あなたが愛してくれたから

水無瀬 蒼

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失踪10

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 午後、部屋の内覧に行った。
 部屋の間取りはいいけれど、天井が低いのとマンションからスーパーまでの距離が結構あり、即答はできなかった。
 天井の低さが気になったのは、圧迫感があるからだ。賃貸マンションだと文句を言えないのもわかっているが、一人暮らしをしていたときのマンションはここほど天井は低くなかったので、圧迫感はさほど感じなかった。
 後は、スーパー。駅からマンションまでの間にあると言っていいのかわからない微妙な立地だった。
駅からマンションに帰る場合は、若干遠回りをしないといけない。
 では、週末にまとめ買いを、と考えた場合、少し距離があるのが気になった。
 サイトでは、小学校が近いなどの立地の良さをアピールしていたが、こちらは独り身なので関係ない。気になるのはスーパーだけなのだ。
 やっぱりサイトで見るだけではわからないよな、とため息をつく。これは、家探しはなかなか大変かもしれない。
 内覧が終わって時計を見たら十六時だった。夜になって、また外に出るのは面倒なので、コンビニで夕食用にお弁当を買ってホテルへ戻る。
 サイトではこれ以上物件が見つからなかったから、地道に不動産屋を一軒一軒回るしかないかもしれない。とはいえ、街の不動産屋を探すこと自体が難しいと思うんだけど。でも、家を探すにはそうするしかないかもしれない。サイトとダブルで探すか。とすると、ホテルにどれだけいればいいんだろう。あまり長居すると出費も気になる。となると、母と暮らした家に戻るか。
 母と暮らした家は、父の住む加賀美の家の斜向いだ。だから、外で顔をあわせることはゼロではない。ただ、仕事をしていたらそれほど気にしなくて大丈夫かもしれない。
 どうせ離婚したら、加賀美に戻されるんだ。そうしたら母と暮らした家に戻ってもいいのかもしれない。幸い、加賀美本家の持ち家なので、取り壊しされることもなく、そのまま残っている。僕が家を出たのは、母の呪いの言葉がそこかしこから聞こえてくるようだったからだ。
 だから、それさえ我慢すれば帰ることは可能だ。どうせ離婚したら父にはわかる。逃げることはできないんだ。
 もう少しホテル住まいをしながら探して、それでもダメなら母と暮らした家に戻ろう。そしてじっくりと探そう。あの家に戻ることを考えると気が滅入るし、嫌だ。
 樹くんは、もう離婚届を出しただろうか。と考えて気づく。僕は今、加賀美なのだろうか? それともまだ如月なんだろうか。
 それがわからないと賃貸契約のときに困る。まさか、樹くんに電話して訊くわけにもいかない。樹くんの声を聞いたら泣いてしまうだろう。とするなら、明日、役所に行って戸籍謄本を取るか。
 いや、もしかしたら離婚が成立したら、如月の家から加賀美に連絡が入り、父から電話があるかもしれない。そうしたら加賀美に戻ったとわかるのだけど、まさか父に訊くわけにもいかない。となると、やっぱり戸籍謄本が無難だ。
 そんなことを考えているとスマホが着信を告げる。
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