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俺と彼女の、未来をかけた戦い
いってらっしゃいませ
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「だから、なにが言いたい?」
「あなたは子供が作れない身体を理由にして逃げてるだけではありませんか?」
「はっ? 俺が、逃げてる?」
その言葉に、少しだけカチンときた。
「冗談ならいますぐに訂正してくれ」
「いまのが冗談に聞こえたのなら、いよいよあなたは男ではないです」
「向き合ってるからこんなに苦しんでるんだろ!」
「違いますね。自分が子供を作れない身体だってことと向き合っているふりをして、絶好の理由にして、向き合いたくない本当の悩みから目を逸らしているだけです」
「俺が? 本当の悩み?」
そんな簡単に言うなよ!
俺は、俺はこんな体に生まれたから!
「はい。あなたは、子供がいる幸せを味合わせてあげられないというハンデを背負った状況下で、大切な人を幸せにできる自信がないだけです」
そうなんじゃありませんか? と草飼さんに見つめられる。
ふざけんな! と思いつつ、俺の身体はなぜかぶるぶると震えていた。
「帆乃様の理想なんか、家族像なんかどうでもいいじゃないですか。あなたがどうしたいかでしょう。子供ができないことを不幸に思っているのは世間じゃない。宮田下銀! あなた自身だ! あなた自身があなたを可哀想な男だと差別している」
俺が俺を差別だと?
わけわかんねぇこと言うんじゃねぇ!
……なのにどうしてこんなに胸が痛むんだ!
「子供をつくれない俺はダメだ。そう悲観するだけなのは向き合っていると言わないんですよ。あなたに必要なのは、子供がいなくても俺が幸せにしてやる、俺たちなら二人でも幸せになれるって、好きな人を引っ張っていく強引さじゃないんですか?」
俺が向き合ってない?
逃げてる?
子供ができない身体なのを逃げの理由にしてる?
「いいかげん覚悟を決めたらどうですか? ここで逃げたらあなたは、一生過去に後悔って名前をつけることになるんですよ?」
そんなの、嫌だ。
イヤダイヤダイヤダ。
でもしょうがない。
俺はそういう身体に生まれたのだから。
――本当にそうか?
俺が嫌なのは、本当に嫌なのは、心の底から望んでいる幸せは。
「俺は、吉良坂さんが他の男と手を繋いでるのが嫌だ。キスをしているのが嫌だ。抱かれてるのが嫌だ。俺がその気持ちよさをあげられなくても、子供が作れなくても、俺は吉良坂さんの、帆乃の笑顔のそばにいたい」
それが一番の、正直な気持ちだった。
草飼さんの言葉は全部本質をついていて、だからこそムカついた。
けどそのおかげで俺は、俺の本当の気持ちに、本当の弱さに、本当の情けなさに気が付くことができた。
「俺は俺に嘘をついて生きたくない! 死んだように生きたくない!」
生死をかけて現実に立ち向かわなきゃいけなかったのは、俺自身だったんだ!
ハンデがあるから好きな人を幸せにする自信がない。
ただそれだけだったのだ。
「その言葉を、みんなが待っていました」
立ち上がった吉良坂さんが、俺の前に一枚の紙を落とす。
「さぁ、早く地面に這いつくばってその紙を拾いなさい。負け犬にはぴったりです。帆乃お嬢様がいる店が書かれています」
「へぇ、負け犬上等だ」
俺はすぐに地面に這いつくばってその紙を拾い上げる。すると、また紙が落ちてきた。写真だった。
「これは?」
「それがもうひとつの真実です。私からの選別ですよ」
俺は写真を見て、ニヤリと笑った。
「だったらこれを最初から見せろよ」
これで後ろめたさは完全になくなった。
「こんなものなくても、あなたが決断できなければ意味がないですから」
「こんな写真どこで手に入れた?」
「私が好きに動かせる男はたくさんいますから」
「色んな意味で優秀なメイドだな」
「帆乃様の幸せな笑顔を見るのが私は好きなのです。ですが、私は吉良坂家に仕えるメイドでもありますので」
「だから俺を、俺の意思を利用ってか?」
「私は男を意のままに動かすのが得意なんです。帆乃様の元にはあなたが行くべきなんです」
利用されるのはお嫌いでしたか? とにやりと笑う草飼さんに問われたので、俺は自慢げにこう答えた。
「俺は吉良坂帆乃のどんな命令も聞いてきたドM男だぞ?」
「でしたら、あとで帆乃様には鞭を渡しておきますね」
「可愛らしいピンクのやつで頼む」
軽口を叩き合うと、俺と草飼さんは同時に吹き出した。
「宮田下様――いや、旦那様とお呼びした方がよろしいですか」
「そうなれるように頑張るよ」
俺の返事を聞いた草飼さんが、一歩下がる。手を身体の前で揃えゆっくりと腰を折り曲げ、見事なお辞儀をしてくれる。
「では、旦那様。早くお嬢様のもとでイッてらっしゃいませ」
「で、じゃなくてに、な? このどエロメイドが! 感動の場面が台無しだよ!」
「あなたは子供が作れない身体を理由にして逃げてるだけではありませんか?」
「はっ? 俺が、逃げてる?」
その言葉に、少しだけカチンときた。
「冗談ならいますぐに訂正してくれ」
「いまのが冗談に聞こえたのなら、いよいよあなたは男ではないです」
「向き合ってるからこんなに苦しんでるんだろ!」
「違いますね。自分が子供を作れない身体だってことと向き合っているふりをして、絶好の理由にして、向き合いたくない本当の悩みから目を逸らしているだけです」
「俺が? 本当の悩み?」
そんな簡単に言うなよ!
俺は、俺はこんな体に生まれたから!
「はい。あなたは、子供がいる幸せを味合わせてあげられないというハンデを背負った状況下で、大切な人を幸せにできる自信がないだけです」
そうなんじゃありませんか? と草飼さんに見つめられる。
ふざけんな! と思いつつ、俺の身体はなぜかぶるぶると震えていた。
「帆乃様の理想なんか、家族像なんかどうでもいいじゃないですか。あなたがどうしたいかでしょう。子供ができないことを不幸に思っているのは世間じゃない。宮田下銀! あなた自身だ! あなた自身があなたを可哀想な男だと差別している」
俺が俺を差別だと?
わけわかんねぇこと言うんじゃねぇ!
……なのにどうしてこんなに胸が痛むんだ!
「子供をつくれない俺はダメだ。そう悲観するだけなのは向き合っていると言わないんですよ。あなたに必要なのは、子供がいなくても俺が幸せにしてやる、俺たちなら二人でも幸せになれるって、好きな人を引っ張っていく強引さじゃないんですか?」
俺が向き合ってない?
逃げてる?
子供ができない身体なのを逃げの理由にしてる?
「いいかげん覚悟を決めたらどうですか? ここで逃げたらあなたは、一生過去に後悔って名前をつけることになるんですよ?」
そんなの、嫌だ。
イヤダイヤダイヤダ。
でもしょうがない。
俺はそういう身体に生まれたのだから。
――本当にそうか?
俺が嫌なのは、本当に嫌なのは、心の底から望んでいる幸せは。
「俺は、吉良坂さんが他の男と手を繋いでるのが嫌だ。キスをしているのが嫌だ。抱かれてるのが嫌だ。俺がその気持ちよさをあげられなくても、子供が作れなくても、俺は吉良坂さんの、帆乃の笑顔のそばにいたい」
それが一番の、正直な気持ちだった。
草飼さんの言葉は全部本質をついていて、だからこそムカついた。
けどそのおかげで俺は、俺の本当の気持ちに、本当の弱さに、本当の情けなさに気が付くことができた。
「俺は俺に嘘をついて生きたくない! 死んだように生きたくない!」
生死をかけて現実に立ち向かわなきゃいけなかったのは、俺自身だったんだ!
ハンデがあるから好きな人を幸せにする自信がない。
ただそれだけだったのだ。
「その言葉を、みんなが待っていました」
立ち上がった吉良坂さんが、俺の前に一枚の紙を落とす。
「さぁ、早く地面に這いつくばってその紙を拾いなさい。負け犬にはぴったりです。帆乃お嬢様がいる店が書かれています」
「へぇ、負け犬上等だ」
俺はすぐに地面に這いつくばってその紙を拾い上げる。すると、また紙が落ちてきた。写真だった。
「これは?」
「それがもうひとつの真実です。私からの選別ですよ」
俺は写真を見て、ニヤリと笑った。
「だったらこれを最初から見せろよ」
これで後ろめたさは完全になくなった。
「こんなものなくても、あなたが決断できなければ意味がないですから」
「こんな写真どこで手に入れた?」
「私が好きに動かせる男はたくさんいますから」
「色んな意味で優秀なメイドだな」
「帆乃様の幸せな笑顔を見るのが私は好きなのです。ですが、私は吉良坂家に仕えるメイドでもありますので」
「だから俺を、俺の意思を利用ってか?」
「私は男を意のままに動かすのが得意なんです。帆乃様の元にはあなたが行くべきなんです」
利用されるのはお嫌いでしたか? とにやりと笑う草飼さんに問われたので、俺は自慢げにこう答えた。
「俺は吉良坂帆乃のどんな命令も聞いてきたドM男だぞ?」
「でしたら、あとで帆乃様には鞭を渡しておきますね」
「可愛らしいピンクのやつで頼む」
軽口を叩き合うと、俺と草飼さんは同時に吹き出した。
「宮田下様――いや、旦那様とお呼びした方がよろしいですか」
「そうなれるように頑張るよ」
俺の返事を聞いた草飼さんが、一歩下がる。手を身体の前で揃えゆっくりと腰を折り曲げ、見事なお辞儀をしてくれる。
「では、旦那様。早くお嬢様のもとでイッてらっしゃいませ」
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