戦争だからしょうがないけどお前の護衛やバックアップの兵士狂わせて襲わせた時もさ、すごく辛そうに倒してたし」
「…そうだね。そういう力の部隊っていうのは知ってたから覚悟はしていたし、兵隊さん達もその時は遠慮なく殺して下さいって言ってたけど。…やっぱり味方の人を殺すのは、すごく悲しかった。…あの頃は洗脳されてたけど、敵国の人達もできれば殺したく無かったし」
「うん、クロ本当優しい良いやつだもんね。…なんでお前みたいに優しくて真面目で頑張り屋な子があんなクソ過ぎる生まれして、クソな事しなきゃいけなかったんだろうね。この国の神ほどじゃないけどお前の祖国の神も相当クソだよね。まあ僕が言うなだけど」
「…そうだね」
「えーひどい、そこは普通そんな事ないよって言うとこでしょ。…まあ、強制アレしたしクソな自覚は十二分にあるからそりゃ言いたく無いだろうけどさ」
「……うん、そうだね」
「…まあ、クソで正直あんま頭良くない僕でもあんな事されたら一生許せないし大嫌いになるのは分かるよ。…でもさ」
「…もう何度も言ったけどさ。僕実家がクソだったし、軍に入った後も一応クソ研究員や上官とか境遇憐れんではくれたけどやっぱ僕のクソっぷりには相当引いてたし、佐紀もしばらくは引きつつも優しくしてくれて告白も受け入れてくれたけど、実家炎上させたら速攻愛想尽かされたしさ。…だからさ」
「…だから、僕の事心の底から本当に愛してくれたのは、クロが生まれて初めてだったんだ」
「…うん」
「…んでその少し後強制アレしたせいでもう関係者全員からドン引きされて、それから自覚はあるけど僕表向きも相当アレだからさ。やっぱ戦時中から今に至るまで、僕の事知ってて本気で愛してくれてたの、クロだけなんだよね」
「…うん、そうだろうね」
「…まだ一年も経ってないけどさ。僕等がクソ裏政府からだいぶ自由認められるようになって、学校とかも希望あれば通って良いって言われて、それで僕目立ってチヤホヤされるの大好きだし歌って踊るのも好きだから、一緒にアイドルやろうよって誘ってさ。迷わずこの学園選んだじゃん」
「…うん、そうだったね」
「で、僕等の身分超アレだし二人とも可愛いから速攻受かって早速下見に来てさ。それでクソ代行からこの学園の守り神の祀られてるお社が裏山にあってそこからの眺めが良いって教えて貰って、その時もここ来たじゃん」
「…うん、歌や芸能を司る神様の、アメノウズメ様のお社だってね」
「まあ緊急事態で手段を選んでられないとはいえ裸踊りかますような痴女祭神にすんのもどうかと思うけどさー。まーこの国の神全体的にアレだし仕方ないか」
「…神様だから色々価値観も違うだろうし、偉い方にそんな事言ったら駄目だよ」
「はいはい、クロ本当に礼儀正しい良い子だよね。そういう所も僕大好きだよ。…当然お前はもう永遠に僕の事嫌いだろうけどさ」
「……うん、悪いけどそうだね」
そうして、シロは少し黙った後、いつもより真面目な顔で僕に向き直った。
「…あー。もう暗くなっちゃうし、遅くなったけど本題に入るね」
「…うん」
「…クロ。ひどい事してずっと騙してて、ごめんね?」
シロはそう言って、ぺこりと頭を下げた。
「…シロには悪いけど、やっぱり謝られても簡単には許せない。ごめんね」
「…うん、まあ当然そりゃそうだよね。普通一生殺意湧くだろうしね」
「…うん、ごめん。さすがに殺したいとまでは行かないけど、やっぱり君の事大嫌い」
「…だよね。だから僕も許してとは言わないよ。でも何年かかってもいいから、少しずつ怒りが冷めたらまた、たまには一緒に活動したりしてくれると嬉しいな。…まあ僕今評価相当アレだし、今後もアイドルやれるかだいぶ怪しいけどさ」
「…そうかもね」
そして、少しの静寂の後、シロは静かに僕に言った。
「…クロ、あのさ。もちろんそんな簡単に仲直りできるとは思ってないし、一生このままでも仕方ないとは覚悟してるけど。…これから少しずつでもやり直していきたいから、握手だけでもしてもらえないかな」
「………」
僕は少し考えた後、静かに返した。
「…うん。そのくらいなら、いいよ」
「…ありがと、クロ。…お前、本当いい奴だよね」
「…うん」
「…じゃあ、はい。握手しよ」
「…うん、いいよ」
そうして、僕はシロの伸ばした手を握ろうとした。
「…ごめんねー、クロ」
「…え」
僕の手を力強く握ったシロは、もう片方の手を脇にある茂みに突っ込み、素早く何かを取り出した。
きらりと鋭く光るそれは、美しい白銀の斧だった。
「…シロ、何、するの」
僕は考えたく無かったが、その時のシロの冷酷な目付きに覚えがあった。
ずっと昔、大事な話があると軍の人気の無い部屋に呼び出された時の事。
あの時のシロは可哀想な状態だったから補助機械のアームでだったけれど、今は。
「…クロ、ごめんね。でも僕、もうこうするしかないから」
一瞬だけ悲しそうにそう言った後、シロはそれをしっかりと持った腕を勢いよく、僕の腕目掛けて。
金目のカメラアイを通して眼下の二人のやり取りを見ていた僕は青ざめ声を上げた。
《…え、そんな。あいつまさか。…金目お願い、すぐ確保して!!》
だが金目から応答は無く、代わりに返ってきたのは抑揚のない無機質なメッセージだった。
《エラー発生、エラー発生。管理者権限により生命維持装置以外の全てのシステムをOFFにします。ステルス迷彩とジェット噴射、強制解除》
「…え」
凍り付いたような一瞬の後、がしゃん、と大きくて硬い物が落ちる音が間近にして。
僕とシロは合わせてその音の方を振り向く。
「…エラー発生、エラー発生。…至急、再起動を試みます」
「…金目、さん」
「あーもう、想像はついてたけどやっぱこいつ隠れて見張ってたのか。まあ超偶然にも都合よくバグってぶっ壊れてくれてて助かったけどさ。もー、クロ反応速度早いから完全不意討ちでもしなきゃアレ出来ないのに邪魔すんなよな、このクソポンコツがよ」
シロは、いや、シロの外見をしたおぞましい何かは、いつものように吐き棄てるように言い。
そして、また僕の方を向いて、美しく輝くその斧を。
僕の、腕に。
「……っ」
「……っ、いってー」
「…あ?おいお前、何クソウザい事してんだよ」
「…え、桃太、さん」
覚悟していた痛みは、いつまでたっても僕の腕に来なかった。
その刃は、僕を庇って飛び込んで来た桃太さんの腕に深々と食い込んでいた。
「…それはこっちの台詞だ、このクソ野郎。…おいお前、クロに何する気だった」
「あー?何って見りゃわかんだろクソが。強制アレ事件再びだよ」
「…シロ。…何となく想像はつくけど、どうしてこんな事しようとしたの」
僕は、絞り出すように目の前のおぞましいものに問いかけた。
「んー、まあ僕だって本当はこんな事したくは無いけどさ。僕もう正直色々詰んでるし、基本頭悪い僕でもここまでクソな事したらどんだけ土下座しても許してなんてくれないのは分かるし。でもクロにまで見捨てられたら僕もうマジで終わっちゃうからさ」
「だから本当悪いけど謝罪の握手とみせかけてアンブッシュで強制アレして、そのまま即がっつり狂わせてまた全部忘れさせて僕の事大好きにして、持ち運びやすくしたらクロ抱きかかえて国外逃亡決め込もうかなーってさ。あーさすがにずっとアレじゃ可哀想過ぎるから、どっか適当な国に身を落ち着けたらまた有能な医者ぶっ狂わせてすぐ手足は治してあげるつもりだったけどさ。僕だって鬼じゃ無いからそこは安心して」
そのあまりにも自分勝手で恐ろしい目論見を聞いた僕と桃太さんは絶句した。
「……シロ。悪いけど、君って僕が思ってたよりずっと、ひどい子だったんだね」
「…ああ、同感だ。この世界にお前以上のクソ野郎なんていないだろうな。断言できるわ」
「あーもう、クロには何言われてもしょうがないとは思ってたけど、お前にそこまで言われるのクソウザいんだけどー。ほら強制アレさっさとやり直すから斧返せよクソ桃太」
「…誰が返すか。かなり痛かったが文字通り肉を切らせて骨を断つって奴だな。しっかり俺の腕に食い込んでるからもうこれは絶対渡さねえ。逆にこの斧でてめえの首跳ねてやんよ。…今日という今日はもう絶対に許さねーぞ、覚悟しやがれ」
「…桃太さん」
「…ったく、本当クソウザいなお前。まーいいよ、お前堅いっつっても狂わせ耐性はほぼ無いクソザコだし、狂わせてぶん取るだけだし。このポンコツ再起動したらウザいからさっさと狂い死ね」
「…上等だ。お前みたいなクソ野郎、狂う前に速攻首跳ね飛ばしてやるよ。クロにはかなわねえが身体能力は隊で俺が二番目だったの忘れたのかよ。たとえ後で処刑されようと、てめえと相討ちなら本望だ」
「…システム80%復旧、戦闘機能再起動完了。…桃太さん、僕も加勢します。システムダウン中も目視で状況は確認できておりましたので。…僕も、裏政府や代行様の許可を待たずとも、もうこの子を生かしておけません」
「…金目さん」
よろよろと立ち上がった金目さんと、顔を苦痛に歪ませながら斧を引き抜きしっかりと握った桃太さんは激しい怒りを露わにし、並んでシロの前に立ちふさがった。
「…う、再起動早いんだよクソが、昔のクソPCみたいに半日くらい寝てろよな。ま、まーいいよ。てめえらなんて二人まとめて瞬殺してやんよ、かかってこいやクソ共が。愛の力は何物にも勝るんだよ」
「…てめえみたいなクソの元締めが、偉そうに愛とか語ってんじゃねえよ。とっとと死ね」
「ええ、僕も同意します。要人の緊急警護という条件を満たすため、自己判断でリミッターを解除し全力で滅却法を照射させて頂きます。いくら頑強な君とはいえただでは済まない威力ですよ」
二人はそれぞれの武器を少したじろぐシロに向け、その命を躊躇なく奪おうとした。
「…ごめん、二人とも。…気持ちは嬉しいしよく分かるんだけど、…やめて」
「…え、クロ」
「…クロ、お前」
「…クロ君」
自分でも、どうしてその言葉が出たのかは分からなかった。
だけど、このまま目の前で凄惨な殺し合いが起こるのは見たくなかった。
「…桃太さん、金目さん。…僕のためにそこまで怒ってくれて、ありがとう。…でも、ごめんなさい。シロの事は大嫌いだけど、…やっぱり、目の前で死ぬのは見たくないんだ」
「…クロ。お前、甘すぎるよ」
「…クロ君、君は本当に優しいのですね」
「……」
口では虚勢を張っているが、シロは明らかに形勢が不利だと悟り気まずそうに僕を見ていた。
「…クロ」
「………」
しばらく沈黙した後、僕はまた絞り出すように言った。
「…シロ。悪いけど僕、もう永遠に君の事理解できないし、許す事も出来ない。…もう、一生僕の前に姿を見せないで」
「…っ、クロ、そんな」
「…そんなとか悲劇のヒロインぶってんじゃねえ。てめえなんかもう生きてる権利ねえよ。流石のお前もこれは極刑ものだろ」
「…ええ、最終的な判断は裏政府に委ねられますが。人道的な見地からもその可能性が高いでしょうね」
「…桃太さん、僕のせいでケガさせちゃってごめんなさい。…血がかなり出てるけど、大丈夫?」
「あーまあ、正直ちょっと大丈夫じゃねえが。骨で止まってるし前野なら治せるだろ。いやしかしこの斧すげえな、俺の肌にここまで傷付けるとかよ」
「ええ、僕は簡易な手術やある程度の治療行為も出来る装備が内蔵されているので、すぐ応急処置いたします。至急救援を呼んでもらうよう、学園にも連絡いたしましたので」
「金目悪いな、よろしく頼む。…たぶん隊長も千里から予知の詳細聞いて、もうじきここに来るだろうしよ」
「…シロ君。いえ、もうあなたには君を付けたくもありませんね。…シロ。分かっていると思いますがこの裏山周辺はすでに学園の警備員や精鋭で包囲されていますし、飛んで逃げてもすぐに飛行可能な部隊が追跡捕獲するので無駄ですよ。僕も桃太さんの応急処置が完了し次第、すぐにあなたの拘束に移行いたしますし。…代行様も、僕のカメラアイを通して一部始終を目撃していたでしょう」
「…クッソ、クソ。…もーいいよクソが、勝手にしろ」
「…金目さんも、僕のために色々すみません。…さっきシステムエラーとか言っていたけど、大丈夫ですか?」
「…ええ、メンテナンスは万全にしていたのに不可解ですが。今は一切問題ありません。お気遣いありがとうございます」
「…それならよかった。…じゃあ、すみませんが僕、少し一人になりたい気分なので。しばらく飛んでから、エターナルの人達の部屋に帰ります」
「おう、分かった。…クロ、本当大変だったな。…金目通してすぐお前の事知ってる生徒達には話行くだろうし、気にするなって方が無理だろうけどよ。…辛い事あったら、いつでも話聞くからな」
「…二人とも、ありがとう。…じゃあ、シロ」
「…クロ」
「…永遠に、さようなら」
そうとても悲しそうな顔をしてクロは静かに美しい羽根を開き、何処へとともなく飛び去って行った。
その強制アレ未遂事件の起きた日の、更に夜更け。
「……みんな。どうしてこんな時間に、ここに集まっているの」
「…クロ」
「クロ君。…君ももう分かってるだろうけど。悪いけど、邪魔はしないでくれるかな」
「…ああ、俺ももう覚悟を決めた。どんな罰を受けようと、これ以上あいつを生かしてはおけない」
ドアがへこんだり歪みかなりアレな状態になったシロの自室の前に、僕と仲の良い学園の生徒達がみんな怖い顔をして揃っていた。
「…うん、想像はついてる。…代行さんや桃太さんから、ぜんぶ聞いたんだよね」
「…そう、あの後許可が出て強制アレ事件知ってる奴等にはすぐ連絡が来た。…あとはお前の想像通りだよ」
「…うん、まさか僕の斧盗んであんなクソな事やらかすなんて。…厳重にしまってたのに、どうやってロック解除したのかは謎だけどさ」
「まあ、それは後でゆっくり考えるとして。…僕もマジで許せないから、とっておきの業物ナイフありったけ持って来た」
「…はい、僕も今回はビンタだけでは許せません。血生臭い事は嫌いですが、凶器を持ってきました」
「…お前俺達の部屋に帰って来た後、辛そうに寝込んじゃったからこっそり起こさないように出て来たんだけど。やっぱお前、鋭いね」
「…その鋭さも、望んで磨かれた物では無いだろうけどね。…あの子のどうしようもなさに気付けなくて、本当に辛い思いをさせちゃってごめんね。でも、それも今日までだから安心して」
「ああ、何時間かかろうとも無限に復活してあいつ根負けさせてやるよ」
「…俺、自他ともに認めるヘタレだけど。今だけは怖さより怒りの方が勝ってる。せめてかすり傷だけでも直接負わせなきゃ気が済まないと思う」
「佑真、格闘センスはアレだけど度胸はついて来たからね。僕達も全力でサポートするからきっと行けるよ」
「…うん、ボクも大した事は出来ないけど。色々道具とか持って来たからできるだけ手伝うね」
「あー、オレも同じだけど声帯アレだから超大声出して怯ませるくらいなら出来ると思うし。遠慮なく盾にしてくれてもいいから」
「それは堅さだけがとりえの俺がやるし、お前らは攻撃に専念してくれりゃいいよ。あの後前野に速攻治療してもらってすっかり元気だし、斧も奪い返したしな」
「…僕もかつての仲間にこんな事をしたくは無かったけれど。あの子はもう、とっくに人間じゃなくなっていたんだろうね」
「…そうだね。…クロ、本当にごめん。すべては遥か昔、夢の世界で出会ったあの子の要請を聞いて部隊に引き入れた僕の責任だ。…その責任を、今ようやく果たす時が来たようだ」
「…隊長まで。…あなたも、とても優しいのに」
「千里からも、ずっとやんわりと窘められていたけどね。…あの子を野放しにしていたのは、本当の優しさとは言えないよ。…僕の臆病と優柔不断さで、君を何十年も苦しめてしまった。謝って済む問題では無いけれど、今ここであの時の過ちにケリを付けるよ」
「…隊長。強くは言えなかったけど、僕は貴方が決断してくれたのを嬉しく思うよ」
「それで、ここにいる皆。これから起こる事のすべては、嘗てのてうてう部隊隊長であった僕が全て責任を取る。君達にお咎めは行かないよう便宜を図るから、どうか安心して。…でも、彼もこの数が来たら死に物狂いで抵抗するだろうから、くれぐれも気を付けてね」
「うん、僕もすぐに歌ってできる限り力を中和するから。それでも油断はしないでね」
「…ああ、俺もすぐに力を解放し鱗粉を振り撒くが、皆適宜注意していてくれ」
「…みーな。皆の前であの力使っちゃって、いいの?」
「…ああ。あまり見られたくは無いが、今回ばかりは仕方ない」
「うん。僕もあの斧使って、佐紀さんやみな君が本気で支援してくれるならきっと行けるよ」
「…ケケケー。本気で血管ぶち切れそうだけど、とうとうあいつぶっ殺せるのは嬉しいな~」
「まあ鈴くん血通ってないからそれは無いけど、気持ちはよく分かるよ。僕もあいつの骨全部粉砕してやりたいし」
「僕も、瞑想と禊で呪力を出来る限り高めて来ましたから。それはもうえげつなく呪ってやりましょう」
「ええ、万一出血や臓器が損傷した時は僕が即座に提供しますので。前野君も察しているでしょうし、呼べばすぐ来てくれるでしょう」
「…ちょっとだけ怖いけど、これだけ仲間がいればきっと勝てるよね。蓬くん」
「うん、きっと大丈夫だよ。三人目の子も後ろで見守っててくれてるしさ」
「うん、ぼくもケンカは弱いけど中二だからえげつない毒針とか用意して来たよ。使いたい子いたら貸すから言ってね」
「…転校生くんちゃんも。あなたも、戦ったり残酷な事は嫌いなのに」
「…そうだね。私弱いし、傷付けたり人殺しなんてしたくは無かったけど。でもここまで君がひどい事されたら許せないよ」
「…昔、この学園に転校する前の晩お姉ちゃんに言われたんだ。私には自分の正しいと思った事を貫いて、絶対に後悔しない生き方をしてほしいって。…きっと、今がその時なんだと思う」
「…そうなんだ」
「…どんな悪人でも、人を殺すのが絶対の正義とは思いたくないけれど。…でも、あの子だけは。のうのうと生きていて許される存在じゃ無いと思う。…同じ学園の子にそんな事、言いたくなかったけどね」
「……うん」
「…じゃあ、金目達は職務上来れないだろうし。もうあらかた人員は揃ったから、…みんな、行こうか」
「うん、僕がこの斧でガタついてるドアぶっ壊すから。皆気を付けて突入してね」
「……やめてって言っても、たぶん無理だろうね」
「…クロには悪いけど、そうだね。本当に今回ばかりは、ここにいる皆本気で許せないと思う」
「…そっか」
「…クロも大嫌いとはいえやっぱりそういう現場見たくないだろうし、後は俺達にまかせて部屋戻ってなよ。…一人でいるのがしんどいなら、前野いるだろうしまた保健室で寝るとかさ」
「……うん、そうしようかな」
だがその時、僕達の前に静かに三人の影が現れた。
「…あれ、代行に振子。前野まで」
「…代行達も、シロの奴が許せなくて来たんだ?」
「…ああ、それは間違いがないね」
「…では、分かるだろう。ここにはおそらくこの場で一番身分の高い佐紀先輩もいる。邪魔はせず黙って見ていてくれ」
「そうさせてあげたいのはやまやまなんだけれどね。…前野君、後は説明を頼むよ」
「え、前野くんがどうしたの?…あ、まさか」
「え、転校生くんちゃん何か知ってるの?」
「おう、そのまさかだ。…悪いがみんな、今回ばかりは俺に譲ってやってはくれねえか。…実行は明日こいつが出て来たらだ」
「………」
「…ああ、君。ようやく反省し彼に謝ると思って、見守っていたのだが」
「…反省していないどころか、まさかここまで酷い事を再び考えていたとは」
「…悪いが今回ばかりは、私ももう許す訳にはいかない」
「済まないが、今度は本気の罰を与えさせてもらうよ」
そして、翌朝。
「……う”ー、あー、いつの間にか寝ちゃってたのか」
「…深夜ドアの前が騒がしかったから、あいつら絶対殺しに来てたはずなのに。4・5人は巻き添えにして盛大に散ってやろうと覚悟してたのにそのまま引き返すとか日和ったのかよ。だいぶガタついてるとはいえこのドアや部屋防音完璧だから会話はほとんど聞こえなかったけどさ」
「…ってえ、何これ。めっちゃ気分悪くて全身痛い」
「…え、う、嘘。血も吐いちゃった。眩暈がして立てないし」
「…だ、誰か助けろ。早く前野の所連れてけ」
「…あー、これ結構な箇所に悪性腫瘍できてんな」
「…い、いやふざけんな、速攻切除しろよ前野、てめえならその程度余裕だろ」
「…は?例によっててうてうの身体特殊過ぎてそう簡単には無理だし、腫瘍の転移と増殖スピード早すぎて切ってもたぶん無駄?いやならクローン移植とか薬でぶっ殺すとかいくらでもやりようあんだろクソが」
「クローン作るにも最短で数週間はかかる?いやちょっと前クロの手足アレした時は速攻で治ったじゃねえか、職務怠慢だろこのクソヤブが」
「…お前ももう察してんだろ、俺もてめえ救いたくなんかねえし今度という今度はもう諦めてとっとと死ね?…いや、死ねとかお前医者がそれ言ったら終わりだろこのクソが」
「…い、いいよてめえが役に立たなかろうが。おいこら誰か、捧呼んで来い今すぐだクソ、…やば、また血吐いた」
「さ、捧。速攻臓器全部提供して治しやがれ。英雄命令だぞゴラ」
「…は?お前今なんつっったの。もっかい言ってみろやクソが」
「…何回でも言うよ。悪いけど、君に臓器提供するのは絶対に嫌だね」
「…はあああ”あ”あ”?いやお前臓器提供マニアのドMのくせして、いまさら宗旨替えかよ」
「そんなつもりは無いし、確かに僕は人に体を捧げるのが至上の喜びだけど。君に限っては別だね。…前野君やほかの皆も言っていたけれど、これは天罰だよ。クロ君に最低な事をした事を詫びながら、ゆっくりと苦しんでどうしようもなく死んでいくんだね」
「そういう訳で僕は君に対しては一切臓器提供をするつもりは無いし、気持ちを変えるつもりもないよ。…さようなら、シロ」
「…クソ、クソ。クソがマジでふざけんなクソ。だったら裏政府やアレ研究機関とっととどうにか治療法や特効薬開発しろよ。この国クソだけどクソだからそういうのは速攻で出来んだろクソが、おい前野、僕の余命あとどんくらいなんだよ。半年くらいはいけんだろどうせ」
「は???もの凄い勢いで増殖しててたぶん一週間以内か下手したらもっと早くに死ぬ???」
「…い、いや、ふざけんな、ふ、ふざけんなよマジでクソ、ほんの1か月前にクソ健康診断やった時は何事も無かったし超健康体だったのに。てめえ手抜きやがったろこのクソヤブ、ぶっ狂わすぞ、…う、げほ、げほ」
「…やば、もう、なんか目もかすんで来た。…うそ、僕、本当に死ぬの?」
「…や、やだ。やだよ、死にたく無いよ。だれか、誰か助けてよ」
「…シロ」
「…え、クロ?」
「…クロ。お前まさか」
「うん。…前野、お願い」
「シロに、僕の臓器を提供して」
「…え」
「……医者としてアレだが、そればっかりは俺も本気でやりたくはねえんだがな。確かにお前なら同じてうてうだし、適合もするだろうが。…だが、もう気持ちは決まってるんだろうな」
「…うん。本当にこういう事言いたくは無いんだけど、…今回だけは言うね。…英雄の頼みだと思って、お願い」
クソ前野はしばらく黙ったあと、深いため息をつき言った。
「…仕方ねえな。そう言われたら断る訳にもいかねえしな。…じゃあ二人とも、手術室行くぞ」
「……シロ。お前、本当にクロに感謝しろよ」
「…う、うるせえな。分かってるよ」
そうして結構な時間の後クソ手術は終わり、それからさらに少し後。
「…おし、クロ。もう問題無いからお前は自室戻ってていいぞ」
「…うん。お願い聞いてくれてありがとう、前野。…ごめんね」
「…まあ、気にすんな」
「…クロ、大丈夫?…僕のために、ありがとう」
「…うん、麻酔ちゃんとかけたし平気。すぐ手術の後、捧さんに臓器提供してもらったし」
「…そっか。…でも、なんで」
「…なんで、一生顔見たくない僕の事、ここまでして助けてくれたの?」
「…僕にも、分からない。…でも」
「…本気で嫌いで許せないけど。…目の前で君が死ぬのは、悲しかったから」
「…そっか」
そうしてクロは静かに去って行き、それからさらに一週間くらいのクソ経過観察の後問題無しと判断され、僕も自室へ戻るのを許された。
そして、その翌日。
「…あー、久々によく眠れた。もうここ一週間くらいあのクソ奇病のせいで散々だったし。マジで僕こんな目に遭わせた奴死ねよ」
「…あー、前野何も言わなかったけど授業流石に出席しないとクソ教師共ウザいだろうし参加しねえとな。ってか保健室に居た時は流石にまともな病院食出たけど元気になった途端またクソ過ぎな飯出してくんだろうなあのクソババア」
「…あれ、なんか今日すごいまともだ。いつぞやみたいに激辛とかクソ不味いとかかな」
「…いや、味も普通に美味しいし。なんのつもりだよあのババア、逆に怖いんだけど」
「…あー、食べ終わったしリモートでクソ授業参加しねえとな。タブレット点けるか。…って点かないし。バグってんじゃねえよクソ」
「…えー、じゃあ僕まだ謹慎中だろうけどしょうがないし直接教室行くか。ぜってえまたクロ以外のクソ共にボロクソ言われるんだろうけどさー」
「…って誰だよこんな早朝に。クソが、さっさと入れよ」
「あー?何の用だよクソ代行」
「…は???授業参加日数明らかに足りてないし諸々素行不良すぎるので今日をもって退学処分?????」
「…い、いや素行不良はともかくとして僕ちょっと前まで死にかけてたんだぞ、そのくらい配慮しろよクソが、いきなりすぎんだろクソ、マジでクソ訴えんぞこのクソボンボンが」
「…察してると思うけど強制アレ事件また起こそうとしたのは裏政府一同もブチ切れてるし、しっかり裏政府にも了承もらったしもう帰りの神社行きタクシー用意は出来てるからさっさと外出て乗って帰れ?」
「…あー、もういいよ、分かったよ。あのクソ神社帰るくらいなら、てめえぶっ狂わせてこんなクソな学園どころか国自体出てってやるよ。覚悟しろ」
「…っては?お前の能力封印する術式開発できたから上等だ?い、いやふざけんな、やめろ前野、それ貼り付けるな」
「…あー、もう最悪。結局速攻力封印されてどこだか知らねえがクソ山奥のクソ狭い神社に押し込められたし。6畳一間しか無いとか祟り神とはいえ舐めすぎだろよクソが」
「スマホも没収されたし、ゲームやテレビも無くて家具布団以外は机くらいしかなくて本もお堅いのくらいしか読ませてもらえなくて、ってか涼しくなってきたとはいえエアコンも無くて扇風機って今何時代だと思ってんだよ、マジでムショ以下だろここ、この国アレだからムショだってクソ罪人たち仇討ちの為にベストコンディションで出せるようにプールやサウナとか映画館付いてたりかなり豪華なのによ」
「飯もあのクソババアみたいなゲテモノじゃないにせよ大概白米一杯に漬け物数切れとメザシ一匹に味噌汁だけだし、おやつとかほぼ無いしあっても飴とかクソ地味なものだけだし。僕大食いなの知ってんだろクソ巫女、もっと用意しろよ」
「…飢え死にしない程度に用意してやるだけでもありがたく思え?いやてめえ巫女の癖して何クッソ生意気な口聞いてんだよ、封印されて無かったら即ぶっ狂わせてたぞ。親の顔が見てみてえわ」
「…は?親はともかく曾祖母はお前世話してたクソ巫女?ひいおばあちゃんもお前の事本当は大っ嫌いでいつか天罰が下れと陰で祈ってたりたまに僕のご飯にだけ雑草とか賞味期限一週間切れの牛乳入れたりしてた?お前クソ丈夫だからピンピンしてたけど?いやてめえマジでふざけんなクソが、あのクソ巫女もよ」
「…はー、暇すぎ。どうしよ、僕難しい本とかクソ嫌いだし、テレビもスマホもゲームも無しとか何もする事ないじゃん。…しょうがないから、絵でも描くか」
「…何描こうかな。とりあえず超かわいい僕と、あとはクロと…って」
「…なんか、あれだけ色々あっても僕とクロってセットで書いちゃうな」
「…クロの顔、笑ってない。…あいつ、昔からあんまり笑わないやつだったもんな。超可愛い僕がいるのに不愛想な奴だよなー、まったく」
「……でも今思えば、ほとんど笑わないのも僕のせいか。…そりゃそうだよね」
「…クロ」
一方その頃、流れ星学園の学園長室にて。
「……代行。…いえ、咲夜様」
「うん、何だい金目?まあ、おおかた要件は分かっているけどね」
「…ええ、先日のシロが蛮行を働こうとした際発生した、僕の不具合についてです」
「…うん、僕もさっき、悪いけど代行様より先に聞いた」
「そうなんだね、振子。うん、いいよ。続けて」
「…ええ。シロを確保し自室へ連行した後、即時研究施設で綿密に調査してもらいましたが。あの際発生したのはエラーでは無く、何者かによる強制シャットダウン処置だという事が判明しました」
「うん、そうなんだね。…あんな時に酷いことをする人がいるものだね」
「…お巫山戯になるのはやめて頂けますか、咲夜様。…僕にそこまでの処置を出来る人物はごく限られていますし、その内の一人である学園長様や他の同等の権限を有する方も、あの状況でそのような事をする冷酷な方では無いと僕は考えます。…失礼ながら、一人を除いて」
「…うん、君の言いたいことは分かるよ」
「…うん、咲夜様。僕もさっき金目や調査した研究施設からシャットダウン命令を出した人物のIPや位置情報ログから調べたデータ送ってもらったけど。…限りなく、貴方以外に考えられないよね」
「…そうだね」
「…どうしてそんな事を、とは言いません。目的は僕も分かります。…あの場で確実にシロを、追い詰めたかったからでしょう」
「ああ、その通りだよ」
「あと、僕からも言いたい事があるけど。そもそもどうしてあの斧、シロが持ってたの。…またどうしてだろうねとかはぐらかすのは無しだよ」
「……そうだね」
「…すみませんがそれも調査済みです。学園長様承認の下、学園中の部室内の監視カメラと集音スピーカーのログを確認いたしました。…建前上は個々のプライバシーの為廊下や教室以外の個室にはそういった機材は設置していない事にはなっていますが、万が一アレ殺人鬼等が侵入し乱闘になった時などに警察や司法機関に提出するために、てうてうの方々以外の部屋には実際は全て設置しているのは代行様もご存じですよね」
「…うん、勿論知っているよ」
「…じゃあ、単刀直入に申し上げますよ。…代行様、数日前ハッピーチャイルドの部室の例の凶器がしまってある金庫のロック解除ナンバーを、音声や録画ログを検索して調べ上げシロに伝えたでしょう」
「…ああ、確かにその通りだよ」
「…代行様。…僕、この前貴方がやらかした時も言ったよね。…いくらなんでもこれはアレ過ぎだって。…これは直接は言ってないけど、僕も金目も貴方にもう相当愛想を尽かしているのも、聡明な貴方なら分かっているでしょう」
「…そうだね。僕はこんなアレな事をしでかした狂人で愚か者だけど、そのくらいは分かっているよ」
「…じゃあ、お言葉ですが。僕も自分の存在意義を否定したく無かったけれど、失礼ながら言わせてもらいますね」
「……ああ、良いよ」
「…僕はもう、これ以上貴方について行けません」
「…ええ。僕も大変失礼ながら、振子と同じ気持ちです」
「…」
「…代行様?」
「……いや、すまないね。ああ、君達の気持ちも言いたい事も、よく分かるよ。…僕から君達に、暇をあげよう。もう僕の護衛は務めなくて良いから、君達は君達の好きな事をしたらいい。当然罰等は無いから安心してね」
「…はい、ありがたくその通りにさせて頂きます。…それから裏政府および学園長様から、咲夜様は今現在をもって流れ星学園の学園長代行の全権限を剥奪される事となり、当面の間自宅にて謹慎するようにとのお触れが出ました。すみませんが直ちにご退出をお願いいたします」
「…ああ、分かったよ。すぐに出て行く」
「…咲夜」
「…おや、お父様。直接顔を合わせるのは少し久しぶりですね」
相当にアレな強化処置をされた学園長室の重厚なドアが開かれ入って来たのは僕の父親、本来の学園長であった。
「…金目から聞いたろう。…そういう事だ。お前のやった事はもはや子供のちょっかいでは済まされない。…私の権限でも今回の事は庇いきれぬし、私にも親の情の前にこの国を背負って立つ指導者としての義務と、正義の心がある。…何が言いたいか、お前なら分かるだろう」
「…ええ、分かっているつもりです」
「…ならば、すぐ本宅へ戻り当分謹慎していることだ。食事は使用人に運ばせる。その間の学園長業務は私が全て務めるのでお前が心配する必要は無い」
「…はい、畏まりました」
「…咲夜。お前ももう子供ではない。…自分のやった事は、自分でけじめをつける事だな」
「…ええ、分かりました」
「…なあ、咲夜。本当にこんな事を言いたくは無かったし、あの世であいつが悲しむだろうが。―それでも、言わせてもらう」
「…はい」
「…私はやはり、お前よりもあいつに生きていて欲しかったと今は思うよ」
「…そうですね。僕もそう思います。…では、失礼します」
そうして代行様、いや、咲夜様は静かにアレなドアを閉めて去って行った。
「…さあ、二人とも。見苦しい物を見せて済まなかったね。…お前達も自由だ。退職するつもりなら十分な金は渡す。どこへなりと自由に行って好きなことをすると良い。この学園の在校生として通い直しても構わないよ」
「…ありがとうございます。…しばらく気持ちの整理をしたいので、ひとまず一月ほどお暇を頂ければと」
「…はい、僕も同じですね。ちょっと一月くらい国中をぶらぶらして、今後の身の振り方を考えようかと」
「…ああ、好きにすると良い。…お前達、私の不肖の息子のせいでずっと申し訳ない事をしてしまったね」
「…いえ、お構いなく」
「…はい、大丈夫です」
そうして学園長様に一礼をし、僕達も静かにその場を後にした。
「…はあ。これからどうしようかな。とりあえずさっき言ったように一か月くらいそこらじゅう旅して考えるか」
「ええ、良いと思いますよ。ユニット活動もこの精神状態ではまともに続けられないでしょうし、リーダーの咲夜様不在でこのまま続けられるかも怪しいですしね」
「…そうだね。でも、いきなり存在意義まるっと無くしちゃったらやっぱり辛いなー。…はあ」
「…そうですね。僕はゼロから造られた存在では無いですし、実際に愛情を受けている肉親がいるだけまだ良いですが。…君は気の毒ですよね」
「…うん。僕、絶対自死とか自傷は出来ないよう設計されてるんだけど。…正直今、ちょっと死にたいかも。死ねないけどさ」
「…きっと、時が解決してくれるはずです。…それくらいしかかけられる言葉が無くすみませんが」
「…ん、いや、ありがとね。…じゃあまあ、僕メンテしたらしばらく国中放浪の旅に出てくるよ。戻ってきたらその時はまたよろしくね。じゃーね」
「…ええ、今までお疲れ様でした。どうかお元気で」
そうしてまたしばらく後、シロの封印されている山奥の狭い神社にて。
「…あー、もうどのくらい経ってんだろ。ここカレンダーも何もかかってないから日付感覚分かんねーし。肌寒いからたぶんもう秋か冬くらいになってんだろうな。…ってか僕いつまでここに封印されるんだろ、もう十分閉じ込めたんだから出せよなコラ、50人くらい殺ってるアレ殺人鬼だって数か月で出てくるじゃねえかよこのクソ国」
「…あーもう、クソ巫女最近何言ってもシカトしやがってマジでクソウゼェし。昨日も今日も明日も変わり映えのしねえクソ質素なクソ飯だし。確かに僕ショタジジイだけど大食いの健啖家?なんだからもっと脂っこくてスタミナつくものガンガン食わせろよな」
「…あ”?そういうだろうと思って学園長から差し入れ?ふーんあのクソ親父も多少は気が利くじゃん」
「…って何だよこれ、シュールストレミング缶じゃねえかよこんなんこんなクソ狭い部屋で開けたら死ぬだろふざけんな、だから僕祟り神だからって芸人みたいなもの食わせるんじゃねえよクソが、さっさと捨てろやクソ巫女」
「あ”あ”?まだ差し入れとか絶対ろくなもんじゃねーだろ。んだよ前野からか。…あ」
そこには、僕があの夜半世紀以上ぶりに食べた、クソ不本意な事に案外美味しかった宅配ピザの箱があった。
「…僕ピザ大っ嫌いなの知ってるくせにあの野郎。…でもまあメザシや白米とかクソ粗食で飽き飽きしてたし、特別に食べてやっか」
ピザの箱をクソ嫌々開封して、カラフルな彩りのピザを一切れ口に運ぶ。
「…うん、クソムカつくけどやっぱ美味しい」
「…これ、クロにも食べさせてあげたかったな」
「…僕のせいで、クロピザとか半世紀以上食べられなかったし」
「…クロ」
そうしてまた月日は流れ。
「…あー、もう何か月、いや下手したら何年経ってんだろ。もういいだろ、僕十分反省したんだからさっさと出せよなクソ巫女」
「…あ”?あと半世紀は覚悟しておけ?ってか正直昔の僕みたいな体にしてぶち込んでやりたかったしクソ裏政府からも許可出かけたけどクロがそれは気の毒過ぎるからやめてあげてって口添えしてそのままぶち込むだけになったんだ、クロ様に本気で感謝しろよ?」
「…本当お前巫女の癖に口が減らねえな、マジで封印されて無かったら即ぶっ狂わせてやったのに。…あーもう、鱗粉どころか羽も全くでないし。…自覚はあるけど僕から狂わせの力取ったら、僕可愛いだけのクソショタジジイじゃん」
「…はあ、もう一人遊びも大概やりつくしちゃったし、寝すぎて全然眠くないし。…僕文章苦手だけど、しょうがないけど日記でも書くか」
「えーっと、日付はここクソ過ぎて全く分からないから適当に。☆月◆日、天気たぶん晴れ…っと」
【☆月◆日、天気たぶん晴れ クロに会いたい。】
「…あー、やっぱ僕文章苦手だから一行で終わったし。しかも色々あってクソ嫌いなはずのクロの事だし」
「…」
「…やっぱり、嫌いになんかなれないよ。…あれだけクソな事しまくったのに、僕の事何度も助けてくれたもん」
「…クロ」
それから更に数日後。
【☆月◆日、天気たぶん晴れ クロに会いたい。】
【★月〇日 天気晴れじゃね? クロは今なにしてるかな。】
【◆日×日 天気くもりっぽい 前クロと歌ったユニット曲を歌った、なんかソロだと調子が出ない。
僕最近ずっとソロ活動してたのに。】
【×月×日 雨降ってた クロ。クロに会いたい。
あのてうてうの奴らと今頃楽しくやってるのかな。クソムカつく。
でもまあ、僕クソな事したし仕方ないよね。
でも、やっぱりクロに会いたい。】
「…はー、数日分読み返したけどやっぱ僕文章力クソだな、昔散々クソ反省文書き直させられた時に分かってたけどさ。お察しだけどクロの事ばっかだし。僕他に考える事ややる事ねえのかよ」
「…クロがいれば、僕それだけで幸せだったんだな」
「…でも、クロは僕と一緒で幸せなんかじゃ無かったんだ。僕がクソ過ぎたから」
「…クロ」
「…ひっく」
「…ひっく、うわあああああん」
「…クロ、クロに会いたいよう」
「…ぼく、僕なんでクロにあんなに最低な事しちゃったんだろう」
「僕、クロの事大好きで、愛してたはずなのに。それなのになんであんなクソな事して、何十年も傷付けちゃったんだろう、しかもそれ隠して、嘘ついてて。クロ嘘吐き大嫌いなのに」
「…僕、クロの何を分かってたんだろう。というか僕、クロの事何を分かろうとしてたんだろう。僕のやりたい事や好きなこと、嫌いな事全部押し付けて、クロは全部そんな僕に付き合ってくれて。…僕は、僕は」
「…クロ、クロに会って、謝りたい」
「…でも、もう永遠に無理だよね」
「…うわあああああん、ぐすっ」
「…シロ」
「…え?」
「…やっと、見つけた。シロ」
「…え、クロ…なの?」
「…うん」
「…なんで、なんでお前ここにいるんだよ。お前もう永遠に僕の顔見たく無いんだろ」
「…そうだね」
「…じゃあ何のためにわざわざこんなクソ山奥まで来たんだよ。僕笑いに来たのか」
「…笑いたいけど、笑えない」
「…じゃあ何だよ。僕の事罵りにきたのか、それともぶん殴りに来たのか」
「…違う。どっちでも、ない」
「…じゃあ、じゃあ本当お前何でこんなクソ辺鄙な所来たんだよ。お前僕大嫌いだろ。とっとと帰れよ」
「…嫌。このままじゃ、帰れない」
「…君を、連れ出しに来た」
「…は?」
「…学園長さんや裏政府の人達に色々掛け合って、たくさんお願いして。…それで二か月近くかかっちゃったけど、やっとなんとか許可が貰えた」
「…狂わせの力は完全封印したままで、向こう数十年は使えないけど。羽を出して飛ぶだけならいいってさ。それで監視も当分たくさん付くと思うけど、それでもここからは出られるよう、政府の人達と交渉した」
「…クロ、お前何言ってんの?」
「…僕も、自分で何言ってるのかちょっと分かんない。…でも」
「…でも、やっぱり僕、シロが近くにいないと寂しいんだ」
「…クロ、お前」
「…この前君がまた強制アレしようとした時、シロ言ったよね。自分の事を本気で愛してくれたのは、僕が初めてだったって」
「…あれ、僕も考えたらそうだったんだ」
「…スラム街に居た頃はずっと僕は嫌われてたし、自分の国の軍に入って兵隊やってた時は一応ちゃんとしたご飯貰えたり、功績立ててからは大事にはされたけど。でもやっぱり兵器としてだし、何度もアレな実験や投薬で殺されかけたし、今思うと全く大事にはされて無かったと思う」
「…うん」
「…だからさ、僕も。本気で下心とかなく愛してくれたのは、シロが初めてだったんだ」
「…クロ」
「…だからさ。僕、シロの事、大嫌いだけど…やっぱり、好きなんだ」
「…」
「…だから、シロ。許せないけど、許すよ」
「…ユニットもランキング圏外の一番下からやり直しだけど、もう一度僕とユニット組んで、やり直そう」
「…」
「…めん」
「…シロ?」
「…ごめん」
「…え」
「…ごめん、クロ。最低な事してずっとお前の事騙して、またこりもせずクソな事しようとして、本当に、本当にごめん!」
「…シロ」
「…ごめん。いくら謝ったって足りる訳無いけど、ごめん。本当ずっと、半世紀以上も縛り続けて、ずっとひどい事して本当にごめん!!」
「…シロ」
「…僕、クロの事本当に愛してて、大好きだったはずなのに、ちゃんとした愛し方が全然わかんなくて。あんなクソ過ぎる事しちゃって、ちゃんと謝りもしないでごまかして、半世紀以上も嘘ついて、最低な事して、挙句の果てには、また同じかもっとひどい事しようとして、本当に、僕、クソ過ぎてごめん!!!」
「……」
「…ひっく、でも、この程度じゃ済まないよね。僕、どうすればいいのかな」
「…とりあえず、ここを出てから二人でゆっくり考えようよ」
「…うん」
「…ねえ、シロ。キスしようよ」
「…えっ」
「…シロ、ずっと昔に僕とキスしたいって言ってたでしょ。…あの時は忘れてたけど、僕スラム街で嫌な思い出があって、キスはちょっと嫌だったんだ。…でも、今なら」
「もう一度シロと、きちんとやり直すって決めた今なら、大丈夫な気がするんだ」
「…クロ」
「…だから、シロ。キスしても、いい?」
「…う、うん。いいよ」
「…ありがとう。…じゃあ、しよ」
「…うん。クロ、大好きだよ」
「うん、僕も。…シロ?」
「…えっ」
「…シロ、どうしたの?僕の顔、何か変?」
「…クロ、その髪と肌の色どうしたの」
「…え」
「…透き通るみたいな白い肌に、すごく綺麗な、その、水色の髪」
そして。
「クロ君、オオミズアオになったんだね」
「うん、みーなやてうてうの人達調べてた研究機関の人達も今まで例の無かった、奇跡みたいな現象だって」
「てうてうの人達の体質って特殊だから、髪や肌の色変えられないはずだもんね。すごく綺麗だよね」
「ああ。…本当に、神が奇跡を起こしてくれたのかもな」
「シロ君、狂わせの力は完全封印されちゃったけど、すごく伸び伸びと歌ってて楽しそうだよね」
「うん、クロも最近あんまり悲しそうじゃなくて、結構よく笑うようになったし」
「シロのやつもまだまだ捻くれてるけど、最近ちょっとだけ素直になって来たしね」
「うん、最近ちょっとだけなら別ユニットの人達と一緒に組んで活動するようになってきたし。最近俺達とも組んでやるからありがたく思えって、超上から目線だけどシロが合同ユニットの一次結成打診してたよ」
「もー、本当あの子素直じゃないなあ。まあ向こうからそんな事言って来るだけもの凄い進歩だけどね」
「あはは、確かに。一回ユニット完全一からやり直してるから、もうランクは俺達の方がかなり上なのにさ」
「でもクロ君はすごく最近明るくなって新しい姿も人気だし、狂わせの力もなんだか悲しくならなくなったみたいで前より人気出て来てるかもね」
「あー、確かにね。クロ、本当優しいよね。あれだけ最悪な事されたのに、全部許してあげるなんてさ」
「そうだな。あいつ程よく出来た慈悲深い人間は俺は知らないな」
「うんうん、クロ君本当宇宙一優しいよね」
「あ、それでさ。クロも俺達と一時的にユニット組みたがってたし、五人組の臨時ユニット名転校生くんちゃんいいの考えてよ」
「えー、うーん。…あ、じゃあこんなのはどうかな。五人組だから、ハートフルクインテット」
クロとシロがユニット再結成して間もない頃のある夜更け、咲夜の自室にて。
「…さて、そろそろかと思っていたけど。来ないならば僕自身で『けじめ』をつけないとね」
僕は机の引き出しを開け、護身用という名目で所持を許された拳銃に目を落とした。
「…ふふ。拳銃自殺なんて、まるで某悪名高き独裁者のようだね。まあ実際僕、相当非道な独裁者だった訳だけれど」
「…お父様もだいぶ気長に待って下さったけれど、流石にそろそろ上にも隠し切れない雰囲気になって来ているしね。僕が自分でやらなければおそらく凄腕の仕事人なりを送り込まれるだろうね。或いは、食事に毒でも盛られるか」
「…ごめんなさい、お母様。貴女の思いを踏みにじるどころか、稀代の悪政を敷き、英雄を傷付けようとした馬鹿息子として歴史に名を残す事になってしまって」
「…ああ。本当に、僕は何の為に生まれて来たんだろうね。生まれて来て、僕は本当に良かったのかな」
そうして、僕がその拳銃を手に取ろうとしたその時。
「…こんばんは、代行。いや、黒葛原咲夜」
ふわりとバルコニーに、美しい紫色の羽を揺らめかせ一人の青年が降り立った。
「…やあ、待っていたよ。ふふ、待ちきれなくて自分で終わらせようとしていた所だよ」
「…そうだね。僕はやっぱり本当にどうしようもない臆病者で、弱虫だから。…でも」
「クロの、彼の優しさと勇気に胸を打たれてね。…僕も彼を見習って、勇気を出してみようと思ったんだ」
「ああ、そうなんだね」
「…僕はあの大戦から今一度、今日だけは自分の禁を破って、嫌な狂わせをしようと思うよ」
「…ふふ。こういう狂わせは、僕はすごく良いと思うよ」
「…そうかい。じゃあ、行くよ」
「…ふふ、ありがとう、大邑佐紀君。…僕もね、実を言うと」
「実を言うと、僕もハートフルなだけの人間になってみたいと、思う事があったんだ」
そうして目の前の彼は、少し悲しそうに微笑んでその美しい羽根から光り輝く鱗粉を振り撒き始めた。
そして、闇夜に一発の銃声が響いた。
エピローグ
「いやー、もう俺達卒業してから何年か経ったけど、転校生くんちゃんももうすっかり有名敏腕プロデューサーだよねー。あ、今はもうそう呼べないんだった。何度言っても慣れないなー。まあいいか」
「ふふ、そうだな。あいつもそう呼ばれるのが好きなようだから、構わないのではないか」
「そうだねー。んでさみーな、シロが一応制限は大幅にあるけどユニット活動再度許されて戻って来て間もない頃さ。学園長代行が自室で何者かに銃撃される事件あったじゃない」
「ああ、確かにあったな」
「アレさ、一応は外部の犯行って事になってるけど、金目や振子あの時いなかったとはいえ相当セキュリティ固い学園長の屋敷の最奥部に誰にも発見されず侵入できる凄腕の殺人鬼なんてそうそういないと思うんだけどさ、みーなどう思う?」
「…そうだな。俺もあそこに潜入は物理的に難しいと思う。…おそらく、そういう事だろうな」
「あーうん、やっぱアレってそういう事だよね。代行頭部に銃弾がかすって一時は危なかったけどすぐ意識回復したし、意識が回復したらまるで人が変わったみたいに善良で心優しくなってたしね」
「ああ、あの人がやってくれたのだろうな」
「だよねー。本当あの人最高だよね。最近はてうてうとシロ達もそこそこの頻度で合同ユニット組んで活動するようになったり、かなり関係良くなって来てるしさ。それで代行が目覚めて諸々仕事復帰して間もなくに、例のアレ政策も撤廃されてアレ殺人鬼たちみんな塀の中に戻されたじゃない」
「…ああ。それもおそらく、そういう事だったのだろうな」
「うん、アレ殺人鬼たち、大概はアレ政策で出て来た時めちゃくちゃやりまくってたからって事で更に重い刑が科せられてもう数十年は出て来れなくなったし、出て来てもこの辺はもう強者揃いだからすぐぶっ殺されるしね」
「ああ、犠牲者は多かったが、やった意味はあったのかもしれないな」
「犠牲になっちゃった人達は気の毒だけど、いつかきっと生まれ変われるだろうしね」
「…でさ。だから俺、やっぱこのアレな国、アレだけどなんだかんだで大好きだなーって思ってさ!」
「…ふふ、そうだな。俺もだ」
「だよねー!あ、愛と転校生くんちゃ…じゃない、プロデューサーさん戻って来たよ。さ、今日もリハ頑張ろ!!」
はーとふるクインテット おしまい
「おいこらクソガキ。今月のショバ代払えや」
「…僕、家も無いし仕事もしてません」
「うっせえな、お前しょっちゅう俺の管理する店で食い逃げとかかっぱらいしてんだろうが。見逃してやってんだからケジメとしてあるだけ払えやコラ」
「…お金なんて、持ってません」
「あーまあそうだろうがよ。ったくしょうがねえな。んじゃ体で払え」
「…そういう事は、嫌いです」
「金も無いしアレも嫌って本当どうしようもねえガキだな。まあお前確かに小汚なくて萎えるし連れ帰って洗うのも面倒だしな。じゃーせめてキスくらいさせろや、それも嫌とか言ったらぶっ殺すぞ。お前可愛い以外に取り柄無いクズだしそのくらい良いだろ」
「…分かりました。それくらいなら」
「…もう、いいですか」
「あーはいはい、あーやっぱ汚くて臭えな萎える。今度は川にでも突っ込んで洗ってからするか。じゃーまた来月な。嫌なら盗みでもして金作るんだな」
「…はい」
それから、僕がクロになった後の事。
「ねークロ、あのさ」
「うん、何?」
「ほら、僕達とっくに相思相愛だったけどこの前正式に恋人になったじゃん。そういう訳でキスしようよ。まあアレな事は流石に僕達まだ子供だし良いけどさ」
「…」
「ん、どしたのクロ?」
「…ごめん。キスは、何かしたくない」
「えー何で?恋人だしそのくらい良いじゃん」
「…ごめんね。よく覚えて無いけど、キスに嫌な思い出がある気がするんだ」
「えー?まあクロ結構そういう事言うけどさ。何度も言ってるけどクロ引き取られたの5歳かそのくらいでしょ。いくらクソな国で海外の生まれとは言ってもそんなショタにアレな事する変態もそこまでいないと思うけどなー」
「…うん、そのはずなんだけど。やっぱりキスは嫌だな。…ごめんね」
「んーまあしょうがないか。クロが嫌がる事はしたくないしー。クロ以外の奴等には進んで嫌がる事やりたいけどさ」
「…シロ。僕以外の人にも、もっと優しくなって」
「うーん、クロのお願いでも悪いけどそれは難しいかも。自覚はあるけど僕相当クソだし」
「…そっか」
「まあ僕も今はリアルショタだけど、年取ったら少しは丸くなるかもだし。僕達ほぼ不老みたいな物だし気長に付き合ってよ。あー、でもクロはてうてうだけどちょっと変わった体質だし、僕よりは年取っちゃうか」
「…そうだね。研究員さん達もそう言ってた」
「んー、じゃあどうにか僕と同じ体質になってくれればずっと一緒にいられるよね。…あー、これならいけるかっての今思いついたけど。でもそれしたらクロが可哀想だしなー」
「…そうなんだ」
「まあ、僕も大好きなクロのためとは言えお前にそんな事したくないしそれは良いや。この国クソだけどクソだからそういう技術はすごい勢いで発展するしさ。そのうちアレしなくてもきっと不老になれるよね。それだけは楽しみだなー」
「…うん、そうだね」
「でさ。クロが大丈夫になったらキスしようよ。まあクロメンタル強いし、僕達今も超幸せでラブラブだしそう遠くないうちに出来るよね!」
「…分かった、良いよ。…出来るだけ早く大丈夫になれるよう、頑張るね」
シロが何か思い付いた日の翌朝、やっぱりアレな料理が大量に残されつつもまだマシな物は多少食べられたシロの自室にて。
「…うん、一応一晩考えたけど、やっぱこうしよ。まあ僕寝るのも好きだから8時間くらいはしっかり寝たけど」
「おし、クロにLINEするか」
同時刻、クロが泊まったエターナルの部屋にて。
「…え」
「んー?どしたのクロ。お前がそんな驚くなんて珍しいね」
「…うん。シロからLINEが久しぶりに来て。…僕にちゃんと謝りたいから、夕方会いたいって」
「えっ」
「え」
「え?」
俺達は一斉にクロの方を向いた。
「…え、嘘。クロ今なんて?」
「…うん。僕に謝りたいから会って欲しいって」
「「「え、えええええ」」」
俺達は間違いなくここ数年で一番驚いた。
大事な事なので二回聞いたが、それでも自分の耳を疑った。たぶん全員保健室に聴力検査受けに行こうと思った。
「…え、えええ。いやこれ夢じゃないよね」
「…うん、僕もかなり不安だけど、アレな国とはいえ3人揃って同じ夢を見る事もそうそう無いと思うし」
「…ああ、俺もついにボケが始まったかと不安だが不老不死だしたぶん違うな」
「…うん、僕も正直夢じゃないかと思うけど、たぶん違うよね」
「…い、いや確かにあのクソ思い出した時に速攻謝れよとはずっと思ってたけど。あのプライドの塊のクソ野郎が自分から申し出るとか意外過ぎるんだけど」
「うん、僕も正直予想して無かった」
「ああ、あいつ根っからの謝ったら死ぬ病だもんな」
「…うん、僕も50年以上の付き合いだけど、シロが謝ったの一度も見た事無い」
「…いや、何か裏が無いかとかなり怖いんだけど。でもこの前全校生徒もろとも狂わせようとして相当締められた後だし、いくらあいつでもまた同じ事やる程救いようの無いアホじゃないよね」
「…うん。今度やったら確実に退学だろうし、これ以上アレな事したら流石の裏政府も手足1・2本じゃ済まさないかもだし」
「ああ、相当終わってるアホとは言え自分がケガするのは嫌いだろうし、わざわざ罰則増やすような事は流石にしねえだろ」
「…うん、そうだろうね。シロ戦時中もケガするの嫌いだったし」
「…えー、じゃあまだ信じられないけどあいつも少しは己のクソさを省みたのかな」
「うーん、僕もかなり信じられないけど。ここまで転落してもう国中からフルボッコにされたら流石に反省したんじゃない?」
「あー、あいつケガするの嫌だからさっさと謝って手足ぶった斬りは勘弁してもらおうって魂胆かもな。緘口令敷かれてるとはいえ、ひょっとしたらあいつもぶった斬り許可出そうなのどっかで耳にしてるかもだし」
「あー、確かに。表向きだけとりあえず謝っとこうって事かもね。もう相当やらかしてるから、あのバカでもそのくらいは想像付くかもだし」
「うん、あれ程アレな子が心の底から反省するとかそうそう無いだろうし、そういう事かもね」
「…うん。僕も人の事疑いたくは無いけど、そうだと思う」
「じゃあそういう事ならクソな事もしないだろうし、当然その程度じゃ許せないだろうけどクロ行ってくれば?」
「…うん、そうしようかな」
「良いと思うよ。でも少し謝ったからって、許す必要なんて全く無いからね」
「ああ、あれだけクソな事して一言二言謝ったくらいじゃ許されねえよ」
「うん、死んで詫びたって良いくらいの事してるんだし。もう謝った後フルボッコに言ってやんなよ。クロそういうの嫌いだろうけどさ」
「…そうだね。でも少しはきつい事、言っちゃうかも」
「良いよ良いよ、いくらでも罵詈雑言吐きなよ。全世界許すし神様だって絶対許してくれるよ」
「うん、実際こっくりさんとか託宣であいつ死ねとか言う方結構いるみたいだし」
「あー、俺も知り合いのシャーマンが神降ろしした時シロマジで殺してやりたいって言ってたの見た事ある」
「…そうなんだ」
「うん、んじゃこの事たぶん全校生徒に言っても良いだろうし、俺達皆に伝えとくね」
「うん、絶対強制アレ事件知ってる皆驚くだろうけどね」
「ああ、確実に学園が震撼するな」
「…うん、よろしく」
そして早速俺達は強制アレ事件を知ってる生徒達にグループLINEした。
やはり速攻で学園中が揺れた。アレな耐震構造の校舎だがマジで揺れた気がした。
そして学園が揺れた少し後、てうてう達の自室にて。
「…隊長。ついにあの子も少しだけ反省する時が来たのかもね」
「そうだね。…まあ、あの子の事だし本心からでは無いかもしれないけどね」
「あー、ですよね。たぶん手足ぶった斬りは嫌だからクソウザいけどとりあえず謝っとこうって魂胆でしょうねー」
「うん、そういう事だと思う。僕も人を疑いたくなんて無いし、あの子にも一片くらいは良心があると信じたいけどね」
「いやー、まな兄には悪いけどあいつには一ミクロンたりとも良心なんて無いと思うぞ」
「…」
「…千里、また眼帯外してどうしたの?」
「…うん、これだけ愚行を重ねた上でまたおかしな事をする程あの子も愚かでは無いと思いたいんだけど。…強制アレ事件の時もそうだったし、僕達では考えもつかないようなアレな事をする気じゃないかと思うと心配で」
「…あー、千里確かにアレ発覚後ずっと責任感じてたもんな。まあいくらなんでもアレを上回るくらいアレな事もそうそう無いだろ」
「…そうだね。そう思いたいんだけど。…もう二度と、あんな悲惨な事件は起こしたく無いから」
「うん、そうだね。…僕も心配だし、こっそり見守っておこうかな」
そうして学園が震撼したまま昼休みになり、強制アレ事件を知っている主要な生徒一同は食堂で緊急アレ集会を開いた。
「いやー、シロ君から謝る日が来るとはね。私あのLINE5度見した」
「うん俺も。表示バグったかと思った」
「…ああ、俺もだ」
「うん、僕も義眼壊れたかと焦った」
「うん、僕もこの前結構激しい戦闘あったからスマホ壊れたかと思った」
「僕もー。いやーあいつがスライディング土下座するの超楽しみだなー」
「ううん、僕も見たいですが彼プライドの塊だからせいぜい頭を下げるくらいだと思いますよ」
「いやー、あいつが頭下げるの見るの超楽しみだね蓬くん!」
「だねー!三人目の子も絶対超テンション上がってるだろうし」
「出来るなら僕も一緒に行って、そのまま猫ちゃん義肢パンチ喰らわせたいくらいだけどねー」
「いやー、俺この学園入ってから毎日ビビり倒してたけど今日一番ビビったかも」
「うん、ボクも直接聞いてたら疑似耳壊れたかと絶対焦ったと思う」
「あーオレも。どっかでアレ殺人鬼に襲われて頭打ったのかと焦った」
「いやー、僕達も超焦ったよね鈴くん」
「ケケケー、そうだね。僕脳味噌腐ったかと思った」
「まあ実際腐ってるけどしっかり防腐処置してあるし大丈夫だよ」
「…う、うんそうだね一回死んでるもんね…」
「ええ、僕も一回死んで蘇った身ですが驚きすぎてまた魂が飛び出るかと思いました」
「僕もそうですね。脳味噌は流石にした事ありませんが臓器提供しすぎて神経が異常をきたしたのかと思いました」
「…み、みんな驚き方独特だよね…」
「まあこういうアレな学園だし仕方ないよね」
「で、いっちーは今レッスン延びててここ来れないけど、やっぱ驚いたしテンション上がってた」
「うん、そうだろうね。あの子も中二だけど良い子だもんね」
「うーん、本当皆で行って全員で笑い飛ばしてやりたいけど。それやったらクロ君気まずいだろうし遠慮した方が良いよね」
「だねー。皆で笑い飛ばしたらシロの奴ブチ切れて何するか分からないし」
「そうだな。…クロの方が実力は上だろうし問題無いだろうが、俺も物陰から見守っていようかと思う」
「あー、良いんじゃないかな。みな君いるなら絶対安全だよ」
「いや、悪いけどそれは遠慮して欲しいな」
その時、アレな食堂では珍しい声が響き渡った。
「あれ、代行さん。ここに来るなんて珍しいですね」
「うん、きっと皆ここで彼の件について話してると思ってね。たまには皆としっかり交流もしたいし」
「そうですか。それで遠慮して欲しいというのはどうしてでしょうか」
「うん、僕も心配ではあるんだけど。やはり正式な謝罪の場だし二人きりにさせてあげたいと思ってね。佐紀君も見守りを考えていたみたいだけど、悪いけど何かあったら僕が全責任を持つのでと説得して遠慮してもらったよ」
「…そうか。だが、最悪の事が起きたらどうするつもりだ」
「ああ、もちろんそれは対策を考えているよ。対外的には二人きりという事にしておくが、ステルス迷彩を発動した金目に上空で待機してもらい、少しでも不審な行動をしたら即刻確保してもらうように頼んでいるから大丈夫だよ」
「あー、そうなんですか。ステルス化も出来るとか金目さん凄いですねー」
「うん、みな君やてうてうの子達を除けば国内最強クラスだと思うよ。だから安心してね」
「…分かった。今回だけは代行を信じる。絶対にあいつに、これ以上の愚行を犯させないようにしてくれ」
「ああ、約束するよ」
そうして代行は静かにアレな食堂を去って行った。
「いやー、表向きだけだろうけどシロ君が謝るとか世界も変わるもんだね」
「うん、絶対謝った時歴史が動くよね」
「実際歴史的事件だしね」
「ああ、そうだな。あいつの存在自体表の歴史には出せないが、裏の歴史には永遠に残るだろうな」
「うん、アレ歴史書に絶対残るね」
「あ、前野が言ってたけど裏政府もやっぱ相当驚いてるみたい。裏があるんじゃないかとかなり警戒してるってさ」
「あー、だろうね。裏政府の人達もあの子の事大嫌いだったしね」
「うん、基本学園内の事にはノータッチの裏政府も今回ばかりは監視を送ろうかって言ってたみたいだけど、代行がやっぱ権限でそれは止めたみたい」
「ふーん、そうなんだ。…なんだろ、何か嫌な予感がするような。大丈夫かな」
「…うん、代行基本裏政府とは協力するのにね。俺もちょっと嫌な予感がする」
「…ああ、俺もだ。何が起きるかまでは想像出来ないが」
「…うん、僕も。並みの思考回路では想像も付かないような、アレな事が起きる予感がする」
そしてアレな緊急集会を終え各自教室に戻り、正直期待と不安で授業が身に入らなかったがどうにかアレな授業をこなし、放課後になった。やっぱりアレな教師陣も期待半分不安半分といった感じだった。
「あ、クロ待ち合わせ夕方って言ってたからもうすぐだよね。どこで会うの?」
「…うん、僕が前ユニット解消の話した、あのお社の前で会おうって」
「あー、確かにあそこ人気無くてゆっくり話すには良いんじゃない?まあ金目こっそり上空で待機してくれてるし平気だとは思うけど、一応気を付けてね」
「うん、ありがとう面影。じゃあ皆、行ってくるね」
「うん、気を付けて」
「ああ、思いっきりあいつに毒舌吐いてやんな」
「…そうだね。やっぱり少し複雑だけど。じゃあね」
そうクロは俺達の自室から静かに去って行った。
「…クロ、本当に良い奴だから。やっぱそれ程ひどい事は言えないんだろうな」
「…そうだね。あれ程最低な事をされたのだから、一生無視しても良いくらいなのにね」
「だよな。もう一生顔見たく無くなっても無理はないレベルだよな」
「…あとさ、シロのクソっぷり知ってる奴等全員そう思ってるだろうけど。…俺もかなり嫌な予感がするんだよね」
「…うん、僕も。何やらかすかまでは想像出来ないんだけど、もうこの上なくアレな事をする気がする」
「俺もだ。900年ちょいの人生で相当アレな物は見て来たが、想像も付かないくらいのアレな事件が起きる気がする」
「…もう二度と、あいつ可哀想な目に遭って欲しくないんだけどな。俺あんまり神様に祈る方じゃ無いけど、今回は祈っておこうかな」
「うん、僕も神様は信じているけど頼るのは嫌い。でも今回はお願いしておこうかな」
「あー、そうだな。正直神も仏も無いアレな世界だとは思うが、俺も一応祈っとくか」
「…神様。どうかあいつに、これ以上クソな事をさせないで下さい」
俺達は静かに神に祈りを捧げた。
一方その頃、ハッピーチャイルドの活動時に使う部室にて。
「…うーん。たぶん強制アレ事件知ってる皆そう思ってるだろうけど。僕楽しみな反面、なんか心配なんだよね」
「うん、僕も。いくら手足ぶった斬られそうとはいえ、あのクソ野郎がそんな簡単に謝るのかなーって」
「そうですね。僕も人の謝意を疑いたくは無いのですが、あれ程アレな子ですと心配になってしまいます」
「だから本当は僕もこっそり行ってクロ見守りたいんだけど。流石にクロの為とはいえ代行の命令に逆らったら僕も何されるか分からないし、そうも行かないんだよね」
「だよねー。僕や幸野クン前世でひどい目に遭ってたから代行そこまで意地悪はしないけど、流石に命令に真っ向から逆らったらそれなりに処罰されるだろうしね」
「そうでしょうね。折角ユニット活動も順調なのに経歴に傷をつけたくも無いですものね」
「…で、学園内では可能な限り平等とはいえ代行権限で佐紀さんの見守りも禁止するって、代行何か企んでるんじゃないのかって僕心配なんだよね」
「確かに。平等とはいえやっぱ相当な身分だし、代行てうてうの人達の意思は基本尊重するのにね」
「…ええ。あの人の事ですから、何か恐ろしい事を企てているのではないかと僕も不安です」
「あ、そういえばさ幸野クン。例のアレ厳重に保管してるって事だったけど、まあ超強い清掃員さんが常に巡回してるし平気だろうけど、アレな奴が入って来て無理矢理こじ開けたりしたら危なくない?」
「うん、僕もそれは不安だから、仕事人の人脈を使ってアレな警備会社さんが開発した超強固なナンバーロック型金庫を安価で譲ってもらってそこに入れてある。ほらあそこ」
「そうなんだー。じゃあ平気かな。解除ナンバー何にしてあるの?」
「うん、誕生日とか簡単に推測できそうなものだとアレだから、普通思いつかないような数字にした。僕の叔父さんのペンションでアレな殺人事件が起きた日付」
「あー、確かにそれなら推理できないね。良いんじゃないかな」
「まあ、幸野君の叔父さんからしたら複雑でしょうけどね」
「うん、当然皆にも絶対言ってないしメモとかも残して無いから大丈夫だと思う」
その時、アレな獲物が多数置かれた部室のドアがノックされた。
「ん、誰だろ。はーい、どうぞー」
「…ちょっと、失礼するね」
入って来たのはどこか不安そうな顔をした振子だった。
「あれ、振子どうしたの?」
「…うん、代行様がユニットの皆と打ち合わせしたいって事だから、急で悪いけどすぐ学園長室に来て欲しいって」
「え、本当急だね?僕達クロの事が心配だからすぐ迎えられるようなるべくここにいたいんだけど、まあ代行命令なら仕方ないか。じゃあ皆、行こ」
「うん、りょうかーい。あーごめん、その前にトイレだけ寄らせて。長くなったら困るし」
「ああ、念の為僕も行っておきましょうかね。振子君、そのくらいは大丈夫ですよね?」
「…うん、別に良いと思うよ。…あー、今この部室の最寄りのトイレアレ清掃員さんが掃除中だから、悪いけど学園長室の近くの所使って」
「え、そうなんだ?夕暮れ近いこんな時間に清掃ってだいぶ珍しいけど。…うん、まあ分かった」
「…はい、分かりました」
そうして僕達はどことなく不穏な物を感じながら、振子について学園長室へと向かった。
「……」
「…どうしたの、振子?なんか不安そうだけど」
「…あーいや、なんでもない。ごめんね。じゃあアレも済ませなきゃだし、早く行こ」
僕は、後ろの三人に悟られないよう考える。
(…代行様。もうこれ以上、僕を失望させないでください)
そうして、それから小1時間くらい後。
僕は色々な思いを巡らせながらゆっくりと山道を登り、シロと会う約束をした小さい社に辿り着いた。
「あ、クロ。…その、久しぶり。まあまだ一週間そこらしか経ってないけどさ」
「…うん、そうだね」
ものの数日とはいえ今までの関係からすれば相当久しぶりに見るシロの顔は、アレな彼なりにも思う所があるのか少し沈みがちだった。
「……」
「…えっと、その。まあ立ち話もなんだし、適当に座ろうか。セーラー服汚したくはないけどさ」
「…そうだね」
「あー、ちょうど手頃なサイズの岩二つある。ほらここ座ろうよ。やっぱちょっと汚れるかもだけど、まあいいでしょ」
「…うん、いいよ」
僕とシロは、黙ってその岩に並んで腰かけた。
「……」
僕は予測通り落ち合った彼等の10メートルほど上空で、ステルス迷彩を発動し滞空しながら厳重に見守っていた。
カメラや集音スピーカーも元々相当高性能だが、少しでも彼が怪しい言動をしたら即座に対処できるよう各種機能の感度も最高にしておいた。
《…金目、あいつ大丈夫そう?》
振子から心配そうに通信が入る。
《…ええ、今の所は。まだ他愛もない話ばかりで、謝罪には至っていませんが》
《…ほんっと、あいつ分かっちゃいるけどどうしようもないな。普通顔見た瞬間に速攻土下座するだろ》
《…まあ、こういう事を言いたくもありませんが根本から腐りきっているような子ですからね。謝罪するという選択肢が出ただけでも奇跡的でしょう》
《あーうん、そうかもね。…金目。お願いだからこれ以上、クロを気の毒な目に遭わせないであげて》
《…ええ、僕の命に代えても守って見せます》
《…うん、頼むよ》
《…振子、心配なのは分かりますがどうしたのです?君にしてはかなり声が震えていますが》
《…うん、あのさ。あの方もまさかそこまで外道ではないと思いたいけど。…すごく、嫌な予感がして》
《…そうですか。同じ護衛とはいえ守秘義務があるでしょうから深くは聞けませんが。…正直、僕も同じ気持ちです》
ちょうどその頃、てうてう達の自室にて。
「…え、そ、そんな」
「…千里、どうしたの?」
「…かなり顔色が悪いよ。良くない物でも見えたの?」
「…そんな、ひどい。神様、こんなのはあんまりです」
「…千里、しっかりして」
「…桃太、お願い。今すぐ、あの社へ行って」
「……」
僕とシロは岩に腰かけたまま、他愛もない会話を交わしていた。
「あー、もうすっかり日も沈んで来たね。ここ、夕焼け綺麗だよね」
「…うん、そうだね」
「…あー、早く本題に入れよってきっと思ってるだろうけどさ。僕こんなの初めてで自覚はあるけど超クソだから、悪いけどもうちょっとだけ雑談付き合って」
「…うん、分かった」
「…僕さ。クロと初めて会ったその日から、お前の事大好きだったよ。まあ初対面の時はガチで命狙われたけど本当は嫌なんだろうなってのはよく分かったし、戦争だからしょうがないけどお前の護衛やバックアップの兵士狂わせて襲わせた時もさ、すごく辛そうに倒してたし」
「…そうだね。そういう力の部隊っていうのは知ってたから覚悟はしていたし、兵隊さん達もその時は遠慮なく殺して下さいって言ってたけど。…やっぱり味方の人を殺すのは、すごく悲しかった。…あの頃は洗脳されてたけど、敵国の人達もできれば殺したく無かったし」
「うん、クロ本当優しい良いやつだもんね。…なんでお前みたいに優しくて真面目で頑張り屋な子があんなクソ過ぎる生まれして、クソな事しなきゃいけなかったんだろうね。この国の神ほどじゃないけどお前の祖国の神も相当クソだよね。まあ僕が言うなだけど」
「…そうだね」
「えーひどい、そこは普通そんな事ないよって言うとこでしょ。…まあ、強制アレしたしクソな自覚は十二分にあるからそりゃ言いたく無いだろうけどさ」
「……うん、そうだね」
「…まあ、クソで正直あんま頭良くない僕でもあんな事されたら一生許せないし大嫌いになるのは分かるよ。…でもさ」
「…もう何度も言ったけどさ。僕実家がクソだったし、軍に入った後も一応クソ研究員や上官とか境遇憐れんではくれたけどやっぱ僕のクソっぷりには相当引いてたし、佐紀もしばらくは引きつつも優しくしてくれて告白も受け入れてくれたけど、実家炎上させたら速攻愛想尽かされたしさ。…だからさ」
「…だから、僕の事心の底から本当に愛してくれたのは、クロが生まれて初めてだったんだ」
「…うん」
「…んでその少し後強制アレしたせいでもう関係者全員からドン引きされて、それから自覚はあるけど僕表向きも相当アレだからさ。やっぱ戦時中から今に至るまで、僕の事知ってて本気で愛してくれてたの、クロだけなんだよね」
「…うん、そうだろうね」
「…まだ一年も経ってないけどさ。僕等がクソ裏政府からだいぶ自由認められるようになって、学校とかも希望あれば通って良いって言われて、それで僕目立ってチヤホヤされるの大好きだし歌って踊るのも好きだから、一緒にアイドルやろうよって誘ってさ。迷わずこの学園選んだじゃん」
「…うん、そうだったね」
「で、僕等の身分超アレだし二人とも可愛いから速攻受かって早速下見に来てさ。それでクソ代行からこの学園の守り神の祀られてるお社が裏山にあってそこからの眺めが良いって教えて貰って、その時もここ来たじゃん」
「…うん、歌や芸能を司る神様の、アメノウズメ様のお社だってね」
「まあ緊急事態で手段を選んでられないとはいえ裸踊りかますような痴女祭神にすんのもどうかと思うけどさー。まーこの国の神全体的にアレだし仕方ないか」
「…神様だから色々価値観も違うだろうし、偉い方にそんな事言ったら駄目だよ」
「はいはい、クロ本当に礼儀正しい良い子だよね。そういう所も僕大好きだよ。…当然お前はもう永遠に僕の事嫌いだろうけどさ」
「……うん、悪いけどそうだね」
そうして、シロは少し黙った後、いつもより真面目な顔で僕に向き直った。
「…あー。もう暗くなっちゃうし、遅くなったけど本題に入るね」
「…うん」
「…クロ。ひどい事してずっと騙してて、ごめんね?」
シロはそう言って、ぺこりと頭を下げた。
「…シロには悪いけど、やっぱり謝られても簡単には許せない。ごめんね」
「…うん、まあ当然そりゃそうだよね。普通一生殺意湧くだろうしね」
「…うん、ごめん。さすがに殺したいとまでは行かないけど、やっぱり君の事大嫌い」
「…だよね。だから僕も許してとは言わないよ。でも何年かかってもいいから、少しずつ怒りが冷めたらまた、たまには一緒に活動したりしてくれると嬉しいな。…まあ僕今評価相当アレだし、今後もアイドルやれるかだいぶ怪しいけどさ」
「…そうかもね」
そして、少しの静寂の後、シロは静かに僕に言った。
「…クロ、あのさ。もちろんそんな簡単に仲直りできるとは思ってないし、一生このままでも仕方ないとは覚悟してるけど。…これから少しずつでもやり直していきたいから、握手だけでもしてもらえないかな」
「………」
僕は少し考えた後、静かに返した。
「…うん。そのくらいなら、いいよ」
「…ありがと、クロ。…お前、本当いい奴だよね」
「…うん」
「…じゃあ、はい。握手しよ」
「…うん、いいよ」
そうして、僕はシロの伸ばした手を握ろうとした。
「…ごめんねー、クロ」
「…え」
僕の手を力強く握ったシロは、もう片方の手を脇にある茂みに突っ込み、素早く何かを取り出した。
きらりと鋭く光るそれは、美しい白銀の斧だった。
「…シロ、何、するの」
僕は考えたく無かったが、その時のシロの冷酷な目付きに覚えがあった。
ずっと昔、大事な話があると軍の人気の無い部屋に呼び出された時の事。
あの時のシロは可哀想な状態だったから補助機械のアームでだったけれど、今は。
「…クロ、ごめんね。でも僕、もうこうするしかないから」
一瞬だけ悲しそうにそう言った後、シロはそれをしっかりと持った腕を勢いよく、僕の腕目掛けて。
金目のカメラアイを通して眼下の二人のやり取りを見ていた僕は青ざめ声を上げた。
《…え、そんな。あいつまさか。…金目お願い、すぐ確保して!!》
だが金目から応答は無く、代わりに返ってきたのは抑揚のない無機質なメッセージだった。
《エラー発生、エラー発生。管理者権限により生命維持装置以外の全てのシステムをOFFにします。ステルス迷彩とジェット噴射、強制解除》
「…え」
凍り付いたような一瞬の後、がしゃん、と大きくて硬い物が落ちる音が間近にして。
僕とシロは合わせてその音の方を振り向く。
「…エラー発生、エラー発生。…至急、再起動を試みます」
「…金目、さん」
「あーもう、想像はついてたけどやっぱこいつ隠れて見張ってたのか。まあ超偶然にも都合よくバグってぶっ壊れてくれてて助かったけどさ。もー、クロ反応速度早いから完全不意討ちでもしなきゃアレ出来ないのに邪魔すんなよな、このクソポンコツがよ」
シロは、いや、シロの外見をしたおぞましい何かは、いつものように吐き棄てるように言い。
そして、また僕の方を向いて、美しく輝くその斧を。
僕の、腕に。
「……っ」
「……っ、いってー」
「…あ?おいお前、何クソウザい事してんだよ」
「…え、桃太、さん」
覚悟していた痛みは、いつまでたっても僕の腕に来なかった。
その刃は、僕を庇って飛び込んで来た桃太さんの腕に深々と食い込んでいた。
「…それはこっちの台詞だ、このクソ野郎。…おいお前、クロに何する気だった」
「あー?何って見りゃわかんだろクソが。強制アレ事件再びだよ」
「…シロ。…何となく想像はつくけど、どうしてこんな事しようとしたの」
僕は、絞り出すように目の前のおぞましいものに問いかけた。
「んー、まあ僕だって本当はこんな事したくは無いけどさ。僕もう正直色々詰んでるし、基本頭悪い僕でもここまでクソな事したらどんだけ土下座しても許してなんてくれないのは分かるし。でもクロにまで見捨てられたら僕もうマジで終わっちゃうからさ」
「だから本当悪いけど謝罪の握手とみせかけてアンブッシュで強制アレして、そのまま即がっつり狂わせてまた全部忘れさせて僕の事大好きにして、持ち運びやすくしたらクロ抱きかかえて国外逃亡決め込もうかなーってさ。あーさすがにずっとアレじゃ可哀想過ぎるから、どっか適当な国に身を落ち着けたらまた有能な医者ぶっ狂わせてすぐ手足は治してあげるつもりだったけどさ。僕だって鬼じゃ無いからそこは安心して」
そのあまりにも自分勝手で恐ろしい目論見を聞いた僕と桃太さんは絶句した。
「……シロ。悪いけど、君って僕が思ってたよりずっと、ひどい子だったんだね」
「…ああ、同感だ。この世界にお前以上のクソ野郎なんていないだろうな。断言できるわ」
「あーもう、クロには何言われてもしょうがないとは思ってたけど、お前にそこまで言われるのクソウザいんだけどー。ほら強制アレさっさとやり直すから斧返せよクソ桃太」
「…誰が返すか。かなり痛かったが文字通り肉を切らせて骨を断つって奴だな。しっかり俺の腕に食い込んでるからもうこれは絶対渡さねえ。逆にこの斧でてめえの首跳ねてやんよ。…今日という今日はもう絶対に許さねーぞ、覚悟しやがれ」
「…桃太さん」
「…ったく、本当クソウザいなお前。まーいいよ、お前堅いっつっても狂わせ耐性はほぼ無いクソザコだし、狂わせてぶん取るだけだし。このポンコツ再起動したらウザいからさっさと狂い死ね」
「…上等だ。お前みたいなクソ野郎、狂う前に速攻首跳ね飛ばしてやるよ。クロにはかなわねえが身体能力は隊で俺が二番目だったの忘れたのかよ。たとえ後で処刑されようと、てめえと相討ちなら本望だ」
「…システム80%復旧、戦闘機能再起動完了。…桃太さん、僕も加勢します。システムダウン中も目視で状況は確認できておりましたので。…僕も、裏政府や代行様の許可を待たずとも、もうこの子を生かしておけません」
「…金目さん」
よろよろと立ち上がった金目さんと、顔を苦痛に歪ませながら斧を引き抜きしっかりと握った桃太さんは激しい怒りを露わにし、並んでシロの前に立ちふさがった。
「…う、再起動早いんだよクソが、昔のクソPCみたいに半日くらい寝てろよな。ま、まーいいよ。てめえらなんて二人まとめて瞬殺してやんよ、かかってこいやクソ共が。愛の力は何物にも勝るんだよ」
「…てめえみたいなクソの元締めが、偉そうに愛とか語ってんじゃねえよ。とっとと死ね」
「ええ、僕も同意します。要人の緊急警護という条件を満たすため、自己判断でリミッターを解除し全力で滅却法を照射させて頂きます。いくら頑強な君とはいえただでは済まない威力ですよ」
二人はそれぞれの武器を少したじろぐシロに向け、その命を躊躇なく奪おうとした。
「…ごめん、二人とも。…気持ちは嬉しいしよく分かるんだけど、…やめて」
「…え、クロ」
「…クロ、お前」
「…クロ君」
自分でも、どうしてその言葉が出たのかは分からなかった。
だけど、このまま目の前で凄惨な殺し合いが起こるのは見たくなかった。
「…桃太さん、金目さん。…僕のためにそこまで怒ってくれて、ありがとう。…でも、ごめんなさい。シロの事は大嫌いだけど、…やっぱり、目の前で死ぬのは見たくないんだ」
「…クロ。お前、甘すぎるよ」
「…クロ君、君は本当に優しいのですね」
「……」
口では虚勢を張っているが、シロは明らかに形勢が不利だと悟り気まずそうに僕を見ていた。
「…クロ」
「………」
しばらく沈黙した後、僕はまた絞り出すように言った。
「…シロ。悪いけど僕、もう永遠に君の事理解できないし、許す事も出来ない。…もう、一生僕の前に姿を見せないで」
「…っ、クロ、そんな」
「…そんなとか悲劇のヒロインぶってんじゃねえ。てめえなんかもう生きてる権利ねえよ。流石のお前もこれは極刑ものだろ」
「…ええ、最終的な判断は裏政府に委ねられますが。人道的な見地からもその可能性が高いでしょうね」
「…桃太さん、僕のせいでケガさせちゃってごめんなさい。…血がかなり出てるけど、大丈夫?」
「あーまあ、正直ちょっと大丈夫じゃねえが。骨で止まってるし前野なら治せるだろ。いやしかしこの斧すげえな、俺の肌にここまで傷付けるとかよ」
「ええ、僕は簡易な手術やある程度の治療行為も出来る装備が内蔵されているので、すぐ応急処置いたします。至急救援を呼んでもらうよう、学園にも連絡いたしましたので」
「金目悪いな、よろしく頼む。…たぶん隊長も千里から予知の詳細聞いて、もうじきここに来るだろうしよ」
「…シロ君。いえ、もうあなたには君を付けたくもありませんね。…シロ。分かっていると思いますがこの裏山周辺はすでに学園の警備員や精鋭で包囲されていますし、飛んで逃げてもすぐに飛行可能な部隊が追跡捕獲するので無駄ですよ。僕も桃太さんの応急処置が完了し次第、すぐにあなたの拘束に移行いたしますし。…代行様も、僕のカメラアイを通して一部始終を目撃していたでしょう」
「…クッソ、クソ。…もーいいよクソが、勝手にしろ」
「…金目さんも、僕のために色々すみません。…さっきシステムエラーとか言っていたけど、大丈夫ですか?」
「…ええ、メンテナンスは万全にしていたのに不可解ですが。今は一切問題ありません。お気遣いありがとうございます」
「…それならよかった。…じゃあ、すみませんが僕、少し一人になりたい気分なので。しばらく飛んでから、エターナルの人達の部屋に帰ります」
「おう、分かった。…クロ、本当大変だったな。…金目通してすぐお前の事知ってる生徒達には話行くだろうし、気にするなって方が無理だろうけどよ。…辛い事あったら、いつでも話聞くからな」
「…二人とも、ありがとう。…じゃあ、シロ」
「…クロ」
「…永遠に、さようなら」
そうとても悲しそうな顔をしてクロは静かに美しい羽根を開き、何処へとともなく飛び去って行った。
その強制アレ未遂事件の起きた日の、更に夜更け。
「……みんな。どうしてこんな時間に、ここに集まっているの」
「…クロ」
「クロ君。…君ももう分かってるだろうけど。悪いけど、邪魔はしないでくれるかな」
「…ああ、俺ももう覚悟を決めた。どんな罰を受けようと、これ以上あいつを生かしてはおけない」
ドアがへこんだり歪みかなりアレな状態になったシロの自室の前に、僕と仲の良い学園の生徒達がみんな怖い顔をして揃っていた。
「…うん、想像はついてる。…代行さんや桃太さんから、ぜんぶ聞いたんだよね」
「…そう、あの後許可が出て強制アレ事件知ってる奴等にはすぐ連絡が来た。…あとはお前の想像通りだよ」
「…うん、まさか僕の斧盗んであんなクソな事やらかすなんて。…厳重にしまってたのに、どうやってロック解除したのかは謎だけどさ」
「まあ、それは後でゆっくり考えるとして。…僕もマジで許せないから、とっておきの業物ナイフありったけ持って来た」
「…はい、僕も今回はビンタだけでは許せません。血生臭い事は嫌いですが、凶器を持ってきました」
「…お前俺達の部屋に帰って来た後、辛そうに寝込んじゃったからこっそり起こさないように出て来たんだけど。やっぱお前、鋭いね」
「…その鋭さも、望んで磨かれた物では無いだろうけどね。…あの子のどうしようもなさに気付けなくて、本当に辛い思いをさせちゃってごめんね。でも、それも今日までだから安心して」
「ああ、何時間かかろうとも無限に復活してあいつ根負けさせてやるよ」
「…俺、自他ともに認めるヘタレだけど。今だけは怖さより怒りの方が勝ってる。せめてかすり傷だけでも直接負わせなきゃ気が済まないと思う」
「佑真、格闘センスはアレだけど度胸はついて来たからね。僕達も全力でサポートするからきっと行けるよ」
「…うん、ボクも大した事は出来ないけど。色々道具とか持って来たからできるだけ手伝うね」
「あー、オレも同じだけど声帯アレだから超大声出して怯ませるくらいなら出来ると思うし。遠慮なく盾にしてくれてもいいから」
「それは堅さだけがとりえの俺がやるし、お前らは攻撃に専念してくれりゃいいよ。あの後前野に速攻治療してもらってすっかり元気だし、斧も奪い返したしな」
「…僕もかつての仲間にこんな事をしたくは無かったけれど。あの子はもう、とっくに人間じゃなくなっていたんだろうね」
「…そうだね。…クロ、本当にごめん。すべては遥か昔、夢の世界で出会ったあの子の要請を聞いて部隊に引き入れた僕の責任だ。…その責任を、今ようやく果たす時が来たようだ」
「…隊長まで。…あなたも、とても優しいのに」
「千里からも、ずっとやんわりと窘められていたけどね。…あの子を野放しにしていたのは、本当の優しさとは言えないよ。…僕の臆病と優柔不断さで、君を何十年も苦しめてしまった。謝って済む問題では無いけれど、今ここであの時の過ちにケリを付けるよ」
「…隊長。強くは言えなかったけど、僕は貴方が決断してくれたのを嬉しく思うよ」
「それで、ここにいる皆。これから起こる事のすべては、嘗てのてうてう部隊隊長であった僕が全て責任を取る。君達にお咎めは行かないよう便宜を図るから、どうか安心して。…でも、彼もこの数が来たら死に物狂いで抵抗するだろうから、くれぐれも気を付けてね」
「うん、僕もすぐに歌ってできる限り力を中和するから。それでも油断はしないでね」
「…ああ、俺もすぐに力を解放し鱗粉を振り撒くが、皆適宜注意していてくれ」
「…みーな。皆の前であの力使っちゃって、いいの?」
「…ああ。あまり見られたくは無いが、今回ばかりは仕方ない」
「うん。僕もあの斧使って、佐紀さんやみな君が本気で支援してくれるならきっと行けるよ」
「…ケケケー。本気で血管ぶち切れそうだけど、とうとうあいつぶっ殺せるのは嬉しいな~」
「まあ鈴くん血通ってないからそれは無いけど、気持ちはよく分かるよ。僕もあいつの骨全部粉砕してやりたいし」
「僕も、瞑想と禊で呪力を出来る限り高めて来ましたから。それはもうえげつなく呪ってやりましょう」
「ええ、万一出血や臓器が損傷した時は僕が即座に提供しますので。前野君も察しているでしょうし、呼べばすぐ来てくれるでしょう」
「…ちょっとだけ怖いけど、これだけ仲間がいればきっと勝てるよね。蓬くん」
「うん、きっと大丈夫だよ。三人目の子も後ろで見守っててくれてるしさ」
「うん、ぼくもケンカは弱いけど中二だからえげつない毒針とか用意して来たよ。使いたい子いたら貸すから言ってね」
「…転校生くんちゃんも。あなたも、戦ったり残酷な事は嫌いなのに」
「…そうだね。私弱いし、傷付けたり人殺しなんてしたくは無かったけど。でもここまで君がひどい事されたら許せないよ」
「…昔、この学園に転校する前の晩お姉ちゃんに言われたんだ。私には自分の正しいと思った事を貫いて、絶対に後悔しない生き方をしてほしいって。…きっと、今がその時なんだと思う」
「…そうなんだ」
「…どんな悪人でも、人を殺すのが絶対の正義とは思いたくないけれど。…でも、あの子だけは。のうのうと生きていて許される存在じゃ無いと思う。…同じ学園の子にそんな事、言いたくなかったけどね」
「……うん」
「…じゃあ、金目達は職務上来れないだろうし。もうあらかた人員は揃ったから、…みんな、行こうか」
「うん、僕がこの斧でガタついてるドアぶっ壊すから。皆気を付けて突入してね」
「……やめてって言っても、たぶん無理だろうね」
「…クロには悪いけど、そうだね。本当に今回ばかりは、ここにいる皆本気で許せないと思う」
「…そっか」
「…クロも大嫌いとはいえやっぱりそういう現場見たくないだろうし、後は俺達にまかせて部屋戻ってなよ。…一人でいるのがしんどいなら、前野いるだろうしまた保健室で寝るとかさ」
「……うん、そうしようかな」
だがその時、僕達の前に静かに三人の影が現れた。
「…あれ、代行に振子。前野まで」
「…代行達も、シロの奴が許せなくて来たんだ?」
「…ああ、それは間違いがないね」
「…では、分かるだろう。ここにはおそらくこの場で一番身分の高い佐紀先輩もいる。邪魔はせず黙って見ていてくれ」
「そうさせてあげたいのはやまやまなんだけれどね。…前野君、後は説明を頼むよ」
「え、前野くんがどうしたの?…あ、まさか」
「え、転校生くんちゃん何か知ってるの?」
「おう、そのまさかだ。…悪いがみんな、今回ばかりは俺に譲ってやってはくれねえか。…実行は明日こいつが出て来たらだ」
「………」
「…ああ、君。ようやく反省し彼に謝ると思って、見守っていたのだが」
「…反省していないどころか、まさかここまで酷い事を再び考えていたとは」
「…悪いが今回ばかりは、私ももう許す訳にはいかない」
「済まないが、今度は本気の罰を与えさせてもらうよ」
そして、翌朝。
「……う”ー、あー、いつの間にか寝ちゃってたのか」
「…深夜ドアの前が騒がしかったから、あいつら絶対殺しに来てたはずなのに。4・5人は巻き添えにして盛大に散ってやろうと覚悟してたのにそのまま引き返すとか日和ったのかよ。だいぶガタついてるとはいえこのドアや部屋防音完璧だから会話はほとんど聞こえなかったけどさ」
「…ってえ、何これ。めっちゃ気分悪くて全身痛い」
「…え、う、嘘。血も吐いちゃった。眩暈がして立てないし」
「…だ、誰か助けろ。早く前野の所連れてけ」
「…あー、これ結構な箇所に悪性腫瘍できてんな」
「…い、いやふざけんな、速攻切除しろよ前野、てめえならその程度余裕だろ」
「…は?例によっててうてうの身体特殊過ぎてそう簡単には無理だし、腫瘍の転移と増殖スピード早すぎて切ってもたぶん無駄?いやならクローン移植とか薬でぶっ殺すとかいくらでもやりようあんだろクソが」
「クローン作るにも最短で数週間はかかる?いやちょっと前クロの手足アレした時は速攻で治ったじゃねえか、職務怠慢だろこのクソヤブが」
「…お前ももう察してんだろ、俺もてめえ救いたくなんかねえし今度という今度はもう諦めてとっとと死ね?…いや、死ねとかお前医者がそれ言ったら終わりだろこのクソが」
「…い、いいよてめえが役に立たなかろうが。おいこら誰か、捧呼んで来い今すぐだクソ、…やば、また血吐いた」
「さ、捧。速攻臓器全部提供して治しやがれ。英雄命令だぞゴラ」
「…は?お前今なんつっったの。もっかい言ってみろやクソが」
「…何回でも言うよ。悪いけど、君に臓器提供するのは絶対に嫌だね」
「…はあああ”あ”あ”?いやお前臓器提供マニアのドMのくせして、いまさら宗旨替えかよ」
「そんなつもりは無いし、確かに僕は人に体を捧げるのが至上の喜びだけど。君に限っては別だね。…前野君やほかの皆も言っていたけれど、これは天罰だよ。クロ君に最低な事をした事を詫びながら、ゆっくりと苦しんでどうしようもなく死んでいくんだね」
「そういう訳で僕は君に対しては一切臓器提供をするつもりは無いし、気持ちを変えるつもりもないよ。…さようなら、シロ」
「…クソ、クソ。クソがマジでふざけんなクソ。だったら裏政府やアレ研究機関とっととどうにか治療法や特効薬開発しろよ。この国クソだけどクソだからそういうのは速攻で出来んだろクソが、おい前野、僕の余命あとどんくらいなんだよ。半年くらいはいけんだろどうせ」
「は???もの凄い勢いで増殖しててたぶん一週間以内か下手したらもっと早くに死ぬ???」
「…い、いや、ふざけんな、ふ、ふざけんなよマジでクソ、ほんの1か月前にクソ健康診断やった時は何事も無かったし超健康体だったのに。てめえ手抜きやがったろこのクソヤブ、ぶっ狂わすぞ、…う、げほ、げほ」
「…やば、もう、なんか目もかすんで来た。…うそ、僕、本当に死ぬの?」
「…や、やだ。やだよ、死にたく無いよ。だれか、誰か助けてよ」
「…シロ」
「…え、クロ?」
「…クロ。お前まさか」
「うん。…前野、お願い」
「シロに、僕の臓器を提供して」
「…え」
「……医者としてアレだが、そればっかりは俺も本気でやりたくはねえんだがな。確かにお前なら同じてうてうだし、適合もするだろうが。…だが、もう気持ちは決まってるんだろうな」
「…うん。本当にこういう事言いたくは無いんだけど、…今回だけは言うね。…英雄の頼みだと思って、お願い」
クソ前野はしばらく黙ったあと、深いため息をつき言った。
「…仕方ねえな。そう言われたら断る訳にもいかねえしな。…じゃあ二人とも、手術室行くぞ」
「……シロ。お前、本当にクロに感謝しろよ」
「…う、うるせえな。分かってるよ」
そうして結構な時間の後クソ手術は終わり、それからさらに少し後。
「…おし、クロ。もう問題無いからお前は自室戻ってていいぞ」
「…うん。お願い聞いてくれてありがとう、前野。…ごめんね」
「…まあ、気にすんな」
「…クロ、大丈夫?…僕のために、ありがとう」
「…うん、麻酔ちゃんとかけたし平気。すぐ手術の後、捧さんに臓器提供してもらったし」
「…そっか。…でも、なんで」
「…なんで、一生顔見たくない僕の事、ここまでして助けてくれたの?」
「…僕にも、分からない。…でも」
「…本気で嫌いで許せないけど。…目の前で君が死ぬのは、悲しかったから」
「…そっか」
そうしてクロは静かに去って行き、それからさらに一週間くらいのクソ経過観察の後問題無しと判断され、僕も自室へ戻るのを許された。
そして、その翌日。
「…あー、久々によく眠れた。もうここ一週間くらいあのクソ奇病のせいで散々だったし。マジで僕こんな目に遭わせた奴死ねよ」
「…あー、前野何も言わなかったけど授業流石に出席しないとクソ教師共ウザいだろうし参加しねえとな。ってか保健室に居た時は流石にまともな病院食出たけど元気になった途端またクソ過ぎな飯出してくんだろうなあのクソババア」
「…あれ、なんか今日すごいまともだ。いつぞやみたいに激辛とかクソ不味いとかかな」
「…いや、味も普通に美味しいし。なんのつもりだよあのババア、逆に怖いんだけど」
「…あー、食べ終わったしリモートでクソ授業参加しねえとな。タブレット点けるか。…って点かないし。バグってんじゃねえよクソ」
「…えー、じゃあ僕まだ謹慎中だろうけどしょうがないし直接教室行くか。ぜってえまたクロ以外のクソ共にボロクソ言われるんだろうけどさー」
「…って誰だよこんな早朝に。クソが、さっさと入れよ」
「あー?何の用だよクソ代行」
「…は???授業参加日数明らかに足りてないし諸々素行不良すぎるので今日をもって退学処分?????」
「…い、いや素行不良はともかくとして僕ちょっと前まで死にかけてたんだぞ、そのくらい配慮しろよクソが、いきなりすぎんだろクソ、マジでクソ訴えんぞこのクソボンボンが」
「…察してると思うけど強制アレ事件また起こそうとしたのは裏政府一同もブチ切れてるし、しっかり裏政府にも了承もらったしもう帰りの神社行きタクシー用意は出来てるからさっさと外出て乗って帰れ?」
「…あー、もういいよ、分かったよ。あのクソ神社帰るくらいなら、てめえぶっ狂わせてこんなクソな学園どころか国自体出てってやるよ。覚悟しろ」
「…っては?お前の能力封印する術式開発できたから上等だ?い、いやふざけんな、やめろ前野、それ貼り付けるな」
「…あー、もう最悪。結局速攻力封印されてどこだか知らねえがクソ山奥のクソ狭い神社に押し込められたし。6畳一間しか無いとか祟り神とはいえ舐めすぎだろよクソが」
「スマホも没収されたし、ゲームやテレビも無くて家具布団以外は机くらいしかなくて本もお堅いのくらいしか読ませてもらえなくて、ってか涼しくなってきたとはいえエアコンも無くて扇風機って今何時代だと思ってんだよ、マジでムショ以下だろここ、この国アレだからムショだってクソ罪人たち仇討ちの為にベストコンディションで出せるようにプールやサウナとか映画館付いてたりかなり豪華なのによ」
「飯もあのクソババアみたいなゲテモノじゃないにせよ大概白米一杯に漬け物数切れとメザシ一匹に味噌汁だけだし、おやつとかほぼ無いしあっても飴とかクソ地味なものだけだし。僕大食いなの知ってんだろクソ巫女、もっと用意しろよ」
「…飢え死にしない程度に用意してやるだけでもありがたく思え?いやてめえ巫女の癖して何クッソ生意気な口聞いてんだよ、封印されて無かったら即ぶっ狂わせてたぞ。親の顔が見てみてえわ」
「…は?親はともかく曾祖母はお前世話してたクソ巫女?ひいおばあちゃんもお前の事本当は大っ嫌いでいつか天罰が下れと陰で祈ってたりたまに僕のご飯にだけ雑草とか賞味期限一週間切れの牛乳入れたりしてた?お前クソ丈夫だからピンピンしてたけど?いやてめえマジでふざけんなクソが、あのクソ巫女もよ」
「…はー、暇すぎ。どうしよ、僕難しい本とかクソ嫌いだし、テレビもスマホもゲームも無しとか何もする事ないじゃん。…しょうがないから、絵でも描くか」
「…何描こうかな。とりあえず超かわいい僕と、あとはクロと…って」
「…なんか、あれだけ色々あっても僕とクロってセットで書いちゃうな」
「…クロの顔、笑ってない。…あいつ、昔からあんまり笑わないやつだったもんな。超可愛い僕がいるのに不愛想な奴だよなー、まったく」
「……でも今思えば、ほとんど笑わないのも僕のせいか。…そりゃそうだよね」
「…クロ」
一方その頃、流れ星学園の学園長室にて。
「……代行。…いえ、咲夜様」
「うん、何だい金目?まあ、おおかた要件は分かっているけどね」
「…ええ、先日のシロが蛮行を働こうとした際発生した、僕の不具合についてです」
「…うん、僕もさっき、悪いけど代行様より先に聞いた」
「そうなんだね、振子。うん、いいよ。続けて」
「…ええ。シロを確保し自室へ連行した後、即時研究施設で綿密に調査してもらいましたが。あの際発生したのはエラーでは無く、何者かによる強制シャットダウン処置だという事が判明しました」
「うん、そうなんだね。…あんな時に酷いことをする人がいるものだね」
「…お巫山戯になるのはやめて頂けますか、咲夜様。…僕にそこまでの処置を出来る人物はごく限られていますし、その内の一人である学園長様や他の同等の権限を有する方も、あの状況でそのような事をする冷酷な方では無いと僕は考えます。…失礼ながら、一人を除いて」
「…うん、君の言いたいことは分かるよ」
「…うん、咲夜様。僕もさっき金目や調査した研究施設からシャットダウン命令を出した人物のIPや位置情報ログから調べたデータ送ってもらったけど。…限りなく、貴方以外に考えられないよね」
「…そうだね」
「…どうしてそんな事を、とは言いません。目的は僕も分かります。…あの場で確実にシロを、追い詰めたかったからでしょう」
「ああ、その通りだよ」
「あと、僕からも言いたい事があるけど。そもそもどうしてあの斧、シロが持ってたの。…またどうしてだろうねとかはぐらかすのは無しだよ」
「……そうだね」
「…すみませんがそれも調査済みです。学園長様承認の下、学園中の部室内の監視カメラと集音スピーカーのログを確認いたしました。…建前上は個々のプライバシーの為廊下や教室以外の個室にはそういった機材は設置していない事にはなっていますが、万が一アレ殺人鬼等が侵入し乱闘になった時などに警察や司法機関に提出するために、てうてうの方々以外の部屋には実際は全て設置しているのは代行様もご存じですよね」
「…うん、勿論知っているよ」
「…じゃあ、単刀直入に申し上げますよ。…代行様、数日前ハッピーチャイルドの部室の例の凶器がしまってある金庫のロック解除ナンバーを、音声や録画ログを検索して調べ上げシロに伝えたでしょう」
「…ああ、確かにその通りだよ」
「…代行様。…僕、この前貴方がやらかした時も言ったよね。…いくらなんでもこれはアレ過ぎだって。…これは直接は言ってないけど、僕も金目も貴方にもう相当愛想を尽かしているのも、聡明な貴方なら分かっているでしょう」
「…そうだね。僕はこんなアレな事をしでかした狂人で愚か者だけど、そのくらいは分かっているよ」
「…じゃあ、お言葉ですが。僕も自分の存在意義を否定したく無かったけれど、失礼ながら言わせてもらいますね」
「……ああ、良いよ」
「…僕はもう、これ以上貴方について行けません」
「…ええ。僕も大変失礼ながら、振子と同じ気持ちです」
「…」
「…代行様?」
「……いや、すまないね。ああ、君達の気持ちも言いたい事も、よく分かるよ。…僕から君達に、暇をあげよう。もう僕の護衛は務めなくて良いから、君達は君達の好きな事をしたらいい。当然罰等は無いから安心してね」
「…はい、ありがたくその通りにさせて頂きます。…それから裏政府および学園長様から、咲夜様は今現在をもって流れ星学園の学園長代行の全権限を剥奪される事となり、当面の間自宅にて謹慎するようにとのお触れが出ました。すみませんが直ちにご退出をお願いいたします」
「…ああ、分かったよ。すぐに出て行く」
「…咲夜」
「…おや、お父様。直接顔を合わせるのは少し久しぶりですね」
相当にアレな強化処置をされた学園長室の重厚なドアが開かれ入って来たのは僕の父親、本来の学園長であった。
「…金目から聞いたろう。…そういう事だ。お前のやった事はもはや子供のちょっかいでは済まされない。…私の権限でも今回の事は庇いきれぬし、私にも親の情の前にこの国を背負って立つ指導者としての義務と、正義の心がある。…何が言いたいか、お前なら分かるだろう」
「…ええ、分かっているつもりです」
「…ならば、すぐ本宅へ戻り当分謹慎していることだ。食事は使用人に運ばせる。その間の学園長業務は私が全て務めるのでお前が心配する必要は無い」
「…はい、畏まりました」
「…咲夜。お前ももう子供ではない。…自分のやった事は、自分でけじめをつける事だな」
「…ええ、分かりました」
「…なあ、咲夜。本当にこんな事を言いたくは無かったし、あの世であいつが悲しむだろうが。―それでも、言わせてもらう」
「…はい」
「…私はやはり、お前よりもあいつに生きていて欲しかったと今は思うよ」
「…そうですね。僕もそう思います。…では、失礼します」
そうして代行様、いや、咲夜様は静かにアレなドアを閉めて去って行った。
「…さあ、二人とも。見苦しい物を見せて済まなかったね。…お前達も自由だ。退職するつもりなら十分な金は渡す。どこへなりと自由に行って好きなことをすると良い。この学園の在校生として通い直しても構わないよ」
「…ありがとうございます。…しばらく気持ちの整理をしたいので、ひとまず一月ほどお暇を頂ければと」
「…はい、僕も同じですね。ちょっと一月くらい国中をぶらぶらして、今後の身の振り方を考えようかと」
「…ああ、好きにすると良い。…お前達、私の不肖の息子のせいでずっと申し訳ない事をしてしまったね」
「…いえ、お構いなく」
「…はい、大丈夫です」
そうして学園長様に一礼をし、僕達も静かにその場を後にした。
「…はあ。これからどうしようかな。とりあえずさっき言ったように一か月くらいそこらじゅう旅して考えるか」
「ええ、良いと思いますよ。ユニット活動もこの精神状態ではまともに続けられないでしょうし、リーダーの咲夜様不在でこのまま続けられるかも怪しいですしね」
「…そうだね。でも、いきなり存在意義まるっと無くしちゃったらやっぱり辛いなー。…はあ」
「…そうですね。僕はゼロから造られた存在では無いですし、実際に愛情を受けている肉親がいるだけまだ良いですが。…君は気の毒ですよね」
「…うん。僕、絶対自死とか自傷は出来ないよう設計されてるんだけど。…正直今、ちょっと死にたいかも。死ねないけどさ」
「…きっと、時が解決してくれるはずです。…それくらいしかかけられる言葉が無くすみませんが」
「…ん、いや、ありがとね。…じゃあまあ、僕メンテしたらしばらく国中放浪の旅に出てくるよ。戻ってきたらその時はまたよろしくね。じゃーね」
「…ええ、今までお疲れ様でした。どうかお元気で」
そうしてまたしばらく後、シロの封印されている山奥の狭い神社にて。
「…あー、もうどのくらい経ってんだろ。ここカレンダーも何もかかってないから日付感覚分かんねーし。肌寒いからたぶんもう秋か冬くらいになってんだろうな。…ってか僕いつまでここに封印されるんだろ、もう十分閉じ込めたんだから出せよなコラ、50人くらい殺ってるアレ殺人鬼だって数か月で出てくるじゃねえかよこのクソ国」
「…あーもう、クソ巫女最近何言ってもシカトしやがってマジでクソウゼェし。昨日も今日も明日も変わり映えのしねえクソ質素なクソ飯だし。確かに僕ショタジジイだけど大食いの健啖家?なんだからもっと脂っこくてスタミナつくものガンガン食わせろよな」
「…あ”?そういうだろうと思って学園長から差し入れ?ふーんあのクソ親父も多少は気が利くじゃん」
「…って何だよこれ、シュールストレミング缶じゃねえかよこんなんこんなクソ狭い部屋で開けたら死ぬだろふざけんな、だから僕祟り神だからって芸人みたいなもの食わせるんじゃねえよクソが、さっさと捨てろやクソ巫女」
「あ”あ”?まだ差し入れとか絶対ろくなもんじゃねーだろ。んだよ前野からか。…あ」
そこには、僕があの夜半世紀以上ぶりに食べた、クソ不本意な事に案外美味しかった宅配ピザの箱があった。
「…僕ピザ大っ嫌いなの知ってるくせにあの野郎。…でもまあメザシや白米とかクソ粗食で飽き飽きしてたし、特別に食べてやっか」
ピザの箱をクソ嫌々開封して、カラフルな彩りのピザを一切れ口に運ぶ。
「…うん、クソムカつくけどやっぱ美味しい」
「…これ、クロにも食べさせてあげたかったな」
「…僕のせいで、クロピザとか半世紀以上食べられなかったし」
「…クロ」
そうしてまた月日は流れ。
「…あー、もう何か月、いや下手したら何年経ってんだろ。もういいだろ、僕十分反省したんだからさっさと出せよなクソ巫女」
「…あ”?あと半世紀は覚悟しておけ?ってか正直昔の僕みたいな体にしてぶち込んでやりたかったしクソ裏政府からも許可出かけたけどクロがそれは気の毒過ぎるからやめてあげてって口添えしてそのままぶち込むだけになったんだ、クロ様に本気で感謝しろよ?」
「…本当お前巫女の癖に口が減らねえな、マジで封印されて無かったら即ぶっ狂わせてやったのに。…あーもう、鱗粉どころか羽も全くでないし。…自覚はあるけど僕から狂わせの力取ったら、僕可愛いだけのクソショタジジイじゃん」
「…はあ、もう一人遊びも大概やりつくしちゃったし、寝すぎて全然眠くないし。…僕文章苦手だけど、しょうがないけど日記でも書くか」
「えーっと、日付はここクソ過ぎて全く分からないから適当に。☆月◆日、天気たぶん晴れ…っと」
【☆月◆日、天気たぶん晴れ クロに会いたい。】
「…あー、やっぱ僕文章苦手だから一行で終わったし。しかも色々あってクソ嫌いなはずのクロの事だし」
「…」
「…やっぱり、嫌いになんかなれないよ。…あれだけクソな事しまくったのに、僕の事何度も助けてくれたもん」
「…クロ」
それから更に数日後。
【☆月◆日、天気たぶん晴れ クロに会いたい。】
【★月〇日 天気晴れじゃね? クロは今なにしてるかな。】
【◆日×日 天気くもりっぽい 前クロと歌ったユニット曲を歌った、なんかソロだと調子が出ない。
僕最近ずっとソロ活動してたのに。】
【×月×日 雨降ってた クロ。クロに会いたい。
あのてうてうの奴らと今頃楽しくやってるのかな。クソムカつく。
でもまあ、僕クソな事したし仕方ないよね。
でも、やっぱりクロに会いたい。】
「…はー、数日分読み返したけどやっぱ僕文章力クソだな、昔散々クソ反省文書き直させられた時に分かってたけどさ。お察しだけどクロの事ばっかだし。僕他に考える事ややる事ねえのかよ」
「…クロがいれば、僕それだけで幸せだったんだな」
「…でも、クロは僕と一緒で幸せなんかじゃ無かったんだ。僕がクソ過ぎたから」
「…クロ」
「…ひっく」
「…ひっく、うわあああああん」
「…クロ、クロに会いたいよう」
「…ぼく、僕なんでクロにあんなに最低な事しちゃったんだろう」
「僕、クロの事大好きで、愛してたはずなのに。それなのになんであんなクソな事して、何十年も傷付けちゃったんだろう、しかもそれ隠して、嘘ついてて。クロ嘘吐き大嫌いなのに」
「…僕、クロの何を分かってたんだろう。というか僕、クロの事何を分かろうとしてたんだろう。僕のやりたい事や好きなこと、嫌いな事全部押し付けて、クロは全部そんな僕に付き合ってくれて。…僕は、僕は」
「…クロ、クロに会って、謝りたい」
「…でも、もう永遠に無理だよね」
「…うわあああああん、ぐすっ」
「…シロ」
「…え?」
「…やっと、見つけた。シロ」
「…え、クロ…なの?」
「…うん」
「…なんで、なんでお前ここにいるんだよ。お前もう永遠に僕の顔見たく無いんだろ」
「…そうだね」
「…じゃあ何のためにわざわざこんなクソ山奥まで来たんだよ。僕笑いに来たのか」
「…笑いたいけど、笑えない」
「…じゃあ何だよ。僕の事罵りにきたのか、それともぶん殴りに来たのか」
「…違う。どっちでも、ない」
「…じゃあ、じゃあ本当お前何でこんなクソ辺鄙な所来たんだよ。お前僕大嫌いだろ。とっとと帰れよ」
「…嫌。このままじゃ、帰れない」
「…君を、連れ出しに来た」
「…は?」
「…学園長さんや裏政府の人達に色々掛け合って、たくさんお願いして。…それで二か月近くかかっちゃったけど、やっとなんとか許可が貰えた」
「…狂わせの力は完全封印したままで、向こう数十年は使えないけど。羽を出して飛ぶだけならいいってさ。それで監視も当分たくさん付くと思うけど、それでもここからは出られるよう、政府の人達と交渉した」
「…クロ、お前何言ってんの?」
「…僕も、自分で何言ってるのかちょっと分かんない。…でも」
「…でも、やっぱり僕、シロが近くにいないと寂しいんだ」
「…クロ、お前」
「…この前君がまた強制アレしようとした時、シロ言ったよね。自分の事を本気で愛してくれたのは、僕が初めてだったって」
「…あれ、僕も考えたらそうだったんだ」
「…スラム街に居た頃はずっと僕は嫌われてたし、自分の国の軍に入って兵隊やってた時は一応ちゃんとしたご飯貰えたり、功績立ててからは大事にはされたけど。でもやっぱり兵器としてだし、何度もアレな実験や投薬で殺されかけたし、今思うと全く大事にはされて無かったと思う」
「…うん」
「…だからさ、僕も。本気で下心とかなく愛してくれたのは、シロが初めてだったんだ」
「…クロ」
「…だからさ。僕、シロの事、大嫌いだけど…やっぱり、好きなんだ」
「…」
「…だから、シロ。許せないけど、許すよ」
「…ユニットもランキング圏外の一番下からやり直しだけど、もう一度僕とユニット組んで、やり直そう」
「…」
「…めん」
「…シロ?」
「…ごめん」
「…え」
「…ごめん、クロ。最低な事してずっとお前の事騙して、またこりもせずクソな事しようとして、本当に、本当にごめん!」
「…シロ」
「…ごめん。いくら謝ったって足りる訳無いけど、ごめん。本当ずっと、半世紀以上も縛り続けて、ずっとひどい事して本当にごめん!!」
「…シロ」
「…僕、クロの事本当に愛してて、大好きだったはずなのに、ちゃんとした愛し方が全然わかんなくて。あんなクソ過ぎる事しちゃって、ちゃんと謝りもしないでごまかして、半世紀以上も嘘ついて、最低な事して、挙句の果てには、また同じかもっとひどい事しようとして、本当に、僕、クソ過ぎてごめん!!!」
「……」
「…ひっく、でも、この程度じゃ済まないよね。僕、どうすればいいのかな」
「…とりあえず、ここを出てから二人でゆっくり考えようよ」
「…うん」
「…ねえ、シロ。キスしようよ」
「…えっ」
「…シロ、ずっと昔に僕とキスしたいって言ってたでしょ。…あの時は忘れてたけど、僕スラム街で嫌な思い出があって、キスはちょっと嫌だったんだ。…でも、今なら」
「もう一度シロと、きちんとやり直すって決めた今なら、大丈夫な気がするんだ」
「…クロ」
「…だから、シロ。キスしても、いい?」
「…う、うん。いいよ」
「…ありがとう。…じゃあ、しよ」
「…うん。クロ、大好きだよ」
「うん、僕も。…シロ?」
「…えっ」
「…シロ、どうしたの?僕の顔、何か変?」
「…クロ、その髪と肌の色どうしたの」
「…え」
「…透き通るみたいな白い肌に、すごく綺麗な、その、水色の髪」
そして。
「クロ君、オオミズアオになったんだね」
「うん、みーなやてうてうの人達調べてた研究機関の人達も今まで例の無かった、奇跡みたいな現象だって」
「てうてうの人達の体質って特殊だから、髪や肌の色変えられないはずだもんね。すごく綺麗だよね」
「ああ。…本当に、神が奇跡を起こしてくれたのかもな」
「シロ君、狂わせの力は完全封印されちゃったけど、すごく伸び伸びと歌ってて楽しそうだよね」
「うん、クロも最近あんまり悲しそうじゃなくて、結構よく笑うようになったし」
「シロのやつもまだまだ捻くれてるけど、最近ちょっとだけ素直になって来たしね」
「うん、最近ちょっとだけなら別ユニットの人達と一緒に組んで活動するようになってきたし。最近俺達とも組んでやるからありがたく思えって、超上から目線だけどシロが合同ユニットの一次結成打診してたよ」
「もー、本当あの子素直じゃないなあ。まあ向こうからそんな事言って来るだけもの凄い進歩だけどね」
「あはは、確かに。一回ユニット完全一からやり直してるから、もうランクは俺達の方がかなり上なのにさ」
「でもクロ君はすごく最近明るくなって新しい姿も人気だし、狂わせの力もなんだか悲しくならなくなったみたいで前より人気出て来てるかもね」
「あー、確かにね。クロ、本当優しいよね。あれだけ最悪な事されたのに、全部許してあげるなんてさ」
「そうだな。あいつ程よく出来た慈悲深い人間は俺は知らないな」
「うんうん、クロ君本当宇宙一優しいよね」
「あ、それでさ。クロも俺達と一時的にユニット組みたがってたし、五人組の臨時ユニット名転校生くんちゃんいいの考えてよ」
「えー、うーん。…あ、じゃあこんなのはどうかな。五人組だから、ハートフルクインテット」
クロとシロがユニット再結成して間もない頃のある夜更け、咲夜の自室にて。
「…さて、そろそろかと思っていたけど。来ないならば僕自身で『けじめ』をつけないとね」
僕は机の引き出しを開け、護身用という名目で所持を許された拳銃に目を落とした。
「…ふふ。拳銃自殺なんて、まるで某悪名高き独裁者のようだね。まあ実際僕、相当非道な独裁者だった訳だけれど」
「…お父様もだいぶ気長に待って下さったけれど、流石にそろそろ上にも隠し切れない雰囲気になって来ているしね。僕が自分でやらなければおそらく凄腕の仕事人なりを送り込まれるだろうね。或いは、食事に毒でも盛られるか」
「…ごめんなさい、お母様。貴女の思いを踏みにじるどころか、稀代の悪政を敷き、英雄を傷付けようとした馬鹿息子として歴史に名を残す事になってしまって」
「…ああ。本当に、僕は何の為に生まれて来たんだろうね。生まれて来て、僕は本当に良かったのかな」
そうして、僕がその拳銃を手に取ろうとしたその時。
「…こんばんは、代行。いや、黒葛原咲夜」
ふわりとバルコニーに、美しい紫色の羽を揺らめかせ一人の青年が降り立った。
「…やあ、待っていたよ。ふふ、待ちきれなくて自分で終わらせようとしていた所だよ」
「…そうだね。僕はやっぱり本当にどうしようもない臆病者で、弱虫だから。…でも」
「クロの、彼の優しさと勇気に胸を打たれてね。…僕も彼を見習って、勇気を出してみようと思ったんだ」
「ああ、そうなんだね」
「…僕はあの大戦から今一度、今日だけは自分の禁を破って、嫌な狂わせをしようと思うよ」
「…ふふ。こういう狂わせは、僕はすごく良いと思うよ」
「…そうかい。じゃあ、行くよ」
「…ふふ、ありがとう、大邑佐紀君。…僕もね、実を言うと」
「実を言うと、僕もハートフルなだけの人間になってみたいと、思う事があったんだ」
そうして目の前の彼は、少し悲しそうに微笑んでその美しい羽根から光り輝く鱗粉を振り撒き始めた。
そして、闇夜に一発の銃声が響いた。
エピローグ
「いやー、もう俺達卒業してから何年か経ったけど、転校生くんちゃんももうすっかり有名敏腕プロデューサーだよねー。あ、今はもうそう呼べないんだった。何度言っても慣れないなー。まあいいか」
「ふふ、そうだな。あいつもそう呼ばれるのが好きなようだから、構わないのではないか」
「そうだねー。んでさみーな、シロが一応制限は大幅にあるけどユニット活動再度許されて戻って来て間もない頃さ。学園長代行が自室で何者かに銃撃される事件あったじゃない」
「ああ、確かにあったな」
「アレさ、一応は外部の犯行って事になってるけど、金目や振子あの時いなかったとはいえ相当セキュリティ固い学園長の屋敷の最奥部に誰にも発見されず侵入できる凄腕の殺人鬼なんてそうそういないと思うんだけどさ、みーなどう思う?」
「…そうだな。俺もあそこに潜入は物理的に難しいと思う。…おそらく、そういう事だろうな」
「あーうん、やっぱアレってそういう事だよね。代行頭部に銃弾がかすって一時は危なかったけどすぐ意識回復したし、意識が回復したらまるで人が変わったみたいに善良で心優しくなってたしね」
「ああ、あの人がやってくれたのだろうな」
「だよねー。本当あの人最高だよね。最近はてうてうとシロ達もそこそこの頻度で合同ユニット組んで活動するようになったり、かなり関係良くなって来てるしさ。それで代行が目覚めて諸々仕事復帰して間もなくに、例のアレ政策も撤廃されてアレ殺人鬼たちみんな塀の中に戻されたじゃない」
「…ああ。それもおそらく、そういう事だったのだろうな」
「うん、アレ殺人鬼たち、大概はアレ政策で出て来た時めちゃくちゃやりまくってたからって事で更に重い刑が科せられてもう数十年は出て来れなくなったし、出て来てもこの辺はもう強者揃いだからすぐぶっ殺されるしね」
「ああ、犠牲者は多かったが、やった意味はあったのかもしれないな」
「犠牲になっちゃった人達は気の毒だけど、いつかきっと生まれ変われるだろうしね」
「…でさ。だから俺、やっぱこのアレな国、アレだけどなんだかんだで大好きだなーって思ってさ!」
「…ふふ、そうだな。俺もだ」
「だよねー!あ、愛と転校生くんちゃ…じゃない、プロデューサーさん戻って来たよ。さ、今日もリハ頑張ろ!!」
はーとふるクインテット おしまい
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