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第一章:流刑人
第6話:ダンジョンの醍醐味
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雷志の現在の心境を言葉にするならば、驚愕の二字が何よりも相応しかろう。
雷志が洞窟に身を投じてから、およそ一カ月しか経っていない。
だがそれは、彼の大きな勘違いであり現実はすでに数百年もの歳月が経過していた。
無人島であるが故に外の世界がどのようになっているかなど、雷志には確かめる術がない。
だからこそ、唯一の情報源であるミノルの話にさしもの雷志も当初はまるで信じていなかった。
いきなり数百年の時が経っていた、などと言われたところで果たして誰がすんなりとその事実を受け入れられよう。
できるわけがない。未だ驚愕の渦中にある雷志だが、その目に迷いはない。
次に己は何をすべきか。とうにそれは彼の胸中では定まっていた。
「――、外の世界は今はどんな風になってるんだ……?」
「え?」
「数百年もの時が経過してるんだろう? だったら、どんな風になってるのかを俺は見てみたい」
いい加減ここにも飽きてきたところだしな、と雷志は頬を掻いた。
――ミノルが言うには、こんな“だんじょん”と呼ばれる場所が他にもたくさんあるらしいじゃないか。
――だったら、ここなんかよりももっと強い奴が……禍鬼とやらもきっといるはず。
――どれだけ強いのか試してみたい……!
――そうと決まったら、いつまでもこんな場所にはいてられないよな。
雷志は生き生きとした顔で再びミノルに口火を切る。
「それで。この島から出る手立てはもちろんあるんだよな?」
「あ、はい。それなら問題ない……です」
「よし! それじゃあさっさとこの島から出るとするか。いい加減飽きてきたところだし」
「あ、あの……!」
「ん? どうかしたのか?」
「その、雷志……さんはこのダンジョンの奥まで行ったんですよね?」
「え? あぁ、まぁな」
「そ、そこまで案内してもらうことって可能ですか!?」
「それは構わないが……奥に行ったって特に何もないぞ?」
訝し気に問うた雷志だが、ミノルの目は真剣そのものである。
本当に何もないんだがな、と雷志は頬を掻いた。
ダンジョンの最奥は、無人島内にあるにも関わらず人の手が施されたかのような造形であった。
鋭角かつ複雑な造形に周囲の紫水晶が照らす光景は、ある種幻想的な雰囲気をかもし出す。
それはどこか神聖さもあり、同時に禍々しくもある。
だからこそ、当初の雷志はここが鬼ヶ島ではないかと真剣に疑った。
「ほら、着いたぞ。ここがこの洞窟……“だんじょん”って言うんだったか? の奥だ」
「ここが……! えっと、皆見えてるかな? ちょっと予想外だけど今私はダンジョンの奥にいます……!」
「……さっきからお前は誰に向かって話してるんだ? まさか、幽霊の類じゃないよな?」
「あ~それについては後でちゃんと説明します。とりあえず今は実況配信中なので」
「よくわからん……」
いまいちミノルの言葉の意味についてさっぱりわからない雷志は、はて、と小首をひねる他なかった。
それはさておき。
相変わらずここには何もないな、と雷志は周囲を一瞥する。
もちろん、最初から何もいなかったわけではない。
かつてこの最奥には禍鬼の首領がいた。
後生大事に日本刀を守るそれはいわば、宝を守護する番人のよう。
三日三晩に渡り死闘を演じてついに勝利を我が物とした雷志だったが、宝は今も台座にて静かに鎮座したままである。
彼の趣味の一つとして、刀剣蒐集がある。
日本刀の最大の魅力は折れず、曲がらず、それでいて大変よく斬れる。
この三代名詞から日本刀がいかに優れた武具であるかを物語っているが、時に一級の芸術品としても扱われる。
実際、南蛮との貿易が盛んであった頃は一番人気があった。
他国に日本の技術が渡ることを、雷志はあまり快く思っていない。
しかし、それほどの人気を誇る日本刀の魅力を再確認できた。
そうした意味合いも含めて、日本刀にはとにもかくにも雷志は目がない。
ならば何故、ダンジョンの最奥に眠るそれには一切触れようとしなかったのか。
答えは――。
「この刀は……」
「あぁ、それは前に俺が斬った禍鬼の大将が守っていたものだな。俺には必要ないから放置してた」
「え!? でもこれ、特級呪物ですよ!?」
「特級呪物? なんだそれは」
「特級呪物っていうのは、一定の禍鬼から流出した荒魂が集合しそれが具象化したものです。わかりやすく例えると……灰汁の塊みたいな?」
「それはなんか嫌だな……」
「あ、あくまでも例えですから! ってコメント欄もいちいちツッコミ入れないで! えっと、とにかく特級呪物にも色々とあるんですけど、一様に言えるのはどれもとんでもない力を秘めているってことです」
「ふーん……でも、俺には興味ないな。それ、欲しかったらお前が持って行っていいんじゃないか?」
「えっ!?」
「俺はいらないからな。そいつは、俺が振るうのに相応しくない」
そう言って、雷志は鎮座したそれを手に取ると静かに抜き放つ。
すらり、と音を立てて露わとなる刀身は――刀本来の輝きは皆無で、あるのは禍々しさのみ。
紫に発光する刀身は、刀本来の性能が一切なかった。
雷志が洞窟に身を投じてから、およそ一カ月しか経っていない。
だがそれは、彼の大きな勘違いであり現実はすでに数百年もの歳月が経過していた。
無人島であるが故に外の世界がどのようになっているかなど、雷志には確かめる術がない。
だからこそ、唯一の情報源であるミノルの話にさしもの雷志も当初はまるで信じていなかった。
いきなり数百年の時が経っていた、などと言われたところで果たして誰がすんなりとその事実を受け入れられよう。
できるわけがない。未だ驚愕の渦中にある雷志だが、その目に迷いはない。
次に己は何をすべきか。とうにそれは彼の胸中では定まっていた。
「――、外の世界は今はどんな風になってるんだ……?」
「え?」
「数百年もの時が経過してるんだろう? だったら、どんな風になってるのかを俺は見てみたい」
いい加減ここにも飽きてきたところだしな、と雷志は頬を掻いた。
――ミノルが言うには、こんな“だんじょん”と呼ばれる場所が他にもたくさんあるらしいじゃないか。
――だったら、ここなんかよりももっと強い奴が……禍鬼とやらもきっといるはず。
――どれだけ強いのか試してみたい……!
――そうと決まったら、いつまでもこんな場所にはいてられないよな。
雷志は生き生きとした顔で再びミノルに口火を切る。
「それで。この島から出る手立てはもちろんあるんだよな?」
「あ、はい。それなら問題ない……です」
「よし! それじゃあさっさとこの島から出るとするか。いい加減飽きてきたところだし」
「あ、あの……!」
「ん? どうかしたのか?」
「その、雷志……さんはこのダンジョンの奥まで行ったんですよね?」
「え? あぁ、まぁな」
「そ、そこまで案内してもらうことって可能ですか!?」
「それは構わないが……奥に行ったって特に何もないぞ?」
訝し気に問うた雷志だが、ミノルの目は真剣そのものである。
本当に何もないんだがな、と雷志は頬を掻いた。
ダンジョンの最奥は、無人島内にあるにも関わらず人の手が施されたかのような造形であった。
鋭角かつ複雑な造形に周囲の紫水晶が照らす光景は、ある種幻想的な雰囲気をかもし出す。
それはどこか神聖さもあり、同時に禍々しくもある。
だからこそ、当初の雷志はここが鬼ヶ島ではないかと真剣に疑った。
「ほら、着いたぞ。ここがこの洞窟……“だんじょん”って言うんだったか? の奥だ」
「ここが……! えっと、皆見えてるかな? ちょっと予想外だけど今私はダンジョンの奥にいます……!」
「……さっきからお前は誰に向かって話してるんだ? まさか、幽霊の類じゃないよな?」
「あ~それについては後でちゃんと説明します。とりあえず今は実況配信中なので」
「よくわからん……」
いまいちミノルの言葉の意味についてさっぱりわからない雷志は、はて、と小首をひねる他なかった。
それはさておき。
相変わらずここには何もないな、と雷志は周囲を一瞥する。
もちろん、最初から何もいなかったわけではない。
かつてこの最奥には禍鬼の首領がいた。
後生大事に日本刀を守るそれはいわば、宝を守護する番人のよう。
三日三晩に渡り死闘を演じてついに勝利を我が物とした雷志だったが、宝は今も台座にて静かに鎮座したままである。
彼の趣味の一つとして、刀剣蒐集がある。
日本刀の最大の魅力は折れず、曲がらず、それでいて大変よく斬れる。
この三代名詞から日本刀がいかに優れた武具であるかを物語っているが、時に一級の芸術品としても扱われる。
実際、南蛮との貿易が盛んであった頃は一番人気があった。
他国に日本の技術が渡ることを、雷志はあまり快く思っていない。
しかし、それほどの人気を誇る日本刀の魅力を再確認できた。
そうした意味合いも含めて、日本刀にはとにもかくにも雷志は目がない。
ならば何故、ダンジョンの最奥に眠るそれには一切触れようとしなかったのか。
答えは――。
「この刀は……」
「あぁ、それは前に俺が斬った禍鬼の大将が守っていたものだな。俺には必要ないから放置してた」
「え!? でもこれ、特級呪物ですよ!?」
「特級呪物? なんだそれは」
「特級呪物っていうのは、一定の禍鬼から流出した荒魂が集合しそれが具象化したものです。わかりやすく例えると……灰汁の塊みたいな?」
「それはなんか嫌だな……」
「あ、あくまでも例えですから! ってコメント欄もいちいちツッコミ入れないで! えっと、とにかく特級呪物にも色々とあるんですけど、一様に言えるのはどれもとんでもない力を秘めているってことです」
「ふーん……でも、俺には興味ないな。それ、欲しかったらお前が持って行っていいんじゃないか?」
「えっ!?」
「俺はいらないからな。そいつは、俺が振るうのに相応しくない」
そう言って、雷志は鎮座したそれを手に取ると静かに抜き放つ。
すらり、と音を立てて露わとなる刀身は――刀本来の輝きは皆無で、あるのは禍々しさのみ。
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