上 下
16 / 46

2-9

しおりを挟む
「ヒートの方はどうですか? 変わったことはありませんでしたか?」

 質問をするのは、直生の担当医だ。医者ということから考えて、恐らくαなのだろうが、偉ぶったところのない物静かな人物だった。以前の担当医はとても偉ぶっていて、気も強く直生は苦手だった。だから、その担当医が系列の他の病院へ行くということで担当が変わり、今の担当医に変わったときはとてもホッとしたものだ。
 温和な笑顔を浮かべていつもの質問をされたときに浮かんだのは神宮寺のことだ。
 ヒートもラットも起こしていないのに、お互いの香りが強くすること。そして昨日の指先が触れたときに電気が走ったようになり、体が熱くなり、ヒートを起こす前兆にとても似ていたこと。
 香りだけなら、気のせい、他の人も、ということができる。けれど、昨夜のことは気のせいとはとても言えない。そう思うと、医師に神宮寺のことを告げていた。

「その方の香りがしたときの気持ちはどうですか?」
「どう、とは?」
「落ち着かない気持ちになったとか、逆に落ち着いたとか」
「えっと。火事が起きた後に会ったんですけど、一人でいるときより少し気持ちが和んだというか、落ち着いたというか。そんなのはありました」
「距離があってもその方の香りはわかるんですよね」
「はい」
「そして、その方と指先が触れたら電気が走ったようになり、体が熱くなってヒートを起こす前兆になった、と」
「そうです」
「白瀬さんの香りは他の人にはわかるのかな?」
「あ、βの人にはわからないみたいです。他のαやΩはわかりませんけど。僕から香りがする、と言われたときにβの友人に訊いたら全くわからない、って言われました」
「そうですか」

 そう言って担当医は少し考える素振りをする。
 医師に話していて、直生はやっぱり偶然なのかもしれない、と思った。
 香りがしたのも落ち着くのも。触れたときにビリビリとしてヒートを起こしそうになったことも。なんらかの意味がありそうだけど、実はなんでもなくて単なる偶然が重なっただけなのではないか。そうでないと、今の直生にはキャパがいっぱいいっぱいだ。
 しかし、担当医の口から出てきた言葉は真逆の言葉だった。

「私も直接診たことがあるわけではありませんが、運命の番ではないか、と思われます」

 担当医は慎重に言った。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれβの恋の諦め方

めろめろす
BL
 αやΩへの劣等感により、幼少時からひたすら努力してきたβの男、山口尚幸。  努力の甲斐あって、一流商社に就職し、営業成績トップを走り続けていた。しかし、新入社員であり極上のαである瀬尾時宗に一目惚れしてしまう。  世話役に立候補し、彼をサポートしていたが、徐々に体調の悪さを感じる山口。成績も落ち、瀬尾からは「もうあの人から何も学ぶことはない」と言われる始末。  失恋から仕事も辞めてしまおうとするが引き止められたい結果、新設のデータベース部に異動することに。そこには美しいΩ三目海里がいた。彼は山口を嫌っているようで中々上手くいかなかったが、ある事件をきっかけに随分と懐いてきて…。  しかも、瀬尾も黙っていなくなった山口を探しているようで。見つけられた山口は瀬尾に捕まってしまい。  あれ?俺、βなはずなにのどうしてフェロモン感じるんだ…?  コンプレックスの固まりの男が、αとΩにデロデロに甘やかされて幸せになるお話です。  小説家になろうにも掲載。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

螺旋の中の欠片

琴葉
BL
※オメガバース設定注意!男性妊娠出産等出て来ます※親の借金から人買いに売られてしまったオメガの澪。売られた先は大きな屋敷で、しかも年下の子供アルファ。澪は彼の愛人か愛玩具になるために売られて来たのだが…。同じ時間を共有するにつれ、澪にはある感情が芽生えていく。★6月より毎週金曜更新予定(予定外更新有り)★

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

つまりそれは運命

える
BL
別サイトで公開した作品です。 以下登場人物 レオル 狼獣人 α 体長(獣型) 210cm 〃 (人型) 197cm 鼻の効く警察官。番は匿ってドロドロに溺愛するタイプ。めっちゃ酒豪 セラ 人間 Ω 身長176cm カフェ店員。気が強く喧嘩っ早い。番限定で鼻が良くなり、番の匂いが着いているものを身につけるのが趣味。(帽子やシャツ等)

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...