5 / 33
第一章 一度目の異世界
03.目覚め
しおりを挟む気がつけば朝になっていた。
どうやらあの四次元空間をみて気絶したみたいだ。
いや、ただでさえ異世界転移という意味がわからない状況の上、あの四次元空間……キャパオーバーしない方が無理でしょ。
「てかそんな事よりも、熱っ!」
俺は慌てて起き上がり男の子の元へ向かった。
「すぅ……」
「よかった。熱も下がってるし呼吸も落ち着いてる」
どうやら薬が効いたみたいだ。俺は嬉しくて男の子の頭を撫でていると
「うーん……」
「あっ起こしちゃったね、ごめ……」
キラキラと輝く星を閉じ込めたような金色の瞳
「きれい……」
「っ!」
男の子は布団の中に隠れしまった。目が覚めたら見知らぬ人が居たら怖いよね。
「怖がらさせてごめんね。えっと……俺の名前は秋也っていうんだ」
「……シューヤ?」
「うん。君のお名前は?」
「……ユリウス」
「ユリウスくんか!いいお名前だね」
「……」
うーん……やっぱり警戒されてるか、どうしよう。
きゅるるるる~……
その時可愛らしいお腹の音が鳴った。
「くすっ、お腹空いたんだね。ちょっと待っててね」
「?」
恐る恐るこっちを見るユリウスくんに、俺はあのバックに手を入れて
「テッテレ~みかんゼリー(裏声)」
「……」
「……」
うん……なんか、ごめん。
「えっと……これ一緒に食べない?美味しいよ」
ユリウスくんは俺の顔をじっと見てからコクリと頷いた。
◇◆◇
「はい、あーん」
「あ~」
もぐもぐとゼリーを食べるユリウスくん。
「美味しい?」
食べるたびに耳と尻尾がパタパタと動いているから、どうやらお気に召したようだ。
さっきまでビクビクと警戒してたのが嘘みたいだ。
すごく美味しそうに食べてくれる。
そういえば瑠夏と冬真もこれくらいの歳の頃、こうやってよく食べさせてたな~懐かしい。
でもいきなり異世界転移されたから2人とも心配してるよな……早く帰らないと。でも異世界ものだと大体が帰れないことがほとんどだし……え?それってやばくないか?
一人でぐるぐると考えていると——
つんつん……
どうやらスプーンが止まっていたみたいでユリウスくんが腕を突いていた。
「あ~」
と、雛鳥のように口を開けて催促してくる。
「ぐふっ」
めっっっっちゃ可愛いな!!!
え?何なのこの可愛い生き物は!!キラキラしたお目々とピクピクと動く耳ともふもふの尻尾!可愛いを限界突破して、愛らしく全てが尊い……!
なにを隠そう俺は、動物がめっちゃ好きなんだよね。それにもし、異世界に行けたら獣人に会いたいって思ってたから、それが叶ってもうマジ最高!これに関しては素直に嬉しい。
さっきの不安は一瞬で飛んでいった。我ながら単純だけど思うが、もうその時はその時、なるようになる!俺は謎のポジティブ思考で目の前の耳と尻尾に癒された。
「もふもふ……最高」
「?」
あぁ~可愛い、他にも獣人は居るのかな?会ってみたいな~
と、考えている内にゼリーを完食したユリウスくんがこっちをジッと見ている。
「完食できたね。えらいえらい」
俺はユリウスくんの頭を撫でた。
どうやらユリウスくんは撫でられるのが好きみたいだ。尻尾がブンブンと振っている。
(あ、そうだった。ユリウスくんにこの世界の事とかいろいろ聞かないと、でもまずは)
「ユリウスくんはいま、いくつになのかな?ちなみに俺は19歳だよ」
「ご、5さい……」
思っていた年齢より幼かった。この歳でさすがに1人って事はないよね?
「そっか~、ねぇここには両親……お父さんとお母さんと住んでるのかな?」
「……」
あ、やばい。いきなり踏み込みすぎたかな?
「……かあさまとすんでた。とうさまは……しらない」
(住んでた。ってことは今は居ない?どうして?それにお父さんは知らないって事はシングルマザーなのかな?)
「そうなんだ。お母さんは今どこに居るのかな?」
「……」
ユリウスくんはしばらく何も言わずに下を向いていた。そして体が少し震え始め、あの金色の瞳に今にもこぼれ落ちそうな涙が溢れていた。
「っ……!」
俺はユリウスくんを抱きしめた。
「ひっく……うぅ、あ〝あ~」
ユリウスくんは我慢出来なくなり、俺の胸の中で泣き出した。
俺は背中を優しく撫でた。この子のお母さんは亡くなっている。それはいつなのかはわからないが、俺が現れるまではずっとひとりぼっちで、熱で苦しんでいたのだろう。その時この子はどんなに辛くて寂しくて怖かった事だろう……
「大丈夫、俺が側にいるよ」
俺の服を必死に掴むユリウスくん。
もう一人じゃないよ。大丈夫だよ。と安心させるために俺はずっとこの子の背中を撫で続けた。
これが、ユリウスとの出会いだった——
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
秋也は最初、ユリウスのことを冬真より少し下、小学低学年くらいだと思ってました。
ちなみに秋也の身長は172㎝でこの時点のユリウスは100㎝くらいです。
12
お気に入りに追加
226
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
人気アイドルが義理の兄になりまして
雨田やよい
BL
柚木(ゆずき)雪都(ゆきと)はごくごく普通の高校一年生。ある日、人気アイドル『Shiny Boys』のリーダー・碧(あおい)と義理の兄弟となり……?
転生したら同性から性的な目で見られている俺の冒険紀行
蛍
BL
ある日突然トラックに跳ねられ死んだと思ったら知らない森の中にいた神崎満(かんざきみちる)。異世界への暮らしに心踊らされるも同性から言い寄られるばかりで・・・
主人公チートの総受けストリーです。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
華から生まれ落ちた少年は獅子の温もりに溺れる
帆田 久
BL
天気予報で豪雪注意報が発令される中
都内のマンションのベランダで、一つの小さな命が、その弱々しい灯火を消した
「…母さん…父さ、ん……」
どうか 生まれてきてしまった僕を 許して
死ぬ寸前に小さくそう呟いたその少年は、
見も知らぬ泉のほとりに咲く一輪の大華より再びの生を受けた。
これは、不遇の死を遂げた不幸で孤独な少年が、
転生した世界で1人の獅子獣人に救われ、囲われ、溺愛される物語ー
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる