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最終章 3 ミライへ
強いのか弱いのか
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フェニックスハイランドの貸し切りは、貸し切りではなかった。
言っている意味がわからないと思うが、なぜか俺が異世界で出会ったおかしな人たちが押し寄せてきており、一瞬もくつろぐことができなかった。
でもまあ逆に考えれば、おかしな人たちがたくさんいたおかげで、俺の常識的な言動が大人の余裕としてミライには映ったことだろう。
きっとそうだ。
非常識人って近くにいたら面白くて楽しいけど、結局恋人にはなれないんだよね。
なんだかんだ言って結局、常識人の方がモテるからね!
……と、そんなことは置いといて。
すでに太陽が傾きはじめ、空が綺麗な茜色に染まりはじめている。
巨大な観覧車の前で、今俺はミライと二人きり。
おかしな連中はもうどこにもいない。
俺はこれから観覧車に乗り、頂上に到達したところで眩しい夕日をバックに告白する。
この頂上に到達したってところが肝なんだ。
俺の覚悟や勇気だけに身を任せていては、いざという時にひよって言葉にできない可能性がある。
俺は東〇卍會じゃないからね。
ひよってるやついる? なんて聞かれたらすぐに手を上げてしまう引きこもり系男子だからね。
「夕日も綺麗だし、観覧車にでも乗らないか?」
足元に落ちているミライの長く伸びた影を見ながらそう問いかけると。
「いいですね、乗りましょうか」
ミライの影が少しだけ俺に近づく。
夕日よりも隣にいるミライの方が眩しくて、誤魔化すように観覧車を見上げた、その時。
ガゴン、とものすごい音が鳴り響く。
「……え」
なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。
空間が斜めに切り裂かれたと見間違うほどの巨大な斬撃によって、観覧車の周る部分――ゴンドラを取りつけた車輪状のフレームが支柱から外れたのだ。
ゴンドラが地面に押しつぶされて潰れる音が、鈍く響き渡る。
「危ない!」
とっさにミライの前に出て、俺たちに向かって倒れてこようとしていた巨大な鉄の塊を防ぐために【盾殺燃龍】を発動させる。
しかし、衝撃がやってこない。
「……はっ?」
またまたなにが起こったのか理解できず、何度もまばたきを繰り返す。
俺たちに向かって倒れようとしていた観覧車が、その背後から現れた浮遊するなにかに蹴飛ばされ、横に転がされたのだ。
巨大な鉄の塊は、ゴンドラをひとつひとつ押しつぶしながらボーリングの玉のように転がり、俺たちが先ほど乗ったジェットコースターのレールとぶつかった。
「いやいや、なんだこれ」
ジェットコースターのレーンは折り紙のようにひしゃげ、破損した部品が次々に落下していく。
浮遊しているなにか、は満足げに笑っている。
「おー、これは絶景かな」
彼のドスの利いた低い声が辺り一面の空気を重苦しく震わせる。
「……絶景、って」
体の奥底から震えが湧き上がってくる。
改めて浮遊するなにかを見上げると、吊り上がった真っ赤な目と紫色の唇にまず目が向かった。
意外と細身でスタイルがいい。
禍々しい紫色のマントを羽織っており、手には巨大な大鎌を持ち、暗黒そのもののような長髪が風で優雅に靡いている。
ちょっとした違和感や不気味さはあるものの、顔や体の作り自体は人間のそれと変わりはない。
「おい、そこの少年」
浮遊するなにかが不敵に笑う。
「助けてもらったならお礼を言うのが筋だと、私は思うんだよ」
意味がわからなかった。
結果的に見れば、こいつが倒れてくる観覧車から俺たちを守ったことになるが、そもそも観覧車を倒そうとしたのもこいつだと思うのだが。
あなたがその大鎌で切ったんでしょ? 観覧車を。
自作自演、創られた感謝の押しつけがひどい。
「なぁ、そこの少年。そこは『そもそもお前が壊したんじゃないか!』ときちんとツッコむところだろう。まったく、ツッコミストの風上にも置けない男だ」
「コラムニストみたいに言うなよ!」
あ、思わずいつもの癖で、ヤバい存在にツッコんでしまった。
「おお、そのツッコミだ。それでいい」
「ちょっとそこのあなた!」
浮遊するなにかの言葉をミライが遮る。
しかも挑発的に睨みつけ、あまつさえ指まで差している。
「強敵ぶっているその態度、登場シーンは派手だけど実は雑魚キャラっていうフラグがビンビンに立っているんですよ! 強者ぶりたいなら、よぼよぼのおじいさんになって出直してきなさい!」
「みんながうすうす思ってた事実を突きつけてやんなよ! 可哀想だろ!」
「でもですよ、雰囲気も登場の仕方もフラグを意識しすぎてて、私たちにツッコんでくださいと言わんばかりじゃないですか!」
「確かにそうだけどさ! そういう敵って、自分では自分のことを強いと思い込んでるんだから真実を言っちゃダメなんだよ。ちょっとだけ苦戦して倒されたときに『ふん、私を倒しても第二第三の強敵が』とか言ったり、後から出てきた更なる強敵に『ふふふ、あいつは四天王の中でも最弱』って言われたりする、かませ犬的な役割を担ってるんだから、絶対にそういうことを言っちゃダメだ! こいつの唯一の見せ場を奪ってやるなよ!」
「……あの、私より誠道さんの方がひどいこと言ってませんか?」
「なに言ってんだ! 俺はあえて指摘しない優しさをミライに説いているだけで」
「ほぉ、この私が四天王の中で最弱だと」
かはかはと、俺たちのやり取りを嘲笑ったなにかは、ばさりとマントを翻す。
「笑わせてくれるわ! 私はこの世界の新たな支配者、新たな魔王となる男! その名も、アテウ・マーク」
「ごめんミライ。こいつやっぱり雑魚キャラだわ。もうかばってやれないよ。ミライの言う通り、あえてやってるんだよ」
「やっとわかってくれましたか。おそらく、このお方は『運命』とか『真理』みたいな概念的なボスに操られているんです。このお方を倒したら絶対に、真のボスが『こいつはただの時間稼ぎにすぎない』なんて言って登場するんです。なんならそいつに取り込まれて養分にされるんです」
「それ以上の愚弄は許さんぞ」
浮遊するなにか――アテウ・マークの持つ大鎌から、邪気のようなものが立ち上りはじめてるけど、ああ、もうすべてが雑魚キャラのフラグにしか見えないよ。
「好き勝手言っていられるのも今のうちだ。私が本気を出せばお前らなんか瞬殺できるが……そうだな、私は優しいから最後の会話もしたいだろう。せめてもの情けで、三分間だけ待ってやる」
「ごめん。なんかもう俺、逆にこいつのこと尊敬してるわ。こいつが浮遊してるのは、飛行できる石を持ってるからだと思うわ」
「私もです。だってこのお方は」
「時間だ」
「明らかに早すぎだろうが! こっちもすぐにバ〇スって言ってやろうか!」
「かませ犬だの雑魚キャラだの言って罵ってくるやつらとの約束など守る義理はない。私はアテウ・マーク。いいかげん、言動は慎みたまえよ」
アテウの声は怒りに震えている。
「しょうがないじゃん! だって貸し切りのはずのここにはなぜか最強クラスの面々が集まってるんだよ! 貸し切りのはずなのに! そんな場所に表れる敵キャラなんか、かませ犬に決まってるじゃん!」
そう、本来であればフェニックスハイランドは貸し切りだったはずなのに。
この世界にいる、俺が知っている限りの強者たちが軒並み集まっているのだ。
貸し切りだったはずなのに。
貸し切りだったはずなのに。
「お前はなにを言っている?」
アテウが呆れたようにため息をつく。
「私が仕入れた情報によると、今日の客はお前らだけ。それが貸し切りというものだ。まったく最近の若者は、こんな簡単な言葉の意味すら知らないのか」
「俺もそう思ってたんだけどね! なぜか貸し切りじゃなかったんだよ!」
「というのは冗談だ。お前たちへの個人的な恨みがあるのは事実だが、貸し切りだろうとそうじゃなかろうと、私にとってはどうでもいいこと」
「俺はずっと貸し切りであれ! と思ってたけどね」
ってか、俺たちへの個人的な恨みってなに?
他人と関わる機会なんて雀の涙ほどしかない引きこもりは、恨みなんてなかなか買わないと思うんだけど。
「ふん、これを見てもそんな余裕でいられるかな」
アテウが俺を見下すような笑みを浮かべると、彼の隣に紫色の魔法陣が浮かび上がる。
まばゆい光とともに現れたのは、うつむいた状態で浮遊するオムツおじさんだった。
「お前は今から親友と戦うことになるのだ」
「いや親友じゃないから!」
どうせこんなことだろうと思ってたよ!
言っている意味がわからないと思うが、なぜか俺が異世界で出会ったおかしな人たちが押し寄せてきており、一瞬もくつろぐことができなかった。
でもまあ逆に考えれば、おかしな人たちがたくさんいたおかげで、俺の常識的な言動が大人の余裕としてミライには映ったことだろう。
きっとそうだ。
非常識人って近くにいたら面白くて楽しいけど、結局恋人にはなれないんだよね。
なんだかんだ言って結局、常識人の方がモテるからね!
……と、そんなことは置いといて。
すでに太陽が傾きはじめ、空が綺麗な茜色に染まりはじめている。
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おかしな連中はもうどこにもいない。
俺はこれから観覧車に乗り、頂上に到達したところで眩しい夕日をバックに告白する。
この頂上に到達したってところが肝なんだ。
俺の覚悟や勇気だけに身を任せていては、いざという時にひよって言葉にできない可能性がある。
俺は東〇卍會じゃないからね。
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「夕日も綺麗だし、観覧車にでも乗らないか?」
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「いいですね、乗りましょうか」
ミライの影が少しだけ俺に近づく。
夕日よりも隣にいるミライの方が眩しくて、誤魔化すように観覧車を見上げた、その時。
ガゴン、とものすごい音が鳴り響く。
「……え」
なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。
空間が斜めに切り裂かれたと見間違うほどの巨大な斬撃によって、観覧車の周る部分――ゴンドラを取りつけた車輪状のフレームが支柱から外れたのだ。
ゴンドラが地面に押しつぶされて潰れる音が、鈍く響き渡る。
「危ない!」
とっさにミライの前に出て、俺たちに向かって倒れてこようとしていた巨大な鉄の塊を防ぐために【盾殺燃龍】を発動させる。
しかし、衝撃がやってこない。
「……はっ?」
またまたなにが起こったのか理解できず、何度もまばたきを繰り返す。
俺たちに向かって倒れようとしていた観覧車が、その背後から現れた浮遊するなにかに蹴飛ばされ、横に転がされたのだ。
巨大な鉄の塊は、ゴンドラをひとつひとつ押しつぶしながらボーリングの玉のように転がり、俺たちが先ほど乗ったジェットコースターのレールとぶつかった。
「いやいや、なんだこれ」
ジェットコースターのレーンは折り紙のようにひしゃげ、破損した部品が次々に落下していく。
浮遊しているなにか、は満足げに笑っている。
「おー、これは絶景かな」
彼のドスの利いた低い声が辺り一面の空気を重苦しく震わせる。
「……絶景、って」
体の奥底から震えが湧き上がってくる。
改めて浮遊するなにかを見上げると、吊り上がった真っ赤な目と紫色の唇にまず目が向かった。
意外と細身でスタイルがいい。
禍々しい紫色のマントを羽織っており、手には巨大な大鎌を持ち、暗黒そのもののような長髪が風で優雅に靡いている。
ちょっとした違和感や不気味さはあるものの、顔や体の作り自体は人間のそれと変わりはない。
「おい、そこの少年」
浮遊するなにかが不敵に笑う。
「助けてもらったならお礼を言うのが筋だと、私は思うんだよ」
意味がわからなかった。
結果的に見れば、こいつが倒れてくる観覧車から俺たちを守ったことになるが、そもそも観覧車を倒そうとしたのもこいつだと思うのだが。
あなたがその大鎌で切ったんでしょ? 観覧車を。
自作自演、創られた感謝の押しつけがひどい。
「なぁ、そこの少年。そこは『そもそもお前が壊したんじゃないか!』ときちんとツッコむところだろう。まったく、ツッコミストの風上にも置けない男だ」
「コラムニストみたいに言うなよ!」
あ、思わずいつもの癖で、ヤバい存在にツッコんでしまった。
「おお、そのツッコミだ。それでいい」
「ちょっとそこのあなた!」
浮遊するなにかの言葉をミライが遮る。
しかも挑発的に睨みつけ、あまつさえ指まで差している。
「強敵ぶっているその態度、登場シーンは派手だけど実は雑魚キャラっていうフラグがビンビンに立っているんですよ! 強者ぶりたいなら、よぼよぼのおじいさんになって出直してきなさい!」
「みんながうすうす思ってた事実を突きつけてやんなよ! 可哀想だろ!」
「でもですよ、雰囲気も登場の仕方もフラグを意識しすぎてて、私たちにツッコんでくださいと言わんばかりじゃないですか!」
「確かにそうだけどさ! そういう敵って、自分では自分のことを強いと思い込んでるんだから真実を言っちゃダメなんだよ。ちょっとだけ苦戦して倒されたときに『ふん、私を倒しても第二第三の強敵が』とか言ったり、後から出てきた更なる強敵に『ふふふ、あいつは四天王の中でも最弱』って言われたりする、かませ犬的な役割を担ってるんだから、絶対にそういうことを言っちゃダメだ! こいつの唯一の見せ場を奪ってやるなよ!」
「……あの、私より誠道さんの方がひどいこと言ってませんか?」
「なに言ってんだ! 俺はあえて指摘しない優しさをミライに説いているだけで」
「ほぉ、この私が四天王の中で最弱だと」
かはかはと、俺たちのやり取りを嘲笑ったなにかは、ばさりとマントを翻す。
「笑わせてくれるわ! 私はこの世界の新たな支配者、新たな魔王となる男! その名も、アテウ・マーク」
「ごめんミライ。こいつやっぱり雑魚キャラだわ。もうかばってやれないよ。ミライの言う通り、あえてやってるんだよ」
「やっとわかってくれましたか。おそらく、このお方は『運命』とか『真理』みたいな概念的なボスに操られているんです。このお方を倒したら絶対に、真のボスが『こいつはただの時間稼ぎにすぎない』なんて言って登場するんです。なんならそいつに取り込まれて養分にされるんです」
「それ以上の愚弄は許さんぞ」
浮遊するなにか――アテウ・マークの持つ大鎌から、邪気のようなものが立ち上りはじめてるけど、ああ、もうすべてが雑魚キャラのフラグにしか見えないよ。
「好き勝手言っていられるのも今のうちだ。私が本気を出せばお前らなんか瞬殺できるが……そうだな、私は優しいから最後の会話もしたいだろう。せめてもの情けで、三分間だけ待ってやる」
「ごめん。なんかもう俺、逆にこいつのこと尊敬してるわ。こいつが浮遊してるのは、飛行できる石を持ってるからだと思うわ」
「私もです。だってこのお方は」
「時間だ」
「明らかに早すぎだろうが! こっちもすぐにバ〇スって言ってやろうか!」
「かませ犬だの雑魚キャラだの言って罵ってくるやつらとの約束など守る義理はない。私はアテウ・マーク。いいかげん、言動は慎みたまえよ」
アテウの声は怒りに震えている。
「しょうがないじゃん! だって貸し切りのはずのここにはなぜか最強クラスの面々が集まってるんだよ! 貸し切りのはずなのに! そんな場所に表れる敵キャラなんか、かませ犬に決まってるじゃん!」
そう、本来であればフェニックスハイランドは貸し切りだったはずなのに。
この世界にいる、俺が知っている限りの強者たちが軒並み集まっているのだ。
貸し切りだったはずなのに。
貸し切りだったはずなのに。
「お前はなにを言っている?」
アテウが呆れたようにため息をつく。
「私が仕入れた情報によると、今日の客はお前らだけ。それが貸し切りというものだ。まったく最近の若者は、こんな簡単な言葉の意味すら知らないのか」
「俺もそう思ってたんだけどね! なぜか貸し切りじゃなかったんだよ!」
「というのは冗談だ。お前たちへの個人的な恨みがあるのは事実だが、貸し切りだろうとそうじゃなかろうと、私にとってはどうでもいいこと」
「俺はずっと貸し切りであれ! と思ってたけどね」
ってか、俺たちへの個人的な恨みってなに?
他人と関わる機会なんて雀の涙ほどしかない引きこもりは、恨みなんてなかなか買わないと思うんだけど。
「ふん、これを見てもそんな余裕でいられるかな」
アテウが俺を見下すような笑みを浮かべると、彼の隣に紫色の魔法陣が浮かび上がる。
まばゆい光とともに現れたのは、うつむいた状態で浮遊するオムツおじさんだった。
「お前は今から親友と戦うことになるのだ」
「いや親友じゃないから!」
どうせこんなことだろうと思ってたよ!
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