16 / 33
第一章 一度目の異世界
14.帰還
しおりを挟む〈———すまない、シュウ。必ずお前と は できる。だから今は 〉
誰かが俺に話かけている。この声は
ピコンっ
スマホのメッセージ受信音がする。
「んっ……うーん。あれ、ここは?」
俺は慌てて飛び起きた。
「ここは俺の部屋だ。え?なんで?さっきまで異世界に居て、変な男と戦ってそしてユリウスを庇って俺は……」
俺は無意識に自分の体を抱きしめた。
あの時の体が引き裂けるような痛みも手の傷も無くなっている。
「え?もしかして、夢? いや、あんなにリアルなこと。夢とは考えられない」
その時、シャラン……
左手に付けていたあの金の腕輪が見えた。
「ああぁ……」
涙が止まらなかった
「ユリウス、ユリウス! ごめん、ごめんね……」
俺はしばらく金の腕輪に向かってユリウスの名前を呼び続けた。
◇◆◇
「うわぁ!お兄ちゃん何その酷い顔。 てかさっきLINKみたけどどういう事なの?異世界に行ってたってマジなの??」
「え?何それ。マジなの兄ちゃん」
瑠夏と冬真が玄関で出迎えてくれた。
「………その話を今からするから冬真の部屋に集まってくれないか」
俺は異世界から帰還して2日後、実家に帰省した。
「———なるほど、お兄ちゃんは2日前、帰省するために荷造りをしていたら、どこからともなく子どもの泣き声がして、そしたらいきなり床が光った。んで、目を開けたら異世界で、そこで出会った獣人の子どもと一緒に暮らしてた」
「うん」
「兄ちゃんは魔力は無かったけど、妖精王様に魔法石を貰ってそれで変な奴らと戦ってた。でも男が変な魔法を使ってきて、その標的になった獣人の子どもを兄ちゃんが庇って気がつけばこっちに帰ってた」
「かいつまんで話したけど、その解釈であってるよ」
俺は瑠夏と冬真にユリウスと暮らした日々を話した。
「正直なところ、信じられないって気持ちが強い。でもお兄ちゃんがそんな嘘を付かないのは私たちが一番よく知ってる」
「うん、僕もそう思う」
「2人ともありがとう……」
俺を信じてくれた2人に感謝した。
「その世界でお兄ちゃんはどれくらい暮らしてたの?」
「だいたい3ヶ月くらいだったかな」
「3ヶ月……でもこっちに戻ったら3時間しか経ってなかったんだよね?」
そう、3時間しか経ってなかったのだ。
「作品によっては異世界とこっちの時間の流れが違う場合もあるし、同じって事もあるよね。でも一番の謎は何で兄ちゃんが異世界に転移したって事だよ」
さすが冬真、やっぱりそこに疑問を持つか。
「3ヶ月向こうで暮らしたけど、特に何か使命があって向こうに行ったわけではなかったよ。でも強いて言うなら、子守唄に不思議な力があった事だけだし」
「「子守唄?」」
子守唄についても2人に話した。
「あの子守唄か~言われてみれば確かに不思議だったかも。なんか落ちつくっていうか、暖かかい何かに包まれて安心するんだよね」
「実は私もなのよね」
なんと!まさかの新事実。
「もし子守唄が異世界に行った鍵ならまた異世界に転移するかもしれないけど、あまり期待はしないほうがいいよ」
それでも俺は、2人に俺は聞かないとといけない事がある。
「………異世界って、どうやったら行けるのかな」
「お兄ちゃん……それは」
「無理だと思うよ」
冬真がはっきり言った。
「ちょっと冬真!」
「ここははっきり言ったほうが兄ちゃんためだよ。 姉ちゃんもわかってるんでしょ?」
「それは……」
瑠夏が言い淀む。
「それでも!……それでも俺は今すぐ行かないと行けないんだっ、ユリウスをまたひとりぼっちにさせてしまったことに後悔しているんだっ」
涙がまた溢れてきた。
瑠夏がそっと、俺の手を握った。
「お兄ちゃん……異世界に行けるなら今すぐそのユリウスって子のために行くべきだと、私は思う。でも…でもね、お兄ちゃんは本当はわかっているんでしょ?」
「………………」
俺は言いたくなかった。言ったら認めないといけないから。
しばらく沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは冬真だった。
「はぁ…… 異世界に行ったら行ったきり、もし帰れてももう一度あっちには行けない」
ビクっと俺の方が揺れた。
わかってた、わかってたよ。そんな都合よく異世界に行けないってことに。それでも俺は
「………っ、あ”あああああああ」
ユリウスにもう会いたい、今すぐ会いたい。そして謝りたい。でもそれが出来ない………ごめん、ごめんねユリウス……
この事実だけはどうしても俺は受け入れることができなかった。
そんな泣き叫ぶ俺に瑠夏と冬真がずっと抱きしめて側に居てくれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次で第一章ラストです。
11
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。

僕だけの番
五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。
その中の獣人族にだけ存在する番。
でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。
僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。
それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。
出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。
そのうえ、彼には恋人もいて……。
後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる