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転機1
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「私、間違えたかな?」
「なにを?」
食事をしていた手を止め南が言う。なにを間違えたと言うのかわからなかった。
「結婚するのに、海外に住むのが怖くて航について来なかったけど、今になって、なんでついてこなかったんだろうって思うの」
「後悔してるの?」
「うん」
「じゃあ、今からでも来る? 仕事辞めなきゃいけなくなるけど」
「いいの? わがままって思わない?」
「思わないよ」
「航……」
俺の名前を呼びながら南は泣き出した。
「はい、カットー! 今日の撮影はこれまでです。お疲れ様でしたー」
監督の声で今日の撮影が終わる。やっと終わって控室へ行こうと廊下を見ると、颯矢さんが難しい顔をして俺の方へと走ってくる。またなにかあったと言うのだろうか。もう週刊誌はごめんだ。
「柊真。病院へ行くぞ」
病院? もうすぐ面会時間は終わるというのに?
「お母さんが……」
「母さん? まさか……」
「そのまさかだ。今、事務所から電話があって、お母さんが亡くなったそうだ」
颯矢さんの言葉に俺はなにも言えず、動くこともできなかった。
「今日はもう撮影も終わったし。監督に話して明日・明後日の撮影を後日に回して貰った。火葬くらいはできるだろう。喪主だろう、お前。ほら、早く着替えろ」
颯矢さんにけしかけられて私服に着替え、車に乗り込む。突然のことで何も考えることができない。あ、伯母さんに電話しなきゃ。母さんのお姉さんで俺以外の身内と言ったら伯母さんしかいない。
バッグから携帯を出し、電話をかける。
『柊真くん? どうしたの?』
「伯母さん。母さんが。母さんが死んだって」
『え? 今日?』
「うん」
『わかった。すぐに行くわ。柊真くんは今どこ?』
「撮影終わって、今病院に向かってるとこ」
『そう。ここからだと時間かかるから、家に行くわね』
「伯父さんは大丈夫?」
『あの子が危ないのは知ってるから平気よ。そんなこと気にしないでいいから』
「うん」
『じゃあ切るからね。気、しっかり持って』
「うん」
そう言って電話は切れた。静伯母さんは、名前に似合わずちゃきちゃきとした人だ。そういうところが母さんと似ている。
伯母さん以外に知らせるところはないし。後はなにかあったっけ。あ、葬儀会社。先生に余命宣告されたときに葬儀会社はチェックしてある。
車の中で葬儀会社に電話も済ませた。
「事務所からは俺と社長が参列させて貰う。葬儀の時間がわかったらすぐに教えてくれ」
「……」
「なにか手伝うことあるか?」
「わからないけど、伯母さんいるし」
「それでも、なにか手伝って欲しいことがあったら俺に電話しろ」
「わかった」
母さんが死んだというのに、俺はどこか冷静でいた。現実だとわかっていないのかもしれない。母さんの死に顔を見たら変わるんだろうか。いや、でもしっかりしなきゃいけない。颯矢さんの言う通り、喪主は俺なんだから。
俺が病院へ着いてしばらくたった頃、葬儀会社から霊柩車が来た。そのまま家へと帰り、葬儀と火葬は明後日と決まった。
撮影は明後日まで休みにして貰ったから大丈夫だ。
母さんは、いつもの自分のベッドで横になっている。そして俺は病院から引き上げてきた荷物を片付け、あの世へ持たせるものをまとめた。その中には、先日バンコクで買ってきたストールもある。
ストールを手にしたとき、やっと涙が出てきた。俺のドラマ観るって言ったのに。まだ撮影だって終わってないのに。早すぎるよ。でも、確かに最近は体調が悪いのか横になっていることが多かった。調子がいいときは起きていたりしたのに。
どのくらいそうやって泣いていたんだろうか。ふいにインターホンが鳴った。伯母さんだった。
伯母さんは遠いところに住んでいて、新幹線で一時間半ほどかかる。もうそんなに時間が経っていたのか。
「遅くなってごめんね。柊真くん、大丈夫?」
「伯母さん……」
そうでなくても泣いていたのに、伯母さんの顔を見たら余計に泣けてきた。それでも、1人じゃないのは心強かった。
「なにを?」
食事をしていた手を止め南が言う。なにを間違えたと言うのかわからなかった。
「結婚するのに、海外に住むのが怖くて航について来なかったけど、今になって、なんでついてこなかったんだろうって思うの」
「後悔してるの?」
「うん」
「じゃあ、今からでも来る? 仕事辞めなきゃいけなくなるけど」
「いいの? わがままって思わない?」
「思わないよ」
「航……」
俺の名前を呼びながら南は泣き出した。
「はい、カットー! 今日の撮影はこれまでです。お疲れ様でしたー」
監督の声で今日の撮影が終わる。やっと終わって控室へ行こうと廊下を見ると、颯矢さんが難しい顔をして俺の方へと走ってくる。またなにかあったと言うのだろうか。もう週刊誌はごめんだ。
「柊真。病院へ行くぞ」
病院? もうすぐ面会時間は終わるというのに?
「お母さんが……」
「母さん? まさか……」
「そのまさかだ。今、事務所から電話があって、お母さんが亡くなったそうだ」
颯矢さんの言葉に俺はなにも言えず、動くこともできなかった。
「今日はもう撮影も終わったし。監督に話して明日・明後日の撮影を後日に回して貰った。火葬くらいはできるだろう。喪主だろう、お前。ほら、早く着替えろ」
颯矢さんにけしかけられて私服に着替え、車に乗り込む。突然のことで何も考えることができない。あ、伯母さんに電話しなきゃ。母さんのお姉さんで俺以外の身内と言ったら伯母さんしかいない。
バッグから携帯を出し、電話をかける。
『柊真くん? どうしたの?』
「伯母さん。母さんが。母さんが死んだって」
『え? 今日?』
「うん」
『わかった。すぐに行くわ。柊真くんは今どこ?』
「撮影終わって、今病院に向かってるとこ」
『そう。ここからだと時間かかるから、家に行くわね』
「伯父さんは大丈夫?」
『あの子が危ないのは知ってるから平気よ。そんなこと気にしないでいいから』
「うん」
『じゃあ切るからね。気、しっかり持って』
「うん」
そう言って電話は切れた。静伯母さんは、名前に似合わずちゃきちゃきとした人だ。そういうところが母さんと似ている。
伯母さん以外に知らせるところはないし。後はなにかあったっけ。あ、葬儀会社。先生に余命宣告されたときに葬儀会社はチェックしてある。
車の中で葬儀会社に電話も済ませた。
「事務所からは俺と社長が参列させて貰う。葬儀の時間がわかったらすぐに教えてくれ」
「……」
「なにか手伝うことあるか?」
「わからないけど、伯母さんいるし」
「それでも、なにか手伝って欲しいことがあったら俺に電話しろ」
「わかった」
母さんが死んだというのに、俺はどこか冷静でいた。現実だとわかっていないのかもしれない。母さんの死に顔を見たら変わるんだろうか。いや、でもしっかりしなきゃいけない。颯矢さんの言う通り、喪主は俺なんだから。
俺が病院へ着いてしばらくたった頃、葬儀会社から霊柩車が来た。そのまま家へと帰り、葬儀と火葬は明後日と決まった。
撮影は明後日まで休みにして貰ったから大丈夫だ。
母さんは、いつもの自分のベッドで横になっている。そして俺は病院から引き上げてきた荷物を片付け、あの世へ持たせるものをまとめた。その中には、先日バンコクで買ってきたストールもある。
ストールを手にしたとき、やっと涙が出てきた。俺のドラマ観るって言ったのに。まだ撮影だって終わってないのに。早すぎるよ。でも、確かに最近は体調が悪いのか横になっていることが多かった。調子がいいときは起きていたりしたのに。
どのくらいそうやって泣いていたんだろうか。ふいにインターホンが鳴った。伯母さんだった。
伯母さんは遠いところに住んでいて、新幹線で一時間半ほどかかる。もうそんなに時間が経っていたのか。
「遅くなってごめんね。柊真くん、大丈夫?」
「伯母さん……」
そうでなくても泣いていたのに、伯母さんの顔を見たら余計に泣けてきた。それでも、1人じゃないのは心強かった。
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