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おっぱいをかけた戦い
屋上に呼び出されたのは俺の方なのにっ!?
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これは俺と彼女の、せいしをかけた戦いの一部始終である。
だって俺たちは、ただずっと、
好きなことしていきたい好きなことしていきたいだけだから!
********
夕焼けが眩しい。
屋上へと続く扉を開けた瞬間、俺はあまりの煌びやかさに思わず目を細めた。
……やべぇ、もう待ってくれてるじゃん。
紅色に染まった空へ向かって、金属バットとボールのぶつかる甲高い音が校庭からまっすぐ伸びていく。屋上の中央に立っている人の影も、俺のもとまでまっすぐ伸びていた。
【放課後、一人で屋上に来てください。大事な話があります】
こんな手紙が下駄箱に入っていて喜ばない男子はいない。だってこれって告白されるってことでしょ? しかもラブレターなんて古風な呼び出し方、絶対、手をつなぐだけで十年くらいかかっちゃう系の、俺好みのウブな女子だよ。
「いや、たとえどんな子でも。俺は……」
まあ、できればショートカットの可愛い子希望で!
なんて思いながら、逆光のせいで全体的に黒くなっている女の子のもとへ歩いていく。だんだんとその姿が鮮明に……え、まじ?
たしかこの子は、隣のクラスの梨本臨という女の子だ。
マッシュショートの黒髪と大きな目が特徴の女の子。
普段から感情のこもっていない冷めた目をしているが、ぶっちゃけ言って超美人。
そのミステリアスな雰囲気に絆されて多くの男子が告白しているが、
「恋愛になんて興味ないの」
と全員あえなく玉砕している。
梨本さんは発明家の父の影響を受けてか、自身も発明家を目指しており、機械にしか興味がないらしい。
唯我独尊女なんてあだ名で呼ばれているのを聞いたこともある。
ん? ってことはだよ!
これまで恋愛に興味なかった人が俺に告白しようとしているってことでいいんだよな?
なにそれ俺が彼女を変えたってこと?
つまりこれからこの子の誰も見たことがない笑顔を独占できるってこと?
最高オブ最高じゃん!
彼女はきっとウブだろうから、男女交際イコールセックス! みたいに考えているお股ゆるゆるビッチ女じゃないはずだ。
春特有の柔らかな風が吹き、梨本さんの穿いている紺のプリーツミニスカートが揺らめく。なびく髪を手で押さえる様は妙に色っぽい。彼女の顔が赤く見えるのは夕日のせいですか? なかなか話してこないのは緊張しているからですかねぇ!
「あの、梨本さん」
だったら俺から話しかけようじゃないか。こういうときは男がリードするもんだしね。
俺は柔和な笑顔を意識して、彼女の名前を呼んだ。
「俺になにか用かな?」
優しく語りかけると同時に、風がぴたりと止む。ラブレターを貰ってるんだから用なんてわかりきってるけどね。
野球部が出していた雑音も聞こえなくなり、世界に二人きりになったように錯覚する。
「あの」
そして、ついに梨本さんが口を開いた。ああ、あの色っぽい真っ赤な唇に俺だけが触れられるんだ。もはや彼女の無表情ですら愛おしく感じられ――
「――ごめんなさい」
え?
ゴメンナサイ?
俺は耳を疑った。
たしかにいまごめんなさいって言ったよねどういうこと?
梨本さんは顔色ひとつ変えず淡々と続ける。
「私、さっきまではあなたに告白しようと思ってたけど、やっぱり無理。ごめんなさい」
……はい?
なにこの状況。
あなたが下駄箱にラブレター入れて告白するために屋上まで呼び出しておいて……やっぱり無理?
「それは、告白するのが恥ずかしいってことですか?」
「いいえまったく。ただ単に告白する気がなくなっただけです。生理的に無理です」
梨本さんはきっぱりと否定した。
…………あれぇ?
ほんとに梨本さんが俺を呼んだの? ってか梨本さん、ちょっと見下すような笑み浮かべてません? たしかにあなたの笑った顔が見られるって浮かれてたけど、そういう笑顔が見たかったんじゃないよ。
「で、でもさ、梨本さんがこれで俺を呼び出したんでしょ?」
家宝にしようと思っていたラブレターをポケットから取り出して梨本さんに見せる。
「ああ、それは私の黒歴史ね。ま、でも宛名も書いてないしバレることはないから、あなたの好きにするといいわ。私みたいな美少女から手紙がもらえたって、それだけで素晴らしいことだものね」
梨本さんは自画自賛の言葉を口にした後、「それじゃあ」と俺の横を平然と通り過ぎていく。
「あ、ちょっと」
伸ばした手が空を切る。
梨本さんは一度も足を止めずに、屋上から去ってしまった。
「……………なにこれ」
ひとり取り残された。
だからどいうこと?
高校二年生の春、四月十一日。
ラブレターで呼び出された女の子に、生理的に無理だと言われました。
ようやく俺にも薔薇色の高校生活がやってくる、つき合ってからのあれやこれやまで妄想していた分、ショックが大きかった。
「つまり俺、フラれたの?」
言葉にすると、ようやく実感が湧いてきた。
意味不明だけど、世間の常識を当てはめるならフラれたという解釈で間違いない。
梨本さんが下駄箱に手紙を忍ばせたのが今朝だから、今日の間に梨本さんから幻滅されるなにかを俺がしでかしたってこと? 全く心当たりないですよ。告白される立場なのにフラれるってやっぱ全然意味わかんねーから!
「じゃあ……からかわれた?」
それは考えにくい。
梨本さんはそんなことをしそうなヤンキーグループには属していない。脅されているなんてこともなさそうだ。
「なんでそんなバカなことしないといけないの?」
って梨本さんならはっきり言いそうだし。
そもそも脅されてるなら俺と無理やりつき合うことになってるか。つまり俺はそんな罰ゲームの対象になるようなカースト下位の男じゃないってことだよな。ふぅー、一安心。よかったよかった――――よくねぇよ! なんだよこれ! ほんとに意味わかんねぇから!
虚しさが俺の心を支配している。
一通り叫んだり、のたうちまわったりしたあと、
「……帰るか」
俺は屋上を後にした。
「……ったく、いったいなんだったんだよ」
階段を下りて廊下をとぼとぼ歩いていると、次第に怒りが込み上がってくる。
やっぱりこれはからかわれたんだ! 梨本さんの個人的な趣味だ! 彼女には人をからかって楽しむ癖があるのだろう。ほんと腹立つなぁ!
まあ、でも今日一日、誰から告白されるんだろうってドキドキさせてくれたから大目に見て――ってそんな都合のいい男じゃないぞ俺は!
「ほんとふざけんなっ」
俺が小声でそう呟いたときだった。
――ドダッ!
「……ん? なんだ?」
突然、なにかが倒れるような音が右側から聞こえてきた。
当然、俺はそちらに顔を向ける。
「…………っ!」
人が、女子生徒が倒れていた。
だって俺たちは、ただずっと、
好きなことしていきたい好きなことしていきたいだけだから!
********
夕焼けが眩しい。
屋上へと続く扉を開けた瞬間、俺はあまりの煌びやかさに思わず目を細めた。
……やべぇ、もう待ってくれてるじゃん。
紅色に染まった空へ向かって、金属バットとボールのぶつかる甲高い音が校庭からまっすぐ伸びていく。屋上の中央に立っている人の影も、俺のもとまでまっすぐ伸びていた。
【放課後、一人で屋上に来てください。大事な話があります】
こんな手紙が下駄箱に入っていて喜ばない男子はいない。だってこれって告白されるってことでしょ? しかもラブレターなんて古風な呼び出し方、絶対、手をつなぐだけで十年くらいかかっちゃう系の、俺好みのウブな女子だよ。
「いや、たとえどんな子でも。俺は……」
まあ、できればショートカットの可愛い子希望で!
なんて思いながら、逆光のせいで全体的に黒くなっている女の子のもとへ歩いていく。だんだんとその姿が鮮明に……え、まじ?
たしかこの子は、隣のクラスの梨本臨という女の子だ。
マッシュショートの黒髪と大きな目が特徴の女の子。
普段から感情のこもっていない冷めた目をしているが、ぶっちゃけ言って超美人。
そのミステリアスな雰囲気に絆されて多くの男子が告白しているが、
「恋愛になんて興味ないの」
と全員あえなく玉砕している。
梨本さんは発明家の父の影響を受けてか、自身も発明家を目指しており、機械にしか興味がないらしい。
唯我独尊女なんてあだ名で呼ばれているのを聞いたこともある。
ん? ってことはだよ!
これまで恋愛に興味なかった人が俺に告白しようとしているってことでいいんだよな?
なにそれ俺が彼女を変えたってこと?
つまりこれからこの子の誰も見たことがない笑顔を独占できるってこと?
最高オブ最高じゃん!
彼女はきっとウブだろうから、男女交際イコールセックス! みたいに考えているお股ゆるゆるビッチ女じゃないはずだ。
春特有の柔らかな風が吹き、梨本さんの穿いている紺のプリーツミニスカートが揺らめく。なびく髪を手で押さえる様は妙に色っぽい。彼女の顔が赤く見えるのは夕日のせいですか? なかなか話してこないのは緊張しているからですかねぇ!
「あの、梨本さん」
だったら俺から話しかけようじゃないか。こういうときは男がリードするもんだしね。
俺は柔和な笑顔を意識して、彼女の名前を呼んだ。
「俺になにか用かな?」
優しく語りかけると同時に、風がぴたりと止む。ラブレターを貰ってるんだから用なんてわかりきってるけどね。
野球部が出していた雑音も聞こえなくなり、世界に二人きりになったように錯覚する。
「あの」
そして、ついに梨本さんが口を開いた。ああ、あの色っぽい真っ赤な唇に俺だけが触れられるんだ。もはや彼女の無表情ですら愛おしく感じられ――
「――ごめんなさい」
え?
ゴメンナサイ?
俺は耳を疑った。
たしかにいまごめんなさいって言ったよねどういうこと?
梨本さんは顔色ひとつ変えず淡々と続ける。
「私、さっきまではあなたに告白しようと思ってたけど、やっぱり無理。ごめんなさい」
……はい?
なにこの状況。
あなたが下駄箱にラブレター入れて告白するために屋上まで呼び出しておいて……やっぱり無理?
「それは、告白するのが恥ずかしいってことですか?」
「いいえまったく。ただ単に告白する気がなくなっただけです。生理的に無理です」
梨本さんはきっぱりと否定した。
…………あれぇ?
ほんとに梨本さんが俺を呼んだの? ってか梨本さん、ちょっと見下すような笑み浮かべてません? たしかにあなたの笑った顔が見られるって浮かれてたけど、そういう笑顔が見たかったんじゃないよ。
「で、でもさ、梨本さんがこれで俺を呼び出したんでしょ?」
家宝にしようと思っていたラブレターをポケットから取り出して梨本さんに見せる。
「ああ、それは私の黒歴史ね。ま、でも宛名も書いてないしバレることはないから、あなたの好きにするといいわ。私みたいな美少女から手紙がもらえたって、それだけで素晴らしいことだものね」
梨本さんは自画自賛の言葉を口にした後、「それじゃあ」と俺の横を平然と通り過ぎていく。
「あ、ちょっと」
伸ばした手が空を切る。
梨本さんは一度も足を止めずに、屋上から去ってしまった。
「……………なにこれ」
ひとり取り残された。
だからどいうこと?
高校二年生の春、四月十一日。
ラブレターで呼び出された女の子に、生理的に無理だと言われました。
ようやく俺にも薔薇色の高校生活がやってくる、つき合ってからのあれやこれやまで妄想していた分、ショックが大きかった。
「つまり俺、フラれたの?」
言葉にすると、ようやく実感が湧いてきた。
意味不明だけど、世間の常識を当てはめるならフラれたという解釈で間違いない。
梨本さんが下駄箱に手紙を忍ばせたのが今朝だから、今日の間に梨本さんから幻滅されるなにかを俺がしでかしたってこと? 全く心当たりないですよ。告白される立場なのにフラれるってやっぱ全然意味わかんねーから!
「じゃあ……からかわれた?」
それは考えにくい。
梨本さんはそんなことをしそうなヤンキーグループには属していない。脅されているなんてこともなさそうだ。
「なんでそんなバカなことしないといけないの?」
って梨本さんならはっきり言いそうだし。
そもそも脅されてるなら俺と無理やりつき合うことになってるか。つまり俺はそんな罰ゲームの対象になるようなカースト下位の男じゃないってことだよな。ふぅー、一安心。よかったよかった――――よくねぇよ! なんだよこれ! ほんとに意味わかんねぇから!
虚しさが俺の心を支配している。
一通り叫んだり、のたうちまわったりしたあと、
「……帰るか」
俺は屋上を後にした。
「……ったく、いったいなんだったんだよ」
階段を下りて廊下をとぼとぼ歩いていると、次第に怒りが込み上がってくる。
やっぱりこれはからかわれたんだ! 梨本さんの個人的な趣味だ! 彼女には人をからかって楽しむ癖があるのだろう。ほんと腹立つなぁ!
まあ、でも今日一日、誰から告白されるんだろうってドキドキさせてくれたから大目に見て――ってそんな都合のいい男じゃないぞ俺は!
「ほんとふざけんなっ」
俺が小声でそう呟いたときだった。
――ドダッ!
「……ん? なんだ?」
突然、なにかが倒れるような音が右側から聞こえてきた。
当然、俺はそちらに顔を向ける。
「…………っ!」
人が、女子生徒が倒れていた。
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