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番外編

~あの夜を忘れない~ランスロット&フィオナ(2)

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「ランスロット殿。気がつかれましたかな?」

 耳障りの悪い声に気がつくと、硬い石の床の上に転げられ、両手を縄で縛られていた。
 二、三度まばたきをして視界をはっきりとさせて見上げると、ローゼン王国でマリエンヌ王妃の側近であるリスコーム宰相とエルミナール帝国の駐在大使であるツェーザリがいた。

「やはり、おまえらか…」
 おもむろに半身を起こし、縛られた縄を魔力で解放しようとしたが、全く反応がない。眉を顰めるとリスコームが、見透かしたように言った。

「ランスロット殿。貴方の首には魔力を封じる鎖が巻いてあります。まぁ、一時的なものですが。それでも2日は魔力が使えないでしょう」

 ランスロットは心の中で毒づいた。俺としたことが、焦るあまり警戒を怠った。あの王妃のことだから、何か罠が仕掛けてあると容易に想像できたはずなのに・・・

 だが、今ここで動揺を悟らせるわけにはいかない。

「リスコーム。すでにお前と王妃の陰謀は分かっている。なんのためにフィオナ王女をカイルに嫁がせることにしたのかも、全て。今のうちにカイルから手を引くのならば、温情ある処遇を考えてやろう」

「ふっ、ふははは…。流石、あの皇子の腹心の部下だけあってエルミナールのオオカミは威勢がいいことだ。だが、捕らえられているということをお忘れなく。ランスロット殿」

「私を捕らえたところで遅い。すでに我が国は、お前らの企みは把握している。観念したほうがいいぞ」

「そのように吠えないほうが身のためだぞ。全く、活きのいいオオカミのオスは手に余って困る」

 ランスロットは、時間を稼ぎながらこの部屋の様子を盗み見た。
 この部屋には窓がない・・・。地下室だろうか。床も壁も石でできている。
 出口はひとつ。リスコームの背後にある扉だ。

 リスコームの傍らに立つツェーザリは短剣を腰にぶら下げていた。

 隙をついてあの短剣を奪うことができれば、ここを抜け出せそうだ…。
 ランスロットは二人を油断させるため、従順になった振りをしようとした。

「ツェーザリ、さぁ、あれを持ってくるのだ」

 リスコームの含みを持たせた言葉に、警戒するようにツェーザリを見ると、ツェーザリが下卑た笑みを浮かべながら盆にのせたガラス瓶を持ってきた。それは香水の瓶より大きい、薬を入れるような瓶に薄桃色の液体がたっぷりと入っている。

「ランスロット殿、貴方のお探しのものですよ」

 盆にのったガラス瓶を取り上げると、ランスロットの目の前に掲げた。

 ランスロットの体にぞわりと嫌な予感が走り、このまま一気に扉まで駆け出そうとしたが、リスコームの魔力に押さえつけられていて体が固まったように動かない。

「鎖で一時的に魔力が抑えられている貴方であれば、私でも貴方の動きを封じることができるのですよ」

 ゆらゆらと目の前でガラス瓶を振り子のように振りながら、血走った眼差しを向けて囁いた。

「戦であれば活きのいいオスも嫌いではありませんが、今は貴方の有り余る精気を吐き出して大人しくなってもらいましょう」

 ツェーザリが、ランスロットの顎を抑えて口を無理やり開けさせる。
 リスコームが瓶の栓を抜いて、どくどくと液体をランスロットの口の中に注ぎ込むとツェーザリが口を押さえて液体を飲みこませた。

「ぐっ…げほっ…」

 むせかえるような液体の甘さに咳き込む。喉元から熱い液体がどろりと伝って胃の腑に流れ落ちるのを感じた。

「くそ、これは……」

 胃の中でその液体がじんじんと熱く痺れ出すのを感じた。

「ふふ、お察しのとおり、貴方が探していた性的興奮剤ヘブンですよ。しかも通常の大人の男の3倍の量をたっぷり飲ませてあげました」

 リスコームとツェーザリは、顔を見合わせて乾いた笑い声を出した。

「まぁ、安心してください。死ぬことは多分ないでしょう。ただ、死なないまでも、朝まで身もだえして気が狂うか、一晩中、勃起したまま射精し続けるかのどちらかでしょうな」

「くそやろうがっ!」

 ランスロットが怒りに目をぎらつかせて飛びかかろうとするのをまた、リスコームが魔力で押さえつける。

「明日の朝、貴方にお会いするのが楽しみだ。精気を吐き出し、己の白濁にまみれて生きた屍のような姿になった貴方をね。ランスロット殿」

 通常の3倍の量を飲ませられ、それでなくとも即効性のある媚薬に呻きながら床に突っ伏したランスロットを残して、リスコーム宰相とツェーザリは部屋を出た。

 出入り口の扉の鍵を閉めるなり、リスコーム宰相が重い溜息を吐く。

「リスコーム宰相様、明日、あの男をどうしますか?」

 ツェーザリが恐る恐るリスコームに訊いた。

「とりあえず時間稼ぎをしたが、我らの秘密を知られたからには、ほふるほかないだろう。あの男はカイル皇子に匹敵する魔力をもっている。あの鎖の効果ももって2日ほどしか持たないだろうからな。剣の腕もやつの右に出るものはいない。魔力が切れたら厄介だ。…明日の朝、媚薬で弱ったところを一思いに殺るしかない…」

 そして屍体をエルミナールに運び、事故死にみせかけなければ。
 そうしなければ、我々が破滅する。王妃も私も…

 リスコームの背中には冷や汗がじっとりと滲み出していた。


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