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最終章 3 ミライへ

愛の結晶

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「あれっ、私……あれっ? 誠道さん、どこですか?」

 俺の体の中からミライの声が聞こえてくる。

「俺はここにいるぞ」

「でも、誠道さんの姿がどこにも」

 慌てたような声を出すミライ。

 そうか。

 視界を共有していているってことは、俺が見ている世界をミライも見ているわけで。

 ミライからしたら、いきなり俺がいなくなったと感じるのだろう。

「たぶん俺の中にミライが入ってるっていうか、なんかそんな感じなんだ」

「えっ? ……あっ、たしかに」

 ミライもようやく理解したようだ。

「私、誠道さんの中に入って、誠道さんと一緒になれてます!」

 興奮気味のミライはデパートではしゃぐ子供の用で、なんだか微笑ましい気持ちが生まれてきた。

「すごい、力がみなぎってく感じもします! あっ! 誠道さんの気持ちが、私のことが大好きって気持ちが伝わってきます!」

 え? マジかよそれ。

 それはさすがに恥ずかしいんだが。

「こんなに私のことを思ってくれてたんですね! 嬉しいです! 世界一、宇宙一大好きだなんて!」

「それ以上言葉にするのはやめてくれ」

 俺が羞恥にやられてしまうから。

「ってか、俺にもミライの気持ちが伝わってきてる」

 よし。

 ここは意趣返しをしてやろう。

 俺だけ恥ずかしい思いをするのは、なんか癪だしね。

「そうか。ミライとひとつになって、こんなにもミライは俺のことを」

「え? あっ、そうですよね。私がわかるってことは、誠道さんも私の気持ちを」

 ミライが俺の言葉を遮った。

 俺のやろうとしていることがわかって恥ずかしくなったのか、ミライの声は尻すぼみに小さくなっていく。

 いや、そんなことされても、奥ゆかしさ発揮されても、言葉は止めないからな。

 初めての告白が成功してなんかすごい幸せで、変なテンションになってる自覚もあるけど、この際互いにとことん恥ずかしくなろうじゃないか!

「俺にも言わせてくれよ。ミライの気持ちが直接伝わってきて、すごく嬉しいんだから」

「そうですよね。私の気持ちがわかるってことは、私が借金をする気持ちが伝わったってことですよね。つまり誠道さんもようやく借金の素晴らしさがわかって」

「なんでそうなる! 理解すると受け入れるは違うからね!」

 ああクソ!

 心のどこかでこうなるんじゃないかとは思っていたけどね!

「どうしてわかってくれないんですか! 心を共有してるなら、借金する時の快感だって伝わっているはずです!」

「感じ方は人それぞれなんだろうねきっと!」

「そんなぁ」

 ミライががっくりしているのが手に取るようにわかる。

「でも心を共有したおかげで、私は誠道さんが夜中にひとりでこそこそやってる妄想のあれやこれやを」

「いいいいいいまはそれどころじゃなくてドラゴンだろ!」

 慌てて話題をすり替える……ってか、むしろ今はそっちが大事だ。

 ものすごい弱みを握られた気がするけど、尻に敷かれる生活が待っている気がするけど、今はそんなことは考えないでおこうかな!

「誠道くん、ミライさん。どうやら成功したみたいね」

 俺たちのためにこれまで存在感を消してくれていたマーズが、満面の笑みを浮かべながら近づいてくる。

「マーズさん。この度は本当にありがとうございました」

「どういたしまして。でも、そうだったわね。二人はひとつになってるのよね。姿が見えないのに声だけ聞こえるって不思議な感覚ね」

 マーズは納得したようにうなずく。

 それから自慢げに腰に手を当て、一体化した俺たちに向けて叫んだ。

「さぁ! 反撃開始よ! 私の味方には誠道くんがいる。これからもそうであってほしくて、そうであるように私も頑張るわ!」

「あのぉ、その宣言、明らかに俺をいじってますよね?」

 だって俺の告白の言葉を流用しているんだもの。

「そそそ、ぶふっ、ふふっ、そんなことっ、ないわ」

「いや笑ってるよね! そんなにやにやした顔で言われても説得力ないからっ!」 

「だってこんなにも面倒な二人の側にいられるのは、絶対にこの私、マーズ・シィしかいないっていうか、一生二人と一緒にいてあげようっていうか、いたいっていうか、いてほしいっていうか」

「絶対いじってるだろうが!」

「大丈夫。頬に手を添えて、時間差でぎゅっとして、そしてぶちゅーってキスしたことなんか、いつか黒歴史――大切な思い出になるわよ」

「だからいじっ」

「もう限界よ。時間が流れはじめるわ」

 急に真剣な顔に戻ったマーズが苦しそうに膝をつく。

 そうだった。

 俺たちのために、マーズは時間を止めるという荒業を成し遂げたんだった。

 体力の消耗だって相当なものだろう。

「ありがとうマーズ。マーズのおかげで俺たちは思いを形にすることができた」

「私のおかげじゃないわ。あなたたちが互いを思い合いながら過ごしてきた、その濃密な時間のおかげよ」

 マーズは俺たちに向けてウインクを飛ばしてくる。

「さぁ、後は任せたわよ。世界の救世主バカップルさん」

「やっぱり俺たちのこといじってるだろうが!」

 俺がツッコんだところで、世界が時間の流れを取り戻す。

 ゲンシドラゴンが、さっきまでマーズがいた場所にかぎづめを振り下ろしたが、当然のように空振りして盛大に体勢を崩す。

 一方、アテウはといえば。

「ん? ワープの魔法か? そんなものが切り札とは笑わせる」

 マーズを指さして、バカにしたように笑っているが……そうか。

 アテウには時間が止まっていたという感覚がないから、マーズが瞬間移動したように見えたのか。

「あなたの目は節穴?」

 そんなアテウを、マーズが指さして笑い返し。

「切り札ならここに……いや、切り札って表現するとなんかちょっと弱そうだし世界の救世主……はまだ救ってないからえっと……そう! 人前で、しかも野外にもかかわらずいちゃいちゃしてひとつになったバカップルなら、私の後ろにいるじゃない!」

「訂正した結果ものすごく変な意味になってるから! 間違ってはいないんだけど絶対に間違った解釈されるから!」

「このバカップルは私にキスをしてる姿を見せつけてきたのよ! それから流れるように野外で、公衆の面前でひとつになったのよ!」

「だから! 間違ってはいないんだけど絶対に間違った解釈されるから訂正して!」

「……ん? さっきまで倒れてたやつが光ってるじゃねぇか」

 アテウがじろりと俺をねめつける。

「ええそうよ! 気絶している女の子に無理やり薬を飲ませて、抱き着いて、キスをしてひとつになったのよ! 気絶している女の子相手に!」

「全部正しいけど明らかに俺を犯罪者に仕立て上げようとしてるよね! マーズはどっちの味方なんだよ!」

「なぁ、気絶している女の子相手にそれは……さすがの俺だって少し引いてるぞ」

 アテウが困惑気味に、それこそ駅の改札前でキスをするバカップルを見るような目で俺を見てきた。

「お前は体を光らせる前に、もっと倫理観とか、羞恥心を持った方がいいと思うぞ」

「友達同士を戦わせるお前に倫理観を説かれたくねぇから!」

「公衆の面前で女とひとつになるような変態に言われたくないんだが」

 ああ、もうダメだ!

 いつの間にか、この場所に俺の味方はいなくなってしまったようだ。

「そもそも、こんな羞恥心のかけらも持ってないやつが切り札だと? 笑わせる。殺せ! ゲンシドラゴン!」

 アテウの指令が飛び、ゲンシドラゴンが咆哮する。

 ブレスを吐き出そうと大きく息を吸い込んだ。

「誠道くん! ミライさん! あなたたちがひとつになって獲得した愛の結晶必殺技を見せつけてやりなさい!」

「言われなくてもわかってるよ!」

「はい。私たちの愛は最強ですから」

 俺の中にいるミライと、気持ちまでもがひとつになる。

 背中にもぞもぞしたような感じを受けてちらりと見やると、肩甲骨のあたりから黄金の輝きが膨れ上がり、一対の翼を形作った。

 この翼を使えば空を飛べるんだと、ずいぶん前から知っているような気がした。

 さらには。

「誠道さん、もっともっと高ぶりましょう!」

「ああ!」

 その武器の名前もすでに知っている。

 思考も、呼吸も、体温も、意識しなくたってミライと完全にシンクロしている。

「「【灼熱愛之太刀フレイムラブソード】」」
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