お年頃な刀剣(しょうじょ)たちに鞘の中は狭すぎる~異世界転生したカモ、かつての宿敵が持ってた刀たちからのすさまじい執着に今日も頭がイタいです

結紡弥 カタリ

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第5話:カミ様に逢うカモ

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 翌朝、その日は雲一つない快晴だった。
 さんさんと輝く陽光はまぶしくも暖かい。
 その下では小鳥達が優雅に、気持ち良さそうにすいすいと泳いでいる。
 いつか鳥になって大空を自由に泳いでみたいものだと、そう幼かった自分にカモは自嘲気味に笑う。
 時折頬をそっと優しく撫でていく微風は、まだ朝方とあってかほんのりと冷たい。
 それもカモにとっては大変心地が良いものだった。

(今日もいい天気だな)

 正しく絶好のお出かけ日和の中で、カモはヤマシロの町中を練り歩いた。
 当然ながら、今回の外出には同伴者が三人もいる。

「う~ん、今日もいい天気でよかったねぇ」
「あぁ、天気がいいとそれだけで心が穏やかになる」
「ふわ~あ……僕まだ眠たいんですけどぉ」

 キヨミツが大きな欠伸をした。
 規律に厳しい新撰組では、絶対にあってはならない言動である。
 これにはさしものカモも、いぶかし気にキヨミツを見やる他ない。

(よくこれで新撰組なんて組織が成り立ってるもんだ)

 彼女は、自分が知る沖田総司とはまるで別人だ。
 そもそも、女性という時点ですべてにおいてが異なる。
 だというのに太刀筋だけは当人と同じだというのだから、カモはこれが面白くて仕方がなかった。

「――、ところで今からどこへいくんだ?」

 まだ、行き先については事の仔細を一切聞かされていない。
 出掛けるまではよいが、肝心の場所をコテツはまだ告げていなかった。
 不安というわけではないが、気になるのは人として性というもの。
 そんなカモにコテツは――

「えっとねぇ、ひ・み・つ」

 と、イタズラをする悪ガキのような笑みをにっと浮かべた。

「秘密にするほどの場所なのか?」
「まぁまぁ、別に変なところじゃないから大丈夫だってば。この我に安心してついてきなさいってね」
「先に言っておくぞカモ」

 カネサダがいつになく真面目な顔をしている。

「これから会うお方の前では決して失礼のないようにするのだぞ」
「それは、それだけの身分の人ってことか?」
「そういうことだ」

 そこはヤマシロのちょうど中央に位置していた。

(なんつーバカでかい神社なんだ。いったいどれだけの奴がここを管理してるんだ?)

 カモがこうも小首をはて、とひねったのはその建物があまりにも大きかったからに他ならない。
 巨大な朱色の鳥居をくぐった先にどっしりと構えた本殿は、さながら城のようですらある。
 境内を何人もの巫女が行き交う光景さえも、カモにとっては異様そのものであった。

(というか神社だからみんな狐耳と尻尾を生やしてるらな……稲荷神社か?)

 悪くないと、カモはまんざらでもない様子であった。
 ここ、クズノハ神社の管理主は名をカエデという。
 これよりその葛葉カエデとの謁見をすることになったのだが――

「……なぁコテツよ。本当にここは神社なのか?」

 と、カモはすこぶる本気でそう尋ねた。

 本殿に広がる光景は、神社という神聖さが一片も感じられない。
 ご神体や仏像などの類は一切なく、代わりにあるのはかわいらしい少女の掛け軸のみ。
 言うまでもなく、その少女の造形は神仏とはなんの関連性もない。
 とにもかくにも、ただただかわいい。これだけであった。

「あれはタスペリーって言うんだよ。後、あそこにあるのはポスターね」
「いやもう何もわからん」

 またしても横行する南蛮語に、いよいよカモは頭を抱えた。

「お、お待たせーみんな待ったぁ?」

 奥から一人の女性が慌ただしい様子でやってきた。
 この人物こそが、神社の管理主である葛葉カエデであるのは明白だった。
 もっとも、カモからすれば彼女の存在はお世辞にも神主として相応しくない。

「あれが……この神社の管理主か?」

 そう思わず、カモは口走ってしまっていた。

「おい失礼な行動はするなと言っただろう」

 と、間髪入れずにカネサダの拳骨が飛ぶ。

 ごつん、と鈍く重々しい音がカモの頭頂部で鳴った。

「何も殴らなくても……」

 反論するカモだったが、カネサダの眼力を前にむぅ、と押し黙った。

「あらぁ? そっちの方はぁ?」
「カエデ様、昨日から新しく我らの新撰組に入隊した芹沢カモくんです!」
「あらそうなのぉ!? それはよかったわねぇ」

 親子がするかのような会話は、ついついほっこりとしてしまう。
 それがしばし続いた後で、カモは改めてカエデと対面を果たす。
 コテツらは別件を与えられて、今この場にはいない。

「カモくん、だったわねぇ。はじめましてぇ、わたくしがクズノハ神社の管理主をやってる葛葉カエデですぅ」
「……芹沢カモと申します。お初お目にかかります、カエデ様」

 カモはそう言って、深々と頭を下げた。
 カモはこう見えても、育ちは決して悪い方ではない。
 近江國と山城國とのちょうど境目にある田舎村で育ったカモ。
 そんな彼の実家は、小さいながらも剣術道場を営んでいた。
 かつては時の帝に剣術指南役を務めたことさえもあるが、今はすっかり寂れてしまっている。
 門下生についても、一応それなりにいるが真面目に練習する輩はほんの一握りという有様だった。
 無明想心流むみょうそうしんりゅうの修練は、とにもかくにも厳しいことでもっぱら有名だった。
 彼の家が剣術指南役を外されたのも、その厳しさにある。
 常軌を逸脱した修練はもはや人としての領域を脱し、モノノケの類である。
 むろんあくまでもこれはかつて門下生だった者の比喩表現にすぎない。
 とは言え、あながち間違いでもなかったから今も閑古鳥が鳴く始末であった。
 道場の運営にも例外にもれることなく金が必要で「ちょっと出稼ぎ言ってくる」と、出稽古が主な収入源だった。
 かつてとは言えども、剣術指南役を務めた実績もある。
 そういった振る舞い方は、とうに外れた現在となっても学ぶようしっかりとしつけられていた。
 カモとて例外ではない。

「芹沢カモ……それがあなたの名前なのぉ?」
「……えぇ、まぁ一応」

 カモはふっと苦笑いを小さく浮かべた。

「う~ん……それはちょっとまずいかもねぇ」
「まずい、というのは」

 果たして何がまずいのだろうか。
 カエデの言動は、言葉とは真逆に焦りなどの感情が一切ない。
 一言で表すとすれば、彼女はどこまでもおっとりとしすぎている。
 とにもかくにも、詳細を聞かないことにはカモもまるで安心できなかった。

「わたくしとしてはぁ、別に特に問題ないんだけどねぇ?」
「はぁ……」
「むしろコテツちゃんたちが幸せになってくれたなら、それでオッケーだしぃ。でも本人の同意がさすがにないとねぇ」
「…………」

 いい加減に先を早く言ってほしい。

「……まず、カモちゃんはコテツちゃんたちについてどこまで知ってるかしらぁ?」
「どこまで知っている……と言われましても。せいぜいが新撰組の面々ということぐらいしか」
「まぁ昨日入ったばかりだもんねぇ。知らなくてもしょうがないかぁ」
「……コテツ達は、いったい何者なのですか?」
「それはねぇ――カモちゃんは付喪神って知ってるかしらぁ?」
「えぇ、知っていますとも」

 カモは静かに首肯した。
 付喪神とは、百年の時を費やしたことで物に神や精霊が宿った存在である。
 日本古来に存在し、数多くの絵巻にもこれらの存在は登場している。
 こうした絵巻によって、日本では物を大切にする風習が根付いたと言っても過言ではなかろう。
 むろんこれらはあくまでも幻想の類にすぎず、カモはまるで信じていなかった。

「所詮は作り話だろう。本当にいるわけないんだから、何をそうびくびくしてるんだか」

 と、こう豪語するカモだったが、だからと言って物をぞんざいに扱ったことは一度もない。

 物は大切にする方だから少なくとも、自身が呪われるという心配はなかった。

「その、付喪神がどうかしたのですか?」
「どこから話たらいいかしらねぇ。う~ん、とりあえず――」

 一呼吸分の間が空いて、すぐに――

「コテツちゃんたちは、わたくしの力で生まれた付喪神なのぉ」
「……は?」

 さらりと口にしたカエデの言葉に、カモは素っ頓狂な声をもらした。
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