Always in Love

水無瀬 蒼

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バンコクにて4

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「お疲れ様。タイでの撮影はタイトだったから疲れたでしょう。今日はゆっくり休んでね。明日は早いから」
「はい。ありがとうございます。有馬さんもお疲れ様でした」
「それじゃあ明日ね」
「はい」

 スタッフさんとそんな言葉を交わし、ホテル近くのショッピングモールでロケバスを降りる。
 タイでの撮影最終日の今日は、朝早くにバンコクを出て、タイ観光シーンの撮影だった。タイでの撮影は夜遅い撮影はなかったものの、朝早くから夕方までびっしりロケが詰まっていた。
 そんなに夜更かしはしていないが、毎朝5時などに起きるのはさすがに辛いし、隈もうっすら浮かんでいる。
 
「柊真。明日の朝は5時少し過ぎにはホテルを出るから4時に起こしに行く」
「わかった。お疲れ様」
「……」

 颯矢さんとはまだきちんと話せないままで、なんなら顔もまともに見ていない。こうやってスケジュールの連絡をするぐらいになってしまっている。
 その度になにか言いたそうにしているが、俺はすぐに颯矢さんから離れてしまう。もうどれくらい颯矢さんの顔を見ていないんだろう。こうやってまともに視線を合わせないことに颯矢さんはどう思っているんだろう。俺は単なる仕事の対象でしかないから、仕事に支障をきたさなければいいと思っているだろうか? そう考えると悲しくなる。
 今日はタイ最後の夜だから小田島さんが夕食でも、と言ってくれたのだが、小田島さんの方で都合がつかなくなって約束はお流れになってしまったのだが、バンコクのファミレスのように一人でも気楽に入れるレストランを教えてくれた。それがこのショッピングモールにあるのだ。
 その店は、さすがに夕食時だったので少し待ったものの、それほどでもなかった。
 席につき、小田島さんおすすめの料理を、メニューを指さし注文する。小田島さんはタイ語の名前と英語での名前を教えてくれたので、タイ文字が読めなくても併記してある英語でどれかすぐにわかった。これはありがたい。
 注文したのは、鶏肉を焼いたガイヤーンとサラダにヤム・ウンセンだ。
 ガイヤーンは、鶏肉をナンプラーやにんにくなどの甘辛いつけ汁に漬けたあとに炭火でパリッと焼いたもので、タイではどの地域でも食べられるものらしい。
 サラダのヤム・ウンセンは茹でた春雨にイカ、海老、玉ねぎ、セロリなどの具材をナンプラーで味付けし、上にパクチーが乗せてあるものだ。
 辛い料理があまり得意とは言えない俺にあわせて選んでくれた料理だ。
 程なくして出てきたどちらも、ひとくち食べて、美味しいと思えた。日本でタイ料理というと、トムヤムクンやカレーが有名だが、これも美味しい。というより俺にはトムヤムクンもカレーも辛いので、あまり得意ではないので、この旅行で食べた物の方が美味しく感じる。
 タイに来る前は、料理が口にあわないんじゃないかと心配だったけど、要らぬ心配だったようだ。でも、そのタイも今日で終わりだ。明日の朝のフライトで日本に帰る。機会があればまた来てみたいと思う。今度はプライベートで。そして、今回出来なかった観光をしたい。今回は船を降りたワット・ポーしか観れなかったから。
 そんなことを思いながらレストランを出てホテルへ帰るのにエスカレーターで降りているとき、あるフロアで颯矢さんの姿を見かけた。
 そこはタイシルクやタイの小物なとが並んでいる。お土産探しにぴったりの店だ。
 しばらく見ていると、タイシルクのストールとキャンドルを選んでいた。
 タイシルクのストールは俺もお土産に選んだ。そう、母さんに。男はストールなんて使わない。つまりそれは女性に選んだものだということだ。しかも色鮮やかなのを買っていたから、多分若い人あて。颯矢さんに妹やお姉さんはいない。弟がいるだけの男兄弟だ。恐らく。いや、間違いなく、あの見合いをしたとかいう女の人にだろう。タイに来る前に電話で話していたし、帰国したら会うと言っていたから付き合っているんだろう。
 そんなことを考えると気分が悪くなる。せっかく美味しいものを食べたのに台無しだ。嫌なところを見てしまった。なんてタイミングが悪いんだろう。これ以上見たくなくて、俺は足早にその場を去った。
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