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届かない想い6
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社長の言葉に俺は固まってしまう。颯矢さんのことで辛いとわかったとして、なんで俺が颯矢さんのことを好きだって知ってるの?
「あぁ、別にそのことでどうこう言ったり怒るとかじゃないから安心して。前に病室で会ったときにそう思ってね。壱岐くんのことを好きなら、自分に関しての記憶だけ失っているって聞いたらショック受けて当然だしね。確かに誰だって自分のことだけ記憶を失っているって聞いたらショックを受けると思うけれど、そのときの柊真がすごく悲しそうでね。それで、もし前から壱岐くんのことを好きなのなら、それは芸能界引退と関係あるのかなと思ったんだよね」
俺、そんなにわかりやすい態度だったのだろうか。あのときは気が動転していたから自分の行動が颯矢さんへの気持ちに結びつくような態度やめなきゃとか、そういうのを気にすることができなかったし、あのとき自分がどうしたかなんてよく覚えてない。
「壱岐くんを好きなことが辛いの? それとも壱岐くんのことでなにかあったとかかな?」
あぁ。もう社長はわかってしまってる。そうしたらもう隠しても仕方ない。言ってしまおうか。引退してしまえば、社長に会うこともなくなるんだし。それに、社長はそれを聞いたところで誰かに言いふらすとかそんなことをしないだろう。
「颯矢さんが結婚するから。前にお見合いしましたよね。社長の知り合いのお嬢様だと聞きました。その方と結婚を視野に入れて付き合っていると聞いて」
「あぁ、僕が壱岐くんに勧めたお見合いね」
そうだ、と俺は頷く。
「そっか、それが辛かったのか。そうだね。好きな人が結婚すると思ったら辛いね。なんか僕が悪いことをしちゃったね」
「いえ、そんなことは」
確かにお見合いを勧めたのは社長だとしても、嫌なら会ってから断ることもできたはずだ。でも、颯矢さんはそうしなかった。そう、決めたのは颯矢さんなんだ。だから社長は悪くない。
「でも、それで芸能界引退したいって思ったんだろう? 壱岐くんも結婚してもおかしくない年だし、いいお嬢さんだから見合いを勧めたんだけどね。でも、それが柊真が芸能界を辞めたいと思うほど辛いのなら、ちょっとね。僕は柊真に引退して欲しくはないから。柊真はもっともっと大きくなれると思ってるんだ。これは壱岐くんも同意見だ。だから、ここで辞めるのはもったいない。柊真は自分ではわからないんだろうけどね」
社長も颯矢さんもそんなふうに思っていてくれたのか、と思うとなんと言ったらいいのか迷ってしまった。
俺は社長の言葉になんと返していいのか迷いながらも、一つ一つ返していく。
「結婚を決めたのは颯矢さんなので、それは社長のせいとかそういうのじゃないと思います。あと、俺のことをそう言って貰えて嬉しいですが、自分自身ではよくわからないし、もしそうだとしても引退したいという気持ちは変わりません」
「壱岐くんのことをそう言ってくれるのはありがたいけど、引退についてはありがたくないなぁ。よく考えたんだよね?」
「はい」
「ごめんね。この間もイエスとは言えなかったけど、今日もイエスとは言えないな。壱岐くんも記憶が戻ったら止めると思うよ。壱岐くんは柊真のことをとても買っているからね」
社長は今日もイエスと言ってはくれなかった。2回くらいで諦めたらダメだよな。それより、颯矢さんが俺のことを買っているだなんて知らなかった。あのとき、事故にあわなかったら颯矢さんは俺になにを言ったのだろうか。記憶を失ってしまったのでわからないけれど。
「柊真も色々考えがあるんだと思う。壱岐くんのことがあって辛いのもわかる。でも、もし壱岐くんがマネージャーだと辛いと言うのなら氏原くんや他のマネージャーに変えるのは構わない。そこは柊真の希望を聞くよ。だからもう一度考え直してくれないかな。なんなら休暇を取ったっていい。それは氏原くんにスケジュール調整して貰おう」
代替え案を出されてしまって俺はなんとも言えなくなってしまった。社長からは絶対に引退させない、という強い意思を感じてしまう。
マネージャーを変えてまでか……。マネージャーを変えても颯矢さんのことは頭から離れないんだけどな。
休暇、という手もあるんだな、と思う。数日ではなく、月、年単位での長期休暇。
颯矢さんが結婚するのなら、休暇という手もあるのかな、と思ったりする。いや、引退するんだろう。芸能界は永久に休暇だ。
「休暇という方向で少し考えてくれないかな? 返事は今すぐじゃなくて構わないから。さぁ、話は終わり。壱岐くんのお見舞いして行くんでしょう。一緒に行こうか」
「はい」
その後は社長と一緒に颯矢さんのお見舞いに行ったけれど、香織さんはいなくて少しホッとした。
颯矢さんは俺に、こんにちは、とよそよそしい挨拶をしてきて、まだ記憶は戻っていないんだな、と思い知らされた。
すぐに記憶が戻ることもあるけれど、長期に渡って思い出さないこともあるっていうから、颯矢さんはなかなか戻らないタイプなのかもしれない。
社長との話と颯矢さんの様子に俺は打ちのめされて、早々に病院を後にした。
「あぁ、別にそのことでどうこう言ったり怒るとかじゃないから安心して。前に病室で会ったときにそう思ってね。壱岐くんのことを好きなら、自分に関しての記憶だけ失っているって聞いたらショック受けて当然だしね。確かに誰だって自分のことだけ記憶を失っているって聞いたらショックを受けると思うけれど、そのときの柊真がすごく悲しそうでね。それで、もし前から壱岐くんのことを好きなのなら、それは芸能界引退と関係あるのかなと思ったんだよね」
俺、そんなにわかりやすい態度だったのだろうか。あのときは気が動転していたから自分の行動が颯矢さんへの気持ちに結びつくような態度やめなきゃとか、そういうのを気にすることができなかったし、あのとき自分がどうしたかなんてよく覚えてない。
「壱岐くんを好きなことが辛いの? それとも壱岐くんのことでなにかあったとかかな?」
あぁ。もう社長はわかってしまってる。そうしたらもう隠しても仕方ない。言ってしまおうか。引退してしまえば、社長に会うこともなくなるんだし。それに、社長はそれを聞いたところで誰かに言いふらすとかそんなことをしないだろう。
「颯矢さんが結婚するから。前にお見合いしましたよね。社長の知り合いのお嬢様だと聞きました。その方と結婚を視野に入れて付き合っていると聞いて」
「あぁ、僕が壱岐くんに勧めたお見合いね」
そうだ、と俺は頷く。
「そっか、それが辛かったのか。そうだね。好きな人が結婚すると思ったら辛いね。なんか僕が悪いことをしちゃったね」
「いえ、そんなことは」
確かにお見合いを勧めたのは社長だとしても、嫌なら会ってから断ることもできたはずだ。でも、颯矢さんはそうしなかった。そう、決めたのは颯矢さんなんだ。だから社長は悪くない。
「でも、それで芸能界引退したいって思ったんだろう? 壱岐くんも結婚してもおかしくない年だし、いいお嬢さんだから見合いを勧めたんだけどね。でも、それが柊真が芸能界を辞めたいと思うほど辛いのなら、ちょっとね。僕は柊真に引退して欲しくはないから。柊真はもっともっと大きくなれると思ってるんだ。これは壱岐くんも同意見だ。だから、ここで辞めるのはもったいない。柊真は自分ではわからないんだろうけどね」
社長も颯矢さんもそんなふうに思っていてくれたのか、と思うとなんと言ったらいいのか迷ってしまった。
俺は社長の言葉になんと返していいのか迷いながらも、一つ一つ返していく。
「結婚を決めたのは颯矢さんなので、それは社長のせいとかそういうのじゃないと思います。あと、俺のことをそう言って貰えて嬉しいですが、自分自身ではよくわからないし、もしそうだとしても引退したいという気持ちは変わりません」
「壱岐くんのことをそう言ってくれるのはありがたいけど、引退についてはありがたくないなぁ。よく考えたんだよね?」
「はい」
「ごめんね。この間もイエスとは言えなかったけど、今日もイエスとは言えないな。壱岐くんも記憶が戻ったら止めると思うよ。壱岐くんは柊真のことをとても買っているからね」
社長は今日もイエスと言ってはくれなかった。2回くらいで諦めたらダメだよな。それより、颯矢さんが俺のことを買っているだなんて知らなかった。あのとき、事故にあわなかったら颯矢さんは俺になにを言ったのだろうか。記憶を失ってしまったのでわからないけれど。
「柊真も色々考えがあるんだと思う。壱岐くんのことがあって辛いのもわかる。でも、もし壱岐くんがマネージャーだと辛いと言うのなら氏原くんや他のマネージャーに変えるのは構わない。そこは柊真の希望を聞くよ。だからもう一度考え直してくれないかな。なんなら休暇を取ったっていい。それは氏原くんにスケジュール調整して貰おう」
代替え案を出されてしまって俺はなんとも言えなくなってしまった。社長からは絶対に引退させない、という強い意思を感じてしまう。
マネージャーを変えてまでか……。マネージャーを変えても颯矢さんのことは頭から離れないんだけどな。
休暇、という手もあるんだな、と思う。数日ではなく、月、年単位での長期休暇。
颯矢さんが結婚するのなら、休暇という手もあるのかな、と思ったりする。いや、引退するんだろう。芸能界は永久に休暇だ。
「休暇という方向で少し考えてくれないかな? 返事は今すぐじゃなくて構わないから。さぁ、話は終わり。壱岐くんのお見舞いして行くんでしょう。一緒に行こうか」
「はい」
その後は社長と一緒に颯矢さんのお見舞いに行ったけれど、香織さんはいなくて少しホッとした。
颯矢さんは俺に、こんにちは、とよそよそしい挨拶をしてきて、まだ記憶は戻っていないんだな、と思い知らされた。
すぐに記憶が戻ることもあるけれど、長期に渡って思い出さないこともあるっていうから、颯矢さんはなかなか戻らないタイプなのかもしれない。
社長との話と颯矢さんの様子に俺は打ちのめされて、早々に病院を後にした。
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