俺と彼女のせいしをかけた戦い(ラブコメ) 〜美少女のご主人様が奴隷の俺を興奮させようとエッチなことばかりしてくるんだが〜

田中ケケ

文字の大きさ
上 下
68 / 68
俺と彼女の、未来をかけた戦い

俺と彼女の生死をかけた戦い【帆乃視点】

しおりを挟む
 あの後、私たちはテンションそのままに一晩中走った!

 ってわけではなかった。

 普通に疲れて、息切れして、近くのコンビニでスポドリとアイスを買った。

 時刻は夜十時。

 夜明けなんてまだまだ先だななんて銀と二人で笑っていると、そこへ草飼が車でやってきた。

「一晩だけなら、この車で匿っていてもいいですよ。車内を汚すのは……まあ今日くらいは許しましょう」

 私たちはその好意に甘え、二人で後部座席に乗り込んだ。互いに密着して肩を寄せ合って座る。途中で彼の肩に頭を乗せると、彼がそっと肩を抱いてくれた。彼の体温と車の振動が心地よくて、私はうとうとと眠ってしまった。

 次に目を覚ますと、そこはどこかの海岸近くの駐車場だった。

 草飼の姿は運転席にない。

 その代わりに、私たち二人の上に一枚のタオルケットがかかっていた。

 私は隣で眠っていた銀を起こして、二人で一緒に海の向こう側から登ってくる朝日をじっと見つめた。

 そして、彼にむぎゅっと抱き着いた。

「私ね、もうこういうことできないと思ってたから、嬉しい」

 銀は照れながらも、私の抱擁を受け入れてくれた。

 しばらくすると草飼が戻ってきて、昨日私たちが去った後で起こったことを事細かに教えてくれた。

 まあ簡潔に伝えると、縁談は見事に破談。

 おじい様はさぞお怒りかと思いきや、わしが見定めてやるから今度その彼を連れてこいと言ったのだそうだ。

 それを伝えられたときの銀は、

「ま、じ?」

 と顔を真っ青にしていて、本当に面白かった。

 おじい様はそんなに怖くないから安心して。

 そして、ゲイをカミングアウトした春中由隆さんはその場で親から勘当されてしまったらしい。

 だけど由隆さんは私たち、というより銀にものすごく感謝しているとのこと。

「これで吹っ切れた。どこから写真が流出したのかはわからないけど、お金持ちの息子という甘い蜜を捨てる覚悟ができた。ようやく俺の人生を好きなように生きようと決意できたんだ」

 今度改めて感謝の言葉を伝えさせてほしいから二人で会いたい、とも言っていたそうだ。

 なんというか、すべてが丸く収まった気がする。

 それもこれも全部、銀のおかげだ。

 彼が闇の中に突き進もうとしていた私を救いに来てくれて本当によかった。

 銀を家に送ってから、私も草飼とともに家に戻ってくる。

「むはぁー! うわぁー!」

 帰ってきた私は、すぐに自室に直行してベッドにダイブして足をバタバタさせた。

 すごくすごく恥ずかしい。

 初恋の男の子が縁談の場に現れて、私を連れだしてくれた。

 あれはもう駆け落ちと同じだ。

 こんな素敵きゅんきゅんを経験して、テンションが上がらない方がおかしい。

 そのせいかはわからないが、走って逃げている間に気分がハイになってしまって、銀とそれはもう恥ずかしい言葉のやり取りをした気がする。

 だけどあれって告白って言うか、好きどおしって言うか、つき合ってることになったでいいんだよね? プロポーズも含まれるの?

「臨にも知らせないと……あ」

 手に取ったスマホをぎゅっと握りしめる。

 そうだった。

 臨とは喧嘩したままだったんだ。

 浮かれまくっていた心がしゅんとなる。

「臨……」

 涙が目から零れそうになったそのとき。

「ったく、なにしみったれた顔してんの」

 がばっと開いたドアの向こうに臨が立っていた。

 不愛想にしているけど、私にはそれが喜んでいるときの顔だってわかるんだからね!

「臨!」

 私は臨に駆け寄ってそのまま飛びついた。

「ごめんね臨! いままで! ほんとにごめん!」
「ちょっと鼻水つくから。久しぶりに会うのに泣き顔なんか見せないでよ」
「だっでぇ……でも、どうじでごごに?」
「どうしてって、親友に会いに来るのに理由がいるわけ?」

 優しい顔でそう言われたらもう止まらない。私は頬と頬を合わせてすりすりした。臨は「はぁ、しょうがないわねぇ」なんて呟いて嫌そうにしたくせに、頭をなでなでしてくれた。

「私も、あんな風に喧嘩したの初めてだったし、また会いに来る理由を探してたから、ごめんなさい」
「いいのぉ。よがっだぁ!」
「いい加減泣き止みなさい! 私はあんたの笑った顔が好きなの」
「うん。すぐ泣き止む」

 そう頷いたものの、結局泣き止むまで十五分はかかったと思う。その間ずっと臨は私の頭をなでなでしてくれていた。

 ほら、やっぱり臨は最高でしょ?

 ようやく落ち着いた私は、ローテーブルのそばに臨と隣り合わせで座る。まず私から、銀との間に起こったことを話した。

「へぇ、よかったじゃない」

 すべてを聞いた臨は、自分のことのようにほほ笑んでくれた。

「んじゃ、次はあたしの番ね」

 また会いに来る理由を探していたと言っていたから、多分そのことだろう。

 ってかそのために長い間、音信不通で東奔西走してくれたってことかな?

 なにそれ嬉しすぎる!

「あ、勘違いしないでほしいんだけど、あくまで私用のアフリカ旅行の片手間にやったことだからね」

 もう。強がっちゃって。ほんと臨は可愛いんだから。私のことを大好きすぎるってこと、ずっと前から知ってるんだからぁ!

「まあ、なんて言うの? 宮田下の体質? 病気? についてのことなんだけど。治ったって症例をアフリカ旅行中に偶然見つけたのよ」
「え? つまりそれは、銀の精子が復活するってこと?」
「そういうこと」

 臨いわく、アフリカのジャングルの奥地に住むとある部族の村に、銀と同じ症例の男の人がいたらしい。そして、その男に恋をした女性が彼をえっちな誘惑で興奮させ続けていたら、なんとびっくり、精子を作り出す機能が回復し、無事子宝に恵まれたという。

「その女の人のえちえちで献身的なご奉仕によって男は生殖機能を復活させた。ただそれだけじゃなくて、その奇跡にはそのジャングルだけに生えている薬草の成分が深くかかわっているらしいの。性的興奮とその薬草の成分が合わさったとき、生殖機能は復活するの」

 あ、これも片手間で調べたことだけど、と臨はつけ加えながら、ポケットからイチョウの葉によく似た葉っぱを取り出した。それが臨の言っていた薬草なのだろう。

「じ、じゃあ、私も、銀の子供が産めるって、そういうこと?」

 銀と愛し合って、えっちして、幸せを分け合って、ひとつになって……ああ! もう考えただけできゅんきゅんする。実際にするってなったらきっと、私の心は破裂してしまうかもしれない。銀に満足してもらえるように、それまでにいろいろと勉強しておかないと。

「ええ。でもこれまで通り、帆乃がえっちな誘惑を続ける必要があるわ。薬草を宮田下くんに摂取させる方法にかんしては、おいおい考えるとしましょう。薬草から成分を効率的に抽出する器具はもう作ってあるし」
「じゃあさっそく銀にも伝えないと。絶対に喜ぶよ」
「それなんだけど」

 臨はにやりと不敵に笑う。

 うん。

 いつもの調子が戻ってきて帆乃ちゃんは安心しました。

 後でイチゴミルク作ってあげるね。

 酢昆布ももずく酢もいっぱい買ってあげる。

「精子が復活するって事実を伝えるのも、帆乃がそのために頑張って興奮させようとするって伝えるのもよくないと思うの。俺のために頑張ってくれているって感情が、興奮の妨げになるはずだから」
「なるほど。たしかにそうかも」

 人は意識してしまうと、それを完全に忘れることは難しい。

 大好きな彼女に純粋に尽くされる、えっちなことをしてもらえるって状況の方が、銀は興奮してくれそうだ。

 ってか私が銀の大好きな彼女ですってきゃぁあああ!

「でしょ? だから帆乃は、宮田下くんを興奮させることがいつの間にか快感になっちゃったっていうていで、これから行動していくべきなのよ」
「了解であります。臨隊長。イチゴミルク十杯でよろしいですか」

 申し分ないわね、と臨も敬礼を返してくれる。

「よし! そうと決まればさっそく次のエロエロ大作戦を考えないと。私たちの、宮田下くんの精子をかけた戦いはこれからね!」
「その言い方、慣れてきたら青春漫画っぽくてかっこいい! 打ち切りエンドになりそうだけど!」
「私がついてるのに打ち切りになんかさせるわけないじゃない! だってこんな面白い――じゃなくて親友のためなんだから」
「もう、臨ったら正直さん」
「ええそうよ。私は正直さんなのよ」

 そう言った臨はなぜか頬を赤く染めて、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。

「だから、正直さんな梨本臨は、吉良坂帆乃のことが大好きだから。ずっと親友でいてね」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟くように言った臨が、私の手を握る。

 これ……臨から握ってくれたの初めてだ!

「ああもう臨大好きぃ!」

 私は臨を押し倒しながらむぎゅむぎゅと抱きしめる。

 世界はこんなにも私に味方をしてくれるんだと、みんなのおかげでそう気づけたことが本当に嬉しかった。




 完

 長い物語にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
 田中ケケ
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

解除
花雨
2021.08.12 花雨

作品登録しときますね(^^)

解除

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。