不出来なオメガのフォーチュン

水無瀬 蒼

文字の大きさ
上 下
1 / 46

1-1

しおりを挟む
 世の中には第一性である男女に加えて、α、β、Ωという第二性(バース性)が存在する。
 バース性は10歳の時に受けるバース検査でわかる。
 αはエリート性とも言われ、何らかの特出した才能がある”エリート”だ。才能を欲しいままにしている人も多い。そして男女共に美しい人が多く、美男美女性とも言われている。
 政財界、会社社長の多くがαであると言われている。
 そんな、なんの弱点もなさそうだが、ひとつだけある。それはΩのフェロモンには適わないということだ。
 近くでヒートを起こしているΩがいると、そのフェロモンに当てられラットを起こしてしまい、我を忘れてしまうことがある。そのためα用の抑制剤を飲んでいる人が多い。
 数としては少なく、人口全体の10%と言われている。
 そんなα性と対になるのがΩ性だ。αの寵愛を受けるΩは男女ともに小柄で愛らしい容姿の人間が多い。
 Ω性は男性であっても子宮を持ち、妊娠・出産の可能な性だ。三ヶ月に一回、一週間ほどヒートと呼ばれる周期がある。その時は性のことしか考えられなくなり、フェロモンを出しαを誘惑する。
 突然ヒートを起こすと危険なため全員が抑制剤をのんでいる。
 ちなみにヒートが定期的にあることから、以前は一定の職につくのは難しく、性に特化した動物と言われるなど、差別を受けていたが、今では法規制もあり仕事にもαやβのように普通に職につくことはできるし、動物とまで言われていたのも、深刻な少子化を前に出産は国をあげて支援しているために差別はなくなってきている。
 人口の5%と言われている希少種であるため、今は国をあげて保護していると言っても過言ではない。
 そして最後にβ。βはいわゆる普通の人と言われていて人口の85%を占める。つまり、ほとんどの人間はβと考えて間違いない。
 希少性であるαとΩには、番という関係性がある。ヒート中のΩとの性行為中にαがΩの項を噛むことで番関係が成立する。番関係は解消することはできないため、一生続く。
 番を持ったΩのフェロモンは番にのみ向かい、不特定多数を誘惑することはなくなる。しかし、番のαとしか性行為ができなくなる。
 そんな番関係の中に、運命の番、と呼ばれる番関係がある。通常時でも互いのフェロモンが強く香り、接触することで通常のヒートとは異なる、緊急ヒートを起こすことがある。しかし、巡り合うのはとても稀なため、都市伝説だとも言われている。
 
 と言ったバース性をバース検査後、学校の保健体育の時間に徹底的に教わる。
 この頃から男女と言った性別を意識しだすとともにバース性についても意識しだす。いや、普通の男女性以上にバース性別は意識される。
 大人になると表立った性差別はないが、子供に関してはゼロとは言えない。子供ならではの無邪気な棘として、妊娠・出産可能な男Ωに棘は向く。いじめに発展することだってある。そのため、各学校のカウンセラーは男Ωの生徒に対して神経質になっている。いじめにでも発展したら男Ωの父兄が学校に乗り込んでくる、ということもあるからだ。
 
 
 白瀬直生は、そんないじめを受ける可能性が少なくない、男Ωだ。
 そのため、親も学校も判を押したように、いい年齢になったら番ができる、と言われて育った。一般でいう結婚と同じように。しかし、直生本人は、それは難しいだろうな、とΩと判明した時から思っていた。それは、直生の容姿とヒートの問題からだ。
 小柄で愛らしい人が多いと言われるΩの中で、直生はΩらしくない。身長は特に高いわけではないが低くもない176cmある。顔だってぱっちり二重なだけで、取り立ててブサイクという訳ではないが、綺麗なわけでも可愛いわけでもない。どこにでもいる普通の顔だ。本人に言わせれば、「平凡が服着て歩いている」となる。
 次にヒートだが、三ヶ月に一回と言われているヒートが直生は不順でとても乱れている。先月来たと思ったら今月も、なんてこともあるし、逆に半年ほどヒートが来ない、ということも多々ある。ホルモンのバランスが悪いのでは、とバース科の医師に言われ、ホルモン剤を投与して貰ったこともあるが、安定しない。そのため、三十歳という歳になった今もヒートは安定していない。
 そんな理由から直生は自分のことを「出来損ないのΩ」と呼んでいる。
 人見知りなのも手伝って、三十歳になっても番はおろか、まともに恋愛もしていない。ゆえに番関係を結ぶなんてことは一匙だってない。そんな人と出会ってもいない。
 それなのに適齢期ゆえに、番はまだか、結婚はまだかと親や親戚にせっつかれるのはたまったものではない。かといってお見合いをしてまで番たくもないし、結婚したくもない。
 番候補も結婚相手も見つけられないでいうのもなんだが、番や結婚は自分がいいと思った人としたいと思っている。それはお見合いなどではなく、自然に出会ってそういう関係になりたい。三十男がどこか夢見ている。
 その前に、そんなに積極的に番を結びたいとは思わないし、結婚したいとも思わない。仕事は忙しいが楽しいし、一人は気楽だし、このままでいいかなぁ、とのんびり思っているくらいだ。まさかそんなことは親に言えないけれど。
 運命の番でもいなければ一生一人だ、と思っているけれど、そこまでの悲壮感もない。それが直生だ。
 でも、運命の番だなんて都市伝説だし、仮に本当にあったにしたって自分みたいな平凡な人間に起こるはずもない、と思っている。運命に特別や平凡などということは関係ない、ということも忘れて。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜

車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第二の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

君と運命になっていく

やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。 ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。 体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。 マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。

貧乏貴族の末っ子は、取り巻きのひとりをやめようと思う

まと
BL
色々と煩わしい為、そろそろ公爵家跡取りエルの取り巻きをこっそりやめようかなと一人立ちを決心するファヌ。 新たな出逢いやモテ道に期待を胸に膨らませ、ファヌは輝く学園生活をおくれるのか??!! ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

春風の香

梅川 ノン
BL
 名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。  母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。  そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。  雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。  自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。  雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。  3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。  オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。    番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

処理中です...