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第三章:再会
第22話:記念すべき初配信!
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本日の天候は、あいにくの曇り空。
どんよりとした鉛色の雲からは今にも一雨きそうな雰囲気をひしひしとかもし出す。
今日は日曜日と、大抵の者であればやっとの休日だ。
休日だからのんびりと身体を休めるもよし、または遊んで心をリフレッシュするもよし。
各々自由気ままにすごす貴重な時間であるのだが、状況一つでせっかくの休みも台無しになりかねない。
その一つの要因が、正しく天候にあった。
ざぁざぁと雨が降りしきる中をあえて外に出て遊びたい、と思う輩は早々おるまい。
雨が降らぬことを切に祈りながら、雷志の意識はダンジョンのみに向いていた。
ぽっかりと開いた出入り口は、今か今かと獲物が訪れるのを静かに待っている。
「――、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
ミノルには、黙したままジッとダンジョンを見やる雷志が不安を憶えていると錯覚したらしい。
むろんこれは彼女の勘違いでしかないく、表面上こそ冷静さを装う雷志だがその心はいつになく激しく昂っていた。
「いや、今日から雷志さんの初配信になるわけですけど……緊張しているかなぁって」
「緊張は……まぁ、違う意味では確かにしてるかもだな」
【オウカレイメイプロダクション】への所属が決まったものの、立ち位置はあくまでも研修生である。
そしてその研修さえ終われば、後は自由気ままにやれる。
雷志が立てたこの計画は、竜峰カリンによってすべて水泡に帰した。
二つ返事で承諾した契約書には、最低でも一年間は専属K-tuberとして活動することが書かれており、今の時代にとって契約書とは絶大な効力を発揮する。
気が付いた時には後の祭りで、一度交わした以上取り消すことが難しいのは彼の時代でもなんら変わらない。
もしもここで相手を斬ろうものならば、即刻打ち首に処されるのは明白だ。
現代においても刑罰が厳しいのは不動たるものとしてある。
悪いのはきちんと書類に目を通さなかった己が悪い、と雷志も素直に認めて従わざるを得なかった。
とは言え、これが一生によるものでないのがせめてもの救いだ。
同時にカリンが、他の悪徳業者とは異なる存在であるという証拠でもある。
一生でないだけまだマシか、と雷志は小さな溜息をそっと吐いた。
余談ではあるが、今回のこの決定に強く異議申し立てをした人物がいる。
その人物が果たして何者であるかは、あえて語る必要もあるまい。
再び取っ組み合いの喧嘩をした挙句、器物破損などなど余罪をたっぷりと作った両者は現在、留置所にて反省を促されている。
片や一企業の代表取締役で、片や国の未来と責務をその背に負う帝だ。
一般人であればともかく、どちらとも共に極めて重役でありながら此度の不祥事にさしもの雷志も呆れざるを得ない。
恐るべきは、このアシハラノクニに住まう者にとって二人がこうして留置所にいられらるのはそう珍しくないこと。
さも平然とこう言及する民衆の感覚には、さしもの雷志も思わず正気を疑ってしまった。
それはさておき。
「そう言えば雷志さん。また別の企業からオファーがきたんでしたっけ? 社長がぼやいてましたけど……」
「ん? あぁ、まぁ……そうらしいな」
「本当にすごい大人気ですよねぇ、雷志さん」
「俺からすれば、どうしてこうなったかがさっぱりだけどな……」
「あはは……まぁ、確かにそうかもしれないですよねぇ」
和泉雷志の存在が世間に露見されてから早数日。
今や彼という男は、アシハラノクニ全土を巻き込むほどの大注目を浴びている。
それはすなわち、雷志を手元におけば絶大的な宣伝効果が得られるからに他ならない。
すでに数多くの企業が動き出し、水面下では激しい取り合いが繰り広げられている。
むろん雷志は、よもや自分ごときのためにそのようなことが起きているとは露にも知らない。
「――、それじゃあそろそろ時間ですし、はじめましょうか」
「あぁ……えっと、確かこれを、こうすればいいんだっけか?」
「あ、そうですそうです。後は勝手に腕に付けた端末と同期されますから、特に難しい操作はいりませんよ」
「まったく……お前ら“けぇちゅうばぁ”っていうのは、いっつもこんなごちゃごちゃとしたものをつけてるんだな。戦いにくいったらありゃしないぞ」
「最初は慣れませんでしたけど、でもやっていく内にすっかり慣れちゃいましたね」
「結局は場数を踏んで慣れろってことか……」
「そういうことですね――あ、雷志さん。始まりますよ!」
「はぁ……気は進まないが、やるだけやるか」
雷志が実際に研修した期間が、実は他と比較しても極めて少ない。
むろん研修内容は企業によって千差万別だ。
唯一の共通点は、徹底した実戦を想定した訓練を行うこと。
ダンジョン配信がいかに危険であるか、それを十分踏まえつつ実戦に挑む。
人も神も、経験しなければ何も学べない生き物なのだ。
そう言った意味では雷志にその訓練はまったく必要ない。
禍鬼以前から彼は数多くの猛者と相対している。
経験だけであればこの世界の誰よりも遥かに多いと断言できよう。
ならば実際、雷志が受けた研修とはなにか――それは座学であった。
要するに、配神者としての心得を雷志は徹底して教育されたのである。
数百年前の知識に、現在に至るまでの最新情報をすべて余すことなくアップロードする。
戦いよりもずっと苦戦した、と雷志は内心で苦笑いを浮かべた。
「――、あーあー。ちゃんと声と映像が入っているのかこれで」
「はい、大丈夫そうですよ」
「そうか――ならさっさと始めるか。今日から“おうかれいめいぷろだくしょん”で世話になることになった、和泉雷志だ。すでに俺のことは“ねっと”とやらで知れ渡ってるだろうからここではあえて割愛する。それで今日は――」
「はい! こんみの~! 今日からなんと先輩になりました、桜木ミノルです! 今日は雷志さんといっしょにコラボダンジョン配信をやっていきたいと思います!」
「まぁ、お前なら俺も安心して任せられるからな」
雷志はふと、コメント欄を確認する。
相変わらずどういった仕組みがわからん、と雷志はすこぶる本気でそう思った。
『コラボ配信きたー!!』
『ライ様……やっぱりとってもお麗しゅうございます(TдT)』
『ところで、パンツの色は何色なん? それが重要だ』
『ライ様ぁぁぁぁぁぁぁ!! がんどうじだぁぁぁぁぁぁぁ!』
「――、えっと……」
ふと視線をやった途端、さながら大瀑布よろしく勢いよく流れるコメントに雷志はひくり、と頬の筋肉を釣りあげる。
「いくらなんでも……コメントきすぎやしないか?」
「それだけ雷志さんの配信を楽しみにしていたってことですよ」
「はぁ、そんなもんなのか……よくわからないが、まぁ退屈させないようにだけは心得よう。それで、今回の場所なんだが――」
ちらりと横目にやった雷志の笑みは、明らかに何か含みがある。
それはミノルも瞬時に察して、不可思議そうな顔を彼へと向けた。
現在、二人がいる場所はコンクリートジャングルであった町中から離れた竹林の中である。
天まで届きそうな勢いでまっすぐの伸びた竹がずらりと並ぶ林道は圧巻で、遠方からの旅行客にはちょっとした人気あるスポットとして有名だ。
さらさらと草木が擦れる音色はこの曇天だ、本来なら心地良く感じようそれも今はどこか不気味な雰囲気をかもし出す。
それと同時にここは、雷志にとっては馴染み深い場所でもあった。
数百年という歳月が経過したことで、かつての風景と完璧に合致はしていない。
それでも、馴染み深い場所であるからこそ決して見間違えない。
よもや再びここへ訪れる日がくるとは、と雷志は内心で自嘲気味に小さく笑った。
今や人気の観光スポットとして知られているが、果たしてどれだけ事実を知っているだろう。
雷志はミノルに、ふと問いかける。
「なぁミノル。ここってどんな場所か知ってるか?」
「え? ここは、人気の観光スポットです……よね?」
「今はな。だが、当時はどういう場所って言うのは知ってるか?」
「えっと……すいません、よくわからないです。隕石が衝突してから、当時の文献や建物も失われてしまったので、実は謎な部分が結構多いんですよ。そう言う意味でも雷志さんは、生き証人でもあるんですよ?」
「俺が知ってるのは、あくまで俺が知ってることだけだよ――ここはその昔、大量虐殺があった場所だ」
驚くミノルを他所に、雷志はそっと口火を切った。
どんよりとした鉛色の雲からは今にも一雨きそうな雰囲気をひしひしとかもし出す。
今日は日曜日と、大抵の者であればやっとの休日だ。
休日だからのんびりと身体を休めるもよし、または遊んで心をリフレッシュするもよし。
各々自由気ままにすごす貴重な時間であるのだが、状況一つでせっかくの休みも台無しになりかねない。
その一つの要因が、正しく天候にあった。
ざぁざぁと雨が降りしきる中をあえて外に出て遊びたい、と思う輩は早々おるまい。
雨が降らぬことを切に祈りながら、雷志の意識はダンジョンのみに向いていた。
ぽっかりと開いた出入り口は、今か今かと獲物が訪れるのを静かに待っている。
「――、大丈夫ですか?」
「何がだ?」
ミノルには、黙したままジッとダンジョンを見やる雷志が不安を憶えていると錯覚したらしい。
むろんこれは彼女の勘違いでしかないく、表面上こそ冷静さを装う雷志だがその心はいつになく激しく昂っていた。
「いや、今日から雷志さんの初配信になるわけですけど……緊張しているかなぁって」
「緊張は……まぁ、違う意味では確かにしてるかもだな」
【オウカレイメイプロダクション】への所属が決まったものの、立ち位置はあくまでも研修生である。
そしてその研修さえ終われば、後は自由気ままにやれる。
雷志が立てたこの計画は、竜峰カリンによってすべて水泡に帰した。
二つ返事で承諾した契約書には、最低でも一年間は専属K-tuberとして活動することが書かれており、今の時代にとって契約書とは絶大な効力を発揮する。
気が付いた時には後の祭りで、一度交わした以上取り消すことが難しいのは彼の時代でもなんら変わらない。
もしもここで相手を斬ろうものならば、即刻打ち首に処されるのは明白だ。
現代においても刑罰が厳しいのは不動たるものとしてある。
悪いのはきちんと書類に目を通さなかった己が悪い、と雷志も素直に認めて従わざるを得なかった。
とは言え、これが一生によるものでないのがせめてもの救いだ。
同時にカリンが、他の悪徳業者とは異なる存在であるという証拠でもある。
一生でないだけまだマシか、と雷志は小さな溜息をそっと吐いた。
余談ではあるが、今回のこの決定に強く異議申し立てをした人物がいる。
その人物が果たして何者であるかは、あえて語る必要もあるまい。
再び取っ組み合いの喧嘩をした挙句、器物破損などなど余罪をたっぷりと作った両者は現在、留置所にて反省を促されている。
片や一企業の代表取締役で、片や国の未来と責務をその背に負う帝だ。
一般人であればともかく、どちらとも共に極めて重役でありながら此度の不祥事にさしもの雷志も呆れざるを得ない。
恐るべきは、このアシハラノクニに住まう者にとって二人がこうして留置所にいられらるのはそう珍しくないこと。
さも平然とこう言及する民衆の感覚には、さしもの雷志も思わず正気を疑ってしまった。
それはさておき。
「そう言えば雷志さん。また別の企業からオファーがきたんでしたっけ? 社長がぼやいてましたけど……」
「ん? あぁ、まぁ……そうらしいな」
「本当にすごい大人気ですよねぇ、雷志さん」
「俺からすれば、どうしてこうなったかがさっぱりだけどな……」
「あはは……まぁ、確かにそうかもしれないですよねぇ」
和泉雷志の存在が世間に露見されてから早数日。
今や彼という男は、アシハラノクニ全土を巻き込むほどの大注目を浴びている。
それはすなわち、雷志を手元におけば絶大的な宣伝効果が得られるからに他ならない。
すでに数多くの企業が動き出し、水面下では激しい取り合いが繰り広げられている。
むろん雷志は、よもや自分ごときのためにそのようなことが起きているとは露にも知らない。
「――、それじゃあそろそろ時間ですし、はじめましょうか」
「あぁ……えっと、確かこれを、こうすればいいんだっけか?」
「あ、そうですそうです。後は勝手に腕に付けた端末と同期されますから、特に難しい操作はいりませんよ」
「まったく……お前ら“けぇちゅうばぁ”っていうのは、いっつもこんなごちゃごちゃとしたものをつけてるんだな。戦いにくいったらありゃしないぞ」
「最初は慣れませんでしたけど、でもやっていく内にすっかり慣れちゃいましたね」
「結局は場数を踏んで慣れろってことか……」
「そういうことですね――あ、雷志さん。始まりますよ!」
「はぁ……気は進まないが、やるだけやるか」
雷志が実際に研修した期間が、実は他と比較しても極めて少ない。
むろん研修内容は企業によって千差万別だ。
唯一の共通点は、徹底した実戦を想定した訓練を行うこと。
ダンジョン配信がいかに危険であるか、それを十分踏まえつつ実戦に挑む。
人も神も、経験しなければ何も学べない生き物なのだ。
そう言った意味では雷志にその訓練はまったく必要ない。
禍鬼以前から彼は数多くの猛者と相対している。
経験だけであればこの世界の誰よりも遥かに多いと断言できよう。
ならば実際、雷志が受けた研修とはなにか――それは座学であった。
要するに、配神者としての心得を雷志は徹底して教育されたのである。
数百年前の知識に、現在に至るまでの最新情報をすべて余すことなくアップロードする。
戦いよりもずっと苦戦した、と雷志は内心で苦笑いを浮かべた。
「――、あーあー。ちゃんと声と映像が入っているのかこれで」
「はい、大丈夫そうですよ」
「そうか――ならさっさと始めるか。今日から“おうかれいめいぷろだくしょん”で世話になることになった、和泉雷志だ。すでに俺のことは“ねっと”とやらで知れ渡ってるだろうからここではあえて割愛する。それで今日は――」
「はい! こんみの~! 今日からなんと先輩になりました、桜木ミノルです! 今日は雷志さんといっしょにコラボダンジョン配信をやっていきたいと思います!」
「まぁ、お前なら俺も安心して任せられるからな」
雷志はふと、コメント欄を確認する。
相変わらずどういった仕組みがわからん、と雷志はすこぶる本気でそう思った。
『コラボ配信きたー!!』
『ライ様……やっぱりとってもお麗しゅうございます(TдT)』
『ところで、パンツの色は何色なん? それが重要だ』
『ライ様ぁぁぁぁぁぁぁ!! がんどうじだぁぁぁぁぁぁぁ!』
「――、えっと……」
ふと視線をやった途端、さながら大瀑布よろしく勢いよく流れるコメントに雷志はひくり、と頬の筋肉を釣りあげる。
「いくらなんでも……コメントきすぎやしないか?」
「それだけ雷志さんの配信を楽しみにしていたってことですよ」
「はぁ、そんなもんなのか……よくわからないが、まぁ退屈させないようにだけは心得よう。それで、今回の場所なんだが――」
ちらりと横目にやった雷志の笑みは、明らかに何か含みがある。
それはミノルも瞬時に察して、不可思議そうな顔を彼へと向けた。
現在、二人がいる場所はコンクリートジャングルであった町中から離れた竹林の中である。
天まで届きそうな勢いでまっすぐの伸びた竹がずらりと並ぶ林道は圧巻で、遠方からの旅行客にはちょっとした人気あるスポットとして有名だ。
さらさらと草木が擦れる音色はこの曇天だ、本来なら心地良く感じようそれも今はどこか不気味な雰囲気をかもし出す。
それと同時にここは、雷志にとっては馴染み深い場所でもあった。
数百年という歳月が経過したことで、かつての風景と完璧に合致はしていない。
それでも、馴染み深い場所であるからこそ決して見間違えない。
よもや再びここへ訪れる日がくるとは、と雷志は内心で自嘲気味に小さく笑った。
今や人気の観光スポットとして知られているが、果たしてどれだけ事実を知っているだろう。
雷志はミノルに、ふと問いかける。
「なぁミノル。ここってどんな場所か知ってるか?」
「え? ここは、人気の観光スポットです……よね?」
「今はな。だが、当時はどういう場所って言うのは知ってるか?」
「えっと……すいません、よくわからないです。隕石が衝突してから、当時の文献や建物も失われてしまったので、実は謎な部分が結構多いんですよ。そう言う意味でも雷志さんは、生き証人でもあるんですよ?」
「俺が知ってるのは、あくまで俺が知ってることだけだよ――ここはその昔、大量虐殺があった場所だ」
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