はーとふるクインテット

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第四章 驚天動地のアレ事件

みんなの夏休み

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クロがユニット解消してから何か月か経った頃。


「転校生くんちゃん、そろそろ夏休みだねー。まあこういう学園だし皆活動あるから短めだけどね」
「うん、皆アイドル活動しなきゃだし仕方ないよね。でもここでの長期休み初めてだし楽しみだなー」

「だね。俺達3人も一年だし楽しみ!どこ行こうかなー」
「あ、うちも普通の家庭だしあんまり長期や遠い所は無理だけど、良かったら旅行とか一緒に行っても良い?」

「うん、全然良いよ!あ、みーなどこ行きたい?」
「そうだな。俺はあまり海に行った事が無いし、海に行きたいな」
「あー良いね。俺もここ2年くらいちゃんと海行ってないし。まあここ海近い町だしいつでも見れるけどさ」
「うん、僕も海好きだし良いよ。じゃあどっか適当な距離の県で、旅館とか民宿とか探そうか」

「いいねー。あ、愛君って義眼だけど海水とか平気なの?」
「あーうん、この国だしアレな技術すごいから短時間なら平気。水中ゴーグルしちゃえばいい事だしね」
「そっかー。そればっかりはこの国の技術に感謝だね」


それから皆で楽しく旅行計画を立てたが、やはり夏休みシーズン近くという事でなかなか手頃で良い感じの宿が見つからなかった。

そして昼食時。

「うーん、もっと早めにお宿探しておけば良かったねー」
「だねー。アレな国だしどうにでもなるかと思ってたんだけどな」
「…格安のホテルや簡易宿泊所等ならある程度空きはあるが、あまりに安いと治安面が心配だしな」
「うん、アレな国の簡易宿泊所とか相当怖いよね」
「だよねー。事故物件で超安いとかならまだしもね」
「だね、実際出るから良心価格の旅館とかホテルとか結構あるし」
「…い、いやそれはそれでかなり嫌だな…」


とか何とか話していた時、クロ君が昼食のプレートを持ってやって来た。

「…皆、一緒にご飯食べてもいい?」
「あー、全然良いよ。ここ座りなよ」
「うん、ありがとう」

「クロ君最近色んな子と食べてて、楽しそうで良いね」
「…うん、皆優しくしてくれるから嬉しい」
「お、今日はお魚なんだ。珍しいね」
「うん、気分変えようと思って。まなとさんや八尾さんもお魚好きだし」
「あー、あの人達も好きだもんね。まなとさんはたまにしんどそうだけどさ」
「…うん、昔ああいう風だったからね」
「…だよね。私も詳細は聞けないけど、最近何となく想像付くし。あの子達も大変だったよね」

「あー、まあこういう国だしあの時代だしね。でも皆今は普通になれて本当良かったよね。まだ特別扱いとはいえ、だいぶ自由も認められたしさ」
「…そうだね。今度てうてうの人達と一緒に、夏休み旅行に行こうって話もしてるし」
「あ、クロ達もそうなんだ。どこ行くの?」
「うん、〇〇県の旅館に行こうかと思って。…あんまりそういう伝手とか使いたくないんだけど、昔からてうてうの人やそう言う身分の人達が良く利用してたし」

「あ、そうなんだ。俺達もその辺行こうかなーと思ってたんだけど、良い感じの宿が見つからないんだよね」
「うん、あまりに安いとこの国だし危険かもだしさ。とはいえ僕達全員一般家庭だしそんなに高い所泊まれないしで困ってて」

「…そっか。じゃあ僕達と一緒に泊まる?普通の部屋もあるから、そんなに高く無いと思う。…やっぱり少し嫌だけど、僕達が手配すれば部屋も取れると思うし」
「え、良いの?じゃあクロ達には悪いけどお願いしようかな」

「うん、良いよ。じゃあてうてうの人達にも伝えておくね」


そうして、またご飯を食べ終えクロ君は去って行った。

「いやー、助かっちゃったね。クロ君には少し悪いけど」
「うん、あの人達そういう特権とか使いたく無いだろうしね。シロは使いまくってるけど」
「ああ、あいつは厚顔無恥だからな」
「あーだよね。常日頃英雄の神とか自分で言ってるもんねあの子。もう皆スルーしてるけどさ」

「うん、前野とかに聞いた話だとあいつの事知ってる裏の政府の人達も相当塩対応らしいし」
「だよね。強制アレ事件知ってたら当然そうなるよね」

「あー、ほんとクロには感謝だなー!てうてうの人達にも今度お礼言っておかないと」
「そうだね、あの子達が泊まるお宿なら絶対良い所だもんね。楽しみだな」


その日の放課後、私はハッピーチャイルドのライブの打ち合わせをしていた。

「で、今度のセトリはこんな感じにしようと思うんだけどどうかな」
「うん、良いと思うよ。人気曲から渋い曲まであって充実してると思う」
「うん、僕もアリだと思うよー」
「ええ、僕も大丈夫です」

「ありがとね。じゃあ今度頑張ろうね。あ、そういえば皆は夏休みどうするの?」

「うん、僕はやっぱりユニット活動に支障出ない程度に仕事人もするつもり」
「僕もそんな感じー。最近かなり強くなったし、幸野クンと戦うの楽しいし!」
「僕は戦うのは好きでも得意でもありませんが、たまには彼らのお仕事を一緒に見学させてもらおうかと思っています」

「あー、やっぱそうなんだ。良いんじゃないかな。アレな人減らせるのは治安維持にもなるしね」
「転校生くんちゃんは、プロデュースあるだろうけど夏休みどうするの?」

「あ、私はカズサ君達や、てうてうの人達と〇〇県の旅館に泊まろうと思ってる。お宿手配してくれるって言うからお言葉に甘えて」

「ふーん。そう言えばあの県も、この町と同じくらいか下手するともっと凶悪な奴収監しとく刑務所が山中にあって、やっぱこの国だからたまに脱獄囚とか出るらしいんだよね」
「そ、そうなんだ。それは怖い」

「じゃあ、せっかくだし僕達もその地域泊まろうかな。叔父さんが昔ペンションやっててそういう業界の人と結構今も繋がりあるし、どこかちゃんとした所今でも確保できるだろうしさ」
「あー、そうなんだ。幸野君達がいてくれるなら心強いな。てうてうの人達いれば平気だろうけど、あの子達シロ君除き戦うの好きじゃ無いしさ」
「だよねー。僕もあの人達にはもうあんまりしんどい思いさせたくないし。僕もナイフたくさん持っていくね」
「ええ、僕も一応護身具は持っていきますね」


そんな訳で怖いが心強い子達も同行してくれる事になり、後日クロ君から旅館の詳細を教えてもらいアレな終業式を経て夏休みになり、旅行当日。

「いやー、着いた着いた!」
「こんなに長時間電車に乗ったの、久しぶりだなー」
「まあ、アレな国故交通機関や輸送技術もかなり発達しているし比較的すぐ着いたがな」
「うん、流石にワープ技術はまだ無いけど安全に500キロくらいで移動できる超速新幹線とかあるしね」
「だねー。飛行機はやっぱこういう国であんまり国外行けないからそんなに発達してないけどね」

「うん、いつかは国外ももっと気軽に行けるようになると良いのにね」
「…あ、バカンスなのにしんどい話しちゃって悪いんだけどさ。幸野君の前世、ようやく国外旅行が許可された頃だったらしいんだけど。早速行った先の海外でそういう目に遭っちゃったらしいんだよね」
「…あー、そうだったんだ。都市伝説通りだね。可哀想に」
「うん、こんなアレな国の外でアレな目にもそうそう遭わないだろうって油断して、そうなっちゃったみたい」
「そっか、まあ本当気の毒だったけど今生は幸せで良かったよね。強くなったお陰でもうそんな目にも遭わないだろうしさ」
「だね、ある意味強くてニューゲーム状態だもんね」
「…そ、その例えはどうかと思う…」

「あ、そういや幸野君たちはどこ泊まるんだっけ?」
「あー、俺達の旅館のかなり近くの民宿だってさ。やっぱり幸野君の叔父さんの知り合いのやってる、ちゃんとした所だって」
「そっか、それなら良かった。あの子達近くに居てくれるなら安心だな」


そうしてちょっと駅から離れた所にあるお宿だったので、駅前に停まっていた若干アレ気味なタクシーを使いクロ君に教えてもらった旅館へ向かってもらった。

「わー、本当に立派な旅館だね。普通の部屋とはいえ料金大丈夫かな」
「あ、HPで調べたけど大丈夫だったよ。あんまり言いたくは無いけど、てうてうの人達の友人って事である程度配慮してくれるだろうし」
「あー、そうかもね。何か悪いなあ」
「大正時代から続く、由緒ある旅館みたいだね。楽しみだな」
「ああ、俺もこれ程立派な旅館に泊まるのは初めてだ」

そしてお宿に入り受付で記帳を済ませ、従業員さんに部屋に通された。

「うわー、やっぱ外観通り歴史ある感じでしっかりしてるねー」
「うん、純和風で良い感じだね」
「僕も和風の旅館泊まるの久しぶりだし、嬉しいな」
「ああ、俺もあまり宿泊自体した事が無かったし嬉しいな」


皆で荷物を置いてお茶を飲んだりして一息ついた後、クロ君やてうてうの人達にお礼を言いに教えてもらった一番奥の彼らの部屋に赴いた。

「お邪魔しまーす。わー、やっぱりすごく立派なお部屋ですね」
「ああ、いらっしゃい転校生くんちゃん達。…僕達もあまり特別扱いはしないで欲しいんだけど、やっぱり大抵一番良い部屋に通されてしまうんだよね」
「…あー、まあそれだけの事をしたし、そういう身分だしそうでしょうね」

「そうだね。確かにアイドルとしても僕達はかなり人気者だけど、そういう目線では見ないであくまで人として扱って欲しいんだけどね。いつかは完全にそうなって欲しいね」
「ですね。僕も出来る範囲で協力しますので、頑張りましょう」
「うん、ありがとうね」

「…皆、いらっしゃい。今日は転校生くんちゃん、男の子なんだ」
「あーうん。ほら、カズサ君達と同じ部屋泊まるしね。旅行中はずっと男の子でいるつもり」
「あー、そうだよな。特殊な体質とはいえ一人だけ女性じゃ気まずいもんな」
「転校生くんちゃんも、色々特別な体なのに明るく頑張っていて偉いですよね」
「ありがとう。…でも、てうてうの皆程じゃ無いよ。珍しいとはいえちゃんと認知はされてるしね」
「…そうですね。でも、僕達もだいぶ前に普通になれましたのでもう大丈夫ですよ」

「うん、本当に良かった。…クロ君も本当大変だったけど、最近楽しそうだしさ」
「…ありがとう。…でも、これで本当に良かったのかなって、たまに思う事があるんだ」

「…うん、そう思っちゃうのも分かるけどさ。でも絶対にこれで良かったと思うよ」
「うんうん、絶対正解だって。学園の皆もそう言ってるでしょ?」
「…うん、そうだね。てうてうの人達もそう言ってくれるし」

「ああ、絶対間違いじゃねえって俺達満場一致で言ってるよ」
「ええ、僕も断言などはあまりしたくは無いのですが。こればかりは絶対に間違っていないと思います」
「うん、僕もそう思うよ」
「僕達皆、ずっとそう言って励ましているよ」
「…ありがとう」


そしててうてうの人達はもう少し部屋でゆっくりするとの事だったので、僕達は近隣の海水浴場に行き、更衣室で水着に着替え海水浴を開始した。

「やー、やっぱ久々の海楽しいなー!」
「うん、僕も受験あったしここ1年半くらいは海行けてなかったし楽しいな!」
「ああ、海は良いな」
「僕もやっぱり海好きだな。山も結構好きだけどね」

「あ、転校生くんちゃん達だ。こんにちは」
「あ、幸野君達も来てたんだ。皆水着似合ってるね」
「ありがと。まあ前世思い出した直後は、露出多い服着るのちょっと鬱だったんだけどね。今はもう平気」

「あ、あー確かに。気の毒に」
「うん、もう乗り越えてるから平気だよ。鬱になったらアレな奴らぶった斬って発散してたし」
「う、うわあ」

「で、幸野君達もこの辺の民宿泊まってるんだよね」
「うん。やっぱりこの国だし叔父さん夫妻の知り合いだから若干アレ気味だけど、良い経営者さんだしちゃんとした宿泊施設だよ」
「…うん、やっぱそうなるよね」
「まあ、この国な時点でアレじゃない施設の方が珍しいし今更だよ」
「…そ、そうだね」

「じゃあ人数多いし、皆でビーチバレーでもする?」
「あー、良いね。やろやろ」
「よーし、僕動くの得意だし頑張っちゃうぞー!」
「あー、ゆういちクンもなかなか身体能力高いもんねー」
「僕も、ビンタしまくってるのでボールを打つ力ならそれなりに自信があります」
「…う、うんそうだね」


そうしてビーチバレーやシュノーケリングをしたりして、アレながらも楽しいひと時を過ごした。

一方その頃、てうてう達の泊まっている部屋にて。

「…これは」
「…千里、どうかしたの?」

「…うん、隊長。ここや、皆が危ない」


そしてたっぷり遊び海を満喫し、皆でシャワーを浴び再び着替え、幸野君達と別れ宿に戻った。

「いやー、楽しかったね」
「うん、学園の外で皆とこんなに遊ぶの始めただったし。すごく楽しかった」
「だね。アイドルとしてはライバルだけど、あいつ以外基本皆仲良しだしね。…まあ代行もかなりアレだけどさ」
「あー、確かに。まああの人もなんだかんだで根っからの悪人では無いと思うけどさ」
「まあね。…ほら、うちにはみーないるし俺達もそれ程ひどい事はされないんだよね。前世だけど大変だった幸野君達もだし、ゆういちクンも可哀想だったしさ」

「…うん、そうだよね。それはまだ良かった。…本当は、皆平等に優しくして欲しいんだけどね」
「…そうだね。まあこのアレな国だしあいつ程では無いけど相当にアレな人だし、難しいとは思うけどさ」
「そうだな。…俺も代行の所業を知った時は、狂わせてやろうかと少しばかり思ったが。…やはり、この力を出来る限り使いたくは無かった」
「うん、仕方ないよ。佐紀さんもそう言ってるしね」

「…でさ。千里さんとかてうてうの人達言いはしないけど、代行俺達が知ってる以上にとんでもない事やらかしてるらしいんだよね」
「…そうなんだ。まあ、ああいう人だし何かやってるかもね」

「あーまあ、せっかくの旅先で暗い話するのも何だしさ。今夜暗くなってからまた幸野君達と合流して花火やろうって話になってるじゃん。楽しみだね」
「あ、そうだったね。ここでも出来るとは思うけど、どこか花火して良い場所あるかな」
「あ、うちの旅館の庭先で大型のじゃなければやって良いってさ。今ならコンビニとかでも売ってるだろうし、どこかで調達して行こうよ」
「そうだね。楽しみー」
「うん、この国アレだしそういう系の技術も発展してるから、安全だけど派手な花火とか結構あるもんね」
「ああ、1時間程光り続ける線香花火などもあるしな」


「そういえば、クロ君やてうてうの人達結局海に来なかったね」
「うーん、まあやっぱ特別な身分の人達だし俺達と一緒に遊ぶのもちょっと遠慮しちゃったんじゃないのかな」
「あー、そうかもね」
「…それと、まなとさんは特に海にあまり良い思い出が無いだろうしな」
「…あー、うん。昔そういう事してたもんね」
「…戦時中でそういう力のある人だったとは言え、気の毒だよね」

「…ってまた暗くなるのもアレだしさ。とりあえず皆でお風呂入ってご飯楽しもうよ」
「うん、そうだね。こんな立派なお宿だし料理も美味しいだろうね。楽しみだな」


そうして立派な大浴場に皆でつかり、浴衣に着替えて期待通り豪華な夕食に舌鼓を打ち、約束の時間になったので調達した花火セットを持って皆で庭先に向かった。

「あ、幸野君達来た。こんばんはー」
「こんばんは。転校生くんちゃん達、浴衣も似合うね」
「うん、ありがとねー」
「あー、和風なステージ衣装も良いかもな。今度アレデザイナーさんにお願いしようかな」
「良いと思う。最近活動も順調で資金も貯まってきているしな」
「うん、てうてうの人達結構和風の衣装着るしね。僕も憧れるな」


と、楽しく皆で花火を始めようとしたその時。

突然サイレンが鳴り響き、町の各地に配置されたスピーカーから緊急速報が流れ始めた。

《緊急速報です、緊急速報です。近隣のアレな凶悪犯を収監する刑務所から複数名脱獄した者がいるとの事です。どこからか調達した銃火器で武装しており、刑務所内のヘリや車に乗り込み逃走した者もいるとの情報が入っています。近隣の方々は今すぐ屋内に避難してください。繰り返します》

「…え、嘘。どうしよう」
「…てうてうの人達、大丈夫かな。まああの人達なら凶悪犯数名程度平気だろうけど」

「…幸野クン、何か武器持ってる?一応僕ナイフ何本かはあるけど」
「…うん、えげつない暗器くらいなら。車乗ってたり銃火器で武装してたらまずいかもだけど」
「…僕も、一応小型スタンガン程度なら持っていますが」

「…カズサ、愛に転校生くんちゃん。俺から離れるな」
「…うん。みーな、戦うの嫌いなのにごめんね」
「…こういう時ばかりは、仕方ない」

「…と、とりあえず早く中に入ろうか」


皆で怯えながら宿に入ろうとした、その時。

「…え、嘘あれって」

頭上の山林から、ヘリコプターが現れた。

「…あ、あれってたぶんアレな脱獄囚が乗ってるやつだよね」
「…うん、だろうね。どうしよう」
「…ってえ、中から人出てきて物騒な銃器持ってこっち狙ってる」
「え、えええ。いやどうしよ」
「…あれたぶんロケットランチャーだね。…流石に僕でもアレ直撃したら無理だな」

逃げる間もなく、アレな奴はアレな銃器をこちら目掛けて発射した。

もう一巻の終わりかと思ったその時、僕達の前に一つの影が躍り出た。

「…あー、こんな爆撃喰らうの久々だな。まあこの程度余裕だけど」

「…え、桃太君?」

「あー、千里がここヤバいって予知したから。間に合って良かったよ」
「そ、そうなんだ。助けてくれて本当にありがとう」

「…で、ヘリだから後は頼む。まな兄」
「うん、分かった。…もうこういう使い方はしたく無かったんだけど、皆を守るためなら仕方ないね」

いつの間にか来ていたまなと君が息を吸い、美しい声で歌い始めた。

「…うわ、いつにも増してすごい迫力」
「…これが、まなとさんの本気か」

その歌声が響き渡ると、ヘリのローターや操縦席部分から火花が上がりあっと言う間にヘリは墜落して行った。

「…す、すごい」
「…本当にあらゆる乗り物を落とすんだね。初めて見たけどすごいね」


「…で、旅館は隊長が守ってるから平気として。あと車で逃げてる奴もいるって話だからまだ安心は出来ないな」
「そ、そうだね。その人達もここ来るの?」
「ああ、千里の話だと全員ここを狙って来るらしい」
「そ、そうなの。何でまた」
「まあ、想像は何となくつくが。俺達過去相当やらかしてるし、未だに俺達に恨み持ってる奴らもかなりいるだろうしそういう事だろうな」
「…あー、なるほど」

「そういう訳で、幸野達も武器構えたり、戦えない奴は強い奴から離れないようにしてくれ」
「うん、分かった。桃太さん達いるなら行けると思う」
「だねー。てうてうの人達戦線に出しちゃって申し訳無いけどさ」
「まあ、俺達もこういう状況なら仕方ないし気にすんな」
「そうだね。同じ学び舎に暮らす仲間達を傷つけたくは無いしね」


そして間もなく猛スピードで走って来た車が数台旅館の前に停まり、やはり武装した男達が複数名出て来た。

「あー、予知通りやっぱ来たな。まあ盾役は俺がやるから」
「うん、僕も歌である程度銃弾を逸らせたり出来るからサポートするね」
「あ、ありがとうございます」
「僕もある程度近付いたらナイフぶん投げるねー」
「しんら君も、スタンガン構えて僕から離れないでね」
「ええ、気を付けます」

「…カズサ達も、てうてうの人達がいるとはいえ油断しないでくれ」
「うん、分かった。みーなありがとね」
「みな君、ほんとにありがとう。…また僕達のためにごめんね」
「…ああ、仲間をこれ以上傷つけられたくはないのでな」

そして桃太くんが盾になってくれまなとくんの歌のサポートもあり、幸野君とゆういちクンが的確に近づいてきた男たちを倒してくれた。


「…よし、あらかた倒したかな」
「だねー。ナイフあんま持って無かったから僕もう切れちゃったけど」
「うん、えげつない暗器の毒も切れちゃった」
「…そ、その暗器の毒ほんとにえげつないね」
「うん、強いから使うけどかなり怖いよね」
「だよね。僕も初めて見た時面白かったけど引いた」

とか若干緊張感の無いアレな会話をしていた時。

草むらからショットガンを持った男が飛び出して来て、僕達を狙った。

「…え、嘘」
「…くそ、間に合わねえ」

「…み、みーな」
「…仕方ないが、俺が狂わせる」

その時、旅館から一人の影が飛び出して来て、男に向かって鱗粉を舞わせた。

「…な、何だこれは。…これが狂わせの力か」

「…何もかも許せないはずなのに、すべてどうでも良くなる。…だけどどうして、こんなに悲しいんだ」

それきり、男は膝をつき動かなくなった。


「…皆、大丈夫?」
「…あ、クロ君。うん、僕達は大丈夫。本当にありがとう」
「…そっか、良かった」

「ああ、助けてくれて礼を言う」
「うん、みーなに嫌な事させなくて済んで良かった」

「…この人、たぶん僕と同じ国の人だね。…やっぱり色々あって、僕やてうてうの人達を恨んでたんだろうね」
「…あー、たぶんこの肌の色だしそうだろうね。…クロ君も、嫌な気持ちにさせちゃってごめんね」
「…うん。皆を殺そうとした悪い人だし、こういう時なら仕方無いよ」

「…もう、大丈夫かな」
「あー、千里からLINE入った。もう来ないってさ」
「そっか、それは良かった。皆、助けてくれて本当にありがとう」
「うん、僕も桃太さん達いなかったらかなり危なかった。ありがとうございました」
「だねー。本当ありがとうございましたー」
「ええ、感謝します」

「うん、僕も皆を守れて良かったよ」
「おう、俺もこれ以上良い奴の血が流れるの見たくねえし。じゃあ旅館戻ろうぜ」
「そうだね、あー本当びっくりした」

そうして、僕達は胸をなでおろして旅館に入って行った。


同じ頃、佐紀と千里が待機していた部屋にて。

「…隊長、もう大丈夫。増援は来ないよ」
「…それは良かった。千里、本当にありがとう」

「うん、僕も予知出来て良かった。…おそらく僕達に恨みを持つ、かつての敵国の捕虜たちの子孫だろうね」
「そうだろうね。…でも、アレな国でそういう施設が近いとはいえ、こんなにタイミング良く複数名脱獄囚が出て、真っすぐにここを襲撃するものかな」
「…そうだよね。そんな凶悪犯がいる施設にヘリがあるのもおかしいし。…見えはしないけれど、誰の仕業か想像はつくけどね」
「…うん、そうだね」


「…あのさ隊長。そういうの大嫌いなのは分かっているけど、悪いけどもう一度言うよ」
「…うん」

「…もう一度だけ、嫌な狂わせ方をしても良いんじゃないかな」

「…本当にごめんね、千里。…僕は、どうしようもない意気地なしだから。…どうしても、出来ないんだ」

「…そっか、そうだよね。…あの子にも結局、出来なかったもんね」

「…どうしようも無い意気地なしで、ごめんね」

「…ううん、仕方ないよ。隊長、本当に優しいもんね」

「…こういうのは、本当の優しさとは言えない気がするけどね。…ごめんね」



それから少し後、咲夜が住まう豪邸の咲夜の自室にて。

「…ふうん。てうてうの子やみな君達が宿泊する施設を、近隣からの凶悪な脱獄囚が複数名襲撃したんだ。でも彼等の活躍のお陰で被害者は出なかったみたいで良かったね」
「…そうですね。…あの、代行様」
「ん、何だい振子?」

「…すみませんが、何でそんなアレな奴らが集まる施設にちょうど良くヘリがあったんでしょうかね?あと、確かに仇討ちする時つまんないからって暗黙の了解でそういう施設の近くに武器手に入る所はありますけど。…あそこに収監されてるレベルでアレな奴らには流石にそう簡単に手に入らないようになってるはずですが」
「…そうですね。実際あの施設のそばにはそういうアレな交換所は無いはずでしたし」

「うーん、どうしてだろうねえ?」

「…それに、一般生徒はともかくてうてうの人達がどこに泊まるかとかはやっぱりそうそう情報公開されないはずですが。どうしてあいつら、あんな的確にあの旅館襲撃したんでしょうか」
「…ええ、僕もそれは疑問に思います。やはり敵国からいまだに相当恨まれている方々ですし、そういった情報は厳重に秘匿されているはずですが。…よほどの権力の持ち主か、それか、関係者しか知らないと思います」

「そうだねえ。すごい偶然もあるものだね」


「…代行様。貴方にこういう事を言いたくは無いのですが」
「うん、どうしたのかな?」

「どうして、こんな事をしたのですか」

「…ふふ」
「…代行様?」

「まあほら。やっぱり夏休みだしスペクタクルな特別編とか見たいじゃない♪」
「…」

「…あのー、代行様。僕も代行様にこういう事言いたくは無いけど、流石にこれはやり過ぎだと思います」
「…ええ。流石にこれが明るみになったら、貴方も極刑に処されかねませんよ」

「ごめんね。まあ僕の無慈悲の部分が久しぶりに牙を剥いてね。僕もカズサ君程じゃ無いけど結構破滅的な部分あるしさ」

「…貴方を命と引き換えにこの世に産んだ、お母様の事をお忘れになったのですか」
「…うん、流石の僕もこれは無いと思う。お母様が知ったら泣きますよ」

「…そうだね。ごめんね、もうここまでアレな事はしないよ。…まあほら、最近思い切り天誅を加えてやりたかった例のあの子が結構自爆して来てて、ちょっとつまらなかったからついね」

「…そうですか」
「…うん、あいつが自爆したのは僕も嬉しいけどさ。それとこれとは違うと思いますよ」

「ああ、ちょっと外の空気を吸いに行きたくなったな。じゃあ二人とも、楽にしててね」
「…はい、畏まりました」
「…ええ、行ってらっしゃいませ」


そうして代行様は、静かにアレな強化処置をされたドアを閉め去って行った。

「…ねえ金目。僕代行様の護衛の為に造られた訳で、代行様を否定したら僕の存在意義無くなっちゃうけどさ」
「…ええ、僕も一から造られた訳ではありませんが、それは同じですね」

「…代行様、前にも増してアレになってない?」
「…そうですね、僕もそう感じます」

「…あのさ、やっぱ僕の存在意義否定しちゃうし絶対そんな事出来ないけどさ」
「…ええ」

「…あの人、このまま放置してて大丈夫なの?」
「…僕も、絶対にそのような事は出来ませんが。正直危険だと思います」


「…誰か、あの人止めてくれないかな」
「…それが出来るとしたら、神様くらいしかいないでしょうね」
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