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俺と彼女の、せいしをかけた戦い
せいしをかけた戦い①
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俺は磨りガラスに背を向けてソファに座り、ひたすら素数を数えていた。
ローテーブルの上のリモコンに延びそうになる右手を左手で押さえてなんとかしのいでいる状態だ。
大丈夫、誰も見てないんだから、という悪魔のささやきに理性で対抗するのももう限界か。
「くそぉ。めちゃくちゃ弄ばれてるな」
ちゃぷちゃぷという音が次第に大きくなっている気がする。まるで俺のすぐ後ろに浴槽が迫っているみたいだ。こんなの嫌でも磨りガラスの中にいる裸の吉良坂さんを想像してしまうだろ! 俺まで湯船につかってるみたいに身体が熱くなってきた!
ああもう! 脳内で裸の吉良坂さんを妄想してるんだから、実際に見たってなにも変わらないんじゃ……だめだだめだ。
考え直せ俺!
気をしっかり持て!
もう何度目かわからない葛藤を繰り返していたとき、突然部屋のインターホンが鳴った。
草飼さんが返ってきたのだろうか?
「あれ、もう三十分もたったのか?」
壁にかかっていた時計で時間を確認するが、まだ十五分しかたっていない。
あのエロメイド。
時間より早く帰ってきて俺の恥ずかしい姿を見る作戦だったんだな。
ははは、残念ながら俺は数々の誘惑に打ち勝利した勇者であるぞ!
俺は天下統一した戦国武将のように誉れ高い気分でインターホンのもとに向かうが、その画面に映っていたのは草飼さんでなかった。
「吉良坂さん」
その画面に映っていたのは、間違いなく吉良坂帆乃。髪が濡れているから少し普段の印象と違うが間違いなくそうだ。インターホンの画面にはデコルテのあたりまで映っている。鎖骨のくぼみに付着している水滴まで見えるほど無駄に高画質だ!
「つつ、つまりこれは」
俺は磨りガラスの方を見る。
お風呂の中から連絡が来たってことであってるよな?
「な、んで?」
お風呂から部屋に繋がるインターホンがある不思議については考えないでおこう。
いま問題にすべきなのは、吉良坂さんが画面の中で恥ずかしそうに俯いていることだ。
全身が映ってるって勘違いしてるのかな?
安心してください。そのエロすぎる鎖骨のくぼみまでしか映ってませんよ。でも映ってない部分は裸なんですよね。見えないことによって、かえってその見えていない部分の妄想がはかどってしまうなんて不思議だなぁ。なんだこの家は! いたるところにエロの罠が転がってるじゃねぇか!
ピンポーン。
俺が妄想している間に、もう一度インターホンのボタンが押される。
その際に右手を持ち上げたためか、胸の谷間とたわわなふくらみがインターホンの画面に現れた。
俺は慌てて通話ボタンを押した。
「なに、吉良坂さん」
「宮田下くん。…………いらっしゃい」
「お、お邪魔してます」
これ、こんな状況でするやり取りじゃないよね? ってかそれ以上恥ずかしそうに顔を赤らめないで。見えてない他の部分の状態を想像しちゃうから!
「え、えっと、俺になにか用?」
インターホンをしてきたのは吉良坂さんなのに一向に要件を話さないので俺から聞いた。
「あ、あぅぅ。あ、えっと」
色っぽい吐息を漏らした吉良坂さんはきょろきょろと視線を動かしてから、
「その、いま、私の……見てる?」
「見てないから! 断じて見てないから!」
即答で否定する。
てかさっきから声が反響してて無駄に色っぽく聞こえるんだよ!
「磨りガラスもそのままにしてるし、インターホンも顔しか映ってないから大丈夫」
「そ、っか」
吉良坂さんが俯きながら呟く。
……あ、この反応もしかして信じてない?
「ってか、用事って、それ?」
なんだか少し悲しい。俺が女の子の入浴タイムを覗くような、不誠実な男に見えてたってことだよな。
「ううん。そ、そうじゃなくて、その……別の、用件で」
「だったら早く教えて? なに?」
早くこの通話を終了させないと、理性が宇宙の果てまで飛んでいきそうだ。
「えっと、だから……その」
吉良坂さんは唇を一度すぼめてから、さっきよりも一段階小さな声で続けた。
「下着とバスタオルを忘れちゃって、持ってきてくれない?」
「ごめん。吉良坂さんってアホの子だったのかな? お風呂に入るのにその二つを忘れるって、プロ野球選手がグローブとバッドを忘れるようなもんだよ?」
「今日は宮田下くんを、男の人を始めて部屋に呼ぶってなって、緊張してて」
なんか俺が悪いみたいな感じになってるけど、絶対違うからね。
「でも、それだったら一旦パジャマだけ着てくれば……」
「宮田下くんはノーブラノーパンで女子が部屋をうろつく姿が好きなの?」
「そういうことじゃない!」
そんなこと言わないでくれ無駄に想像がはかどっちゃうんだよ!
「お願い、宮田下くん。実は……トイレにも行きたくて」
「と、トイレ?」
「あ、まさか宮田下くん。お風呂場で私がしてるとこを見たいって……そういう趣味?」
だからそういうこと言うから想像しちゃうんだって!
しゃがんでるところが磨りガラス越しにもう見えたよ!
これもはや実際に見えてる方がエロくないんじゃないか?
中が見えない故に中の様子を好き勝手想像できてしまう。
これが噂の厨二病大好きワード、シュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーの吉良坂さんですか?
「なんでそうなる! ってかそもそも見てないから! 磨りガラスのままだから」
「それだって、その、嘘かもしれないし……あっ、もう我慢できない。でもこうやって私がもじもじしてる姿を見て楽しんでるんだったら、このまま……」
「そんなわけあるか! わかったよ! 持ってくよ!」
あれ、いま勢いに任せて変なことを言ってしまったような……。
ローテーブルの上のリモコンに延びそうになる右手を左手で押さえてなんとかしのいでいる状態だ。
大丈夫、誰も見てないんだから、という悪魔のささやきに理性で対抗するのももう限界か。
「くそぉ。めちゃくちゃ弄ばれてるな」
ちゃぷちゃぷという音が次第に大きくなっている気がする。まるで俺のすぐ後ろに浴槽が迫っているみたいだ。こんなの嫌でも磨りガラスの中にいる裸の吉良坂さんを想像してしまうだろ! 俺まで湯船につかってるみたいに身体が熱くなってきた!
ああもう! 脳内で裸の吉良坂さんを妄想してるんだから、実際に見たってなにも変わらないんじゃ……だめだだめだ。
考え直せ俺!
気をしっかり持て!
もう何度目かわからない葛藤を繰り返していたとき、突然部屋のインターホンが鳴った。
草飼さんが返ってきたのだろうか?
「あれ、もう三十分もたったのか?」
壁にかかっていた時計で時間を確認するが、まだ十五分しかたっていない。
あのエロメイド。
時間より早く帰ってきて俺の恥ずかしい姿を見る作戦だったんだな。
ははは、残念ながら俺は数々の誘惑に打ち勝利した勇者であるぞ!
俺は天下統一した戦国武将のように誉れ高い気分でインターホンのもとに向かうが、その画面に映っていたのは草飼さんでなかった。
「吉良坂さん」
その画面に映っていたのは、間違いなく吉良坂帆乃。髪が濡れているから少し普段の印象と違うが間違いなくそうだ。インターホンの画面にはデコルテのあたりまで映っている。鎖骨のくぼみに付着している水滴まで見えるほど無駄に高画質だ!
「つつ、つまりこれは」
俺は磨りガラスの方を見る。
お風呂の中から連絡が来たってことであってるよな?
「な、んで?」
お風呂から部屋に繋がるインターホンがある不思議については考えないでおこう。
いま問題にすべきなのは、吉良坂さんが画面の中で恥ずかしそうに俯いていることだ。
全身が映ってるって勘違いしてるのかな?
安心してください。そのエロすぎる鎖骨のくぼみまでしか映ってませんよ。でも映ってない部分は裸なんですよね。見えないことによって、かえってその見えていない部分の妄想がはかどってしまうなんて不思議だなぁ。なんだこの家は! いたるところにエロの罠が転がってるじゃねぇか!
ピンポーン。
俺が妄想している間に、もう一度インターホンのボタンが押される。
その際に右手を持ち上げたためか、胸の谷間とたわわなふくらみがインターホンの画面に現れた。
俺は慌てて通話ボタンを押した。
「なに、吉良坂さん」
「宮田下くん。…………いらっしゃい」
「お、お邪魔してます」
これ、こんな状況でするやり取りじゃないよね? ってかそれ以上恥ずかしそうに顔を赤らめないで。見えてない他の部分の状態を想像しちゃうから!
「え、えっと、俺になにか用?」
インターホンをしてきたのは吉良坂さんなのに一向に要件を話さないので俺から聞いた。
「あ、あぅぅ。あ、えっと」
色っぽい吐息を漏らした吉良坂さんはきょろきょろと視線を動かしてから、
「その、いま、私の……見てる?」
「見てないから! 断じて見てないから!」
即答で否定する。
てかさっきから声が反響してて無駄に色っぽく聞こえるんだよ!
「磨りガラスもそのままにしてるし、インターホンも顔しか映ってないから大丈夫」
「そ、っか」
吉良坂さんが俯きながら呟く。
……あ、この反応もしかして信じてない?
「ってか、用事って、それ?」
なんだか少し悲しい。俺が女の子の入浴タイムを覗くような、不誠実な男に見えてたってことだよな。
「ううん。そ、そうじゃなくて、その……別の、用件で」
「だったら早く教えて? なに?」
早くこの通話を終了させないと、理性が宇宙の果てまで飛んでいきそうだ。
「えっと、だから……その」
吉良坂さんは唇を一度すぼめてから、さっきよりも一段階小さな声で続けた。
「下着とバスタオルを忘れちゃって、持ってきてくれない?」
「ごめん。吉良坂さんってアホの子だったのかな? お風呂に入るのにその二つを忘れるって、プロ野球選手がグローブとバッドを忘れるようなもんだよ?」
「今日は宮田下くんを、男の人を始めて部屋に呼ぶってなって、緊張してて」
なんか俺が悪いみたいな感じになってるけど、絶対違うからね。
「でも、それだったら一旦パジャマだけ着てくれば……」
「宮田下くんはノーブラノーパンで女子が部屋をうろつく姿が好きなの?」
「そういうことじゃない!」
そんなこと言わないでくれ無駄に想像がはかどっちゃうんだよ!
「お願い、宮田下くん。実は……トイレにも行きたくて」
「と、トイレ?」
「あ、まさか宮田下くん。お風呂場で私がしてるとこを見たいって……そういう趣味?」
だからそういうこと言うから想像しちゃうんだって!
しゃがんでるところが磨りガラス越しにもう見えたよ!
これもはや実際に見えてる方がエロくないんじゃないか?
中が見えない故に中の様子を好き勝手想像できてしまう。
これが噂の厨二病大好きワード、シュレディンガーの猫ならぬ、シュレディンガーの吉良坂さんですか?
「なんでそうなる! ってかそもそも見てないから! 磨りガラスのままだから」
「それだって、その、嘘かもしれないし……あっ、もう我慢できない。でもこうやって私がもじもじしてる姿を見て楽しんでるんだったら、このまま……」
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