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番外編
~あの夜を忘れない~ランスロット&フィオナ(10)
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フィオナは公爵夫人の説得で、ランスロットの傷が回復するまでは、公爵邸にお世話になることにした。
公爵家にはメアリも一緒についてきており、公爵家のお仕事を手伝いながら、私の世話をしてくれている。
ランスロット様は、公爵邸に戻ってから1週間ほどはかなりの高熱が続いていた。
目というより、足の傷が化膿してしまったようだった。
ランスロット様のお世話は、主にリゼル様の侍女だったアイラさんがしていたが、私もできることは申し出て手伝っていた。
ある時、たまたまランスロット様のお部屋に入った時に、彼の熱で汗に濡れた上半身をアイラさんが拭いているのを見てしまい、つい、そのお世話は自分がやると言ってしまった。
侍女とはいえ、違う女性がランスロット様のお身体に触れているのを見て、嫉妬のような気持ちが湧き上がった。
ランスロット様の隣に用意されたお部屋を使わせてもらっていたが、ここ数日は、簡単な朝食をとるとすぐに、隣のランスロット部屋に向かう。
いつもそこには、すでにアイラさんがいて、湯桶に入れた熱いお湯と布が用意されてた。
「では、王女様、お願いします」
アイラさんは、私にそっけなく言うと、私のお世話の仕方が適切かどうかを吟味するようにずっと見ている。
メアリから聞いたところ、アイラさんはダークフォール家の領地に古くからいる地主の娘さんで、ランスロット様とは幼馴染ということだった。
公爵家の使用人は、皆一様に私とメアリから一線を画したように接している。
特に公にはされていないが、私の王妃がリゼル様に危害を加えようとしていたことを薄々知っているようで、使用人達は、一様に私たちによそよそしかった。
中でもリゼル様付きの侍女だったアイラさんは、そのよそよそしさを隠そうともしない。
はっきりと、警戒感を露わにしている。
いつも私がランスロット様のお部屋に行く前には必ずいて、そして私が退出するまでずっといる。私が万一、彼に危害を加えることがないか警戒しているようだった。
ある朝、誰よりも早くランスロット様に会って、彼の寝顔を一人で眺めたくて、自分の朝食を取るより先にお部屋に入って寝台の傍に座っていると、程なくしてアイラさんが部屋に入ってきた。
一瞬目を大きく見開いて、私がお側に座っているのを見てとると、すごくびっくりしているようだった。
アイラさんを出し抜いて驚かせたことに一人ほくそ笑み、翌日、また朝食前の早い時間にランスロット様のお部屋に向かうと、なんとすでにアイラさんが寝台の傍に、私がいつも座っていた椅子に悠然と腰掛けていた。
熱の出ているランスロット様の額に置いてある冷たい布を変えているところで、私が入ってきたのを見て取ると、余裕の笑みを浮かべていた。
「おはようございます。王女様。今朝はお早くていらっしゃいますね。ここは私が見てますから、今はお手伝いいただくことはありません。先に朝食をお済ませになっては?」
してやったりというような声音で言われ、思わず頭にかぁっと血がのぼる。
私はお菓子を横取りされてムクれた子供のように、何も言わずにぷいと部屋を出て自分の部屋に駆け込んだ。
ランスロット様の部屋の扉を閉めるときに、背後からくすくすっという笑い声が聞こえ、なぜか敗北感と泣きたい気持ちが入り混じる。
自分の寝台にばさりと体を投げ出すとじんわりと涙がにじんできた。
まるで子供だ・・・・
自分でランスロット様のお怪我が良くなるまで、と見栄を張って言ったにも関わらず、本当は彼といっときでも長く側にいたかった。
私はランスロット様の子供を宿しているけれど、結婚を申し込まれてはいない。
彼は、愛していると言っただけで、その先についてはどうするつもりなのかを言わなかった。
いえ、言えなかったのだろうか。
私は、彼にとってもお荷物なのだ・・・。
小国ローゼンの王女である私が、鳴り物入りでカイル様の婚約者になり周りからもてはやされた。
母がエルミナール王家に仇なすと、私は一気に腫れ物のようになってしまった。
婚約が解消されると、メアリが密かに近隣諸国の親戚筋の王家に打診したが、所縁のある王家でも私を預かろうとする国はなかった。
祖国ローゼンは、エルミナール帝国に挙兵されるのを恐れ、父は母の陰謀を知ると即座に退位し、まだ10歳の弟王子が即位した。そのためエルミナール帝国から摂政が派遣されて、今や、ローゼンはエルミナールの属国となってしまった。
国もまだ不安定な状況だ。
メアリから、ローゼンの貴族達はエルミナールが攻め込んだという噂に翻弄され、大半は国から逃げ出したとも聞いている。
そんな混乱をきたしている国に、私のいる余裕さえないだろう。弟王子のお荷物にもなりたくはなかった。
どこにも居場所のない王女。
誰も触れたくない、忌み嫌われる存在。
母がエルミナール王家にしたことを思えば、当たり前だ。
思えば、ランスロット様だって好きで私を抱いたわけじゃない。国のための苦渋の選択だったのだ。
あの仮面舞踏会の夜の出来事は、すべて私の幻想に過ぎない。
騎士に扮したランスロット様に愛されたというのは一夜の甘いまやかし。あの夜、彼の誘惑にまんまと引っかかった私を馬鹿な女と思っているだろう。
ランスロット様が欲しいのは、きっと嫡子となるこの赤ちゃんだけ。
その昔、エルミナール王家の始祖である光の神と対をなしたと言われる闇の神の血を引くダークフォール家の嫡子には、とてつもない魔力が受け継がれるという。
その後継が欲しいだけなのよ‥。
彼やダークフォール家の人々が私に感じているのは、責任感しかない。
ランスロット様は、あの仮面舞踏会の夜のように、自分に与えられた仕事をこなすように義務感からまやかしの愛を囁いているだけなのだ。
結局、その日は誰とも会いたくなくて、体調不良を理由に一日中部屋から出なかった。
今朝のようにアイラさんの勝ち誇ったような眼差しを見たくなかった。ランスロット様の部屋で、アイラさんとランスロット様のお世話を取り合うように時間を共有するのが嫌だった。
でも夕方になり、どうしてもランスロット様のお顔がひとめ見たくなって、自分の部屋を出ると、隣の部屋の扉をそっと開ける。
目に飛び込んできたのは、ランスロット様が熱が下がったのか、寝台の上に起き上がって、アイラさんが口元に運んでいるスープを飲んでいるところだった。
気のおけない二人なのだろう。
ランスロット様は、むき出しの裸の上半身にガウンを羽織っただけのしどけない姿で、これ以上ないくらいに優しい目でアイラさんを見ている。
アイラさんも頬をバラ色に上気させて嬉しそうに何かを話しながら、スープを口元に運んでいた。
二人の間には、単なる主従関係を越えたような親密さが伺えた。
まるで打ち解けた夫婦のような二人の光景を目の当たりにして、自分の胸にぐさりと矢が突き刺さったような痛みを覚えた。
自分が動いたら二人の親密な時間が壊れてしまいそうだった。
そして残念そうな目をアイラさんに向けられることで、自分が邪魔者なのだと悟るのが怖くて扉を少し開いたまま、その場に硬直してしまった。
きっとアイラさんは主従関係ではなく、それ以上にランスロット様をお慕いしているのだ。
呆然としていると、ランスロット様が私に気がついて、ぱっと目を大きく見開いた。
「フィオナ! よかった‥」
よかったとはどういう意味なのだろう?
傍では先ほどまで笑顔でいたアイラさんが溜息をつくと途端に厳しい顔に戻っていた。
「こっちにおいで」
その声音はとても優しい。
たいして気持ちなんてこもっていないと分かっていても、抗えずに呼ばれるまま吸い寄せられるように寝台に近づいた。
「アイラ、下がっていいよ。続きはフィオナにしてもらうから」
そんな単純な言葉に嬉しさが湧き上がると同時に、まるで好みの女性を取り替えるかのような言い方に、少し躊躇する。
アイラさんも、食事を持つ手がびくりと震えて固まったかと思うと、少し泣きそうな顔になっていた。
だけれどそれは本当に、ほんの一瞬で、すぐにベテランの侍女の顔を取り戻し、ランスロット様に笑顔を向けると、ちらりと私を一瞥して素早く部屋を出て行った。
「フィオナ、こっちにおいで‥寝台の上に‥」
そう言うや否や、病み上がりとは思えない力強さで、私の手を引いて寝台の上に引っ張り上げた。
自分の前に座らせると、後ろから覆いかぶさるように背後からぎゅっと抱きしめてきた。
まだ少し熱を持った熱い肌の感触にじんとしたさざ波が身体中に湧き上がった。
「ああ、フィオナ。こうしたくてたまらなかった」
ランスロット様の熱い手が、私の乳房をそっと包んだ。
両手で胸のふくらみをすっぽりと覆われ、やわやわと優しく揉みほぐされる。
「あっ………」
声を上げると同時に頭がランスロット様の方にのけぞってしまった。
それを逃さぬように、首筋をちゅ…と吸われる。
「ひぅっ……」
途端に、甘い疼痛が走り抜けた。
「だ、だめです。こんなこと。ランスロット様、やっとお目覚めになったばかりで…」
「ふ、確かに目覚めてしまっている。痛いほどに」
やはり痛みがあるのだわ。
でも耳をくすぐる声が心地よく響く。
ぼうっとしているとランスロット様の手が、胸元のボタンをプチプチと外していた。
はっと気がつき、慌ててはだけそうな胸元を掴む。
「だ、だめ・・・」
「さぁ、可愛がってあげるから手を離して」
私が掴んでいた手を外すと、強引に胸元を押し広げて、決して豊かとは言えない乳房を露わにした。
ランスロット様の大きな手に掬い上げられ、指の腹で乳頭を摘まれくりくりとこね回されると、つんと硬く尖るのがわかり、あまりの甘い疼きに吐く息が震えてしまった。
「まいったな。ちょっと触れ合いたかっただけなのに、火がついてしまった」
ランスロットは、フィオナのスカートをそっとたくし上げると、ドロワーズの中に手を入れて、直にフィオナのしっとりと濡れ初めた秘所に手を這わせた。
「フィオナも寂しかっただろう? 俺は君の幻ばかり見ていた。こんなふうに」
熱い手が秘所を弄ったあと、手が下におりると指先でくちゅくちゅと音を鳴らした。
「やっ、あぅ…」
「体は正直だよ。俺から離れられないようにしてやろう」
とっくに心では離れられないのをもう自覚しているのに、さらにこんなことをされては、自分の決心が揺らいでしまう。
またランスロット様の甘い罠にかかってしまう…
ドロワーズの中の指を秘唇に差し入れ、花びらを掻き分けて肉芽を撫で上ると、指で器用にくちゅくちゅとぬかるんだ水音を立てながら擦り回す。
とたんに快感が高まって鋭い痺れが走った。
私はもう、この甘い牢獄から逃れられないのでは・・・
なんとか体を離さなければと思うのに、頭とは裏腹に体が言うことを聞かない。
さらに片方の手も乳房を時折揉みしだかれ、きゅうとこね回されると、ランスロット様にくたりと身を預けて息も絶え絶えになった。
「フィオナ、私の側にいるんだ。君の居場所はここなんだ…」
さらに花芽をくりくりと弄られると、我慢の限界がやってきそうだった。
耳元で、ランスロット様が何かを囁いている。
あと少し…
何が何だかわからないけれど、あと少しの刺激で、大きな快感がやってきそうな気がした。
「ランスロット! 目が覚めたのね!」
いきなりランスロット様の部屋の扉が、バタンと開けられ公爵夫人が飛び込んできた。
ランスロット様が耳元で思い切り毒ずくと、ドロワーズの中から手を差し抜いて、寝台の上にあったひざ掛けを私のむき出しの胸の上から覆った。
一瞬、何が起こったかわからなかったが、公爵夫人の方も私とランスロット様を唖然とした顔で見ていた。
その途端、自分がたった今、なにに溺れていたかを自覚し、一気に頭に血流が集まり顔が沸騰しそうなほど真っ赤になる。
ひざ掛けで胸を押さえつつ寝台から飛び降りると、公爵夫人の横をすり抜けてランスロット様の部屋を飛び出した。
扉の外にはアイラさんがいて、真っ赤になって慌てふためく私を見て、またくすりと笑ったのが目に入った。
隣の自室に駆け込むと、寝台の上に倒れこむ。
はずかしい!
くやしい!
きっとアイラさんが公爵夫人にランスロット様が目が覚めたのを伝えたんだわ!
私が部屋に行くまでは、公爵夫人にも連絡せずに、二人きりでスープを食べさせていたのに。
私が取って代わった途端に、公爵夫人にランスロット様の目が覚めたことを伝えたのよ・・・!
先ほどは、ランスロット様の一言で涙ぐんでいたかに見えたアイラさんをちょっと可哀想にも思った。
だけど、とんだ間違いだわ!
彼女は侮れない・・・!
フィオナは、恥ずかしさと悔しさで寝台の上で身悶えていた。
一方、ランスロットの部屋では……
「それで?申し開きは? またフィオナ様を無理やり抱くつもり?」
公爵夫人が息子に向かって冷たく言い放った。
「くそ、ノックぐらいしたらどうなんだ!」
「まったく、あなたときたら、我が息子ながら本当にあきれたわ。高熱でずっとうなされていて、人がどれだけ心配したと思っているの」
「もう、元気になったから出てってくれ」
「たしかに、とても元気そうね」
公爵夫人は、ランスロットの昂りに気がついて、冷ややかな視線を送る。
それは薄い掛け布の上からくっきりとその形がわかるほど勃ち上がっていた。
ランスロットは不完全燃焼のまま、寝台にうつ伏せにばたりと横になると呻くように呟いた。
「一人にしてくれ…」
あと少しでフィオナといい雰囲気になれたのに。
フィオナの甘い蜜の香りが頭から離れない…
なんだか、この家でフィオナを説得するのは邪魔も入り前途多難な気がした。
ランスロットは、この後、ちがう熱にうなされるのだった。
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公爵家にはメアリも一緒についてきており、公爵家のお仕事を手伝いながら、私の世話をしてくれている。
ランスロット様は、公爵邸に戻ってから1週間ほどはかなりの高熱が続いていた。
目というより、足の傷が化膿してしまったようだった。
ランスロット様のお世話は、主にリゼル様の侍女だったアイラさんがしていたが、私もできることは申し出て手伝っていた。
ある時、たまたまランスロット様のお部屋に入った時に、彼の熱で汗に濡れた上半身をアイラさんが拭いているのを見てしまい、つい、そのお世話は自分がやると言ってしまった。
侍女とはいえ、違う女性がランスロット様のお身体に触れているのを見て、嫉妬のような気持ちが湧き上がった。
ランスロット様の隣に用意されたお部屋を使わせてもらっていたが、ここ数日は、簡単な朝食をとるとすぐに、隣のランスロット部屋に向かう。
いつもそこには、すでにアイラさんがいて、湯桶に入れた熱いお湯と布が用意されてた。
「では、王女様、お願いします」
アイラさんは、私にそっけなく言うと、私のお世話の仕方が適切かどうかを吟味するようにずっと見ている。
メアリから聞いたところ、アイラさんはダークフォール家の領地に古くからいる地主の娘さんで、ランスロット様とは幼馴染ということだった。
公爵家の使用人は、皆一様に私とメアリから一線を画したように接している。
特に公にはされていないが、私の王妃がリゼル様に危害を加えようとしていたことを薄々知っているようで、使用人達は、一様に私たちによそよそしかった。
中でもリゼル様付きの侍女だったアイラさんは、そのよそよそしさを隠そうともしない。
はっきりと、警戒感を露わにしている。
いつも私がランスロット様のお部屋に行く前には必ずいて、そして私が退出するまでずっといる。私が万一、彼に危害を加えることがないか警戒しているようだった。
ある朝、誰よりも早くランスロット様に会って、彼の寝顔を一人で眺めたくて、自分の朝食を取るより先にお部屋に入って寝台の傍に座っていると、程なくしてアイラさんが部屋に入ってきた。
一瞬目を大きく見開いて、私がお側に座っているのを見てとると、すごくびっくりしているようだった。
アイラさんを出し抜いて驚かせたことに一人ほくそ笑み、翌日、また朝食前の早い時間にランスロット様のお部屋に向かうと、なんとすでにアイラさんが寝台の傍に、私がいつも座っていた椅子に悠然と腰掛けていた。
熱の出ているランスロット様の額に置いてある冷たい布を変えているところで、私が入ってきたのを見て取ると、余裕の笑みを浮かべていた。
「おはようございます。王女様。今朝はお早くていらっしゃいますね。ここは私が見てますから、今はお手伝いいただくことはありません。先に朝食をお済ませになっては?」
してやったりというような声音で言われ、思わず頭にかぁっと血がのぼる。
私はお菓子を横取りされてムクれた子供のように、何も言わずにぷいと部屋を出て自分の部屋に駆け込んだ。
ランスロット様の部屋の扉を閉めるときに、背後からくすくすっという笑い声が聞こえ、なぜか敗北感と泣きたい気持ちが入り混じる。
自分の寝台にばさりと体を投げ出すとじんわりと涙がにじんできた。
まるで子供だ・・・・
自分でランスロット様のお怪我が良くなるまで、と見栄を張って言ったにも関わらず、本当は彼といっときでも長く側にいたかった。
私はランスロット様の子供を宿しているけれど、結婚を申し込まれてはいない。
彼は、愛していると言っただけで、その先についてはどうするつもりなのかを言わなかった。
いえ、言えなかったのだろうか。
私は、彼にとってもお荷物なのだ・・・。
小国ローゼンの王女である私が、鳴り物入りでカイル様の婚約者になり周りからもてはやされた。
母がエルミナール王家に仇なすと、私は一気に腫れ物のようになってしまった。
婚約が解消されると、メアリが密かに近隣諸国の親戚筋の王家に打診したが、所縁のある王家でも私を預かろうとする国はなかった。
祖国ローゼンは、エルミナール帝国に挙兵されるのを恐れ、父は母の陰謀を知ると即座に退位し、まだ10歳の弟王子が即位した。そのためエルミナール帝国から摂政が派遣されて、今や、ローゼンはエルミナールの属国となってしまった。
国もまだ不安定な状況だ。
メアリから、ローゼンの貴族達はエルミナールが攻め込んだという噂に翻弄され、大半は国から逃げ出したとも聞いている。
そんな混乱をきたしている国に、私のいる余裕さえないだろう。弟王子のお荷物にもなりたくはなかった。
どこにも居場所のない王女。
誰も触れたくない、忌み嫌われる存在。
母がエルミナール王家にしたことを思えば、当たり前だ。
思えば、ランスロット様だって好きで私を抱いたわけじゃない。国のための苦渋の選択だったのだ。
あの仮面舞踏会の夜の出来事は、すべて私の幻想に過ぎない。
騎士に扮したランスロット様に愛されたというのは一夜の甘いまやかし。あの夜、彼の誘惑にまんまと引っかかった私を馬鹿な女と思っているだろう。
ランスロット様が欲しいのは、きっと嫡子となるこの赤ちゃんだけ。
その昔、エルミナール王家の始祖である光の神と対をなしたと言われる闇の神の血を引くダークフォール家の嫡子には、とてつもない魔力が受け継がれるという。
その後継が欲しいだけなのよ‥。
彼やダークフォール家の人々が私に感じているのは、責任感しかない。
ランスロット様は、あの仮面舞踏会の夜のように、自分に与えられた仕事をこなすように義務感からまやかしの愛を囁いているだけなのだ。
結局、その日は誰とも会いたくなくて、体調不良を理由に一日中部屋から出なかった。
今朝のようにアイラさんの勝ち誇ったような眼差しを見たくなかった。ランスロット様の部屋で、アイラさんとランスロット様のお世話を取り合うように時間を共有するのが嫌だった。
でも夕方になり、どうしてもランスロット様のお顔がひとめ見たくなって、自分の部屋を出ると、隣の部屋の扉をそっと開ける。
目に飛び込んできたのは、ランスロット様が熱が下がったのか、寝台の上に起き上がって、アイラさんが口元に運んでいるスープを飲んでいるところだった。
気のおけない二人なのだろう。
ランスロット様は、むき出しの裸の上半身にガウンを羽織っただけのしどけない姿で、これ以上ないくらいに優しい目でアイラさんを見ている。
アイラさんも頬をバラ色に上気させて嬉しそうに何かを話しながら、スープを口元に運んでいた。
二人の間には、単なる主従関係を越えたような親密さが伺えた。
まるで打ち解けた夫婦のような二人の光景を目の当たりにして、自分の胸にぐさりと矢が突き刺さったような痛みを覚えた。
自分が動いたら二人の親密な時間が壊れてしまいそうだった。
そして残念そうな目をアイラさんに向けられることで、自分が邪魔者なのだと悟るのが怖くて扉を少し開いたまま、その場に硬直してしまった。
きっとアイラさんは主従関係ではなく、それ以上にランスロット様をお慕いしているのだ。
呆然としていると、ランスロット様が私に気がついて、ぱっと目を大きく見開いた。
「フィオナ! よかった‥」
よかったとはどういう意味なのだろう?
傍では先ほどまで笑顔でいたアイラさんが溜息をつくと途端に厳しい顔に戻っていた。
「こっちにおいで」
その声音はとても優しい。
たいして気持ちなんてこもっていないと分かっていても、抗えずに呼ばれるまま吸い寄せられるように寝台に近づいた。
「アイラ、下がっていいよ。続きはフィオナにしてもらうから」
そんな単純な言葉に嬉しさが湧き上がると同時に、まるで好みの女性を取り替えるかのような言い方に、少し躊躇する。
アイラさんも、食事を持つ手がびくりと震えて固まったかと思うと、少し泣きそうな顔になっていた。
だけれどそれは本当に、ほんの一瞬で、すぐにベテランの侍女の顔を取り戻し、ランスロット様に笑顔を向けると、ちらりと私を一瞥して素早く部屋を出て行った。
「フィオナ、こっちにおいで‥寝台の上に‥」
そう言うや否や、病み上がりとは思えない力強さで、私の手を引いて寝台の上に引っ張り上げた。
自分の前に座らせると、後ろから覆いかぶさるように背後からぎゅっと抱きしめてきた。
まだ少し熱を持った熱い肌の感触にじんとしたさざ波が身体中に湧き上がった。
「ああ、フィオナ。こうしたくてたまらなかった」
ランスロット様の熱い手が、私の乳房をそっと包んだ。
両手で胸のふくらみをすっぽりと覆われ、やわやわと優しく揉みほぐされる。
「あっ………」
声を上げると同時に頭がランスロット様の方にのけぞってしまった。
それを逃さぬように、首筋をちゅ…と吸われる。
「ひぅっ……」
途端に、甘い疼痛が走り抜けた。
「だ、だめです。こんなこと。ランスロット様、やっとお目覚めになったばかりで…」
「ふ、確かに目覚めてしまっている。痛いほどに」
やはり痛みがあるのだわ。
でも耳をくすぐる声が心地よく響く。
ぼうっとしているとランスロット様の手が、胸元のボタンをプチプチと外していた。
はっと気がつき、慌ててはだけそうな胸元を掴む。
「だ、だめ・・・」
「さぁ、可愛がってあげるから手を離して」
私が掴んでいた手を外すと、強引に胸元を押し広げて、決して豊かとは言えない乳房を露わにした。
ランスロット様の大きな手に掬い上げられ、指の腹で乳頭を摘まれくりくりとこね回されると、つんと硬く尖るのがわかり、あまりの甘い疼きに吐く息が震えてしまった。
「まいったな。ちょっと触れ合いたかっただけなのに、火がついてしまった」
ランスロットは、フィオナのスカートをそっとたくし上げると、ドロワーズの中に手を入れて、直にフィオナのしっとりと濡れ初めた秘所に手を這わせた。
「フィオナも寂しかっただろう? 俺は君の幻ばかり見ていた。こんなふうに」
熱い手が秘所を弄ったあと、手が下におりると指先でくちゅくちゅと音を鳴らした。
「やっ、あぅ…」
「体は正直だよ。俺から離れられないようにしてやろう」
とっくに心では離れられないのをもう自覚しているのに、さらにこんなことをされては、自分の決心が揺らいでしまう。
またランスロット様の甘い罠にかかってしまう…
ドロワーズの中の指を秘唇に差し入れ、花びらを掻き分けて肉芽を撫で上ると、指で器用にくちゅくちゅとぬかるんだ水音を立てながら擦り回す。
とたんに快感が高まって鋭い痺れが走った。
私はもう、この甘い牢獄から逃れられないのでは・・・
なんとか体を離さなければと思うのに、頭とは裏腹に体が言うことを聞かない。
さらに片方の手も乳房を時折揉みしだかれ、きゅうとこね回されると、ランスロット様にくたりと身を預けて息も絶え絶えになった。
「フィオナ、私の側にいるんだ。君の居場所はここなんだ…」
さらに花芽をくりくりと弄られると、我慢の限界がやってきそうだった。
耳元で、ランスロット様が何かを囁いている。
あと少し…
何が何だかわからないけれど、あと少しの刺激で、大きな快感がやってきそうな気がした。
「ランスロット! 目が覚めたのね!」
いきなりランスロット様の部屋の扉が、バタンと開けられ公爵夫人が飛び込んできた。
ランスロット様が耳元で思い切り毒ずくと、ドロワーズの中から手を差し抜いて、寝台の上にあったひざ掛けを私のむき出しの胸の上から覆った。
一瞬、何が起こったかわからなかったが、公爵夫人の方も私とランスロット様を唖然とした顔で見ていた。
その途端、自分がたった今、なにに溺れていたかを自覚し、一気に頭に血流が集まり顔が沸騰しそうなほど真っ赤になる。
ひざ掛けで胸を押さえつつ寝台から飛び降りると、公爵夫人の横をすり抜けてランスロット様の部屋を飛び出した。
扉の外にはアイラさんがいて、真っ赤になって慌てふためく私を見て、またくすりと笑ったのが目に入った。
隣の自室に駆け込むと、寝台の上に倒れこむ。
はずかしい!
くやしい!
きっとアイラさんが公爵夫人にランスロット様が目が覚めたのを伝えたんだわ!
私が部屋に行くまでは、公爵夫人にも連絡せずに、二人きりでスープを食べさせていたのに。
私が取って代わった途端に、公爵夫人にランスロット様の目が覚めたことを伝えたのよ・・・!
先ほどは、ランスロット様の一言で涙ぐんでいたかに見えたアイラさんをちょっと可哀想にも思った。
だけど、とんだ間違いだわ!
彼女は侮れない・・・!
フィオナは、恥ずかしさと悔しさで寝台の上で身悶えていた。
一方、ランスロットの部屋では……
「それで?申し開きは? またフィオナ様を無理やり抱くつもり?」
公爵夫人が息子に向かって冷たく言い放った。
「くそ、ノックぐらいしたらどうなんだ!」
「まったく、あなたときたら、我が息子ながら本当にあきれたわ。高熱でずっとうなされていて、人がどれだけ心配したと思っているの」
「もう、元気になったから出てってくれ」
「たしかに、とても元気そうね」
公爵夫人は、ランスロットの昂りに気がついて、冷ややかな視線を送る。
それは薄い掛け布の上からくっきりとその形がわかるほど勃ち上がっていた。
ランスロットは不完全燃焼のまま、寝台にうつ伏せにばたりと横になると呻くように呟いた。
「一人にしてくれ…」
あと少しでフィオナといい雰囲気になれたのに。
フィオナの甘い蜜の香りが頭から離れない…
なんだか、この家でフィオナを説得するのは邪魔も入り前途多難な気がした。
ランスロットは、この後、ちがう熱にうなされるのだった。
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イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
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