俺と彼女のせいしをかけた戦い(ラブコメ) 〜美少女のご主人様が奴隷の俺を興奮させようとエッチなことばかりしてくるんだが〜

田中ケケ

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脱ぎたてのパンツをかけた戦い

脱ぎたてのパンツ①

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 人は想定外のものを目にしたとき、身体が固まってしまう生き物である。

 いつものように目覚めて、いつものように学校に行く準備をして、清々しい朝の日差しを浴びながら遅刻ギリギリに登校する。

 ああ、この前は下駄箱にラブレターが入ってたんだよなぁ。梨本さんと吉良坂さんが俺を奴隷にするために仕組んだ偽物のラブレターだったわけだけど。今度は本物のラブレターが入ってないかなぁ。

「……って、そんなわけねぇか」

 自分のことを嗤う。それが偽物であったとしても、一度、下駄箱の中にラブレターが入っているという経験をしたのだ。二度目を求めてしまうのも無理はないよね?

「ほんと、男って単純だよなぁ――――え?」

 俺は慌てて下駄箱を閉めた。急いで周囲を確認する。遅刻ギリギリの時間だったためか人はまばら。俺の動揺を気にしている人はいない。

 ふぅ、よかった……いや全然よくねぇよ! 身体が心臓になってしまったかのように、全身がどくどくと疼いている。

「ははは、見間違いに決まってる、だろ」

 ありえない、そんなわけないと自己暗示をかけつつ、俺はそこが自分の下駄箱であることをきちんとたしかめてからもう一度開け――それが見えた瞬間、また即座に閉めた。

「……ど、どういう?」

 頬をつねる。痛い。夢じゃない。嘘だろ? 理解が追いつかない。きっとディープインパクトでもこの現実には追いつけないね。競馬に興味ない人にはそのすごさがわからないか。もっとわかりやすく説明するならば、ロケットでもこの現実には追いつけないね、か。

 ははは、一体俺はなにを真剣に考えてんだ。

 頭の中でそんな現実逃避したくなるくらい、俺の頭はこんがらがっていた。

 え?

 またラブレターが入っていたんじゃないかって?

 ノンノンノン! そんなことでこんなに取り乱すわけないだろう。むしろラブレターより嬉し――じゃなくて、絶対にそこにあるはずのないものが、俺の上履きの上に置かれていたのだ。

「よしっ」

 頬を二度たたいて気合を入る。深呼吸で気持ちを落ち着かせてから、再度下駄箱を開けた。

 ……うん。やっぱりあるよ。

 これは完全に現実だ。

 夢なんかじゃない。

 俺の下駄箱の中にはいま、白のレースがあしらわれた水色のパンツが入っていた。

「なんでこんなおたか――ありえないものが入ってんだよ」

 お宝、なんて言いかけてないからね! お高そうなっていいかけただけだからね!

 俺は、上履きの上に乗っている白のレースがあしらわれた水色のパンツをじっと見つめる。

 くしゃっと無造作に置かれているのが、逆に使用感があってエロい……じゃなくて冷静に状況の分析だ。

 ん?

 上履きとパンツの間に手紙のようなものが入っているぞ。

 あー、見落としてた。これはパンツをプレゼントに添えたラブレターか。なんだなんだそっか。ラブレーターだったか。こんな短期間で二度もラブレター貰うなんてモテ期到来だなぁ。

「よぉ銀。お前も遅刻ギリか!」
「おっ――――――ふっぁよお!」

 横からいきなり声をかけられ、俺はとっさにパンツと手紙を掴んで制服のポケットに押し込んだ。

「おっふっぁようって、なんだよその挨拶」

 声をかけてきたのは、同じクラスの山本だった。

「さすがに驚きすぎだろ。顔真っ赤だぞ」
「はは、ははははは」
「まさかお前、登校する途中でムラムラきてイって来たんじゃないだろうな? それで遅刻ギリってわけか。銀だけに朝からギンギンってか!」
「なわけあるかよ!」

 そうツッコみつつ、俺は山本の様子を事細かに観察する。……うん。山本は普段通りだ。こうやってどぎつい下ネタをぶっ込んできたのがその証拠。俺のポケットにちらちら視線を向けるとか、気まずそうにしているとか、そんな様子は微塵も感じられない。ってかこいつなら、俺が女性用のパンツを持っているのを見た時点でニヤニヤしながら指摘してくるか。

「おい銀。なにぼーっとしてんだよ。早くしねぇとほんとに遅刻するぞ」
「ああ、そ、そうだな」

 俺は「自然に、自然に」と心の中で自分に言い聞かせながら上履きに履き替える。廊下を歩いているときも階段を上っているときも、ポケットの中にあるパンツが気になって仕方なかった。ってか思わず握りしめたとき、ほんのり暖かかった気がするんですけど? ままままさか、脱ぎたて?

「おい銀。お前ほんとに大丈夫か? 熱あるんじゃないのか?」

 隣を歩く山本が本気で心配している。普段おちゃらけまくっている山本がそう思うくらい、いまの俺は顔が赤いということか。

「大丈夫だ。気にしないでくれ」
「そうかぁ?」

 腑に落ちないって顔をした山本を尻目に、俺は少しだけ冷静さを取り戻していた。

 そう!

 こんなことをするやつは一人しかいない!

 きっとこれも、あれの一貫だ。

 教室に入った俺は吉良坂さんを見た。窓際最前列の席に座っている彼女は、透明な朝の日差しを浴びながら、いつも通り読書をしていた。
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