Always in Love

水無瀬 蒼

文字の大きさ
上 下
27 / 43

記憶3

しおりを挟む
 血を流して倒れている颯矢さんを見て、気は動転しているが冷静にどうしたらいいのか考える。そうだ。救急車だ。後、社長に電話した方がいいかな?
 まずは救急車だ。119番通報して、怪我人がいることを伝え救急車の到着を待つ。それから、社長室に電話をし社長に颯矢さんが頭から血を流して倒れていることを伝える。
 電話をすると、社長はすぐに来てくれて一緒に救急車を待つ。その時間がやたらに長く感じたのは、やはり冷静ではないんだろう。
 やっと来た救急車に社長と2人で付き添いとして乗る。社長はスマホで会社のデータにアクセスし、颯矢さんの緊急連絡先をメモしていた。
 病院についてから颯矢さんは治療と検査にまわされる。社長はどこかに電話をしに行ったから、おそらく颯矢さんの緊急連絡先に電話をしていたんだろう。
 電話から戻ってきた社長は、俺に缶コーヒーを買ってきてくれていた。

「大丈夫だから、落ち着こう」

 その言葉で、自分が震えていたことに気づく。

「って無理だよね。でも、もう病院に来たし大丈夫だよ。後は先生がきちんと診てくれる」
「はい。でも、俺が……俺を庇おうとしたから……」

 でも俺はさっきから自分を責めていた。俺が芸能界を引退するなんて言わなければ、あそこを通ることはなかった。そして、俺を庇おうとしなければこんなことにならなかった。颯矢さんをこんな目に合わせたのは俺だ。

「自分を責めないこと。いつもならあそこを歩くことはなかった、自分を庇ったからとか考えてるんでしょう? でも、問題なのは鉄材を落ちるように置いていた建設会社なんだよ。柊真じゃない。だから自分を責めないこと」

 こんなときでも冷静な社長ってすごいな、と思った。俺は自分を責めることしかできていない。次から次へと流れてくる涙を拭うこともできない。

「柊真はよく冷静に動いたよ。すぐに救急車を呼んで僕のことも呼んでくれたでしょう。それはすごいよ」

 そう言って、僕の手を握る。震えはまだ落ち着いていなかった。

「あの現場にいたら怖くなるよね。でも、僕もいるし、壱岐くんのご両親もこれから来るっていうから、もう安心しなさい」

 社長はいつもの穏やかな社長だ。俺が社長を好きで尊敬するのはこういうところだ。決して大声を出したりしない。いつも冷静で穏やかな人だ。
 社長だって苛立つことだって冷静でいられないときだってあるはずだ。でも、社長は決してそういうそぶりを見せたりしない。俺より年上というのもあるのかもしれないけれど、性格や立場的にというのが大きいと思う。

「颯矢さんの家族の人が来たら、俺……」
「大丈夫。責めたりしないから安心しなさい。さっきも言ったけど、柊真はなにも悪くないから。それは壱岐くんのご両親にだってわかるよ」
「はい……」
「それより、柊真、明日のスケジュールはわかる?」
「確か、明日はNテレビとYテレビで収録があります。ドラマの撮影は明日はオフです」
「そしたら今日はもう帰りなさい。明日の仕事に響くから。帰ってお風呂に入って寝る。それが今柊真がすべきことだ」
「でも……」
「で、壱岐くんの怪我しだいだけど、しばらくは休んで貰うからその間は他の臨時マネージャーについてもらう。これから手配するから、後で連絡するよ」

 確かに社長の言う通り、明日の仕事に備えるべきだろう。確かNテレビの入は11時って颯矢さんは言ってた。だからうちを出るのは10時半だったはずだ。
 チラリと病院の時計に目をやると、21時だった。ここから帰って21時半ということだろうか。まだ、もう少しなら大丈夫と思って社長を見るけれど、社長はニコリとしながらも首を振っている。帰れ、ということか。

「あの。じゃあ、颯矢さんのご両親に謝罪してから……」
「さっきも言ったけど、柊真が謝るようなことは何ひとつない。状況を話せるだけでしょう」

 社長はニコリとしてはいるけれど、譲る気はないように見える。こうなると、柊真がなにを言っても無駄だ。

「……帰ります」
「うん、そうしてね。どちらにしても後で連絡するから待ってて」
「はい」

 颯矢さんの顔を見てから帰りたかったけれど、まだまだ時間がかかりそうだし、なにより社長が認めてはくれないので、仕方なく家に帰ることにした。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

鈴木さんちの家政夫

ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

処理中です...