虐待を受けている小学生美少女と、無職童貞生活保護ロリコンおじさん物語

ユキリス

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 ─早く外に出るのよ。

 頭の中に響くのは、所詮は幻聴に過ぎない。

 けれど走るは否が応にもその声に従わなくてはならない。

 幾ら引き篭もりといえど、午後だけは外出しなくてはならないルールが己の中にはある。

 統合失調症の診断を受けているからこそ、走は今の生活を続けていられるのだから、この幻聴にも感謝をしなくてはならなかった。

 取り敢えずケースワーカーの訪問前に外に出よう。

 ケースワーカーとは、生活保護者である走を働かせるべく派遣される輩の名称である。

 所謂催促へと訪れる者であるが故に遭遇したく無いというのが走の本音に他ならない。

 と、そんな塩梅であるが為に、走は部屋の扉を開けてアパートの外へ出る。

 そして平素通り散歩をするのだ。

 最早日々の日課になっているそれを淡々とこなすだけが彼の数少ない生き甲斐である。

 ─目障りね

 すると、歩いている道すがらに例によって件のケースワーカーを視界の端へと捉えた。


 ─道を逸れなさい


 己の頭に響く声に対し身を委ねた走は、そのまま十字路を横へ曲がる。

 これで走は、あのいけすかない高飛車な女との対面を避けられる。

 彼は密かに安堵して人通りの少ない道を歩いた。

 だが、今日に限って妙に子供が居合わせている。

 それも一塊となって道のど真ん中に揃いも揃って何やらわいわいと。

 その光景を目の当たりとして心底から辟易とする走である。

 ただ平素とは異として、更におかしな様子を呈しているのは、どうやら一人の子供を集団で虐めているのが所以である様だ。

 どうりで何処か陰湿な雰囲気が漂う筈である。

 走は見て見ぬふりをするべくして、足早となった。

 どうやら彼にはその不条理の最中から虐められいる子供を救い出す勇気など持ち合わせていない様だ。

 けれどすぐさま脳裏へと響く声がある。

 ─引き返しなさい

 そう忠告めいた言葉が次の瞬間には与えられたのだ。

 こんな感覚は久しぶりで走の心臓の鼓動は自ずと高まった。

 まるで早鐘を打つかの如きそれのお陰で、走は思わずその場で硬直してしまった。

 足を止めてしまったのだ。

 だが、予期せぬ幻聴を受けてはこれも致し方無い。

 何せ久方ぶりとあって油断していたのだから無理も無い。

 と、そんな彼が今、思いがけず目の当たりとしたのは、件の下着を己にくれた少女が、複数の小学生に虐められている姿である。


「ちょっと、あんたの家の親ってお水してるんでしょ?そうやってウチのママが言ってたわ」

「え?マジで?きっしょ。それが本当ならお前もう一生学校に来ないでくんない?」

「そうだよね~。なんていうかレイナちゃんってちょっと臭いし、本当にお風呂とか入ってる?わたしたちに触らないでよね。穢れちゃうから」

「うんこ女っ、うんこ女っ。レイナ菌がかんせんするからさっさと死ねよ」

 その様にして、一連の罵詈雑言が走の元までも響いては聞こえてくる。

 凡そ小学生程の子供から出てくる言葉とは到底思えない様な口汚い物言いだろうか。

 そんな今時の小学生に気圧される限りの走はといえば、不意に渦中のレイナとの目が合った。

 そしてそれは気のせいでも無く、逸らされる事のないレイナの大きな瞳が走を見据えている。

 ─これはダメね。助けなさい

 理解している。

 走は幻聴に言われるまでもなく、自ずと動き出していた。

 本来であれば人と関わり合いになる気など、平素からサラサラ持ち合わせていない走である。

 けれど一度視線が交錯して見て見ぬふりをすれば、自分で自分を追い込む羽目となる。

 それだけは、過去の経験からか、自ずと実体験を通して身に染みていた。

 彼は即座にパーカーのフードを目深く被る。

 そしてゆっくりとした歩調で子供達との距離を詰めた。

 すると彼等も漸く走の存在に気が付いたのか、慌てて闖入者へと視線を向けた。

「どうする?」


「え?え、どうしよう?」


「ね、もういいじゃん。こいつなんかここにおいてはやくにげようよっ」


「あのひとなんかこわいよ。もういこうっ」

 そんな塩梅だった。

 一頻り会話を交わした後に、長丁場にはならずに存外の事あっさりと潔い撤退を子供達は晒した。

 その露呈させた醜態を前として、走は密かに心底でガッツポーズを決めた。

 ─幼稚な事ね

 けれど即座に脳裏へと響く言葉に勝ち誇っていた内心は萎びていった。

 ─不審者ですってね

 それは分かっている。

 仮に子供に恐れられたとしたらそれは、大変不名誉な事に相違は無いだろう。

 増してや純粋無垢な小学生相手にこのザマだ。

 気程も誇れる様な話では無かった。

 本来であれば気落ちして然るべきだ。

 だが走は、かの小さな邪悪を追い払い仄暗い満足を覚えている。

 即通報待った無しである。

 恐らくこれを趣味にすれば近いうちに変態としての蔑称と共に、大々的に新聞の一面の見出しを飾るに違いない。

 もしもそうなれば一躍時の人となり、世間のお笑い者だろうか。

 ─来たわよ

 そんな思案に耽る走へと再度に渡り幻聴が与えられる。

「あなたがここをとおることを、わたしはしっていた」

 すると同時、少女のひんやりとした声色が、嫌に大きく同所へと響いては聞こえた。

「ひとがこわいから」

 そして続けられる言葉は的確に走の図星をついた。

「わたしとおなじ」

 だが更に紡がれた内容は、走からすれば意外であった。

 何せこのレイナという少女は、先程虐めを受けている最中とあっても、表情を崩す様子を見せなかったのだ。

 故に何の痛恨も感じていないのだとばかり走は、一方的に思っていた。

 けれどそれは誤りであり、実際の所レイナは傷付いていたらしい。

「そっか‥」

 予期せずして襲いくる共感に対し、走は何処か感傷的な心境となる。

 そして、そんな彼に対してレイナが示した反応はといえば─

「あなたははやく、ここからはなれるべき」

 彼女は周囲を見渡してそう言い放つ。

 忠告を受けた走は、一瞬だけ遅ればせながらも、その意味する所へと及ぶ。

「あ、うん。それじゃあ僕は行くよ」

 どうやら先程の小学生が大人を連れて来た様だ。

 前方からはそのあらわれとして人の姿が見える。

 ─急ぎなさい

 加えて幻聴からも催促を受けては流石に走としても焦燥を感じずにはいられない。

 足取りも速く、先程に自ずから不審者紛いの振る舞いをした手前も相まり、すぐさまその場より退散する。

 まさか事情聴取など受けては堪らない。

「ありがとう」

 ただ背後でレイナの無機質でいてゾッとする程に冷たい声が三度走へと、まるでへばり付く様に与えられた。

 そして感謝の言葉を送られた当の本人である走の側はといえば、その粘り気がある暗い響きに背筋を震わせる。

 更に悪寒の如き感覚を身に覚え、走は足を運ばせる。

 肉体は特段不調がある訳でも無い。

 にも関わらず、背後の少女の事を思うと冷や汗を掻いていた。

 年幼い少女からの感謝の言葉。

 ただそれだけの筈。

 けれど其処に対してまるで締め付けるられる様な思いを得た走は、それを振り払うかの如く意識を逸らした。

 気を紛らわせるべくして足を前へと進ませる。

 歩を運ばせる走はといえば、レイナという少女を脳裏から追い出す為散歩へと精を出す。

 ─あの子は危険よ




 ‥。

 10。

 幻聴だ。

 そんな馬鹿な。

 その様な筈は無い。

 ある訳がないだろうが。

 たかが小学生如きに一体何が。

 まさか先読みしたとでも言うのか。

 否、これは必然では無く奇跡の産物だ。

 此方が一方的に利用されたなど妄想である。

 例え虐待されていようとも相手は所詮、ただの子供。

 今回虐めの現場に鉢合わせたのだって偶然だ。

 否、そうでなくてはあの少女はあまりに不気味に過ぎる。

 多少は頭が良い様だけれど、機転が少し効くだけだ。

 偶々己の散歩コースと時間が上手い事重なっただけだろう。

 そう考えて、彼は己が幻聴より与えられた忠告を一蹴した。

 既に陽が落ち、薄暗い夕焼けに染まる、何処か閑散として寂れた住宅街を黙々と歩む。

 遠くからは不気味なカラスの鳴き声が騒々しく同所まで響いては聞こえた。

「‥」

 そんな縁起の悪い音を耳として再度に渡り思考を巡らせる。

 けれど、果たして本当に断じてしまっても良いのだろうか。

 次々に湧き上がる疑念に対して、判然としない考えに身を強張らせた。

 そして一度だけ肩口を振り返る。

 同時に瞳を眇めた。

 共に視線を凝らす。

 其処にはやはり薄暗い夕日を背後にして、顔はよく見えないものの、確かに少女は佇んでいる。

 少女は一切身体を微動だにさせる事なく、此方を向いて立っていた。

 そう、彼は今も確かに己へと向けられているそれに気付いていたのだ。

 突き刺さる様な視線を得た。

 恐らく少女が未だ佇んでいるであろうその場所から。
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