あなたが愛してくれたから

水無瀬 蒼

文字の大きさ
上 下
34 / 57

束の間の幸せ8

しおりを挟む
「終わったー」

 僕はホテルのダブルベッドにダイブした。
 緊張しっぱなしだった結婚式を終え、出席者交えての食事会は何がなんだかわからないうちに終わった。式場にほど近い、美味しい中華料理のお店をチョイスしたのに、僕は何を食べたのか、味がどうだったのかさっぱり覚えていない。樹くんに訊くと、どの料理も本当に美味しかったけど、特に北京ダックが美味しかったという。安いお店なんかだと、ぱさぱさで味がさっぱりわからないようなのもある中で、しっかりと味がしていたという。

「お疲れ様」

 樹くんは、僕の隣に座っている。

「樹くんは緊張しなかったでしょう?」
「多少は緊張したけど、近しい親族しかいなかったから、それほど緊張する必要ないかな、って」

 僕は逆に近しい親族だからこそ恥ずかしかったというか、いくら誓いのためとはいえ人前でキスとか恥ずかしすぎた。

「でも、緊張してた優斗、可愛かったよ。誰にも見せたくないくらい」

 そう言って、身を屈め、頬にキスをしてきた。緊張してた姿が可愛いなんて、そんなことあるはずがない。そう言って睨むけれど、樹くんはどこ吹く風だ。ちょっと悔しい。

「ほんとに可愛かったんだけどな。写真できたらわかるよ」
「そうだ! 証拠が残っちゃうんだ。ねぇ、家に飾るのはやめようね? 絶対に嫌だからね?」
「デジタルフォトフレーム買ってあるよ」
「なんでそんなもの! じゃあ、別の写真にしよう。何も結婚式の写真なんかにする必要ないよ」
「どうして。結婚式の写真を飾るつもりだったんだよ」
「そんなー」
「大丈夫。寝室に飾るから、俺達以外誰の目にもふれないよ。あんな可愛い優斗誰にも見せたくないからね」

 寝室とはいえ、写真を飾るのは恥ずかしいけれど、寝室なら僕と樹くんしか見れないからいいのかな? 樹くんは既に見ちゃってるわけだし。でも、ちょっと恥ずかしすぎる。一生に一度の結婚式があんなに緊張しまくってたっていうのは残念すぎるけれど。

「これで、晴れて夫夫だね。優斗のこと完全に独り占めできる」
「僕を独占したい人なんて樹くん以外にいないよ」
「大学時代はいたんだよ。本人が知らないだけ。今でもいそうだけど」
「そんなことないのに。僕は樹くんがいればそれでいい」

 そう。仮に樹くん以外に僕のことを独占したいと思う人がいたとしても、僕は樹くんがいればそれでいい。僕が独り占めしていいのかわからないけれど。できればずっと樹くんの隣にいたい。
 そのためには、父の言うように早く子供を産まなければ。そうすれば、樹くんのそばにいてもいいでしょう?
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——?

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

あなたと過ごした五年間~欠陥オメガと強すぎるアルファが出会ったら~

華抹茶
BL
子供の時の流行り病の高熱でオメガ性を失ったエリオット。だがその時に前世の記憶が蘇り、自分が異性愛者だったことを思い出す。オメガ性を失ったことを喜び、ベータとして生きていくことに。 もうすぐ学園を卒業するという時に、とある公爵家の嫡男の家庭教師を探しているという話を耳にする。その仕事が出来たらいいと面接に行くと、とんでもなく美しいアルファの子供がいた。 だがそのアルファの子供は、質素な別館で一人でひっそりと生活する孤独なアルファだった。その理由がこの子供のアルファ性が強すぎて誰も近寄れないからというのだ。 だがエリオットだけはそのフェロモンの影響を受けなかった。家庭教師の仕事も決まり、アルファの子供と接するうちに心に抱えた傷を知る。 子供はエリオットに心を開き、懐き、甘えてくれるようになった。だが子供が成長するにつれ少しずつ二人の関係に変化が訪れる。 アルファ性が強すぎて愛情を与えられなかった孤独なアルファ×オメガ性を失いベータと偽っていた欠陥オメガ ●オメガバースの話になります。かなり独自の設定を盛り込んでいます。 ●最終話まで執筆済み(全47話)。完結保障。毎日更新。 ●Rシーンには※つけてます。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...