非人道的少子化対策。国から強制される婚活。将来的に社会において成功する見込みの無いTS処置された少女への扱いについて

ユキリス

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婚活

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「あのあの‥本当にわたしみたいなので良いのですか?だって貴方みたいな男性と、とても釣り合わないですし‥。それに、先程同席されていた方の方がとても綺麗で‥」


 と、自らを卑下して語る少女は自信無さげに愛想のある笑みを浮かべた。

 そしてその面持ちの通り、彼女が自身に抱く肯定の程は、少なからず心許ない様だ。

 その証左として、明らかに不安を露わとした素振りを晒している。

 それを最も容易く見透かした男はなんら躊躇うことなく応じてみせる。

 如何にもな野生的な魅力を放つ彼の容姿は、精悍な顔立ちに加えてそれ相応に鍛え上げられた肉体を兼ね備えているといった塩梅だ。

 故に彼の周囲へと見せ付けるその振る舞いにも、人生において確かな成功の実績に基づき裏打ちされたそれによる自信が滲み出ている。


「まさか‥俺は彼女みたいに、こう言ってしまってはなんだが、あまり派手な人は好かない質なんだ。だからこうして君と場を共にしている。いや、俺は自ら望んで君を、君だけを選んだ。それは事実だ。どうか信じて欲しい」

「ですが、わたしは貴方に隠し事をしているのです」

 だが、そんな彼の振る舞いを目の当たりとして尚、対面する少女の面持ちは晴れない。

 依然として翳りが差したままである。

 憂いを帯びた美貌からは無自覚にも色香が漂い、それがより一層彼女の魅力を引き立てていた。

 が、それを理解する所にない少女は未だ語る。


「わたしは実は幼い頃から男性としての魅力に劣り、政府から処置を受けてきた人間なのです。ですから本来であれば貴方に選ばれる様な女ではないのです」

 その艶やかな薄桃色の唇から露呈された内容の程は、無論少女を見据える男とて知り及んでいた。

 あまりに深刻化した少子化対策が相まって、政府が苦肉の策として用いた最終手段。

 凡そ人権を考慮したとは到底思えない政策。

 だがそれは、国民に抵抗の暇を与える余地もなく、速やかに施行されたのだ。

 それも、将来的に男として成功を納める見込みのない雄を女へと変じるというあまりに被人道的な行い。

 無論当時はその信じ難い内容に、人々はイキリ立った。

 けれど国からのあまりに強い圧力により、反抗する者達は公権の元に処された。

 誰一人として例外なく服従を強いられたのである。

 その様な不条理を受けたのが、男の目の前に可愛らしく席に座る少女である。

「‥なるほど。だがとてもそうは見えないな。君はとても魅力的な女の子だ。俺の目から見て凄く美しく思う」

 にも関わらずその実情を知って尚、その上で男は少女を娶りたいとの旨を訴える。

 この場は互いに伴侶を見繕う為の場。

 所謂婚活パーティ会場に他ならない。

 そんな同所へと居合わせている人々は無論彼と彼女だけではない。

 だが、明らかにこの二人は周囲の人々から浮いている。

 だがそれは決して悪目立ちというわけではない。

 寧ろ真逆。

 その反対で、かたや見目麗しい少女。

 加えてこれに対面するのは雄として大変優秀な、精悍な顔立ちに鍛え上げられた肉体の持ち主ときているのだから、注目を浴びて当然といった塩梅だろうか。

 良い意味でも悪い意味でも、この場に居合わせている面々の視線を否が応にも惹きつけて止まない存在の二人だ。

 故に自ずと、陰口を叩かれるのは至極自然な成り行きだった。

「見てあの子、あんなに男好きする身体付きであからさまに媚びている癖に、元処置済みですって‥キモチワルイ」

「ホントよねー。いやだわぁ。それにあんなに露出の多い服を着て、自分が劣った存在だっていう自覚が無いのかしら。いくら若いとはいえ、処置された子があんなに高スペックな人を狙いにいくのはねぇ?」

「だよね。あんな風に身体のラインに丸分かりなドレス着て、ホントは処置済みとかホントに目障りだから何処かにいって欲しい。政府もああいう風に人口のお人形みたいな子作るからこうやって騙されるんだっつーの」


 それは主に女性から発せられた言葉が多い。

 くちさがない一見して若く見える装いの女達が囃し立てる。

 が、その実あくまで自らを飾り立てるだけが取り柄の彼女等の身体はだらしないの一言に尽きる。

 普段から旅行が趣味の者達が多く、散財を極める為、自ずとそれに応じて自己研鑽も怠るのだ。

 故にその分だけ腹部には脂肪が蓄えられつつあるのである。

 その点、彼女等の妬みの対象である少女は、大変雌として極めて優秀な肉体に誂えられていた。

 まず対称的なやはりのくびれだろうか。

 周囲の婚活女性等と比較して、腹部周りが遥かに細く引き締まっているのが、傍目にもその露出が多い装いから理解出来る。

 ただ、肌を晒す面があるとはいえ、その美貌は何処か品があり、それと同時に類い稀なる色香が滲み出ていた。

 だが、更にはこれに加え、まるで庇護欲を誘うかの如き可憐な容姿を誇るのだから、対面している男が少女を伴侶に選ぶのも、男として当然の成り行きと称してなんら差し支えない。

 それ程までに少女の美貌は突出して可憐だった。

 同所へと居合わせている誰よりも麗しい容姿を誇る彼女は、処置済みである事実を念頭において尚、その上で婚約を交わしたい相手であった。

 故に男は少女を一心に、そして誠実に求めたのだ。

「もしかして君は男をそういう相手として見るのはやはり抵抗があるのかい?」

 だから自ずと口とされた質問は確信をつく言葉となる。

「はい‥。大変申し訳ないのですが、貴方様の仰る通りです。わたしは未だ男性に貞操を捧げる事に抵抗が御座います。金銭面、生活面でも縋らなくては生きていけないわたしの様な卑しい身で烏滸がましいと思われるかもしれませんね。ですがどうしてもやはり躊躇してしまうのです。頭では理解しているのですが、いざこうして殿方とお会いしてしまうと、あぁ、わたしは本当に女として一生を過ごすのだと、否が応にも現実を突きつけられてしまって、落ち込んでしまいます。きっと‥貴方の様に男性としての魅力に大変満ち溢れた方には到底分かってもらえない事なのでしょうね。この気持ちは、わたしみたいに愚かで殿方に対する奉仕でしか存在意義を示す事の出来ない、番となる事を国から義務付けられている処置済みの人間の想いなど、考慮する余地もないのでしょう?ですからわたしは貴方に言いました。わたしの様に中途半端な存在ではなくて、先程まで此方に身を置かれていました方々にこの場をお譲り致します、と。卑しいわたしなどではなくて、本来であれば本当の男女が子を成すことが自然の営みなのです。‥ですのでどうかわたしをこの場から追い出してくださいませ。黎人様」

 まるで濁流の如き少女が今に語る吐露した心情の奔流は、途端に堰を切った様にこの場へと特段響いては聞こえた。

「‥」

 都合これを一方的に浴びせかけられる事となる黎人と呼ばれた男は、口を真一文字に引き結び、何事かの思案を巡らせている様だ。


「失礼ながら、はっきりと断言させてもらう。君のその言は杞憂だ。俺はやはり君のいう所の自然の営みから突き動かされていると思う。だから君を欲しているこの感情は歴とした真実に他ならない。無論、どうしても俺を受け入れ難いというのであれば、当然この身を引こう。ただ、この想いは諦めきれない。未練がましいと思うのであれば躊躇いなく軽蔑してくれてなんら構わない」

 そして次いで少女へと与えられた返答は、予想だにしない物言いでの受け答えである。




 当然ながら、そのプロポーズさながら、否、最早その域に達していると称してなんら差し支えないそれに対しての反応は、僅かながらに遅ればせながら、劇的な情緒の程を伴い少女より自然、返される事となる。




「え‥あ‥え、で、ですが‥それでは貴方様にアプローチをしていたあの方々に申し訳ないです。だって、わたしみたいな処置済みでもなくて、本当の女性の方なのに‥」

 至極困惑を露わとした面持ちで少女は罪悪感を訴える。

 だがその麗しの美貌には黎人によりもたらされた言葉から得た、確かなる感情の発露が窺える。

 傍目にもみて取れる程に紅が差した頬の意味する所は本人が例え語らなくとも明白だ。

 けれど、羞恥によりたじたじとなった悪意の無い純粋な屈辱的な発言は、周囲の女性等の矜持を酷く傷付けた。

 お陰で狼狽える羽目となる彼女等は、まるで烈火の如き怒りを露わとして下唇を噛んだ。

 それと同時に鳴り響く盛大な舌打ちは、同所へと存外の事鳴り響く。

 何処か怒り狂ったチンパンジーの如き振る舞いを露呈する彼女等の様相は、酷く滑稽な光景としても見て取れた。

 だからだろうか、答える黎人の側も何処か直接的な物言いとならざるを得ない。

「それは関係無いさ。俺は君個人が好きなんだ。女性が好きな訳でもない。決して誰でも良いなんてことはない。それに彼女等は君の事を酷く言っていたからね。これは君を傷付ける事になってしまうからあまり言いたくなかったんだが、もうあまり隠していても君自信知っている様だから意味もないみたいだね。どうやら彼女達が酷く言っていた事を君は既に知っていた様だ。だから俺も言ってしまっても構わないだろう?」

 だが、そうして無常にも語ってみせる黎人の毅然とした立ち振る舞いは、なんら揺らがない。

 一切の淀みがない弁舌は、対面する少女を圧倒していた。

「アイ、君が欲しい。どうか人生を、俺と共に歩んでくれないか?」

「黎人さん‥」

 それを見越したのか、ここぞとばかりに力強い意志の秘められた彼の双眸が、真正面の少女であるアイを捉える。

「ちょっと待ってよ」

 と、そんな二人の間に、無粋ながらも唐突に割って入る輩が居る。

 それも身の程知らずながら、一人ではなくて数名の集団。

 傍目に、アイと黎人のやり取りを見物していた、否、盗み見ていたと称して、なんら過言ではない女達。

 それは先程からアイに対して、悪口を一方的に囃し立てていた輩に他ならなかった。

「何用だろうか?それと仮に何かあるのであれば後にしてくれないか?」

 だが、それを理解している黎人はなんら意に介する素振りもなく言い放つ。

 どうやらこの手の女達の集団に免疫がある様だ。

 まるで般若の如き醜い面持ちを露呈した女達の圧に屈することもない。

 なんら躊躇いもなく言い放つ黎人である。

 だからこうして現に落ち着き払った態度で、彼は女達に応じる事が出来た。

 イキリたった彼女等に対して、黎人は平素通り至極スマートに受け応えただけだった。

 けれど女達は決してそうは思わない。

 自らを無碍にされたとして勝手に思い込む。

 その被害者意識の赴くがままに、彼女等は言う。

「処置済みの子なんてやめた方がいいと思いますけどね」

 概ねその様な何処か見下した態度で言い放たれた言葉は、やはり怒りを含んだ物言いとしてこの場へと与えられた。

「アイ、お互いにもう此処には用は無いし、どうやら静かに話も出来ないみたいだ。だから何処か、他に二人きりになれる様な場所に行こう」

 だが、これに対峙する黎人は気に留める様子が無い。

 彼は最早同婚活会場に辟易していた。

 露骨なまでの女性に対する優遇に加え、処置済みであるアイへの、運営側が行なっている差別。

 それが明白に可視化されたこの場からは一刻も早く立ち去りたい思いだった。

 それは無論アイとて黎人の考えに倣い同様。

「はい」

 どうやら先程まで乗り気で無い素振りを見せていたアイも、黎人からの言葉を受けてその心境に変化があった様だ。


 その様にして、おもむろに立ち上がる黎人は、先程まで腰を落ち着けていた席からアイを連れてこの場を後としてしまう。

「あっ、ちょっとッ」

 そんな風に脇目も降らずに同所から去り行く二人の背を、この場に居合わせている女達は、只々ひたすらに見送る他になかった。

 無論二人が退店をする際には、支払いは既に済ませていた様で、会計にて深々と頭を下げられていた。

 そのスタッフの丁寧な応対から鑑みるに相当な良客であったのだろう。

 恐らく黎人は相応に羽振りが良かったに違いない。

 そうでなければ幾ら客とはいえあそこまでの接客は求められない筈。

 それを目の当たりとして漸く理解したと思しきこの場へと取り残された女達は、自らの失態を悟り歯嚙みする。

 己が優良物件を逃した事実を否が応にも突きつけられた彼女等は、再度に渡り婚活仲間に対して口火を切った。

「まぁでも焦らなくて良いわよね。だって女が輝くのって歳を取ってからだし。酸いも甘いも経験した35歳過ぎてからくらいが、丁度モテ出す時期なのにね」

 その内容はやはり自らのプライドを満たすだけの言葉であり、当然ながら皆が一様にそれを肯定した。

 ただ、それが真実か否かはこれからの彼女等が送る、婚活人生が明らかとするのだろう。
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