Always in Love

水無瀬 蒼

文字の大きさ
上 下
33 / 43

届かない想い4

しおりを挟む
 家に帰り、冷凍庫から冷食を取り出し、次々と電子レンジで温める。
 明日はオフだから今日は1人パーティーだ。
 スイーツは食べられないから普通の食事でパーティーだ。
 とは言え、普段、なかなかスーパーに行かれないのでまともな材料があるわけでもなく、仮にあったとしても母さんに長年頼ってきた俺が料理なんてまともに作れるものは少ない。
 けれど、それとは反比例するように冷凍庫には冷食がたくさんある。だから今日はそれを消費する日だ。
 冷蔵庫にはビールやチューハイが結構入っている。飲み物はこれだけあれば十分、というだけは入っている。俺の冷蔵庫、健康的じゃないなと苦笑を漏らした。
 言い訳をするなら、外食が多い上にスーパーにはなかなか行かれないので生物はおけないし、逆に日持ちする飲み物なんかはまとめ買いしておく癖がついている。
 こんな癖も芸能界を引退したら直るんだろうか。いや、健康のためには直さなくてはいけないな。
 大体、母さんが入院するまでは冷蔵庫も健康的だった。今はもう、その母さんさえいないけど。
 レンジでチンした冷凍ピザは美味しかった。それに、ビールをあわせるなんて禁断だけど最高だな。ってスイーツを我慢している人の食事じゃないな、と思う。
 これで体重増えたらやばいな、と思うけれど好きなお店に呑みに行かれないのなら家で呑むしかない。
 これを見られたら母さんにも颯矢さんにも怒られてしまう。
 って自然に考えてしまうけど、母さんはもうこの世にいないし、颯矢さんは俺の記憶がない。俺のことを忘れられるくらいなら、きちんと会話をしておけばよかった。あんなにツンケンしなければ良かった。
 だけど俺は颯矢さんが結婚すると思ってから俺から壁を作ってしまっていた。馬鹿だな。記憶がなくなったら、あの頃みたいな会話もうできないのに。
 俺のことを思い出すように、病院でも事務所でも色々と試しているらしい。病院側は治療を。事務所は俺の出た映画やドラマを病室で観れるようにしている。
 でも、まだ颯矢さんは思い出さない。記憶が戻ることはほんとにあるんだろうか。いや、でも記憶が戻ってどうする?
 颯矢さんは結婚するんだ、あの香織さんっていう人と。
 華奢で女性らしい人だった。きっといい奥さんになって颯矢さんのことを支えてくれるんだろう。俺にはできないことだ。
 そう考えると悲しくて涙が浮かんでくる。そして、それが嫌で温めた冷食をどんどん食べていく。
 唐揚げ、カニクリームコロッケ、チーズ入りハンバーグ、オムレツ。
 俺が買ったんだから当然だけど、俺の好きなものばかりだ。
 飲み物はビール。
 好きなものを食べて呑んで、颯矢さんのことは忘れたいのに昼間見た香織さんのことが頭から離れない。
 きっとあの人は俺なんかよりも颯矢さんのお見舞いに行っているんだろう。
 颯矢さんは俺のことは忘れたけど、他の記憶は一切問題がないらしい。つまり生活していくのも仕事をしていくのも問題がない。
 だから社長が言っていたように、怪我が良くなれば仕事に復帰するんだろう。
 そして俺以外の記憶に問題はないのだから、結婚もするんだろう。だって香織さんに対しての記憶は失っていないんだから。
 颯矢さんはどうして俺のことだけ忘れたの? やっぱり忘れたくなるほど俺のマネージャーなんてしていたくなかったの? 好きだよ、って事あるごとに言ってたからそれが気持ち悪くて嫌になった? だとしたら落ち込む。
 ストレスで記憶をなくすことがあるっていうけど、記憶をなくした俺のことがストレスになってたの? それとも、それ以外のことでもストレスを感じていたの?
 俺が颯矢さんに好きだって言わなければ、記憶を戻してくれる? いや、記憶を戻したって俺のものになるわけじゃない。颯矢さんは香織さんのものなんだ。忘れなきゃいけないんだ。それはわかってる。
 テーブルに置いてあるスマホを手にとり、颯矢さんの写真を見る。颯矢さんとも仲良くしてた(俺はそのつもり)頃に写真集の撮影でグアムに行ったときの写真だ。
 まだ大学を卒業して間もない頃だったと思う。この頃はもう颯矢さんのことを好きになってたっけ。芸能界に入ってよくこの世界のことを知らなかったときに、芸能界のことを教えてくれつつ、俺の世話をしてくれて、それで颯矢さんのこと好きになったんだ。
 だから、割と早いうちに颯矢さんのことを好きになっている。これって刷り込みなのかな? もし、マネージャーが颯矢さんじゃなくても好きになっていたんだろうか?
 わからない。だって颯矢さん以外のマネージャーなんて氏原さん以外知らない。その氏原さんは、颯矢さんが復帰するまでのピンチヒッターなわけで。
 じゃあ、一番最初のマネージャーが氏原さんだったら、俺は氏原さんを好きになっていたんだろうか。考えるけれど想像がつかない。
 多分だけど、最初のマネージャーが誰であれ、俺は颯矢さんを好きになったと思う。なんとなくの勘だけど。
 そう思うとこうやって颯矢さんのことを考えてしまうのは仕方ないのかもしれないな。
 でも、もう忘れなきゃ。颯矢さんは結婚するんだ。他人のものになるんだ。だから。だから、社長には引退のことを頷いて欲しい。
 芸能界を引退して数年でいいから海外で暮らそう。そして色んな経験をしていこう。そうしているうちにきっと颯矢さんのことは少しずつ忘れていくはずだ。
 仕事は、観光系ならあるんじゃないか、って小田島さんも言っていたし。タイ語に関しては現地に行ってから語学学校にでも行って覚えよう。
 うん。そのためにも社長を説得しよう。そう思ってビールを一気呑みした。ネガティブな考えをすべて飲み干すかのように。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

罰ゲームでクラス一の陰キャに告白して付き合う話

あきら
BL
攻め 二階堂怜央 陽キャ 高校2年生 受け 加藤仁成 陰キャ 高校2年生 クラス一の陽キャがクラス一の陰キャに告白して、最初断られたけどなんやかんやでOKされてなんやかんやで付き合うようになる話です。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...