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第6章 2 旅館にて、契約

甲乙ってなに?

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「私はどうしてもクラーケンを倒したいんです。いや、私が倒さなければいけないんです」

「僕からもお願いします」

 ジツハフくんもお姉ちゃんに倣って頭を下げた。

「お姉ちゃんのために、クラーケンと戦ってください」

「ジツハフくんまで……」

 俺はミライと顔を見合わせる。

 なにこの重苦しい空気?

 なんでイツモフさんが、俺たちに頭を下げてまでクラーケンと戦わないといけないの?

「どうしてわざわざ戦う必要があるんだよ? 明後日には討伐隊が退治してくれるんだから、待ってればいずれ海水浴場も再開して」

「それじゃあダメなんです」

 イツモフさんは悔しそうに声を絞り出しているといった感じだ。

 なにがここまでイツモフさんを駆り立てるのだろう。

 もしかして、クラーケンに対して特別な恨みでも持っているのだろうか。

 なんならクラーケンに親友を殺されていたり?

 ……うん、その線で間違いないな。

 だってそれくらいの過去がないと、ここまで感情が高ぶるはずがない。

「誠道くんの言う通り、明後日にはクラーケン討伐隊が形成されてしまう。そうなる前に私たちで倒してしまわないと、クラーケンで金儲けができなくなる。権利は当然、倒した人のもの。私はクラーケンという高級食材で一発当てたいんです! もちろん私たちで倒したクラーケンの部位は折半という条件にしますから!」

「そんなことだろうと思ったよ! 勝手にやってろ!」

「どうしてわかってくれないんですか? 倒した人が高級食材のクラーケンを独占できる。値段を吊り上げに吊り上げて、『高級食材ってだけでうまいー、油が溶けるぅ、蕎麦も塩で食うぜぇ』みたいなこと言いだす成金に売りつけたいんです!」

「だから勝手にやってろっ……いや、これって借金返済のチャンスか?」

 つい熱くなって反射的に断ってしまったが、クラーケン討伐を俺たちでやってしまうことに関しては、悪いことでもなんでもない。

 早く目をつけて行動したやつが金儲けできるようになっているのが世の常だ。

「よし、その提案、乗った」

「ありがとうございます」

 ほっとした様子のイツモフさんは、持参していたかばんから書類を取り出してローテーブルの上に置く。

「一応なんですけど、今回はきちんとした方がいいかと思って、契約を書面に残そうと思います。誠道くんはなぜか私の言葉を信用していないみたいなので、これなら安心ですよね?」

「なぜ信用していないかを理解していないところが信用できない理由なんだけど……どれどれ?」

 書類には甲とか乙とか契約書特有の堅苦しくて難しい文言が何行にもわたって書かれている。

 だめだ、目が回りそう。

 説明書とか全く読まないタイプの俺が、こんなの読めるわけがない。

 一番下の署名の欄にはすでにイツモフさんのサインがされてあった。

「ささ、とりあえずこれに誠道さんもサインを」

「え、あ、ああ……」

 言われるがままサインをする。

 全文を把握したわけではなかったが、『討伐したクラーケンの部位は折半することを義務づける』と書かれてあることだけは把握したので、問題はないだろう。
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