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俺と彼女の、未来をかけた戦い
俺と彼女の生死をかけた戦い【帆乃視点】
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あの後、私たちはテンションそのままに一晩中走った!
ってわけではなかった。
普通に疲れて、息切れして、近くのコンビニでスポドリとアイスを買った。
時刻は夜十時。
夜明けなんてまだまだ先だななんて銀と二人で笑っていると、そこへ草飼が車でやってきた。
「一晩だけなら、この車で匿っていてもいいですよ。車内を汚すのは……まあ今日くらいは許しましょう」
私たちはその好意に甘え、二人で後部座席に乗り込んだ。互いに密着して肩を寄せ合って座る。途中で彼の肩に頭を乗せると、彼がそっと肩を抱いてくれた。彼の体温と車の振動が心地よくて、私はうとうとと眠ってしまった。
次に目を覚ますと、そこはどこかの海岸近くの駐車場だった。
草飼の姿は運転席にない。
その代わりに、私たち二人の上に一枚のタオルケットがかかっていた。
私は隣で眠っていた銀を起こして、二人で一緒に海の向こう側から登ってくる朝日をじっと見つめた。
そして、彼にむぎゅっと抱き着いた。
「私ね、もうこういうことできないと思ってたから、嬉しい」
銀は照れながらも、私の抱擁を受け入れてくれた。
しばらくすると草飼が戻ってきて、昨日私たちが去った後で起こったことを事細かに教えてくれた。
まあ簡潔に伝えると、縁談は見事に破談。
おじい様はさぞお怒りかと思いきや、わしが見定めてやるから今度その彼を連れてこいと言ったのだそうだ。
それを伝えられたときの銀は、
「ま、じ?」
と顔を真っ青にしていて、本当に面白かった。
おじい様はそんなに怖くないから安心して。
そして、ゲイをカミングアウトした春中由隆さんはその場で親から勘当されてしまったらしい。
だけど由隆さんは私たち、というより銀にものすごく感謝しているとのこと。
「これで吹っ切れた。どこから写真が流出したのかはわからないけど、お金持ちの息子という甘い蜜を捨てる覚悟ができた。ようやく俺の人生を好きなように生きようと決意できたんだ」
今度改めて感謝の言葉を伝えさせてほしいから二人で会いたい、とも言っていたそうだ。
なんというか、すべてが丸く収まった気がする。
それもこれも全部、銀のおかげだ。
彼が闇の中に突き進もうとしていた私を救いに来てくれて本当によかった。
銀を家に送ってから、私も草飼とともに家に戻ってくる。
「むはぁー! うわぁー!」
帰ってきた私は、すぐに自室に直行してベッドにダイブして足をバタバタさせた。
すごくすごく恥ずかしい。
初恋の男の子が縁談の場に現れて、私を連れだしてくれた。
あれはもう駆け落ちと同じだ。
こんな素敵きゅんきゅんを経験して、テンションが上がらない方がおかしい。
そのせいかはわからないが、走って逃げている間に気分がハイになってしまって、銀とそれはもう恥ずかしい言葉のやり取りをした気がする。
だけどあれって告白って言うか、好きどおしって言うか、つき合ってることになったでいいんだよね? プロポーズも含まれるの?
「臨にも知らせないと……あ」
手に取ったスマホをぎゅっと握りしめる。
そうだった。
臨とは喧嘩したままだったんだ。
浮かれまくっていた心がしゅんとなる。
「臨……」
涙が目から零れそうになったそのとき。
「ったく、なにしみったれた顔してんの」
がばっと開いたドアの向こうに臨が立っていた。
不愛想にしているけど、私にはそれが喜んでいるときの顔だってわかるんだからね!
「臨!」
私は臨に駆け寄ってそのまま飛びついた。
「ごめんね臨! いままで! ほんとにごめん!」
「ちょっと鼻水つくから。久しぶりに会うのに泣き顔なんか見せないでよ」
「だっでぇ……でも、どうじでごごに?」
「どうしてって、親友に会いに来るのに理由がいるわけ?」
優しい顔でそう言われたらもう止まらない。私は頬と頬を合わせてすりすりした。臨は「はぁ、しょうがないわねぇ」なんて呟いて嫌そうにしたくせに、頭をなでなでしてくれた。
「私も、あんな風に喧嘩したの初めてだったし、また会いに来る理由を探してたから、ごめんなさい」
「いいのぉ。よがっだぁ!」
「いい加減泣き止みなさい! 私はあんたの笑った顔が好きなの」
「うん。すぐ泣き止む」
そう頷いたものの、結局泣き止むまで十五分はかかったと思う。その間ずっと臨は私の頭をなでなでしてくれていた。
ほら、やっぱり臨は最高でしょ?
ようやく落ち着いた私は、ローテーブルのそばに臨と隣り合わせで座る。まず私から、銀との間に起こったことを話した。
「へぇ、よかったじゃない」
すべてを聞いた臨は、自分のことのようにほほ笑んでくれた。
「んじゃ、次はあたしの番ね」
また会いに来る理由を探していたと言っていたから、多分そのことだろう。
ってかそのために長い間、音信不通で東奔西走してくれたってことかな?
なにそれ嬉しすぎる!
「あ、勘違いしないでほしいんだけど、あくまで私用のアフリカ旅行の片手間にやったことだからね」
もう。強がっちゃって。ほんと臨は可愛いんだから。私のことを大好きすぎるってこと、ずっと前から知ってるんだからぁ!
「まあ、なんて言うの? 宮田下の体質? 病気? についてのことなんだけど。治ったって症例をアフリカ旅行中に偶然見つけたのよ」
「え? つまりそれは、銀の精子が復活するってこと?」
「そういうこと」
臨いわく、アフリカのジャングルの奥地に住むとある部族の村に、銀と同じ症例の男の人がいたらしい。そして、その男に恋をした女性が彼をえっちな誘惑で興奮させ続けていたら、なんとびっくり、精子を作り出す機能が回復し、無事子宝に恵まれたという。
「その女の人のえちえちで献身的なご奉仕によって男は生殖機能を復活させた。ただそれだけじゃなくて、その奇跡にはそのジャングルだけに生えている薬草の成分が深くかかわっているらしいの。性的興奮とその薬草の成分が合わさったとき、生殖機能は復活するの」
あ、これも片手間で調べたことだけど、と臨はつけ加えながら、ポケットからイチョウの葉によく似た葉っぱを取り出した。それが臨の言っていた薬草なのだろう。
「じ、じゃあ、私も、銀の子供が産めるって、そういうこと?」
銀と愛し合って、えっちして、幸せを分け合って、ひとつになって……ああ! もう考えただけできゅんきゅんする。実際にするってなったらきっと、私の心は破裂してしまうかもしれない。銀に満足してもらえるように、それまでにいろいろと勉強しておかないと。
「ええ。でもこれまで通り、帆乃がえっちな誘惑を続ける必要があるわ。薬草を宮田下くんに摂取させる方法にかんしては、おいおい考えるとしましょう。薬草から成分を効率的に抽出する器具はもう作ってあるし」
「じゃあさっそく銀にも伝えないと。絶対に喜ぶよ」
「それなんだけど」
臨はにやりと不敵に笑う。
うん。
いつもの調子が戻ってきて帆乃ちゃんは安心しました。
後でイチゴミルク作ってあげるね。
酢昆布ももずく酢もいっぱい買ってあげる。
「精子が復活するって事実を伝えるのも、帆乃がそのために頑張って興奮させようとするって伝えるのもよくないと思うの。俺のために頑張ってくれているって感情が、興奮の妨げになるはずだから」
「なるほど。たしかにそうかも」
人は意識してしまうと、それを完全に忘れることは難しい。
大好きな彼女に純粋に尽くされる、えっちなことをしてもらえるって状況の方が、銀は興奮してくれそうだ。
ってか私が銀の大好きな彼女ですってきゃぁあああ!
「でしょ? だから帆乃は、宮田下くんを興奮させることがいつの間にか快感になっちゃったっていうていで、これから行動していくべきなのよ」
「了解であります。臨隊長。イチゴミルク十杯でよろしいですか」
申し分ないわね、と臨も敬礼を返してくれる。
「よし! そうと決まればさっそく次のエロエロ大作戦を考えないと。私たちの、宮田下くんの精子をかけた戦いはこれからね!」
「その言い方、慣れてきたら青春漫画っぽくてかっこいい! 打ち切りエンドになりそうだけど!」
「私がついてるのに打ち切りになんかさせるわけないじゃない! だってこんな面白い――じゃなくて親友のためなんだから」
「もう、臨ったら正直さん」
「ええそうよ。私は正直さんなのよ」
そう言った臨はなぜか頬を赤く染めて、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。
「だから、正直さんな梨本臨は、吉良坂帆乃のことが大好きだから。ずっと親友でいてね」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟くように言った臨が、私の手を握る。
これ……臨から握ってくれたの初めてだ!
「ああもう臨大好きぃ!」
私は臨を押し倒しながらむぎゅむぎゅと抱きしめる。
世界はこんなにも私に味方をしてくれるんだと、みんなのおかげでそう気づけたことが本当に嬉しかった。
完
長い物語にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
田中ケケ
ってわけではなかった。
普通に疲れて、息切れして、近くのコンビニでスポドリとアイスを買った。
時刻は夜十時。
夜明けなんてまだまだ先だななんて銀と二人で笑っていると、そこへ草飼が車でやってきた。
「一晩だけなら、この車で匿っていてもいいですよ。車内を汚すのは……まあ今日くらいは許しましょう」
私たちはその好意に甘え、二人で後部座席に乗り込んだ。互いに密着して肩を寄せ合って座る。途中で彼の肩に頭を乗せると、彼がそっと肩を抱いてくれた。彼の体温と車の振動が心地よくて、私はうとうとと眠ってしまった。
次に目を覚ますと、そこはどこかの海岸近くの駐車場だった。
草飼の姿は運転席にない。
その代わりに、私たち二人の上に一枚のタオルケットがかかっていた。
私は隣で眠っていた銀を起こして、二人で一緒に海の向こう側から登ってくる朝日をじっと見つめた。
そして、彼にむぎゅっと抱き着いた。
「私ね、もうこういうことできないと思ってたから、嬉しい」
銀は照れながらも、私の抱擁を受け入れてくれた。
しばらくすると草飼が戻ってきて、昨日私たちが去った後で起こったことを事細かに教えてくれた。
まあ簡潔に伝えると、縁談は見事に破談。
おじい様はさぞお怒りかと思いきや、わしが見定めてやるから今度その彼を連れてこいと言ったのだそうだ。
それを伝えられたときの銀は、
「ま、じ?」
と顔を真っ青にしていて、本当に面白かった。
おじい様はそんなに怖くないから安心して。
そして、ゲイをカミングアウトした春中由隆さんはその場で親から勘当されてしまったらしい。
だけど由隆さんは私たち、というより銀にものすごく感謝しているとのこと。
「これで吹っ切れた。どこから写真が流出したのかはわからないけど、お金持ちの息子という甘い蜜を捨てる覚悟ができた。ようやく俺の人生を好きなように生きようと決意できたんだ」
今度改めて感謝の言葉を伝えさせてほしいから二人で会いたい、とも言っていたそうだ。
なんというか、すべてが丸く収まった気がする。
それもこれも全部、銀のおかげだ。
彼が闇の中に突き進もうとしていた私を救いに来てくれて本当によかった。
銀を家に送ってから、私も草飼とともに家に戻ってくる。
「むはぁー! うわぁー!」
帰ってきた私は、すぐに自室に直行してベッドにダイブして足をバタバタさせた。
すごくすごく恥ずかしい。
初恋の男の子が縁談の場に現れて、私を連れだしてくれた。
あれはもう駆け落ちと同じだ。
こんな素敵きゅんきゅんを経験して、テンションが上がらない方がおかしい。
そのせいかはわからないが、走って逃げている間に気分がハイになってしまって、銀とそれはもう恥ずかしい言葉のやり取りをした気がする。
だけどあれって告白って言うか、好きどおしって言うか、つき合ってることになったでいいんだよね? プロポーズも含まれるの?
「臨にも知らせないと……あ」
手に取ったスマホをぎゅっと握りしめる。
そうだった。
臨とは喧嘩したままだったんだ。
浮かれまくっていた心がしゅんとなる。
「臨……」
涙が目から零れそうになったそのとき。
「ったく、なにしみったれた顔してんの」
がばっと開いたドアの向こうに臨が立っていた。
不愛想にしているけど、私にはそれが喜んでいるときの顔だってわかるんだからね!
「臨!」
私は臨に駆け寄ってそのまま飛びついた。
「ごめんね臨! いままで! ほんとにごめん!」
「ちょっと鼻水つくから。久しぶりに会うのに泣き顔なんか見せないでよ」
「だっでぇ……でも、どうじでごごに?」
「どうしてって、親友に会いに来るのに理由がいるわけ?」
優しい顔でそう言われたらもう止まらない。私は頬と頬を合わせてすりすりした。臨は「はぁ、しょうがないわねぇ」なんて呟いて嫌そうにしたくせに、頭をなでなでしてくれた。
「私も、あんな風に喧嘩したの初めてだったし、また会いに来る理由を探してたから、ごめんなさい」
「いいのぉ。よがっだぁ!」
「いい加減泣き止みなさい! 私はあんたの笑った顔が好きなの」
「うん。すぐ泣き止む」
そう頷いたものの、結局泣き止むまで十五分はかかったと思う。その間ずっと臨は私の頭をなでなでしてくれていた。
ほら、やっぱり臨は最高でしょ?
ようやく落ち着いた私は、ローテーブルのそばに臨と隣り合わせで座る。まず私から、銀との間に起こったことを話した。
「へぇ、よかったじゃない」
すべてを聞いた臨は、自分のことのようにほほ笑んでくれた。
「んじゃ、次はあたしの番ね」
また会いに来る理由を探していたと言っていたから、多分そのことだろう。
ってかそのために長い間、音信不通で東奔西走してくれたってことかな?
なにそれ嬉しすぎる!
「あ、勘違いしないでほしいんだけど、あくまで私用のアフリカ旅行の片手間にやったことだからね」
もう。強がっちゃって。ほんと臨は可愛いんだから。私のことを大好きすぎるってこと、ずっと前から知ってるんだからぁ!
「まあ、なんて言うの? 宮田下の体質? 病気? についてのことなんだけど。治ったって症例をアフリカ旅行中に偶然見つけたのよ」
「え? つまりそれは、銀の精子が復活するってこと?」
「そういうこと」
臨いわく、アフリカのジャングルの奥地に住むとある部族の村に、銀と同じ症例の男の人がいたらしい。そして、その男に恋をした女性が彼をえっちな誘惑で興奮させ続けていたら、なんとびっくり、精子を作り出す機能が回復し、無事子宝に恵まれたという。
「その女の人のえちえちで献身的なご奉仕によって男は生殖機能を復活させた。ただそれだけじゃなくて、その奇跡にはそのジャングルだけに生えている薬草の成分が深くかかわっているらしいの。性的興奮とその薬草の成分が合わさったとき、生殖機能は復活するの」
あ、これも片手間で調べたことだけど、と臨はつけ加えながら、ポケットからイチョウの葉によく似た葉っぱを取り出した。それが臨の言っていた薬草なのだろう。
「じ、じゃあ、私も、銀の子供が産めるって、そういうこと?」
銀と愛し合って、えっちして、幸せを分け合って、ひとつになって……ああ! もう考えただけできゅんきゅんする。実際にするってなったらきっと、私の心は破裂してしまうかもしれない。銀に満足してもらえるように、それまでにいろいろと勉強しておかないと。
「ええ。でもこれまで通り、帆乃がえっちな誘惑を続ける必要があるわ。薬草を宮田下くんに摂取させる方法にかんしては、おいおい考えるとしましょう。薬草から成分を効率的に抽出する器具はもう作ってあるし」
「じゃあさっそく銀にも伝えないと。絶対に喜ぶよ」
「それなんだけど」
臨はにやりと不敵に笑う。
うん。
いつもの調子が戻ってきて帆乃ちゃんは安心しました。
後でイチゴミルク作ってあげるね。
酢昆布ももずく酢もいっぱい買ってあげる。
「精子が復活するって事実を伝えるのも、帆乃がそのために頑張って興奮させようとするって伝えるのもよくないと思うの。俺のために頑張ってくれているって感情が、興奮の妨げになるはずだから」
「なるほど。たしかにそうかも」
人は意識してしまうと、それを完全に忘れることは難しい。
大好きな彼女に純粋に尽くされる、えっちなことをしてもらえるって状況の方が、銀は興奮してくれそうだ。
ってか私が銀の大好きな彼女ですってきゃぁあああ!
「でしょ? だから帆乃は、宮田下くんを興奮させることがいつの間にか快感になっちゃったっていうていで、これから行動していくべきなのよ」
「了解であります。臨隊長。イチゴミルク十杯でよろしいですか」
申し分ないわね、と臨も敬礼を返してくれる。
「よし! そうと決まればさっそく次のエロエロ大作戦を考えないと。私たちの、宮田下くんの精子をかけた戦いはこれからね!」
「その言い方、慣れてきたら青春漫画っぽくてかっこいい! 打ち切りエンドになりそうだけど!」
「私がついてるのに打ち切りになんかさせるわけないじゃない! だってこんな面白い――じゃなくて親友のためなんだから」
「もう、臨ったら正直さん」
「ええそうよ。私は正直さんなのよ」
そう言った臨はなぜか頬を赤く染めて、覚悟を決めたように小さく息を吐いた。
「だから、正直さんな梨本臨は、吉良坂帆乃のことが大好きだから。ずっと親友でいてね」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で呟くように言った臨が、私の手を握る。
これ……臨から握ってくれたの初めてだ!
「ああもう臨大好きぃ!」
私は臨を押し倒しながらむぎゅむぎゅと抱きしめる。
世界はこんなにも私に味方をしてくれるんだと、みんなのおかげでそう気づけたことが本当に嬉しかった。
完
長い物語にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
田中ケケ
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