Always in Love

水無瀬 蒼

文字の大きさ
上 下
31 / 43

届かない想い2

しおりを挟む
 「じゃあ城崎くん、こっちに目線ちょうだい。うん、いいね。そんな感じ」

 今日はドラマの撮影の前に雑誌の仕事だ。まずは写真撮影から。映像として撮られるのはもう慣れているけど、写真という静止画を撮られることはあまり慣れていない。

「今度は花を持って俯いてくれる? 誰か、城崎くんに花束渡して」

 裏方さんの1人から花束を受け取り、俯く。

「うん。いいね、いいね。そのまま目を瞑ってくれる?」

 カメラマンの言う通りに目を閉じる。

「そう。いいねー。最近の城崎くんは切なげな表情がよくなったね」

 切なげな表情がいいって、最近切ない日が続いているからだよな、とポーズを取りながら考える。

「よし、じゃあ最後にそのまま顔だけこっちに貰える? もう少し俯き加減で。あ、そうそう。よし、OK。撮影はこれで終わりです。城崎くん、ありがとう。後はインタビューだけお願いね」
「はい。ありがとうございました」
「お疲れ様」

 カメラマンが帰っていく。写真撮影が終わったので、後はインタビューだけだ。

「じゃあ城崎さん。後少しお願いします。まず、バンコクでロケをしたそうですが、いかがでしたか?」
「海外での撮影は初めてだったんですけど、いつも以上に緊張しました。NG連発して押しても困るし」
「撮影以外のときは、街を散策したりしましたか?」
「夜くらいしか空いている時間がなかったので、お土産を買ったくらいです」

 インタビューは、ドラマのバンコクでのロケを中心に行われた。
 30分くらいインタビューを受け、雑誌の仕事は終わった。
 控室に戻ると、氏原さんが時計を見ていう。

「お疲れ様です。少し巻いたんで1時間くらい時間空いてますけど、どうしますか?」
「1時間もあるんですか? そうしたら、颯矢さんの病院に寄れますか?」
「少ししか時間取れないけどいいですか?」
「いいです。顔、見るだけでいいので」
「わかりました。じゃあ行きましょう」
「ありがとうございます! 急いで支度しますね」

 病院に行っても颯矢さんは俺のことを覚えていない。それでも、もしかしたら思い出してるかもしれない。俺の顔を見て思い出してくれるかもしれない。
 いや、思い出さなくても俺が颯矢さんの顔を見たいだけだ。今まで毎日のように顔をあわせていたのに、急に顔を見なくなったら寂しい。
 急いで私服に着替え、車を出して貰う。

「でも、こんなに顔を見せるのって羨ましいですね。それほど仲が良かったっていうことですよね」

 運転しながら氏原さんが言う。
 仲が良かったっていうのか? 良かったのかな? 付き合いが長かったから俺が全部を言わなくてもわかってくれたというのはある。
 でも、頻繁に病院へ行くのは颯矢さんのことが好きだから。好きな人にはいつだって会いたいって思うじゃないか。

「でも、颯矢さんが俺のことをどう思ってるのかわからないし」

 つい弱気になって言ってしまうと、でも、と氏原さんは言う。

「怪我をしたのは、城崎さんを庇ってだって聞きました。いくらマネージャーでもなかなかできないですよ。声で注意を促すだけってこともできるし、体を押して衝突しないようにすることもできるんですから。だから、大事に思っていたと思いますよ」

 窓から流れゆく景色を眺めながら氏原さんの話を聞く。
 そうならいいけど。でも、他のことは何ひとつ忘れてないのに、俺のことだけ忘れているというのがひっかかって、嫌われてたんじゃないかって不安になってしまってる。
 もし、俺のことを嫌いで俺のことを忘れたのなら、俺のことを知らない今、嫌われるようなことをしなければ、颯矢さんは俺のことを好きになってくれるだろうか。
 恋愛の好きじゃなくても、人として好きになってくれるだろうか。頭を打っても俺のことを忘れないように。
 平日の昼間ということもあって、渋滞に巻き込まれることもなく車は20分ほどで病院に着いた。そんなに長い時間いられるわけじゃないから、急ぎ足で廊下を歩く。少しでも長く颯矢さんといられるように。
 ノックをし、ドアを開けると髪の長い華奢な女性がベッドの脇に座っている。
 あ! 

「城崎さん。お疲れ様です。仕事あがりですか?」
「いえ……」

 女性に気がいってしまい答えられない俺に変わって、氏原さんが代わりに答えてくれる。

「いえ。次の仕事への空き時間です」
「時間は大丈夫なの?」
「あまり時間ないけど、心配なんですよね」
「え? あ、はい」

 俺は女性から目が離せない。多分、香織さんだ。颯矢さんのお見合い相手で、結婚を視野に入れて付き合っているという人。
 とても女性らしい感じの人だった。
 そうだよ。好きになって貰うのなんてはなから無理なんだよ。颯矢さんはゲイじゃない。それが証拠に女性のこの人と付き合っている。
 
「大丈夫ですよ。少し前まで城崎さんの出ている映画を観てました。幅広い役を演じてるんですね。そのどれもが当たり役と言ってもいい。すごい役者さんですね」

 颯矢さんは俺を褒めてくれるけれど、ちっとも嬉しくない。

「颯矢さん、私、おいとましましょうか?」
「いえ。帰るので大丈夫です」

 香織さんが言うのを遮る。

「え? 城崎さん、まだ少しは大丈夫ですよ」
「いえ。道路が混むかもしれないじゃないですか」
「そうですか? じゃ、壱岐さん。また来ますね」

 氏原さんがそう言ってる間に、俺は病室を出た。一秒でもあの空間にいたくなかった。
 そうだよ。はなから勝負になんてならないんだ。記憶が戻っても戻らなくても颯矢さんは香織さんと結婚する。俺の出番なんてないんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

罰ゲームでクラス一の陰キャに告白して付き合う話

あきら
BL
攻め 二階堂怜央 陽キャ 高校2年生 受け 加藤仁成 陰キャ 高校2年生 クラス一の陽キャがクラス一の陰キャに告白して、最初断られたけどなんやかんやでOKされてなんやかんやで付き合うようになる話です。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...