私の双肩にはカミ様がいる~かわいいのにどっちともやべぇのに取り憑かれました~

結紡弥 カタリ

文字の大きさ
上 下
2 / 3

第2話

しおりを挟む
 彼が自宅について早々に、一人の女性がぱたぱたと駆け寄ってくる。

 その慌ただしい様子に雷志は、動じないばかりかむしろ小さな溜息すら吐いて彼女の言葉を受け止めた。


「おかえりなさい雷志先生! 雨に濡れちゃってたりしてませんかぁ? タオルとか一応持ってきましたけどぉ……でも、あれぇ? そんなに濡れてない?」

「……ただいま戻りました。後、シズネさん。私なら大丈夫ですし、後廊下はそんなにバタバタと走らないでください」

「あ、すいません雷志先生ェ。とりあえず濡れてないんでしたらすぐにご飯にできますねぇ。ちゃんと手洗い、うがいをしてからきてくださいねぇ」

「あなたは私の母親でもないでしょうに……まぁ、いいです。とりあえずすぐに向かいます」


 彼女――シズネと別れてからの雷志は、自室にあるベッドにどかりと寝転ぶ傍らで小さく吐息を吐いた。


「やれやれ……彼女、どうしてここから出ていこうとしないんですかねぇ」


 雷志から見て、彼女――草刈シズネはとてもよくできた逸材である。

 評価については自己も含め極めて高く、胸の大きさについては特に一級品だ。

 縦ラインのセーターに丸渕メガネ、栗色の三つ編みが彼女のあどけなさが残る端正な顔立ちをより引き立てる。

 以上から彼女を美人と評価するのは誇張でもなく、事実彼女に声をかける男は極めて多い。

 それをのらりくらりと、時には思わずドン引きしてしまうぐらいの凄烈さをもって拒否している彼女は、何故か雷志の傍から離れようとしなかった。

 とっても優秀な人材なんですが……、と雷志はうんうんと唸る。


「――、はい雷志先生ェ。今日もシズネ、がんばってご飯作っちゃいましたぁ!」


 雷志が茶の前向かうと、丸机には所狭しと料理がずらりと並び彼の来訪を温かく出迎えた。

 料理は色とりどりで、その鮮やかさはもちろん匂いも食欲を大いにそそらせるものばかり。

 一言でどれもおいしそうに尽きる料理を目前に、さしもの雷志も感嘆の息をついもらしてしまう。


「相変わらず、シズネさんは料理が上手ですね」

「えへへ~数少ないシズネの特技ですからぁ」

「いやいや、そんなに謙遜する必要はありませんよ。事実、シズネさんの料理にはいつも感謝していますからね」

「雷志先生にそう言ってもらえるとがんばって作った甲斐がありましたぁ」

「……本当に、どうしてシズネさんは私のところにきたんですか? 君ほどの有能さなら、ここでなくてももっと他所でも活躍できたでしょうに」


 シズネが優秀であることは、雷志は一番よく理解している。

 この自負があるからこそ、彼はいつもシズネが我が家にやってきた理由について沈思していた。

 二人が出会ったのは、今より約二年まえのこと。


『シズネをここで助手として雇ってくれませんかぁ――?』


 いつもとなんら変わり映えしない、そう思っていた矢先にそれはひょっこりと現れた。


 あまりにも突拍子もなく、そして弟子やアシスタントといった類の人員を募集していない雷志にとって、シズネはあまりにも異質すぎる存在だった。

 むろん当初こそ断った雷志だったが勝手に転がり込んだ挙句、頼んでもいないのに家事をこなされて、その結果――なし崩し的にアシスタントとして雇う羽目になったのが、事の顛末であった。

 シズネのことを何も知らない輩からすれば、さぞおっとりとした女性として映ったに違いあるまい。

 言動に機敏性はなく、人によっては彼女のそんな性格に苛立ちを憶える輩も少なからずいよう。

 だが実際は、彼女ほど有能な人材を雷志は知らない。

 優秀であるからこそ、何故自分のところにやってきたかが、雷志は未だにわからなかった。


「――、そういえばぁ雷志先生?」

「どうかしましたか?」


 食事中、ふと口火を切ったシズネに雷志は視線をやった。


「さっきお電話があってぇ、雷志先生に是非お願いしたい依頼があるって言っておられましたよぉ」

「……はぁ、またですか。ウチはそういうの本業としていないし、副業ですらもないって……何度もそう宣伝してるのに、なんでこうもくるのやら」

「う~ん、それはぁ……先生だからじゃないですかぁ?」

「いやそれ、答えになっていませんよ?」

「でもでもぉ、実際雷志先生ってそう言ってても全部解決しちゃうじゃないですかぁ」

「……それもたまたまなんですが」


 依頼という言葉が出た途端、雷志はあからさまに嫌悪感をその顔に示した。

 いい加減、理解してもらいたい。雷志がこう思うのは、周囲が彼の本業について多大な勘違いをしているからに他ならなかった。

 雷志の職業は作家である。

 作家と一言にいっても、その知名度については中の中といったところ。

 つまりは良くも悪くも至って普通で、超売れっ子作家と比較すれば印税は別段そこまで多くない。

 一応、日常生活に支障が出ることなく生活はできているので雷志としては特に仔細はない。

 とにもかくにも、作家ということを忘れて違う依頼を持ち込む輩が近年で一気に上昇したことが、雷志のここ最近の悩みだった。

 どうしてこうなった……? すこぶる本気でそう思う雷志だが、心当たりがまったくないわけではない。

 むしろその心当たりを作ったのは他の誰でもない、己自身である。

 それを重々理解しているだけに、雷志も一概に周囲が悪いとは言えなかった。

 それはさておき。


「それで、電話の相手はどんな方だったんですか?」

「えっとぉ……たしかぁ、隣町に住んでる山岡さんって方でしたぁ。今すぐにでも雷志先生にお願いしたいってぇ」

「……はぁ。とりあえず、話だけでも聞いてみますか」

「そうしましょうよぉ。もしかしたら先生のネタになるかもしれませんしぃ」

「正直にいって、もう怪談系は遠慮したいところなんですけどね……」


 終始のんびりとした口調のシズネに、雷志は力なく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...