深層世界の剣聖による配信無双~いつの間にか数百年も経過した世界で唯一の男の娘系配信者となりました~

結紡弥 カタリ

文字の大きさ
上 下
13 / 30
第二章:アシハラノクニ

第12話:思考回路はショートしそうです…

しおりを挟む
 果たして、驚愕は後どのぐらい続くのだろう。

 心の片隅にてそう思いながら雷志はベッドに身を投じた。


「今日は本気で疲れたな……」


 いつ以来だろうか。雷志は、そう自問する。

 彼がこれまでに経験した修練は、すべてが度外視に値するものばかりであった。

 実家の剣術――天念理神流てんねんりしんりゅうは田舎剣術でその知名度はほぼ皆無に等しい。

 よって門下生は自然と近所の者だけで構成されて、遠路はるばる入門しにやってきた門下生はたったの3名だった。

 そんな門下生も過酷極まりない修練から逃げて、最後に家を出た時はわずか10名程度しかいなかったのを雷志は昨日のことのように鮮明に記憶している。

 それほどの地獄を体験してきたはずが、膨大な知識の前に成す術なく倒れている。

 人生初のベッドは、とても柔らかくそれさえも驚愕するに値した。

 ダンジョンうんぬんよりも先に頭がおかしくなりそうだ、と雷志は自嘲気味に小さく笑った。

 不意に玄関の方で、扉の開閉音が鳴った。

 おずおずとやってきた侵入者を、雷志は気怠そうに横目をやる。

 はたと視線が重なると、苦笑いと共にその侵入者は小さく会釈した。

 侵入者を目前にして彼の態度は不用心極まりないが、敵意内ものまで気を張る必要はまったくない。

 ましてやそれが隣室の住人であれば尚更のこと。

 むしろここで雷志がやるべきは、すべてにおいて先輩である彼女に敬意を払うことである。

 それさえもできないぐらい、雷志はとにもかくにも疲弊しているのであった。


「――、雷志さん大丈夫ですか?」

「あぁ……ミノルか。さすがに今日はドッと疲れた」

「まぁ、そうですよね。雷志さんからすれば本当に訳もわからないことばかりですし……私だったら、気が狂っちゃいますよ」

「まるで神隠しにでもあった気分だ。本当にここは、俺が知っている日ノ本なのかってな……」

「……私達も、できる限りのサポートはさせていただきます。だからどうか、気を確かに持ってくださいね」

「……なぁミノルよ。お前は、どうして俺にそこまでしてくれるんだ?」

「え?」

「だってそうだろ。いくらあの“だんじょん”で出会ったからといっても、それだけの関係だ。隣室に住んでるからって言っても、そこまで世話を焼く義務も責務もお前にはないだろ」


 以前より思っていた疑問を、雷志はここで遠慮なくぶつけることにした。

 二人の間柄は決して親しい友人や戦友、と呼べるほど親密なものではない。

 今日出会ったばかりで、たまたま行動を共にしただけ。

 命令であれば納得のしようもあるが、雷志が見た限りではサクヤよりそうした命令は彼女に与えられていない。

 以上からミノルの厚意であるのは他ならず、雷志はそれが不思議で仕方がなかった。

 だが、拒む道理もないしむしろ知っている相手とだけあって、彼にとってもまだ対応しやすいという利点もある。


「それは、その……なんとなく、放っておけないって思っちゃって」

「……なんとなく、か」

「あの、ご迷惑でしたか?」

「いやいや、まさか。その逆でとても助かってる。お前がいなかったらって思うと、ちょっとゾッとするな」

「それに、私は雷志さんに一本負けてますからね。その雪辱を晴らして預けた呪物をもらうっていう大事な約束もそましたから」

「……そう言えばそうだったな。まぁいつでもまた相手してやるよ」

「はい! 遠慮なくぶつからせてもらいます!」

「――、しかし、やることが多すぎていい加減頭が痛くなってきたぞ……」


 雷志はもとより、あまり勉学が好きな方ではない。

 できないのではなくて、あくまでも勉学が嫌いというだけであり、実際の彼はかなりできる側に部類される。

 大人になってからも彼の勉学嫌いが解消されることはなく、むしろ逆に拍車がかたったと言っても過言ではなかった。

 山田浅右衛門やまだあさえもんというステータスのせいで、周囲からは恨み疎まれてきた雷志も、これだけに関しては数多くの支持を集めていた。

 もちろん、その支持者はみな等しく幼子ばかりであるが。


 ――もう、勉学に勤しむ必要はないと思っていたのに……。
 ――まさかこの歳になって、また勉学に勤しむことになるなんてなぁ……。
 ――それに、なんなんだこの南蛮語の多さは。
 ――これを日常的に使っているのか? 今の時代のやつらは。
 ――どうやったらそんないくつもの単語を憶えられるんだよ……。


 歴史一つにしても、必ずといっていいほど横文字が文章の中に用いられる。

 雷志がもっとも苦戦を強いられる要因は、この横文字にあった。

 日常的に用いれるようになるまでは、まだまだかなりの時間を要するのは明白だ。

 果たしてこれらを完璧に使いこなすまでに生きていられるだろうか、と雷志はうんうんと唸った。

 まずは現代の知識をしっかりと修得しマスターすること。

 それがアシハラノクニを統べる帝こと、サクヤからの命令であると同時に彼がダンジョンへ挑むための条件でもあった。


「まったく……どうして勉学なんていう面倒な条件を押し付けてきたんだよ、あの狐娘な神様は」

「あはは……でも、こればかりは仕方ないと思いますよ? 仮にダンジョンへ挑まないにせよ、日常生活を送っていく中でも知識は必要不可欠ですから」

「それは言われなくたってわかる。しかしだな、もうやらなくていいと思った勉強を再びやれってなると、これがなかなか萎えるぞ?」

「う、う~ん……ま、まぁ私も勉強は嫌いだからその気持ちはよくわかりますよ」

「はぁ……誰だよこんなに南蛮語を持ってきた奴は。元山田浅右衛門として首切ってもいいか?」

「それは絶対に駄目ですからね!?」

「冗談に決まってるだろ……」

「全然冗談に聞こえなかったんですけど……って、そろそろ配信しないと! それじゃあ雷志さん、おやすみなさい!」

「あぁ、またなミノル。お前もちゃんと身体を休めろよ」


 パタパタと慌ただしく出ていくミノルの背を見送って、雷志はのそりとベッドから起きた。疲労によって身体はさながら、鉛のようにずしりと重たい。

 瞳を閉じれば、そのまま意識は深淵の闇へと落ちよう。

 にも関わらず雷志があえて起きることを選択したのは――なんとなく、と。

 実に曖昧すぎる理由によるものだった。

 早く寝てしまえばよいものを、雷志はのそのそと部屋を後にする。

 重い足取りで彼が赴いたそこは、このマンションの屋上だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

底辺ダンチューバーさん、お嬢様系アイドル配信者を助けたら大バズりしてしまう ~人類未踏の最難関ダンジョンも楽々攻略しちゃいます〜

サイダーボウイ
ファンタジー
日常にダンジョンが溶け込んで15年。 冥層を目指すガチ勢は消え去り、浅層階を周回しながらスパチャで小銭を稼ぐダンチューバーがトレンドとなった現在。 ひとりの新人配信者が注目されつつあった。

処理中です...