海の青と空の青

水無瀬 蒼

文字の大きさ
24 / 30

紫陽花の季節に4

しおりを挟む
 スマホのディスプレイを眺めながらメッセージが来るのを待つ。いくら眺めたって来るときは来るし、来ないときは来ない。そんな当たり前のことはわかっているのに神経はスマホに向いたままだ。理由なんて簡単だ。それは好きな人からのだから。
 会ったのはたったの5回。しかも、そのうちの1回はカウントしていいのかさえわからない。サイン会だったから都谷先生は俺のことなんて記憶にない。ただの一ファンにすぎない。
 きちんとお互いを認識して会ったのはたったの4回。千屋さんの勤める出版社の50周年記念パーティー以降だ。
 パーティーで千屋さんに紹介して貰ったとき、雷が落ちたようにビリビリと来た。俗に言う一目惚れ。ロマンティックに言うなら運命の出会い。でも運命の出会いなんてベタなロマンス物みたいで抵抗があった。それでも薔薇園に行ったときには認めるしかなかった。どうやっても「好き」という感情しかわかなかったのだ。だから好きだと言った。想いはそのままに。でも好きだという音は軽くして。
 先生にしてみたら男からそう言われるのは友情として、ファンとしてしか受け止められないだろうとわかっていた。だからわざと誇張して言ったりもした。
 幸いにも嫌悪感はないようで「なにを言ってるんだ?」という顔をするだけだったので、それが俺をつけあがらせた。
 薔薇園に行った後は先生が忙しいということで会うことは出来なかった。ただメッセージが来るのを待つのみだった。
 まるで初恋のようにドキドキとして、なにも手につかなくなって。いい歳をした自分がそうなることに呆れたりはするけれどこんなにも恋い焦がれるのは初めてだ。まるで今までしてきた恋愛が全ておままごとのように感じてしまうほどに。

 また会えるかな?
 会ってくれるかな?

 俺はポジティブと言われるけれど、このときばかりはポジティブではいられなかった。たった3回あっただけの画家のことなんて仕事に忙殺されていたら忘れられても不思議じゃない。それが怖かったのだ。しかも相手は超がつくような人見知りだ。それが俺を余計に心配にさせた。それでも信じて待った。
 結果、そんな心配は無用だったようでメッセージのやり取りをしている中、言葉の中に気安さを感じた。それがどれだけ嬉しかったか、そしてそれがどれほど俺を自惚れさせたか。それは先生の預かり知らぬことだけど。
 自惚れた俺は少しずつ距離を近いものに持っていきながら、かつ好意を嫌がられない程度にアピールしていった。
 そして先生の忙しさが一段落ついて会ったときは、辛抱強く待っていて正解だったと思った。俺はただ諦められなかっただけだけれど。
 ただ好きなだけなら心折れていたかもしれない。でも、そんなに簡単に折れてしまうような想いではなかったから粘り強く待っていられたのだ。
 そしてその粘り強さが正解だと知ったとき俺は、以前よりも少し想いを乗せてアピールしていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ボーダーライン

瑞原唯子
BL
最初に好きになったのは隣の席の美少女だった。しかし、彼女と瓜二つの双子の兄に報復でキスされて以降、彼のことばかりが気になるようになり――。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

あなたと夕陽と心

すずかけあおい
BL
光輝が海司に呼び出されて行った飲み会に来た男性・千明は、海司から光輝を奪ってその場から連れ出し、「大切にするから、そばにいてほしい」と言って抱き締めた。 〔攻め〕千明(ちあき)30歳 〔受け〕光輝(みつき)26歳 〔光輝の彼氏?〕海司(かいじ)29歳

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

今日くらい泣けばいい。

亜衣藍
BL
ファッション部からBL編集部に転属された尾上は、因縁の男の担当編集になってしまう!お仕事がテーマのBLです☆('ω')☆

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...