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膝枕をかけた戦い
赤ちゃんプレイ①
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皆さんは子供のころを懐かしんだことがあるだろうか?
子供ころはなんのしがらみにも囚われず、本当の意味で自由だった。一番幸せなのはなにも知らないことだというが、まさにその通りだと思う。
子供は、テーマパークにアニメのキャラクターの着ぐるみが来れば、そのキャラクターが本気でテレビ画面から飛び出してきたと思うことができる。その着ぐるみの中にハゲ散らかしたおじさんが入っているなんて考えもしないで笑っていられる。
テーマパークでキャラクターに本気で会えたって思って心の底から笑うのと、着ぐるみの中に入ってるのはハゲ散らかしたオジサンなのにあいつらマジで喜んでんのウケるって心の中で嗤うの。
一体どっちが幸せなのだろう。
そこらへんに転がっている木の棒が魔法の杖にも切れ味鋭い剣にもなる。そういうバカみたいな想像力を失いながら成長していく俺たちは、代わりにどんなものを手に入れながら、大人になっていくのだろう。
高校生になった俺が手に入れたのは、無情な現実だけだと思う。
だからこそ、こうやって子供時代を懐かしんでは、『ああ、昔はよかったなぁ』と思ってしまうのだ。
できればあのころに戻りたい。
諦めるということも、選ぶということも、受け入れるということも知らなかったあのころに一度でいいから戻ってみたい。
だけど!
「こういうことじゃないんだよ!」
理科準備室の中で、俺は頭を抱えて叫んでいた。
「え? どうしたの? 一人で叫んで」
振り返った吉良坂さんは制服の上から白いエプロンを着ている。
腰できゅっと紐を結んでいるため、お尻も胸も程よく強調されている。
新妻感満載だ。
しかも正真正銘、女子高生新妻。
これは教え子と結婚した教師の気持を味わえるってそういうやつか! 家に帰ると吉良坂さんがスリッパをパタパタさせながら玄関まで迎えにきてくれて、
「ご飯にする? お風呂にする? 私にする? それとも私をお風呂で食べる?」
まで想像しちゃったよ!
「そうやつじゃねぇんだよなぁああ!」
「だからどうして大声出してるの? わがまま言わずにちゃんとして」
「は、はい……」
俺はしぶしぶ頷き、テーブルの上に置かれている哺乳瓶とがらがらを手に取った。
「ば、ばぶぅ」
そう。俺はいま赤ちゃんなのだ。
やったね!
これであのころに戻れたよ!
なにも知らないあのころに……って戻りすぎだよ!
なにも知らなさすぎだよ!
お母さんより身長大きい赤ちゃんなんてこの世にいないから!
俺がこの子の親だったらいますぐバスケットボールを買いに行くね!
と、とにかく。
なぜ高校生の俺が赤ちゃんの演技をするなんて羞恥プレイをやっているのかというと。
「私、お母さんになってみたいの。お母さんの気持ちがわからないから」
吉良坂さんのこの一言が原因だ。
「だからお願い。今日はこれから私がお母さん。宮田下くんは私の赤ちゃんになって」
「え、あ…………」
俺は当然のように言葉を失った。
また斜め上の命令をぶっこんできやがった。
ほんとにそれは小説に役立つんですかねぇ?
ちょっとマニアックすぎやしませんか?
「だめ?」
「だめっていうか、赤ちゃんはさすがに恥ずかしいっていうか……こんな周りくどいことしなくても吉良坂さんのお母さんに質問すればいいだけの話で」
「お母さん。……もういないから」
しゅんと顔を伏せる吉良坂さん。
俺にそのつもりはなかったとはいえ、これは完全に俺が悪い。
「あ、……ごめん」
「ううん。もうずいぶんと昔のことだから」
吉良坂さんは笑顔を見せてくれたが、強がっているようにしか見えなかった。
「でも、だからこそお願い。私、家族っていうのをあんまり経験できなかったけど、お母さんがすごく優しかったってことは覚えてるの。憧れなの。好きな人と結婚して、子供は二人。男の子と女の子。休日に家族と出かけたり、毎日夕飯を一緒に食べたり、そんな普通の幸せに、私はすごく憧れている」
俺はなにも言えなかった。
不意に知ってしまった吉良坂さんの夢。
吉良坂さんの目が、声が、本当に叶えたいことなんだと心に直接訴えかけてくる。
家族四人でご飯を食べる……か。
すごく、いい。
俺も憧れるけど……俺には無理だろう。
「あ、ごめんなさい。つい語っちゃって」
「謝ることないよ。素敵な夢だなって思った。吉良坂さんなら、小説家になるって夢も素敵な家族に囲まれるって夢も絶対に叶えられるよ」
思ったことをそのまま口にすると、吉良坂さんの表情に一瞬だけ影ができたように見えた。
しかしすぐににぱっと笑って、
「も、もしかしたらその家族の中に宮田下くんが入ってるかもね」
「ははは、もしかしたら、な」
そんな未来は決して訪れない。
「だからその、予行演習っていうか、私はお母さんになってみたいの」
「しょうがない、か。なんでも言うこと聞くって約束だし」
後頭部を掻きながらしぶしぶ肯定する。
吉良坂さんの地雷を踏んだのが申しわけないってのもあるし、小説作りに貢献したいって気持ちもあるし。
まあ、それにあれだ。
俺だって昔は役者を目指してたわけだから、赤ちゃんを演じるって思えば少しは気が楽だ。
「ありがとう。宮田下くん……じゃなかった、銀くん」
「ぎ、銀くん?」
「だってそうでしょ? 自分の子供のことを名字では呼ばないよ。だから銀くんも、私のことはママって呼んでね」
「……わかった。その、……ママ」
俺が恥ずかしさを押し殺しながらそう言うと、
「はーい。よくできまちたー」
吉良坂さんは満面の笑みを浮かべながら、頭をなでなでしてくれました。
屈辱と快感が混じって、身体がふわふわとして落ち着かないです。はい。
子供ころはなんのしがらみにも囚われず、本当の意味で自由だった。一番幸せなのはなにも知らないことだというが、まさにその通りだと思う。
子供は、テーマパークにアニメのキャラクターの着ぐるみが来れば、そのキャラクターが本気でテレビ画面から飛び出してきたと思うことができる。その着ぐるみの中にハゲ散らかしたおじさんが入っているなんて考えもしないで笑っていられる。
テーマパークでキャラクターに本気で会えたって思って心の底から笑うのと、着ぐるみの中に入ってるのはハゲ散らかしたオジサンなのにあいつらマジで喜んでんのウケるって心の中で嗤うの。
一体どっちが幸せなのだろう。
そこらへんに転がっている木の棒が魔法の杖にも切れ味鋭い剣にもなる。そういうバカみたいな想像力を失いながら成長していく俺たちは、代わりにどんなものを手に入れながら、大人になっていくのだろう。
高校生になった俺が手に入れたのは、無情な現実だけだと思う。
だからこそ、こうやって子供時代を懐かしんでは、『ああ、昔はよかったなぁ』と思ってしまうのだ。
できればあのころに戻りたい。
諦めるということも、選ぶということも、受け入れるということも知らなかったあのころに一度でいいから戻ってみたい。
だけど!
「こういうことじゃないんだよ!」
理科準備室の中で、俺は頭を抱えて叫んでいた。
「え? どうしたの? 一人で叫んで」
振り返った吉良坂さんは制服の上から白いエプロンを着ている。
腰できゅっと紐を結んでいるため、お尻も胸も程よく強調されている。
新妻感満載だ。
しかも正真正銘、女子高生新妻。
これは教え子と結婚した教師の気持を味わえるってそういうやつか! 家に帰ると吉良坂さんがスリッパをパタパタさせながら玄関まで迎えにきてくれて、
「ご飯にする? お風呂にする? 私にする? それとも私をお風呂で食べる?」
まで想像しちゃったよ!
「そうやつじゃねぇんだよなぁああ!」
「だからどうして大声出してるの? わがまま言わずにちゃんとして」
「は、はい……」
俺はしぶしぶ頷き、テーブルの上に置かれている哺乳瓶とがらがらを手に取った。
「ば、ばぶぅ」
そう。俺はいま赤ちゃんなのだ。
やったね!
これであのころに戻れたよ!
なにも知らないあのころに……って戻りすぎだよ!
なにも知らなさすぎだよ!
お母さんより身長大きい赤ちゃんなんてこの世にいないから!
俺がこの子の親だったらいますぐバスケットボールを買いに行くね!
と、とにかく。
なぜ高校生の俺が赤ちゃんの演技をするなんて羞恥プレイをやっているのかというと。
「私、お母さんになってみたいの。お母さんの気持ちがわからないから」
吉良坂さんのこの一言が原因だ。
「だからお願い。今日はこれから私がお母さん。宮田下くんは私の赤ちゃんになって」
「え、あ…………」
俺は当然のように言葉を失った。
また斜め上の命令をぶっこんできやがった。
ほんとにそれは小説に役立つんですかねぇ?
ちょっとマニアックすぎやしませんか?
「だめ?」
「だめっていうか、赤ちゃんはさすがに恥ずかしいっていうか……こんな周りくどいことしなくても吉良坂さんのお母さんに質問すればいいだけの話で」
「お母さん。……もういないから」
しゅんと顔を伏せる吉良坂さん。
俺にそのつもりはなかったとはいえ、これは完全に俺が悪い。
「あ、……ごめん」
「ううん。もうずいぶんと昔のことだから」
吉良坂さんは笑顔を見せてくれたが、強がっているようにしか見えなかった。
「でも、だからこそお願い。私、家族っていうのをあんまり経験できなかったけど、お母さんがすごく優しかったってことは覚えてるの。憧れなの。好きな人と結婚して、子供は二人。男の子と女の子。休日に家族と出かけたり、毎日夕飯を一緒に食べたり、そんな普通の幸せに、私はすごく憧れている」
俺はなにも言えなかった。
不意に知ってしまった吉良坂さんの夢。
吉良坂さんの目が、声が、本当に叶えたいことなんだと心に直接訴えかけてくる。
家族四人でご飯を食べる……か。
すごく、いい。
俺も憧れるけど……俺には無理だろう。
「あ、ごめんなさい。つい語っちゃって」
「謝ることないよ。素敵な夢だなって思った。吉良坂さんなら、小説家になるって夢も素敵な家族に囲まれるって夢も絶対に叶えられるよ」
思ったことをそのまま口にすると、吉良坂さんの表情に一瞬だけ影ができたように見えた。
しかしすぐににぱっと笑って、
「も、もしかしたらその家族の中に宮田下くんが入ってるかもね」
「ははは、もしかしたら、な」
そんな未来は決して訪れない。
「だからその、予行演習っていうか、私はお母さんになってみたいの」
「しょうがない、か。なんでも言うこと聞くって約束だし」
後頭部を掻きながらしぶしぶ肯定する。
吉良坂さんの地雷を踏んだのが申しわけないってのもあるし、小説作りに貢献したいって気持ちもあるし。
まあ、それにあれだ。
俺だって昔は役者を目指してたわけだから、赤ちゃんを演じるって思えば少しは気が楽だ。
「ありがとう。宮田下くん……じゃなかった、銀くん」
「ぎ、銀くん?」
「だってそうでしょ? 自分の子供のことを名字では呼ばないよ。だから銀くんも、私のことはママって呼んでね」
「……わかった。その、……ママ」
俺が恥ずかしさを押し殺しながらそう言うと、
「はーい。よくできまちたー」
吉良坂さんは満面の笑みを浮かべながら、頭をなでなでしてくれました。
屈辱と快感が混じって、身体がふわふわとして落ち着かないです。はい。
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