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最終章 3 ミライへ

最悪の事態

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「なぜ? 押しつぶしたはず」

 マーズが困惑の声を上げる。

「なぜ、と言われて答える義理はないが、絶望の顔を見るのもまた一興か」

 くふくふと不気味に笑うアテウの頭上に、紫色の魔方陣が四つ浮かび上がる。

 そこからできたのは、黒縁眼鏡七三分け、黒縁眼鏡坊主、黒縁眼鏡坊ちゃん狩り、そして茶髪ロン毛。

 つまり、心出、真枝務、光聖志、五升だった。

「簡単なことだよ。私はこいつらも操っているんだ」

 アテウの言葉通り、心出たちもオムツおじさんと同じで目が紫色に光っていた。

「まさか、心出たちまで……」

 背中から冷汗がにじみ出ているのがわかる。

 オムツおじさん一人だけでもやばいってのに、心出たちまで操られているなんて。

 くそぉ! フェニックスハイランドがきちんと貸し切られていたら、こんな窮地には陥っていないのに!

 ……って。

「そうか。真枝務のワープ的な能力で逃げて……いや、ワープ的なのを持ってるのは光聖志だったか? あれ? 真枝務だっけ、光聖志だっけ? ああぁ! 二人の存在感がなさ過ぎてどっちがなんの能力を持ってるかなんか覚えてねぇよ!」

「誠道さん。そんなどうでもいいこと気にしなくていいですよ。だって私も覚えていませんからっ!」

 俺が頭を抱えていると、ミライが安心してくださいと言わんばかりにサムズアップして白い歯を見せてきた。

「いや、さすがにどうでもいいなんてことは…………それもそうだな!」

 俺は普通に納得し、サムズアップし返す。

「おいおい、友達の能力すら覚えていないなんて、お前はかなりの薄情者だな」

 アテウが冷たい目を向けてくるが、そう言われましても、ねぇ。

 だって忘れているのは本当だし、別に覚えていなくても問題ないし。

「だがお前の言う通りだ。私はこの真枝務のワープ的な能力で……いや、それは光聖志だったか」

「お前も覚えてねぇじゃねか!」

 それでよく人のことを薄情者だとか言えたなぁ!

「うるさい! とにかく私はこいつらの持つ能力を使って脱出していたのだ」

「うわっ! なんか大は小を兼ねる的な発言で誤魔化しやがったぞ!」

「ええい黙れ! そんなことはどうでもいいだろうが!」

「やっぱりお前もどうでもいいって思ってんじゃねぇか!」

 ごめんね、真枝務、光聖志。

 だって本当にどうでもいいんだもの。

 二人の目から涙が流れているような気がするのは、絶対に気のせいでしょう!

 操られてる人が泣くわけがないからね!

「とにかく、この私がこんな攻撃でやられるわけがないだろう」

 咳払いをしたアテウが、挑発するようにマーズを指さす。

「お前は私を倒したと思い込んで、終曲フィナーレだの拍手喝采スタンディングオベーションだの、中二病患者が好む言葉を使って格好つけた。だが実はその攻撃が当たってすらいなかった。どうだ、屈辱的だろう、恥ずかしいだろう」

「ええ、たしかに、んあああっ……これはっ、かなり屈辱的ね。どこまで私をバカにしたらっ、んんんっ、辱めたらっ、んあっ! あなた相当性格悪いんじゃない。これ以上私をバカにしたら、んんんんっ! 許さないわよ」

 マーズは気持ちよさそうに身悶えしつつ、アテウに言い返している。

 ああ、これはあれだな。

 もっと責めてほしいから、とりあえず反論しているだけのやつだ。

「はははっ! そうだ! もっともっと恥ずかしがれっ! 私は屈辱的な表情を見るのが大好きなんだ!」

 アテウが満足げに笑っているが……あのぉ、それ違いますよ。

 マーズが嬉しがっているんです。

 興奮しているんです。

「だがな! 絶望はこれからだ! こんなものまだまだ前奏曲プレリュードにすぎない!」

「いやお前もそれ系の言葉使ってるじゃねぇか!」

 俺のツッコみは、中二病的言葉を使えて悦に浸っているアテウには届いていない……ってか、今がアテウを倒す最大のチャンスじゃないか?

 今、アテウは顔を手で押さえて満足の海に浸っている。

 オムツおじさんや心出たちも、アテウが何かしらの指示をしないと動かないようで、今は俯いたままじっとしている。

 隙がありすぎだ。

 というより、倒すチャンスはここしかない。

 マーズ! お前がドMであってくれて助かったよ!

「【炎鬼殺燃龍奥義ひきこもりゅうおうぎ炎舞龍夢エンブレム

 俺は発生させた炎龍をアテウに突撃させる。

 笑いつづけているアテウはよける動作すら見せず、そのまま大口を開けた炎龍の餌食に――――ならなかった。

「【離澄虎りすとら

 俺が放った炎龍は白いエネルギー砲によって横から撃ち抜かれ、胴体を『く』の字に曲げながら消滅した。

「まじ、かよ」

 俺はその白いエネルギー砲の発生源であろう場所を見る。

「コハクちゃんもかよ」

 そこにいたのは荘厳な雰囲気を醸し出す白虎、つまり【野獣化ビーストバースト】したコハクちゃんだった。

「コハクちゃんまでっ?」

 隣のミライも目を見開き、口を手で覆っている。

「ってことはまさか」

【聖一刀両断せいいっとうりょうだんッ!】」

 突如として頭上から表れた大剣を横に飛んでなんとかかわす。

 俺を頭上から攻撃してきたのは【愉悦の睾丸女帝】こと、心菜聖ちゃんだった。

「そう、だよな」

 胃からせり上がってくる絶望を根性で飲み込む。

 そもそもオムツおじさんが操られている時点で、マーズしか助けに来ない時点で、この可能性を考えなければいけなかった。

 覚悟を決めておかなければいけなかった。

「くそがっ! なんでちゃんと貸し切られてないんだよぉおおおお!」

 今さら叫んだってもう遅い。

 俺は異世界転生してから最大の危機を迎えている。
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