上 下
302 / 360
第6章 5 目指せ! 敗北!

拳と拳で語り合うために

しおりを挟む
「さぁ、第七回戦! スタートです!」

 そして、戦闘開始のゴングが鳴る。

 ウンニーが巨大な槌を振り上げたまま突進してくる。

「誠道さーん! 睾丸だけは守ってくださいね! 私が潰す予定ですからね!」

「そんな予定はねぇよ!」

 聞こえてきた聖ちゃんの声に返事をしつつ、俺は振り下ろされた大槌を難なくかわす。

 攻撃のモーションが大きいので、結構簡単にかわすことができたが……もうこんな直線的な攻撃は仕掛けてこないだろう。

 ウンニーは俺から距離を取り、ほお、少しは楽しめそうじゃねぇか、と言わんばかりに不敵に笑っている。

 さて、どうしようか。

 一方的にやられるってのは俺が本当に弱いみたいだから嫌だ。

 善戦した挙句に、本当にウンニーに運が味方した的な展開で負けるのが、俺のメンツもたつから……よし、それでいくか!

 ウンニー・ミハナサ・レーテルに運が味方するのかはいささか疑問だが。

 そもそも強者であるウンニー・ミハナサ・レーテルに対して、そんな余裕ぶっこいた試合運びができるかも疑問だが。

「とりあえず、【|無敵の人間(インヴィジブル・パーソン)】っと」

 本気を出している風を装うために、一応やっておく。

 体にまとわせる炎も最小限にしておく。

 様子見は大事。

 さて、これを見てウンニーはどう出る?

「ほぉ、すすす、少しはやるようだな」

 ……あれぇ?

 めちゃくちゃ手加減してるのに、ウンニーの声が震えはじめたんだけど。

「だだだだが、そんなはったりなど私には効かないぞ。お前の魂胆などお見通しなんだ。早く降参したらどうだ? 私はこんなにも重くて巨大な槌を持ち上げるほどのパワーの持ち主なんだ。お前なんか俺が本気を出したらひとたまりもないぞ。最悪死んでしまうぞ。それでもいいのか!」

「いやブーメラン半端ないな! さっき自分が言った言葉思い出せよ!」

 弱いやつほどよくほざくんじゃなかったの?

 拳と拳で語り合おうと言ってた人が、言葉に頼りまくりなんだけど!

 やっぱりこの大会は虚勢大会にふさわしいんじゃないの?

「ここまで言ってもまだ立ち向かってくるか。ふっ、威勢だけは達者だな。そういう男は嫌いじゃないが、戦場ではそういうやつが一番先に死ぬ。慢心こそが最大の弱さだ」

 その瞬間、ウンニーの放つオーラが変わった。

 戦うこと自体を純粋に楽しんでいるかのように、本当に嬉しそうに笑った。

 マジか。

 やっぱり本当はこいつ強いのでは。

 背中にねっとりとした汗が滲み、ピリピリとした緊張感が漂いはじめる。

「君が諦めないというのなら、私も、こうするしかないな」

 そう言うと、ウンニーはおもむろに大槌を置いた。

 腰を落として、正拳突きを放つ前のような態勢になる。

 まさか、こいつは格闘家だったのか。

 その圧倒的なオーラが、一瞬にして観客のざわめきすらも沈めてみせた。

 静寂という名の覇気が会場を支配している。。

 そうか。

 本当にウンニーは、拳と拳で語り合うつもりだったんだ。

 これまでは道化を演じて、俺の実力を推し量っていたにすぎないんだ。

 だったら、俺もそれに応えたい。

「ウンニーさん。いきます」

 俺の言葉を聞いたウンニーさんが不敵な笑みを浮かべ、すっと拳を空高く突き上げた。

 それを合図に、俺も技名を唱える。

 これが、強者同士の戦いからしか感じることができない武者震いか。

 男同士の熱き血潮か。

 なんて心地いいんだ!

 負けなきゃいけないとか、女になるとか。そんなのもうどうでもいい。

 俺はこの人と、全身全霊をかけて、本気でぶつかり合いたいんだ!

「【炎鬼殺燃龍奥義ひきこもりゅうおうぎ炎上翔砲げへなふれいむ

「審判! 私は棄権する!」

 ……。

 …………。

「はっ?」

 なにが起こったのか、まったく理解できなかった。

 高ぶっていた感情が、駆け巡っていた血潮が嘘のように体内から消え去っている。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

処理中です...