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記憶4
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昨日は病院から家に帰ってからずっと泣いていたので、今日は朝早く起きてから目の腫れを取るのに苦戦していた。
時計の針が10時30分を指したとき、スマホが鳴る。
「もしもし、壱岐さんの代理マネージャーとなる氏原ですが、城崎柊真さんの携帯で間違いないでしょうか」
「そうです」
「おはようございます。下に着きましたので降りてきて頂けますか」
「わかりました。降ります」
出ると颯矢さんの代わりの臨時マネージャーだった。
エレベーターで駐車場へ降りていくと、見慣れたバンが止まっていた。そしてその前には程よく陽に焼けた細身の男性が1人。恐らく電話をしてきた氏原マネージャーだろう。
「城崎さん、おはようございます。氏原です!」
さきほどの電話でもそうだったけれど、明るくて元気な話し方だった。颯矢さんが静とするならこの人は動だ。そして陽。そんな感じがした。
「乗ってください」
氏原さんに言われて、ぼーっとしていたことに気づき慌てて乗った。
「今日のスケジュールですが12時からNテレビで撮影の後、15時にYテレビ入します。その後バラエティの撮影となり終わりは18時の予定です」
「あの……Yテレビの収録が終わったら、そうや、いえ壱岐さんの病院にお見舞いに行くことはできますか?」
「もちろんです。収録終了後病院に直行します」
「ありがとうございます。壱岐さんがいない間、よろしくお願いします」
「こちらこそ、短い間ですがよろしくお願いします。では、遅くなりますので行きましょう」
氏原さんは思った通り明るい人だった。いや、昨日のことがあったから、あえて明るくしてくれているのかもしれないけど。
昨日の今日でバラエティに出る心境じゃないし、笑えるかもわからない。
そう思っていたけれど、実際に撮影となれば作り笑いは出せた。
その辺は役者をやっているので、演技となればできるのだろう。
Nテレビの撮影を終えてYテレビに移動し、同じようにバラエティ番組の収録をこなす。
仕事だから、演技をしてバラエティ向けのこともできるけれど、心境としては昨日の颯矢さんの姿が頭にこびりついていてバラエティなんて心境じゃない。
でも、これが仕事なのだからやるしかない。
後でテレビで観たときに「仕事もできないのか」なんて言われたくないから。その辺は悲しいかな、好きな人には良く思われたいっていう気持ちだ。
それは、どんなに叶わない想いだとしても変わらない。
だから、集中して撮影していたら、あっという間に撮影が終わった。これで颯矢さんのところに行ける!
撮影が終わり、急いで控室に戻り、メイクを落として私服に着替える。これで颯矢さんの病院に行ける!
でも、氏原さんはスマホで誰かと話をしている。電話は、後にできない?
「はい、これから向かいます」
そう言うと電話を切って、行きましょう、と言う。
「今、社長が病室にいるそうです」
「社長が?」
「はい。壱岐さんの様子を見るために」
昨夜は、俺は今日のスケジュールのために早く帰ったけど、社長はいつまでいたんだろう。颯矢さんの両親が来て、帰ったんだろうか。
「そうや、あ、壱岐さんのことなにか聞いてますか?」
考えてみたら、颯矢さんの具合はどうなのか聞いていなかった。大丈夫なんだろうか。すごい出血だったけれど。社長がいる、というのはそういうことだろうか。そう考えると怖くなってきた。
「あ、えっと。社長がお話するかと」
なんで氏原さんが教えてくれないんだろう? そう思うけれど、後少しで病院だし社長がいるなら、社長は知ってるだろうから別に今聞かなくてもいいか。
テレビ局から病院までは30分ほどだった。見舞い時間終了までそれほど時間はない。
氏原さんから颯矢さんの入院する病室の番号は聞いているから、急ぎ足で病室へと行く。
病室は個室だった。多分、俺とか芸能人が見舞うことを考えてのことだろう。
ドアを開けると、ベッドの脇でタブレットを弄っている社長がいた。
「社長」
「あ、柊真。お疲れ様。氏原くんもお疲れ様。急だったのにありがとうね」
「いえ、大丈夫です」
ベッドに目をやると、颯矢さんは目を開けていた。でも、俺の顔を見てもなにも言わない。
「颯矢さん。昨日は俺のためにごめんなさい」
しかし、それでも颯矢さんはなにも言わない。なんだろう。
「壱岐くん、柊真のこと思い出した?」
「いえ、わかりません」
え? なに、この会話。思い出したってなに? わからないってなにが? 心臓がドクンドクンと大きく音を立てる。
「そうか。今、先生呼ぶね」
そう言って社長がナースコールを鳴らす。一度看護師さんが来てから、その後先生がやってきた。
「壱岐さん、彼が誰だかわかりますか?」
「いえ、わかりません。誰なんですか?」
先生の目も、颯矢さんの目も俺を見ている。でも、颯矢さんは、さっきと同じ、わかりませんと答えた。
え? わからないって俺のこと? 冗談にしては笑えないよ。
「そうですか。やはり、系統的健忘で間違いないと思われます」
系統的健忘? なんだ、それ。健忘ってことは忘れているってこと?
「明日、脳波の検査と尿検査をしましょう。合わせて心理検査もします」
「わかりました。お願いします」
先生と社長の間で話が進んでいるけど、なんのはなしをしているのか俺にはさっぱりわからない。
先生が病室を出ていくと社長が口を開く。
「柊真。落ち着いて聞いてね。壱岐くんね、さっき先生が言ってた系統的健忘って言う記憶障害を起こしているらしい。はっきり言うとね、ショックを受けないで欲しいんだけど、柊真のこと覚えてないんだ。他のことはきちんと覚えてる。でも、柊真のことだけ忘れているんだ」
颯矢さんが、俺のことだけ覚えてない?
時計の針が10時30分を指したとき、スマホが鳴る。
「もしもし、壱岐さんの代理マネージャーとなる氏原ですが、城崎柊真さんの携帯で間違いないでしょうか」
「そうです」
「おはようございます。下に着きましたので降りてきて頂けますか」
「わかりました。降ります」
出ると颯矢さんの代わりの臨時マネージャーだった。
エレベーターで駐車場へ降りていくと、見慣れたバンが止まっていた。そしてその前には程よく陽に焼けた細身の男性が1人。恐らく電話をしてきた氏原マネージャーだろう。
「城崎さん、おはようございます。氏原です!」
さきほどの電話でもそうだったけれど、明るくて元気な話し方だった。颯矢さんが静とするならこの人は動だ。そして陽。そんな感じがした。
「乗ってください」
氏原さんに言われて、ぼーっとしていたことに気づき慌てて乗った。
「今日のスケジュールですが12時からNテレビで撮影の後、15時にYテレビ入します。その後バラエティの撮影となり終わりは18時の予定です」
「あの……Yテレビの収録が終わったら、そうや、いえ壱岐さんの病院にお見舞いに行くことはできますか?」
「もちろんです。収録終了後病院に直行します」
「ありがとうございます。壱岐さんがいない間、よろしくお願いします」
「こちらこそ、短い間ですがよろしくお願いします。では、遅くなりますので行きましょう」
氏原さんは思った通り明るい人だった。いや、昨日のことがあったから、あえて明るくしてくれているのかもしれないけど。
昨日の今日でバラエティに出る心境じゃないし、笑えるかもわからない。
そう思っていたけれど、実際に撮影となれば作り笑いは出せた。
その辺は役者をやっているので、演技となればできるのだろう。
Nテレビの撮影を終えてYテレビに移動し、同じようにバラエティ番組の収録をこなす。
仕事だから、演技をしてバラエティ向けのこともできるけれど、心境としては昨日の颯矢さんの姿が頭にこびりついていてバラエティなんて心境じゃない。
でも、これが仕事なのだからやるしかない。
後でテレビで観たときに「仕事もできないのか」なんて言われたくないから。その辺は悲しいかな、好きな人には良く思われたいっていう気持ちだ。
それは、どんなに叶わない想いだとしても変わらない。
だから、集中して撮影していたら、あっという間に撮影が終わった。これで颯矢さんのところに行ける!
撮影が終わり、急いで控室に戻り、メイクを落として私服に着替える。これで颯矢さんの病院に行ける!
でも、氏原さんはスマホで誰かと話をしている。電話は、後にできない?
「はい、これから向かいます」
そう言うと電話を切って、行きましょう、と言う。
「今、社長が病室にいるそうです」
「社長が?」
「はい。壱岐さんの様子を見るために」
昨夜は、俺は今日のスケジュールのために早く帰ったけど、社長はいつまでいたんだろう。颯矢さんの両親が来て、帰ったんだろうか。
「そうや、あ、壱岐さんのことなにか聞いてますか?」
考えてみたら、颯矢さんの具合はどうなのか聞いていなかった。大丈夫なんだろうか。すごい出血だったけれど。社長がいる、というのはそういうことだろうか。そう考えると怖くなってきた。
「あ、えっと。社長がお話するかと」
なんで氏原さんが教えてくれないんだろう? そう思うけれど、後少しで病院だし社長がいるなら、社長は知ってるだろうから別に今聞かなくてもいいか。
テレビ局から病院までは30分ほどだった。見舞い時間終了までそれほど時間はない。
氏原さんから颯矢さんの入院する病室の番号は聞いているから、急ぎ足で病室へと行く。
病室は個室だった。多分、俺とか芸能人が見舞うことを考えてのことだろう。
ドアを開けると、ベッドの脇でタブレットを弄っている社長がいた。
「社長」
「あ、柊真。お疲れ様。氏原くんもお疲れ様。急だったのにありがとうね」
「いえ、大丈夫です」
ベッドに目をやると、颯矢さんは目を開けていた。でも、俺の顔を見てもなにも言わない。
「颯矢さん。昨日は俺のためにごめんなさい」
しかし、それでも颯矢さんはなにも言わない。なんだろう。
「壱岐くん、柊真のこと思い出した?」
「いえ、わかりません」
え? なに、この会話。思い出したってなに? わからないってなにが? 心臓がドクンドクンと大きく音を立てる。
「そうか。今、先生呼ぶね」
そう言って社長がナースコールを鳴らす。一度看護師さんが来てから、その後先生がやってきた。
「壱岐さん、彼が誰だかわかりますか?」
「いえ、わかりません。誰なんですか?」
先生の目も、颯矢さんの目も俺を見ている。でも、颯矢さんは、さっきと同じ、わかりませんと答えた。
え? わからないって俺のこと? 冗談にしては笑えないよ。
「そうですか。やはり、系統的健忘で間違いないと思われます」
系統的健忘? なんだ、それ。健忘ってことは忘れているってこと?
「明日、脳波の検査と尿検査をしましょう。合わせて心理検査もします」
「わかりました。お願いします」
先生と社長の間で話が進んでいるけど、なんのはなしをしているのか俺にはさっぱりわからない。
先生が病室を出ていくと社長が口を開く。
「柊真。落ち着いて聞いてね。壱岐くんね、さっき先生が言ってた系統的健忘って言う記憶障害を起こしているらしい。はっきり言うとね、ショックを受けないで欲しいんだけど、柊真のこと覚えてないんだ。他のことはきちんと覚えてる。でも、柊真のことだけ忘れているんだ」
颯矢さんが、俺のことだけ覚えてない?
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