俺と彼女のせいしをかけた戦い(ラブコメ) 〜美少女のご主人様が奴隷の俺を興奮させようとエッチなことばかりしてくるんだが〜

田中ケケ

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俺と彼女の、せいしをかけた戦い

結末

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「あ、え……これは」
「どうして、泣いてるんですか?」

 吉良坂さんに指摘された途端、視界が一気に滲んだ。

 頬がむず痒い。

 次から次に涙が吉良坂さんのおなかの上へ落ちていく。

「違う、これは、違って」

 そう呟きながら涙を拭うが、ちっとも収まる気配がない。

 こんなことが前にもあった。

 でもあのときと違うのは、俺がいま泣いている理由をはっきりと自覚しているということだ。

 ここまでやったのに、ここまでしたのに、ここまでしてもらったのに、俺が背負っている残酷な現実に抗えなかった。

 むしろ一度乗り越えようと壁をよじ登り始めてしまったばかり、その壁の高さを改めて思い知らされてしまった。

「も、もしかして、私の裸に、幻滅した?」

 そんなわけない、と伝えたいのに、涙でうまくしゃべれない。

 違う、違うんだ! 俺はどうしてこんななんだよ!

 苛立ちと失望が身体の中を渦巻いている。

 やっぱり駄目だった。

 梨本さんから男になれって言われたくせに、草飼さんに吉良坂さんの家で二人きりにしてもらったくせに、スッポンや牡蠣を食べたくせに、イランイランの香りがしているくせに、吉良坂さんがここまで許してくれたのに、受け入れてくれたのに!

 俺の流した涙が、彼女の綺麗で艶やかな肌の上を滑り落ちていく。

「げ、幻滅したなら、ごめんなさい。その分いろいろ頑張るから、なんでもしていいし、するから。私はあなたとエッチがしたいの。あなたの精子が、子供がほしいの」

 そんなこと、涙目で俺に言わないでくれよ。

「ねぇ、私はどうしたらいい? あなたの言うことなんでも聞く。どんなことだってしてあげる。だから一緒に気持ちよくなろうよ。エッチって、すごく気持ちいんだって。幸せなんだって」
「だめ、なんだ」

 ようやくその言葉を絞り出せた。

「だめ、って、私じゃ、私とじゃどうしてもエッチできないってこと?」
「そうじゃない! そうじゃないんだ!」
「じゃあなんで!」
「しないんじゃなくて、俺はんだ」

 ああ、言ってしまった。

「そりゃあ俺だってしたいさ。普通の男子高校生だ。男だ。魅力的な女の子が下着姿でいる。しかも俺が服を脱がした。これから先のことだって受け入れてくれている。なんでもしてくれる。そんな状況で、やっぱり無理だなんて言いたくない!」
「だったらどうして!」
「だからいくら俺がしたいと思ったって、無理なんだよ!」

 いますぐ下半身を取っかえたい。どんなに早漏なやつでもいい、どんなに粗末なやつでもいいから、通常の機能を備えたものに取り替えたい。

「だって俺は勃たないし、そもそも精子も作り出せない。そういう身体なんだ」

 俺は俺の身体の真実を吉良坂さんに告げた。

「え……なにそれ」

 吉良坂さんの顔が失望に歪む。

「じゃあ君の子供を、私は、どうやっても……できないの?」

 悔しいけど、俺は深くうなずいた。

「どうして! ねぇどうして!」

 吉良坂さんが声を荒らげる。泣き始める。顔を悲しみが支配していく。

「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてよ!」
「俺に言われたってどうしようもないんだよ!」
「私は君の子供が欲しいんだよ!」

 吉良坂さんの顔はもう涙と絶望でぐちゃぐちゃだ。

「だってそうしないと、私は……おじい様が決めた相手と結婚することになる。子供が出来れば、妊娠すれば、私はその運命に抗える! お母さんがそうやってお父さんと結ばれたように! 私もなりたいの!」

 初めて聞くことばかりだった。

 おじい様が相手を決める?

 それに抗うため?

 なんだそれは。

 小説のためじゃなかったのか。

 でも、そこにどんな理由があろうとも、俺が彼女の願いを叶えてあげられることは絶対にない。

「申しわけないけど、俺にはできない。他をあたってくれ」
「いやだっ!」
「俺たちは初めから相容れなかったんだ」

 吉良坂さんは子供が欲しい。

 子供のいる暖かな家族に憧れている。

 俺はそれを叶えてあげられない。

「そんな、どうして、こんなのって……」

 吉良坂さんの身体から力が抜けていくのがわかった。お腹に手を添えて、ゆっくりとさすり始める。

「あなたの子供ができないって、そんな……」

 俺はなにも答えない。

 だって相容れないから。

 どうすることもできない状況が、現実が、将来の夢が、憧れが、俺たちの間に立ちはだかっているのだから。
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