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帰宅5

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「樹くん、痩せちゃったね」

 夜、ベッドの中で樹くんの頬に触れながら言う。ほんとに頬がこけて、顔色も悪い。この顔を見ると、僕がいなくなったことにどれだけダメージを受けたかがわかる。

「優斗も痩せたな。食べれなかった?」
「うん。食べれなかった。今日、お昼頑張ってサンドイッチを少し食べたけど」
「俺はゼリー飲料くらい。それも毎食じゃない」
「だから、こんなに痩せちゃったんだ。ごめんね、僕のせいで」
「謝るなら、もう黙っていなくならないで。俺、ほんとに優斗がいないとダメ」
「もうしないよ。約束する。樹くんのそばにずっといるから」
「うん。約束」

 そう言って小指を絡ませる。指切りげんまん。もう、一人で勝手に結論づけて勝手に出ていったりしない。この先ももしかしたら妊娠しないかもしれない。でも、それで樹くんから離れたりしない。樹くんが僕なんかいらない、って言うまで僕は樹くんのそばにいる。
 もう、こんなふうに苦しめたりしない。

「お義父さんやお義母さんも知ってるの?」
「知ってるよ。俺が父さんに文句言ったから」
「わけ、知ってるかな?」
「タイミング的にわからなかったら馬鹿だろ」

 お義父さんに文句言っちゃったのか。後で謝らないとダメだな。確かにお義父さんの言葉はきっかけになったけれど、一番は自分が思っていたからなんだけど。明日にでも、きちんと話をしよう。

「僕が悪いんだから、お義父さんに謝って」
「俺は悪くないよ。きっかけ作ったのは父さんだっていうことは間違いないわけだし。まぁ俺も無神経なこと言ったことあるから、申し訳ないんだけど」

 あぁ。ここの親子関係が悪くなったら僕のせいだ。まさか樹くんがお義父さんに文句を言うなんて思いもしかなった。自分が出ていくことしか考えられなかった。
 
「樹くん。ほんとに、子供ができなくてもいいの? 一生、自分の子供ができなくてもいいの?」
「そりゃ、自分の血を引いた子供がいたらいいのかもしれないけど、それと優斗を交換にはできない。さっきも言ったけど、子供の代わりはいても優斗の代わりはいないから」
「でも、血が樹くんで止まってしまう」
「そんなの関係ないよ。会社だとか名前だとか関係ない。俺がダメなら部下の誰か優秀なのを社長に据えるだろうし、如月なんて会社を経営しているだけで名門なわけでもないから名前なんて必要ないんだよ。だから俺の血を引いた子供、なんてのに拘る必要はないんだ」
「うん。わかった」

 僕は、血に拘っていた。樹くんの血。如月の血。
 それは多分、父の、加賀美の影響だ。『オメガは子を産んで、血を守る』そう言って育ったから。だから、自分のことも『加賀美の人間』だと思っていた。大嫌いな加賀美なのに。
 結局僕は、子供の頃から母や父に聞かされてきた、血のこと、そして家名。そんなのに振り回されてきたんだ。なんて馬鹿だったんだろう。
 
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