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俺と彼女の、未来をかけた戦い
私の中をあなたでいっぱいにして①
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朝風呂に入って、髭も念入りに剃って、気合を入れておしゃれをしてでかけたのに、なぜだか足取りが重い。
今日は雲一つない青空が頭上に広がっている絶好のお出かけ日和なのに、胸の辺りがどんよりとしている。どうやら梅雨という季節を俺の心が先取りしてしまったみたいだ。
駅前は、日曜だからか多くの人でごった返していた。みんなものすごく楽しそうだ。俺もそんなウキウキドキドキワイキキビーチ気分でここに立っていたかったと切にと思う。
ウキウキドキドキワイキキビーチ気分ってなんだよ。
「ここだよな……あっ」
駅前の定番待ち合わせスポット、犬の銅像の前には多くの人が集まっていた。
そんな人混みの中にいても吉良坂さんはひときわ輝いている。
穢れを知らない純白のワンピースに、黒の肩掛けのカバン。
神秘の泉から飛んできた妖精かと思った。
久しぶりに見る吉良坂さんはやっぱり可愛くて、胸が大きくて、スタイルがよくて、可愛かった。
「あ」
近づいてくる俺に気がついた吉良坂さんは、一瞬だけ視線を下に向けてから、控えめに手を挙げた。
「久しぶり。宮田下くん」
彼女の声は相変わらず澄んでいた。宮田下くんと呼ばれただけなのに、身体がどうしようもなくざわめく。足取りが、嘘のように軽くなる。
「ごめん。待った?」
「ううん。私もいま来たところだから」
なんだこの初々しいカップルみたいなこそばゆいやり取りは。恥ずかしくなって目を逸らしながら頬をぽりぽりと掻く。ちらりと吉良坂さんの方を見ると、同じ姿をしている吉良坂さんとばっちり目があった。
同時に吹き出した。
緊張感が一気に消え、あの日吉良坂さんのマンションで行われたことが、二週間の空白が嘘のように、懐かしい空気感が舞い戻ってくる。
「ねぇ宮田下くん。これは命令なんだけど」
吉良坂さんはかあぁっと頬を赤らめ、
「手を、握ってもいいですか?」
命令なのに疑問系なところが、吉良坂さんらしいなと思う。
「命令だったら、しょうがないな」
「いいのっ?」
嬉しそうに肩を跳ねさせた吉良坂さんは、あたりをキョロキョロと見渡してから、
「じ、じゃあ」
と俺の小指だけを、その細くてなめらかな手で握った。なんだよその握り方可愛いかよ。キュンてなったから、このままでも全然いいんだけど。
「いやいや、握るって言ったら……その、こうだろ」
俺の方から吉良坂さんの手をぎゅっと握ると、吉良坂さんの手がぴくっと強張ったが、
「あ、ありがとう」
ゆっくりと握り返してくれた。
俺の顔を見てにぱぁっと笑ってくれた。
その笑顔は、青空に浮かぶ太陽よりも眩しくてあたたかい。
「なんかこういうのって、私たちからしたら新鮮だよね」
つながっている二人の手を見ながら嬉しそうに呟く吉良坂さん。
「ってか初めてなんじゃないか? 手をつなぐとか」
あれだけかかわってきたのだから、気づかぬうちに手と手が触れ合っていた、なんてことは起こっていたのかもしれない。
でも、こうして意識的に手を握ったのは初めてだ。
「たしかにそうかも。私たち、もっとすごいことをいっぱいしてきたのに、これが一番恥ずかしい気がする」
「俺は一方的にすごいことをされてきたって感覚なんだが」
「考えてたのは私じゃないから……大体」
「少しは考えてたんじゃねぇか!」
吉良坂さんからあの日々に触れてくるとは思わなかったが、全然悪い気はしない。空気も重くない。あの日々の出来事を冗談っぽく笑い飛ばせているのがその証拠だ。
俺はつながっている二人の手を少しだけ持ち上げる。
「なんで俺たちは手をつなぐなんて初歩的なこと、すっ飛ばしてたんだろうな」
言葉にすると、ものすごく重みがある気がした。
そこにこそ、俺たちの相容れなさが如実に表れている気がして。
「そうだね。でもだからこそ、私にはこの温もりがすごく新鮮で、愛おしく思える」
「それは……俺もだ」
俺が手をぎゅっとするのと同時に吉良坂さんも手をぎゅっとしてくれた。たったこれだけですごく満たされた気分になっている。下着すら見えていないのに、触れ合っているのは手のひらだけなのに、いままでで一番ドキドキしている。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「うん!」
元気よくうなずいた吉良坂さんと一緒に駅の構内へ向けて歩き出す。
今日は雲一つない青空が頭上に広がっている絶好のお出かけ日和なのに、胸の辺りがどんよりとしている。どうやら梅雨という季節を俺の心が先取りしてしまったみたいだ。
駅前は、日曜だからか多くの人でごった返していた。みんなものすごく楽しそうだ。俺もそんなウキウキドキドキワイキキビーチ気分でここに立っていたかったと切にと思う。
ウキウキドキドキワイキキビーチ気分ってなんだよ。
「ここだよな……あっ」
駅前の定番待ち合わせスポット、犬の銅像の前には多くの人が集まっていた。
そんな人混みの中にいても吉良坂さんはひときわ輝いている。
穢れを知らない純白のワンピースに、黒の肩掛けのカバン。
神秘の泉から飛んできた妖精かと思った。
久しぶりに見る吉良坂さんはやっぱり可愛くて、胸が大きくて、スタイルがよくて、可愛かった。
「あ」
近づいてくる俺に気がついた吉良坂さんは、一瞬だけ視線を下に向けてから、控えめに手を挙げた。
「久しぶり。宮田下くん」
彼女の声は相変わらず澄んでいた。宮田下くんと呼ばれただけなのに、身体がどうしようもなくざわめく。足取りが、嘘のように軽くなる。
「ごめん。待った?」
「ううん。私もいま来たところだから」
なんだこの初々しいカップルみたいなこそばゆいやり取りは。恥ずかしくなって目を逸らしながら頬をぽりぽりと掻く。ちらりと吉良坂さんの方を見ると、同じ姿をしている吉良坂さんとばっちり目があった。
同時に吹き出した。
緊張感が一気に消え、あの日吉良坂さんのマンションで行われたことが、二週間の空白が嘘のように、懐かしい空気感が舞い戻ってくる。
「ねぇ宮田下くん。これは命令なんだけど」
吉良坂さんはかあぁっと頬を赤らめ、
「手を、握ってもいいですか?」
命令なのに疑問系なところが、吉良坂さんらしいなと思う。
「命令だったら、しょうがないな」
「いいのっ?」
嬉しそうに肩を跳ねさせた吉良坂さんは、あたりをキョロキョロと見渡してから、
「じ、じゃあ」
と俺の小指だけを、その細くてなめらかな手で握った。なんだよその握り方可愛いかよ。キュンてなったから、このままでも全然いいんだけど。
「いやいや、握るって言ったら……その、こうだろ」
俺の方から吉良坂さんの手をぎゅっと握ると、吉良坂さんの手がぴくっと強張ったが、
「あ、ありがとう」
ゆっくりと握り返してくれた。
俺の顔を見てにぱぁっと笑ってくれた。
その笑顔は、青空に浮かぶ太陽よりも眩しくてあたたかい。
「なんかこういうのって、私たちからしたら新鮮だよね」
つながっている二人の手を見ながら嬉しそうに呟く吉良坂さん。
「ってか初めてなんじゃないか? 手をつなぐとか」
あれだけかかわってきたのだから、気づかぬうちに手と手が触れ合っていた、なんてことは起こっていたのかもしれない。
でも、こうして意識的に手を握ったのは初めてだ。
「たしかにそうかも。私たち、もっとすごいことをいっぱいしてきたのに、これが一番恥ずかしい気がする」
「俺は一方的にすごいことをされてきたって感覚なんだが」
「考えてたのは私じゃないから……大体」
「少しは考えてたんじゃねぇか!」
吉良坂さんからあの日々に触れてくるとは思わなかったが、全然悪い気はしない。空気も重くない。あの日々の出来事を冗談っぽく笑い飛ばせているのがその証拠だ。
俺はつながっている二人の手を少しだけ持ち上げる。
「なんで俺たちは手をつなぐなんて初歩的なこと、すっ飛ばしてたんだろうな」
言葉にすると、ものすごく重みがある気がした。
そこにこそ、俺たちの相容れなさが如実に表れている気がして。
「そうだね。でもだからこそ、私にはこの温もりがすごく新鮮で、愛おしく思える」
「それは……俺もだ」
俺が手をぎゅっとするのと同時に吉良坂さんも手をぎゅっとしてくれた。たったこれだけですごく満たされた気分になっている。下着すら見えていないのに、触れ合っているのは手のひらだけなのに、いままでで一番ドキドキしている。
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「うん!」
元気よくうなずいた吉良坂さんと一緒に駅の構内へ向けて歩き出す。
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