神様、DV彼氏と別れて幸せになれますか?

水無瀬 蒼

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終わりの始まり2

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 律くんがお風呂に入ってる間に俺は着替えて、作り置きのおかずをレンジで温めて食べた。
 そして、お風呂からあがってくる律くんのためにお茶を淹れた。長い間公園にいたみたいだし、あの様子では何も飲んでいないだろうし、お風呂あがりは水分補給が必要だからだ。
 でも、賢人とかいう男の様子がいつもと違うとはどういうことなんだろう。
 どうせなら律くんの方から離れた方が律くんのためになるけれど、きっと律くんは離れないだろう。
 こんなにしょっちゅう暴力を振るわれていて、誰も気づいていないのだろうか。友人とか知っている人はいないのだろうか。仮にいたとしたら、別れろと言わないのだろうか。
 いや、あれだけの痣だ。気づかない人はいないだろう。そして、気づいていたら別れろと言われるだろう。
 それでも別れないというのは、それだけ彼のことが好きなのだろうか。
 正直、こんなにも暴力を振るわれて、挙げ句、出ていけとまで言われて一緒にいるのは律くんにとって良くないだけでなく、彼にとっても良くないのでは? と思ってしまう。
 それというのも律くんが以前、初めから暴力を振るわれていたわけじゃない、と言っていたからだ。
 となるとストレスか何かで暴力を振るってしまっていることが考えられる。だとしたら、今日様子がおかしいというのもわかる。暴力を振るってしまう自分が嫌になってしまっていることも考えられる。だとしたら離れてあげることも優しさではないだろうか。
 もっとも律くんには難しいことのようだけれど。
 離れないのだから好き、なんだろうな。
 だとしたら俺の好意は失恋になる。認めよう。俺が律くんに対して持っている感情は、はっきり言ってしまえば恋心だ。
 きっとそれは、初めて律くんに湿布を貼るためにうちに招いたときからだろう。そのときに好意を抱いたのははっきりと覚えてる。だから、それが恋だったんだ。認めたくなかっただけで。
 俺がそんなことを考えているうちに律くんはお風呂から上がってきた。

「直樹さん。お風呂ありがとうございました」
「ううん。少しは体温まった? 春とはいえ、今日なんかは寒かったからね」
「座っているときはそんなに寒いと感じなかったけど、お風呂入ったら思ったよりも冷えてたみたいでした」
「でしょう。いつまでもあんなところにいたら風邪引いちゃうよ」
「ほんとそうですね。ありがとうございます。でも、いつも直樹さんに迷惑ばかりかけてごめんなさい」
「そんなの謝らなくていいよ。迷惑だと思ってたら声かけたりしないから」
「じゃあ、お言葉に甘えておきます」
「湿布はいらないの?」
「はい。今日は口論で暴力は振るわれてないので」
「そっか。それだけは良かったね」

 そうやって小さく笑う律くんは可愛かった。律くんみたいないい子に好かれているなんて、あの彼が羨ましすぎる。
 この間ショッピングモールで会ったとき俺は彼のことを「友達」と言ったけれど、ほんとに友達だなんて思ってはいない。間違いなくあの彼は律くんの恋人だろう。

「ねぇ。あの賢人っていう彼は、律くんの恋人だよね?」

 言うつもりはなかったのに、気がついたら言葉が出てしまっていた。

「ごめん、急に」

 律くんに目をやると、目を見開いてこちらを見ていた。

「あぁ、ごめん。差別するとかそういうんじゃなくて。そうなんだろうな、と思って。あ、俺もゲイだから差別っていうことは絶対ないから」
「……なんでそれを?」
「んー。だってあれだけの痣がつくほど暴力振るわれていたって家を出ていかないし、それにこのマンションの1LDKに友達と同居はいくらなんでも無理があるよ」
「そっか。そうですよね」
「よっぽど彼のこと好きなんだね」

 自分で自分の傷を抉るような質問をしてしまう。

「正直、今はわからないです。こんなこと言っちゃダメだと思うけど、さすがにこれだけ暴力を振るわれてると。でも、賢人、ほんとはすごく優しいんです。それ知ってるから」

 優しいか。そしたら、今日様子がいつもと違ったというのは、彼が自分に嫌気がさしたのかもしれない、という予想はあながち間違いではないようだ。

「俺、酷いこと言うようだけど、好きなら離れてあげるのも優しさだよ。まぁ、出ていけって言われたら自然と離れるけど」

 本当に酷いことを言っているという自覚はある。でも、このままでは2人ともダメになるだけな気がする。決して自分の恋を成就させたいわけではない。いや、ほんの少しはそういう気持ちもある。でも、客観的に見てそう思うのだ。

「そう、なんですかね。でも、優しい賢人がかつての優しさを取り戻すのを見たいというか。でも、事情を知っている同僚からは別れろって言われてます。俺もその方がいい、と思うときもあるけど、でも放っておけないんです」
「優しいんだね。でも、それだけじゃダメなこともあるよ」
「そう、ですね」
「ごめんね、急にこんなこと言って」
「いえ。第三者から見たら当然そう思うと思うから」

 律くんは彼のことを好きかわからない、と言っていたけれど、恐らく少しは好きという感情が残っていると思う。
 だから彼のそばから離れられないのだろう。律くんからそのような感情を持って貰っている彼がほんとに羨ましい。
 でも、俺の片思いなのはわかっているから、せめて律くんが困ったときは助けてあげたいと思う。それが俺にできる唯一のことだ。
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