あなたが愛してくれたから

水無瀬 蒼

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失踪9

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 そして翌日、まずは住むところを探そうと、支度を済ませて九時にホテルの一階に降りる。軽朝食のサービスがあるから、そこでクロワッサン一個とカフェオレを胃に入れる。
 食欲はなかったけれど、外で低血糖を起こしたくないので、少しでも胃に入れておいた方がいいからだ。コーヒーもいつもならブラックだけど、胃のことを考えて、少しは胃に優しいだろうとカフェオレにした。
 軽朝食を食べながら、スマホで不動産サイトを見る。

 日当たり良好、二階以上、モニター付きインターホン、バス・トイレ別、エアコン付き、駅から徒歩十分以内、家賃八万以内。

 大体の希望でサイトを見るけれど、物件はたくさんあるのに希望に合う物件は見当たらない。いいな、と思うと駅から遠かったり、バスだったりする。
 バス停まで近ければいいか、と思ったりもするけれど、首都圏のここでは、朝は渋滞で時間が読めない。それで遅刻したりはしたくないから、徒歩がいい。
 しかし、それでは物件はヒットしないので、別の方角で探してみるが、結果は同じだ。いくつか場所を変えて検索してやっと一軒ヒットした。
 その場で不動産会社に電話をすると、今日午後なら内覧可能、ということで予約をした。それまでの時間、外にいるのも辛いので部屋の清掃は今日は断って部屋で休むことにした。これで部屋が決まってくれれば次は仕事を探せる。
 いや、仕事は探さなくても大丈夫かな? 家を出るときに離婚届に記入をし、置いてきた。だからそれで樹くんが記入し、提出してくれれば離婚成立だ。離婚すれば樹くんも僕を探すことはないだろう。いや、今も探しているかわからないけど。
 樹くんが探さなければ、仕事は今のままでも大丈夫かもしれない。
 樹くんは離婚届を出してくれるだろうか。昨日の今日だからまだ出してはいなくても、記入はしてくれただろうか。
 窓口は平日夜間や、土日でも窓口は受け付けてくれるらしいので、少し手間をかけてしまい申し訳ないけれど出しておいて欲しい。
 離婚すればもう無関係になるから、職場に来ることはないだろう。そうすればわざわざ仕事をやめなくてもすむ。ベータであれば仕事を探すのもそれほど大変でもないかもしれないけれど、オメガ枠になると求人自体が少ない。そして、その少ないパイの奪い合いだ。そうなると退職は避けたい。
 こんなことになるのなら、オメガになんてならなければ良かったのに、と思ってしまう。でも、あの頃は樹くんとずっと一緒にいたかったんだ。それで三年間幸せに暮らせた。その代償だと思うしかない。
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