俺と彼女のせいしをかけた戦い(ラブコメ) 〜美少女のご主人様が奴隷の俺を興奮させようとエッチなことばかりしてくるんだが〜

田中ケケ

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猫コスプレをかけた戦い

タイムリミット【帆乃視点】

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「ってかなんなのあいつ。根性なしって病気なの? 帆乃があそこまでやってんのに」

 いつもの中華料理屋で、臨が麻婆豆腐と巣昆布ともずく酢を混ぜ合わせたスペシャルメニューを頬張りながら不満げに呟いた。

 あ、もちろん飲み物はイチゴミルク。

「攻略難易度が高い方が燃えるっていうけど、あれは逆に萎えるわ。あんなにえちえちな姿の帆乃に手を出さないなんて、むしろ帆乃をバカにしてる」
「私に魅力がないだけだよ」

 咀嚼していた天津飯を飲み込んでから、私は宮田下くんをかばうような発言を口にする。

 だってそれは本当のことだから。

 私にもっと女としての魅力があれば、効果的に迫れていれば、興奮させれば、とっくの昔に宮田下くんとエッチができているはずなのだ。

「そんなことない。帆乃は世界で一番魅力的な女の子よ。でも、こうなったらあいつの手足を縛って強引に」
「それはだめ。だって……私、宮田下くんに嫌われたくないの。だからこうして小説を書くためとか、周りのみんなにやらされてるって感じで興奮させて、襲われようとしてるんだから」
「私が一番疑問に思ってるのはそこよ」

 臨がジョッキに入っているイチゴミルクをごくごく飲んで、グラスの底をドンと机にぶつけるようにして置く。

「帆乃言ったじゃん。あいつ、エッチい女の子は嫌いだって。性交渉がなくても続く関係が理想だって」
「うん。ものすごく真剣に熱弁してた」
「でもさ、私が見る限りだけどあいつ、エロに不快感を抱いてるようには見えないのよ」
「どういうこと?」
「だからあいつはエロを嫌ってるんじゃなくて、なにかしらの理由があってそういう嘘をついてるんじゃないかってこと」
「その理由って?」
「そんなのわかるわけないでしょ。男子高校生の無限の性欲を抑え込むほどの理由なんか」

 臨はまた不満げにイチゴミルクをがぶがぶ飲む。

「でも、だったらなおさら私の魅力が足りないんだよ」
「なんでそうなるの?」
「だって、その嘘を覆せてないってことだから」
「あーあ。私が男だったら、すぐにでも帆乃とやって精子を提供してあげるのに」

 おどけたような口調で、重苦しくなりかけた場の空気を元に戻してくれる臨。

 唯我独尊女なんて言われてるけど、本当はこういう繊細な気遣いだってできるんだから。

「そう言ってくれてありがとう。自信になる」
「ってかなんで帆乃はあいつの子供を作ることに固執してるわけ? 好きってことは知ってるけど、そんなに早まらなくてもよくない? それこそあいつの好みに合わせて、清純で奥手な女の子を装えばいいじゃない」
「それは、その通りなんだけど」

 私はとろとろの餡がかかった天津飯に目線を向ける。

「好きな人とは早く結婚したいって思うから。だから、そのためには子供かなぁって。それに、好きな人とエッチするのはすごく幸せなことだってお母さんが言ってたし」

 ――お母さんはね、お父さんを興奮させて強引に子供を作ったから、こうして幸せになれてるの。

 ――貧乏だけど、愛した人と、その愛の結晶のあなたと暮らせている。好きな人と愛し合うのは、とっても幸せなことなのよ。

 お母さんの言葉を思い出す。

 あれはたしか、貧乏の原因が私にあるんじゃないかと思って、

『私って、いない方がいい?』

 とお母さんに言ってしまったときだ。

 お母さんはそんな私を優しく抱きしめてくれて、少しだけ照れくさそうにその言葉たちを伝えてくれた。

 そのときは幼すぎて、その言葉の意味はほとんど理解できなかったが、いろんなことを知識として得たいまなら、お母さんの言葉に込められていたものの重みがよくわかる。

「はぁ……、これだけ帆乃に愛されてるのに、ほんと宮田下のやつ……」

 ああ、また更なる作戦を考えないと……と頭をガシガシ書き始める臨。

 ほんとにもう臨ったら。

 私が最初に話したときは手伝うの面倒だって言ってたのに、いまはもう私以上にどうやったら宮田下くんを興奮させられるかを考えてくれている。

 ほんと、私にはもったいないほど素敵な友達だ。こんなにも優しい親友に出会えていて、しかも家は超お金持ち。そんな恵まれた環境にいるにもかかわらず、さらに宮田下くんまで手に入れようとしている私がひどく傲慢な存在のように思えてしまう。

「ってかこれもまったく参考にならないし! なんでも言うことを聞くって言ってんだから、もっと自分の欲望に正直になりなさいよ」

 臨がテーブルの上に置いていた五枚の紙をまとめて掴むとくしゃくしゃに丸める。

 その紙は、宮田下くんが書いたメイドの私にやってもらいたいことリスト。

 吉良坂さんの書いた小説を読みたい。

 肩を揉んでほしい。

 お勧めの本を教えてほしい。

 また膝枕をしてほしい。

 また後ろから抱きしめてほしい。

 臨が言うにはこんなのただの建前らしいけど、参考になる部分もあると思うなぁ。

 それから、臨と二人で宮田下くんをドキドキさせる作戦を二時間ほど考えてから中華料理屋を出た。

 草飼が運転する車で臨を送り届けてから、草飼と二人で住んでいるマンションへ帰る。

「ちょっとよろしいですか。帆乃様」

 その道中、ハンドルを握ったままの草飼が口を開いた。

「なにかしら?」
「先ほど。帆乃様が臨様とお食事中にご連絡がありまして、ついに決まったそうです」
「……そう」

 驚きはしなかった。

 今日決まるかもしれないと事前におじい様からそのことは聞かされていた。

 でも、こんなにすんなりと決まるものなのか。

 そういう家だから仕方ないけど、私の意思は関係ないってことなのね。

 これで私も腹をくくらなければいけない。

 時間は完全になくなった。

 タイムリミットが近い、ではなく正真正銘のタイムリミット。これまでは、まだ正式に決まったわけじゃなかったから、どこか心の余裕があった。

「草飼。私、どうしたらいいと思う?」
「どうもこうも、次がラストチャンスと考えた方がいいかもしれません。もちろんまだ正式な決定までは時間があるでしょうが、これまで以上に時間がないことを自覚して、なりふり構わずやるしかないかと。彼、宮田下銀の精子をかけた戦いは」
「……そう、よね」

 お腹を手でゆっくりとさする。ここに宮田下くんのを……。言いようのない焦りがじわじわと身体中に広がっていく。

 次がラストチャンスの気持ちで望め。

 草飼の言うとおりかもしれない。

 これまでに得た知識を総動員して、宮田下くんを誘惑しないといけない。

 恥ずかしがってなんかいられない。

 今日はちょうど金曜日だから、週末で作戦を決めて、一回全部の流れを練習しておこう。

「私、やってみせる。なんでもする」
「私も、できる限り協力いたします。帆乃様のメイドですから」
「ありがとう、草飼」

 私はシートベルトをぎゅっと握りしめた。

 もし、宮田下くんの精子を手に入れられなかったら、子供を身ごもれなかったら、私は、吉良坂帆乃はこの先、死んだように生きることになるだろう。

 最愛の人と結ばれないなんて、そんなの絶対に嫌だ!
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