Always in Love

水無瀬 蒼

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スクープ4

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「結構広いのね」

 南をバンコクでの部屋に連れてくる。会社からほど近いところに会社側が用意してくれた部屋だ。確かに1人で住むには充分な広さだ。

「誰も連れてきてない?」
「来てないよ」
「会社の人も?」
「うん」
「女の人は?」
「来てない。というか連れてくるような人いないし」

 バンコクへ来て半年。南と会ったのも半年ぶり。多分、不安になっているのだろう。

「南以外にいないよ」
「うん」
「不安にならなくて大丈夫だよ」

 そう言って、その細い体を抱きしめる。

「はい、カットー!1時間休憩入ります」

 カットの声がかかり、亜美さんを抱きしめていた腕を離す。そして、用意された控室へと行く。そこには電話で話している颯矢さんがいる。しかし、その表情は険しい。

「わかりました。後ほど。今日は19時には終わりますので」

 颯矢さんが電話と言うと香織さんとかいう人を思い出してしまうけど、この表情を見ると違うのだろう。
 電話を切った颯矢さんは、テーブルに雑誌をバサッと乱暴に投げる。こんなことするなんて、らしくないな。なにかあったんだろうか。
 黙って颯矢さんを見ていると、眼鏡を外しテーブルに置き、片手で顔の半分を隠すように手をやる。ほんとに颯矢さんらしくない。

「柊真。それを見ろ」

 と言ってテーブルの雑誌に視線を向ける。なんだろう。と思って、表紙を見て手が止まった。

『城崎柊真はゲイだった?! ミックスバーで楽しむ夜』

 なんだ、これは……。
 表紙のタイトルを見て手が止まってしまうけれど、颯矢さんが言っているのは、恐らく中の記事もだろう。震える手で雑誌を開く。
 そこには、あの日俺にしつこくしていた男に腕を掴まれているところが写っていた。なんでこんなところを撮られてるんだ?
 記事に目を通すと、俺はゲイでミックスバーで楽しんでいる、と書かれている。あの男に腕を掴まれているのは、絡まれていたからだけど、記事では体の関係があると書かれている。
 体の関係? 冗談じゃない!

「こんなのデタラメだ! 付き纏われたときの写真なのに」
「柊真。真実がどうかなんて関係ない。ミックスバーの前で男に腕を握られている。これは、見ようによっては、そういう関係だと勘ぐられても仕方がない」
「そんな!」
「柊真だってこの世界に入ったばかりじゃない。少し前に三方さんとの熱愛報道があったようにでっちあげられることだってある。なにもなくともでっちあげられるんだ。写真があれば尚さらだろ」

 颯矢さんの言う通りではある。でも、あまりにも悪意がある。悔しくて唇を強く噛む。冗談じゃない。まさか颯矢さんはこんなの信じてないよな?

「今日、撮影が終わったら事務所に行くぞ。社長がお呼びだ」

 少し前に三方さんとの熱愛で事務所に呼ばれて、今度はミックスバー通いでの記事だ。この付き纏って来た男との関係はでっちあげにしても、ミックスバーに行ったのは事実だ。そこで男と写真に撮られたら呼ばれもするか。さすがに怒られるだろうな。
 でも、と颯矢さんに目をやる。颯矢さんはこの記事を読んでどう思ったんだろう。信じた? それとも信じてない? 俺がゲイだなんて思ってないよね? 俺は颯矢さんしか好きじゃないのに。
 そう考えると悔しくて涙が出てきた。ダメだ。今は撮影中なんだから泣いちゃダメだ。そう思うけれど涙は止まらない。

「で、どうなんだ?」
「どうって?」
「本当なのか? この男とは関係はないんだよな?」
「ないよ! しつこくされただけだ」
「ということは、ミックスバーに行ったって言うのは本当なんだな?」
「……それは、本当」

 俺の返事を聞くと颯矢さんは大きなため息をついた。

「ミックスバーってゲイバーじゃないよ! 色んなセクシャリティーの人が来るところ。要は同性愛者も多い普通のバーってこと!」
「それはわかるが、そんな店の前で男と2人でいる写真を撮られたら、ゲイだと勘ぐられても仕方がないだろう。なんでそんな店に行ったんだ?」

 なんで、ってそれを颯矢さんが訊く? 颯矢さんが結婚するかもって思って、お酒でも呑まなきゃやってられなかったからだ。それを聞いて颯矢さんはどう思うの? 失恋もさせてくれない颯矢さんは。

「……」

 颯矢さんはまたひとつため息をついて言葉を続ける。

「言えないって言うことは、記事の内容を認めるのか?」
「そんなんじゃないよ! 颯矢さんが! 颯矢さんが結婚するかもしれないって思ったら呑まなきゃやってられなかっただけ。ミックスバーへ行ったのはそのとき2回目。興味本位だった」
「……」

 俺がそう答えると、颯矢さんは形の良い眉をひそめた。
 まさか自分が原因だとは思わなかった? ねぇ、これで俺の気持ちが本当だとわかった?

「とにかく、今日は撮影が終わったら事務所だ。俺も一緒に行くから。ちょっと電話してくる」

 そう言って颯矢さんは控室を出ていった。俺の前でかけられないということは事務所じゃないんだろう。もしかして、香織さんとかいう人? そんなに仲いいの? 
 もう俺は涙を止めることができなかった。
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