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最終章 1 失踪、捜索、そしてドMへと……
告白できない理由
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「じゃあどうして誠道くんは、成功確定なのにミライさんに告白しないの?」
俺のツッコみに被せるようにして、マーズが聞いてきた。
いや、『じゃあ』って言葉の前後が、つながってなさすぎだろ。
ただ、マーズの顔にいつものふざけた雰囲気は一切見られない。
ただただ真面目に、俺とミライのことを思って聞いてくれたのだとわかった。
「えっと、そ、それは……タイミングというか、そういう雰囲気にならないというか」
「雰囲気、タイミングねぇ」
「それに、まあ、その」
俺は一番心に引っかかっていたものを口にした。
「俺の、固有ステータスが【新偉人】ってのは、マーズには教えてたよな」
「ええ。不憫すぎて笑っ――個性的だったので、よく覚えているわ」
「個性的って褒め言葉じゃないから、言い直した意味ないけどね」
個性的って言葉を使われたときは基本、あなたって変だからこれ以上関わりたくありません、って言われているのと同じだ。
なのに言われた側は興味を持ってもらえたと勘違いして、個性的だと評された物事を嬉々として早口で説明してしまい、結果としてドン引きされ、ものすごく距離を取られてしまうから、そこんところ本当に注意した方がいい。
ちなみに、真面目ですね、って言葉も基本的には同じで褒め言葉ではない。
融通の利かない、ルールを守ることだけがすべてだと思っているバカですね、言われているのと同義なのに、「はい、それだけが取り柄ですから」なんて照れながら答えてしまい、結果としてドン引きされ、ものすごく距離を取られてしまう。
「とにかく、その【新偉人】の獲得予定技の中に、新たな技が出てきて」
「それは喜ばしいことじゃない。新しい可能性が生まれたってことでしょう」
「それはそうなんだけど」
「私も、よくどの道具で責められたらより興奮できるか、新しい可能性を追い求めているわ」
「同じにすんな!」
「趣味のツッコみをする前に、いいかげん話を進めてほしいのだけど。このままだと日が暮れちゃうわ」
「腰を折りつづけてるのはあんただからね!」
釈然としない気持ちを抱えつつも、俺は話をつづける。
「で、その技の獲得条件が『あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき』で」
そこでいったん言葉を止める。
なんかつづきを言うのが急に恥ずかしくなってきたぞ。
でも、もうここまで話したのだから、勢いに身を任せて言うしかない。
「これってつまり、ミライに告白することだと、そう思ってて」
唇に、ミライの感触がよみがえってきた。
俺の中で一番大切なものは、ミライに決まっている。
それを認めることは恥ずかしいけど、本当なのだから仕方がない。
そんなミライと向き合い、心をひとつにする。
つまりそれはミライを好きだという気持ちと向き合い、告白してその気持ちをきちんと言葉で確かめ合うこと、だと思う。
「なるほど。普通に考えて、そうである可能性は高いわね」
「だろ?」
「でも、だったら早く好きだって言えばいいじゃない。それで誠道くんには記念すべき初彼女ができて、しかも新しい技も習得できる。一石二鳥じゃない」
「どうして俺に彼女がいなかったって決めつけてるんですかねぇ」
「じゃあいたことあるの?」
「……」
「彼女がいたことがあるって強がるの、一番ダサいわよ」
「…………とにかく、なんかこう、タイミングが悪いっていうか、ついでっていうか、引け目を感じて」
はじめての彼女云々の話はなかったことにして、俺は、心の中に生まれてしまった灰色の感情をついに言葉に出した。
「引け目? どういうこと?」
「だって今告白したら、まるで新しい技を覚えたいがために、それが理由で告白したみたいな気がして。純粋な気持ちで告白したかったっていうか、そういう邪さがある気がして、なんか嫌で」
胸のすぐ内側がざわめく。
目の奥につんとした痛みが走る。
「ミライの純粋な好きの気持ちを技獲得のために利用している気がして、本当の意味でミライの気持ちと向き合っているとは違う気がして」
こんなことなら、恥ずかしがらずに早く告白しておけばよかった。
気にし過ぎだって言われればそれまでだけど、俺としては、はじめての告白だからきちんとしたかったのだ。
それがもうできないとわかって落ち込むというか、なんというか、気持ちがなかなか割り切れないのだ。
「なるほどね……」
そう呟いたマーズはこめかみに手を当て、大きなため息をつく。
「なにそのクソみたいな理由。だから誠道くんはいつまでも童貞なのよ」
「いや、クソみたいなって」
「そんなのどうでもいいじゃない。むしろきっかけができたって喜べばいいじゃない」
「でもさ」
「それが告白できない本当の理由なの?」
マーズが、必死で言い返そうとする俺の目をまっすぐ見つめてきた。
その言い知れぬ圧力に屈し、言葉が出てこなくなる。
「勇気がないだけなんじゃないの?」
心臓がドクンと大きく脈打つ。
俺のツッコみに被せるようにして、マーズが聞いてきた。
いや、『じゃあ』って言葉の前後が、つながってなさすぎだろ。
ただ、マーズの顔にいつものふざけた雰囲気は一切見られない。
ただただ真面目に、俺とミライのことを思って聞いてくれたのだとわかった。
「えっと、そ、それは……タイミングというか、そういう雰囲気にならないというか」
「雰囲気、タイミングねぇ」
「それに、まあ、その」
俺は一番心に引っかかっていたものを口にした。
「俺の、固有ステータスが【新偉人】ってのは、マーズには教えてたよな」
「ええ。不憫すぎて笑っ――個性的だったので、よく覚えているわ」
「個性的って褒め言葉じゃないから、言い直した意味ないけどね」
個性的って言葉を使われたときは基本、あなたって変だからこれ以上関わりたくありません、って言われているのと同じだ。
なのに言われた側は興味を持ってもらえたと勘違いして、個性的だと評された物事を嬉々として早口で説明してしまい、結果としてドン引きされ、ものすごく距離を取られてしまうから、そこんところ本当に注意した方がいい。
ちなみに、真面目ですね、って言葉も基本的には同じで褒め言葉ではない。
融通の利かない、ルールを守ることだけがすべてだと思っているバカですね、言われているのと同義なのに、「はい、それだけが取り柄ですから」なんて照れながら答えてしまい、結果としてドン引きされ、ものすごく距離を取られてしまう。
「とにかく、その【新偉人】の獲得予定技の中に、新たな技が出てきて」
「それは喜ばしいことじゃない。新しい可能性が生まれたってことでしょう」
「それはそうなんだけど」
「私も、よくどの道具で責められたらより興奮できるか、新しい可能性を追い求めているわ」
「同じにすんな!」
「趣味のツッコみをする前に、いいかげん話を進めてほしいのだけど。このままだと日が暮れちゃうわ」
「腰を折りつづけてるのはあんただからね!」
釈然としない気持ちを抱えつつも、俺は話をつづける。
「で、その技の獲得条件が『あなたの大切と向き合い、本心を形にしたとき』で」
そこでいったん言葉を止める。
なんかつづきを言うのが急に恥ずかしくなってきたぞ。
でも、もうここまで話したのだから、勢いに身を任せて言うしかない。
「これってつまり、ミライに告白することだと、そう思ってて」
唇に、ミライの感触がよみがえってきた。
俺の中で一番大切なものは、ミライに決まっている。
それを認めることは恥ずかしいけど、本当なのだから仕方がない。
そんなミライと向き合い、心をひとつにする。
つまりそれはミライを好きだという気持ちと向き合い、告白してその気持ちをきちんと言葉で確かめ合うこと、だと思う。
「なるほど。普通に考えて、そうである可能性は高いわね」
「だろ?」
「でも、だったら早く好きだって言えばいいじゃない。それで誠道くんには記念すべき初彼女ができて、しかも新しい技も習得できる。一石二鳥じゃない」
「どうして俺に彼女がいなかったって決めつけてるんですかねぇ」
「じゃあいたことあるの?」
「……」
「彼女がいたことがあるって強がるの、一番ダサいわよ」
「…………とにかく、なんかこう、タイミングが悪いっていうか、ついでっていうか、引け目を感じて」
はじめての彼女云々の話はなかったことにして、俺は、心の中に生まれてしまった灰色の感情をついに言葉に出した。
「引け目? どういうこと?」
「だって今告白したら、まるで新しい技を覚えたいがために、それが理由で告白したみたいな気がして。純粋な気持ちで告白したかったっていうか、そういう邪さがある気がして、なんか嫌で」
胸のすぐ内側がざわめく。
目の奥につんとした痛みが走る。
「ミライの純粋な好きの気持ちを技獲得のために利用している気がして、本当の意味でミライの気持ちと向き合っているとは違う気がして」
こんなことなら、恥ずかしがらずに早く告白しておけばよかった。
気にし過ぎだって言われればそれまでだけど、俺としては、はじめての告白だからきちんとしたかったのだ。
それがもうできないとわかって落ち込むというか、なんというか、気持ちがなかなか割り切れないのだ。
「なるほどね……」
そう呟いたマーズはこめかみに手を当て、大きなため息をつく。
「なにそのクソみたいな理由。だから誠道くんはいつまでも童貞なのよ」
「いや、クソみたいなって」
「そんなのどうでもいいじゃない。むしろきっかけができたって喜べばいいじゃない」
「でもさ」
「それが告白できない本当の理由なの?」
マーズが、必死で言い返そうとする俺の目をまっすぐ見つめてきた。
その言い知れぬ圧力に屈し、言葉が出てこなくなる。
「勇気がないだけなんじゃないの?」
心臓がドクンと大きく脈打つ。
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