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初恋編

50話 塔の番人*

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「んん・・・」

 底冷えのする寒さと、ざぁざぁと馬車の屋根を打つ雨音に、リゼルのたゆたう意識が引き上げられる。
 身じろぎして、目を開け周りを見るとランタン1つしかないほの暗い馬車の中は、鉄格子越しの窓にいつの間にか雨粒が打ち付けては、とめどなく流れていた。
 
 今までの出来事がどこか夢の中の出来事のようで、もう一度目をつむって開けば、公爵邸の自室であれば良いのにと思いながら、きゅっと目を閉じたが、リゼルの耳に衛兵の冷たい声が響いた。

「なにをやっている。もう、咎人の塔に着くぞ」

 目を開けるとそこは冷たい馬車のままで、車輪のがたがたという煩く鳴り響いていた音が急に止まると、衛兵が外から馬車の扉を開けた。

「降りろ」

 扉の外は冷たい雨が降り注いでいたが、衛兵たちはリゼルが濡れるのもおかまいなしに、手に繋がれた縄を引っ張りあげ、馬車の外へと連れ出した。

 ぬかるんだ泥の上に降り立つと、リゼルは、初めて自分が室内履きのまま連れ出されたことに気がついた。真っ白い室内履きが冷たい泥水を吸い込んでみるみるうちに、茶色に染まっていく。

 一歩進むとじゅぷ、という気味の悪い感触が足元に伝わり思わずぞくりとする。

 見上げると、そびえ立つ塔の周りには、圧迫感のある高い石塀がぐるりとその周りを取り囲んでいた。

 たとえ塔から逃げられたとしても、この石塀を乗り越えて逃げおおせるのは無理だろう。
 今まで何人の人がここに到着して、その絶望を感じたのかしら・・・
 きっと、私のように無実の罪を着せられていた人もいるに違いない・・・

 そんな思いがよぎり、リゼルが不安にかられながら塔を見上げていると、衛兵が追い打ちをかけるように言った。

「さぁ、お前の短い旅は終わったぞ。ここが『最後の家』だ」

「さ、最後の家?」

「ああ、ここは通称『最後の家』とも言う。お前たち囚人が『最後の時を待つ家』という意味だ」

 その言葉に思わず後ずさると、犬の首輪を引っ張るようにリゼルの縛られている手首の縄をぐいと引っ張り、強引に石塀にある門の前に引きずった。

 すでに簡素なデイドレスは雨に濡れて冷たく重くなっている。
 縛られた手首も雨に濡れ、その冷たさと痺れでじんじんとした痛みが走っていた。

 衛兵に痺れる手首を引きずられて石塀の門をくぐると、石畳がまっすぐ塔の入り口まで続いていた。

 塔とはいえ、まるで小さな城のようだわ。
 中にはいくつも部屋があるようだ・・・

 リゼルは塔と聞いて、人がひとりぐらいの牢屋しかないようなものかと思っていたが、そこは古い城の一部のようだった。

 大きな扉の前に来ると重そうな鉄の扉が、ぎぎぎと妙な音を立ててゆっくりと開き、中から人影が現れた。

「これはこれは、久しぶりの来客だ。しかも若い娘とは」

 塔の中からぬっと出てきたのは中肉中背の男だった。焦茶色の髪、ぎょろりとした目、腰には短剣を下げていた。

 男はリゼルの足元から頭のてっぺんまでじっくりと舐め回すような目で見ると、にやりと笑った。

「ようこそ、咎人の塔へ。お嬢さん」

「塔の番人殿、王宮の命により、王女暗殺、および侍女の殺害を企てた囚人を連れてきた。明日の審判の時までその身柄を幽閉しておくように」

 衛兵が塔の番人に羊皮紙に書かれた王宮の命令書を見せた。

「もちろん、早馬で王宮の命令は届いておりますぞ。準備もできております。さぁ、お嬢さんは塔の中へ。塔の中は、塔の番人と囚人しか入れぬ。衛兵殿は、塔の周囲で警備をお願いします」

 リゼルはそこで衛兵から塔の番人に引き渡された。その時、塔の番人がリゼルを見て、密かに舌なめずりをしていたのには気がつかなかった。

「こっちだ。ついてこい」

 リゼルは縄を引かれ、塔の中に足を踏み入れた。階段を降りて地下に連れて行かれると、薄暗い塔の内部の壁には、今にも消えかけそうな蝋燭が置かれ、時折、ゆらゆらと揺らめき、リゼルと塔の番人の二人の影を石畳の床に不気味に映し出していた。

 ふと前方を見ると、奥の方にテーブルと椅子のある小部屋が見えた。

 あの小部屋に入れられるのだろうか・・・

 リゼルが牢屋でなくてほっとしたのもつかの間、目が慣れてくるとその部屋には、朽ちかけたテーブル、朽ちかけた椅子、その椅子の肘掛には、ちぎれた縄がそのままぶら下がっている。
 奥にある石がむき出しになった壁には、錆びかけた鉄の輪がはめ込まれ、そこから鎖がのびて床にとぐろを巻くように溜まっていた。

 いや、怖い・・・・!

 声にならない悲鳴をあげそうになった時、塔の番人はその小部屋の前を通り過ぎた。リゼルから安堵のため息が漏れ、全身の力が一気に抜けたような気がした。と同時に、どんな部屋に連れて行かれるのだろうという恐怖で足がガクガクとして震えが走り、うまく歩くことができない。

 塔の番人に引き立てられるまま、狭い廊下の奥を進んでいくと、少し開けた明るい場所に出た。
 そこは普通の牢屋だった。
 何もない石の壁で囲まれた小部屋に鉄格子がはめ込まれている。右端には、鍵のかかった小さな扉があった。

 「さぁ、ここに入るんだ」

 リゼルは、ほっとして安堵に全身の力が抜けた。
 番人はリゼルを牢の中に入れると、がちゃりと錠をかけた。

「ここで明日までゆっくりと過ごすといい」

 そう言いながらリゼルの爪先から腰のくびれ、雨に濡れて布がぴったりと張り付いた形の良い胸をゆっくり舐め上げるように見ると、また薄ら笑いを浮かべ、そのまま牢屋の中のリゼルを眺め回している。

 一方、リゼルは牢屋の中に入るとウロウロと動き回った。寒さのせいもあるが、いてもたってもいられなかった。咎人の塔に連れてこられてからには、なにか良い手を考えなくては、ここから出られないのはうすうす分かっていた。なにか、考えなければ・・・。その気持ちは焦るばかりだった。

 その時、さきほどの衛兵が、明日、自分の審判があると言っていたのを思い出した。
 それは一体、何時なのだろう?明日の夜、お兄様が帰ってくるまでに間に合うのかしら…。

 そう考えるリゼルの心に、兄が予定どおり明日の夜にちゃんと帰ってくるかという不安とは別に、また違う不安が浮かぶ。

 ああ、カイル様は、このことをご存知なのかしら?
 私がフィオナ様を毒殺しようと誤解したまま、お怒りになっていらっしゃるのでは?
 まずは、カイル様に会ってお話ししたい。なんとか誤解を晴らさないと・・・

 リゼルは意を決して、鉄格子の外で自分を眺めている塔の番人に話しかけた。

「あ、あの。宮殿に使いを出すことはできますか?カイル皇子様のところに」

「使い?宮殿に?皇子様に?ひっーひひ・・・」

 番人はリゼルのその問いに、腹を抱えて笑いはじめた。

「使いも何も、ここには塔の番人の私しかいないというのに。ひっひひ・・」

 ひとしきり笑うと、リゼルの方に近づいて、下卑た笑いを浮かべて言った。

「だが、お前さんが、俺の…言うことを聞くなら、特別に使いを出してやろう」

 リゼルは、その言葉にほっとした。なんとしてもカイルに連絡をつけたかった。

「どうか、お願いします。私にできることならなんでもします」

「では、もっと鉄格子に近づけ。そしてひざま付け。ひひ」

 リゼルは不審に思いながらも、鉄格子に近づくと、そっとひざま付いた。
 
 すると番人は鉄格子を隔ててすぐにリゼルの前に立った。
 ちょうど、リゼルの顔の前に自分の股間がくるように立ちはだかると、卑猥な顔をしてリゼルを見下ろした。

「さぁ、俺の股間のものを触るんだ」

 リゼルは、ぎょっとして目を見張って後ずさった。

「やめて、そんなことはできません…」

 番人のその淫らな命令に恐ろしさで胃がよじれるような気がした。
 カイルに使いを出せないという絶望と恐怖が、ぐるぐるとリゼルの心にとぐろを巻くように蝕んでくる。
 
「ほう、いいのか?宮殿に使いを送って欲しいんだろう?お前の皇子様のところに?他の誰にも頼めないぞ。ここには俺しかいないからな」

 リゼルはその言葉を聞いて、唇をきゅっと噛み締めた。
 ああ、カイル様になんとか使いを送りたい。そう思って、ためらいながらも鉄格子に近づくと、またひざま付いた。

「いい子だ。女は素直が一番だ。さぁ、早く使いを出して欲しいなら触るんだ」

 ぎゅっと目をつぶって、震える手で股間の怒張して盛り上がった部分におそるおそる手をあてた。 両手首を縛られているため、両手で挟み込むようような形になる。

 その途端、番人の盛り上がったものが、びくりと蠢き、思わず驚いて手を離してしまった。

「ちっ!なにをやっているんだ。グズグズするな!」

 もう一度、手のひらをあてがうようにそっとその股間の盛り上がったところに手を添えた。

「うう。力が足りない。もっとだ、挟み込んで握るように」
 
 リゼルはそれを両手で握ると、ムクムクと大きくなった肉棒の生暖かい感触が手に伝わり、思わず顔をしかめた。

「ふぅ。全く下手くそだな。満足に男のものを握ったこともないのか。まぁ、いい。ひひ。」

 そう言うと、番人は腰の短剣と革ベルトを外し、ズボンの合わせ目の紐を解いてずり下げると、赤茶けた肉棒をリゼルの目の前にぶらんとさらけ出した。

「きゃっ!いやっ」

 思わず驚いて後ろに逃げようとするリゼルの手首の縄を引き戻し、その手をがしっと掴むと鉄格子の間から突き出した自分の肉棒をじかに握らせた。

「よく見ろ。こうやるんだよ。公爵家のお嬢さん。男の悦ばせ方も覚えておいた方がいいぞ。それにこのまま、皇子様に人殺しだと思われたままでいいのかい?」

 リゼルの手を自分の肉棒にあてがい、両手で握らせ上下に擦らせた。時折、紫色に腫れ上がった亀頭をぐるりと撫で回させた。肉棒はリゼルの手の動きに合わせてびくびくと生き物のように脈動し始めた。

「ああ、お前さんの手はすべすべする。なんて気持ちがいいんだ」

「いやぁ、やめて…離して」

 リゼルは顔を背けたが、番人がきつくリゼルの手を握り、自分の肉棒をこすり上げさせる。生暖かく、どこかぐにゃりとした気持ちの悪いおぞましい感触に涙が滲み始めた。さらに、その先端から汁がこぼれて、リゼルの手をベトベトに濡らしはじめた。

「う、はぁ、はぁ。ああ、いいぞ。やはり若い女の手は、違うな。この手でおれをかせてみろ。お前のお綺麗な顔にご褒美の汁をたっぷりかけてやる」

「こんなのいやぁ…!お願い、他のことはなんでもします。だからやめて。手を離して」

 リゼルは泣きながら塔の番人に訴えたが、番人は、ふんと笑うと、片手でリゼルの手を強引に自分の肉棒を擦らせ、もう一つの手はリゼルが動けないように、頭を抑え込んだ。

「皇子様に使いをやりたかったら、もっとうまく、しごくんだ。お前さんの醜い嫉妬で自分の婚約者の王女様を殺されそうになったんだ。きっとカイル皇子様とやらは、さぞやお怒りだろうよ・・・」

 ごしごしと擦り上げる心地よさに、だんだん番人の顔が恍惚として、呻き声を漏らしながら、リゼルの手の動きをさらに早めた。

「私じゃない、私は毒なんか入れていないの。殺してなんていない…」
 
 リゼルは抵抗することもできずに、番人のされるがまま手を動かされ、顔を背けて泣きじゃくっていた。

「うっ、はぁ、それをお前の皇子様に言いたいんだろう?はぁ、はぁ、さぁ、もっと…根元までもっと力を入れて擦るんだ。俺のペニスを皇子様のだと思って心を込めるんだ。うまく俺を達かせたら衛兵に頼んで宮殿に使いを出してやるぞ・・・」

 塔の牢屋には、リゼルのすすり泣きと、番人の恍惚とした荒い呻き声が響き渡っていた。


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