277 / 360
第6章 2 旅館にて、契約
甲乙ってなに?
しおりを挟む
「私はどうしてもクラーケンを倒したいんです。いや、私が倒さなければいけないんです」
「僕からもお願いします」
ジツハフくんもお姉ちゃんに倣って頭を下げた。
「お姉ちゃんのために、クラーケンと戦ってください」
「ジツハフくんまで……」
俺はミライと顔を見合わせる。
なにこの重苦しい空気?
なんでイツモフさんが、俺たちに頭を下げてまでクラーケンと戦わないといけないの?
「どうしてわざわざ戦う必要があるんだよ? 明後日には討伐隊が退治してくれるんだから、待ってればいずれ海水浴場も再開して」
「それじゃあダメなんです」
イツモフさんは悔しそうに声を絞り出しているといった感じだ。
なにがここまでイツモフさんを駆り立てるのだろう。
もしかして、クラーケンに対して特別な恨みでも持っているのだろうか。
なんならクラーケンに親友を殺されていたり?
……うん、その線で間違いないな。
だってそれくらいの過去がないと、ここまで感情が高ぶるはずがない。
「誠道くんの言う通り、明後日にはクラーケン討伐隊が形成されてしまう。そうなる前に私たちで倒してしまわないと、クラーケンで金儲けができなくなる。権利は当然、倒した人のもの。私はクラーケンという高級食材で一発当てたいんです! もちろん私たちで倒したクラーケンの部位は折半という条件にしますから!」
「そんなことだろうと思ったよ! 勝手にやってろ!」
「どうしてわかってくれないんですか? 倒した人が高級食材のクラーケンを独占できる。値段を吊り上げに吊り上げて、『高級食材ってだけでうまいー、油が溶けるぅ、蕎麦も塩で食うぜぇ』みたいなこと言いだす成金に売りつけたいんです!」
「だから勝手にやってろっ……いや、これって借金返済のチャンスか?」
つい熱くなって反射的に断ってしまったが、クラーケン討伐を俺たちでやってしまうことに関しては、悪いことでもなんでもない。
早く目をつけて行動したやつが金儲けできるようになっているのが世の常だ。
「よし、その提案、乗った」
「ありがとうございます」
ほっとした様子のイツモフさんは、持参していたかばんから書類を取り出してローテーブルの上に置く。
「一応なんですけど、今回はきちんとした方がいいかと思って、契約を書面に残そうと思います。誠道くんはなぜか私の言葉を信用していないみたいなので、これなら安心ですよね?」
「なぜ信用していないかを理解していないところが信用できない理由なんだけど……どれどれ?」
書類には甲とか乙とか契約書特有の堅苦しくて難しい文言が何行にもわたって書かれている。
だめだ、目が回りそう。
説明書とか全く読まないタイプの俺が、こんなの読めるわけがない。
一番下の署名の欄にはすでにイツモフさんのサインがされてあった。
「ささ、とりあえずこれに誠道さんもサインを」
「え、あ、ああ……」
言われるがままサインをする。
全文を把握したわけではなかったが、『討伐したクラーケンの部位は折半することを義務づける』と書かれてあることだけは把握したので、問題はないだろう。
「僕からもお願いします」
ジツハフくんもお姉ちゃんに倣って頭を下げた。
「お姉ちゃんのために、クラーケンと戦ってください」
「ジツハフくんまで……」
俺はミライと顔を見合わせる。
なにこの重苦しい空気?
なんでイツモフさんが、俺たちに頭を下げてまでクラーケンと戦わないといけないの?
「どうしてわざわざ戦う必要があるんだよ? 明後日には討伐隊が退治してくれるんだから、待ってればいずれ海水浴場も再開して」
「それじゃあダメなんです」
イツモフさんは悔しそうに声を絞り出しているといった感じだ。
なにがここまでイツモフさんを駆り立てるのだろう。
もしかして、クラーケンに対して特別な恨みでも持っているのだろうか。
なんならクラーケンに親友を殺されていたり?
……うん、その線で間違いないな。
だってそれくらいの過去がないと、ここまで感情が高ぶるはずがない。
「誠道くんの言う通り、明後日にはクラーケン討伐隊が形成されてしまう。そうなる前に私たちで倒してしまわないと、クラーケンで金儲けができなくなる。権利は当然、倒した人のもの。私はクラーケンという高級食材で一発当てたいんです! もちろん私たちで倒したクラーケンの部位は折半という条件にしますから!」
「そんなことだろうと思ったよ! 勝手にやってろ!」
「どうしてわかってくれないんですか? 倒した人が高級食材のクラーケンを独占できる。値段を吊り上げに吊り上げて、『高級食材ってだけでうまいー、油が溶けるぅ、蕎麦も塩で食うぜぇ』みたいなこと言いだす成金に売りつけたいんです!」
「だから勝手にやってろっ……いや、これって借金返済のチャンスか?」
つい熱くなって反射的に断ってしまったが、クラーケン討伐を俺たちでやってしまうことに関しては、悪いことでもなんでもない。
早く目をつけて行動したやつが金儲けできるようになっているのが世の常だ。
「よし、その提案、乗った」
「ありがとうございます」
ほっとした様子のイツモフさんは、持参していたかばんから書類を取り出してローテーブルの上に置く。
「一応なんですけど、今回はきちんとした方がいいかと思って、契約を書面に残そうと思います。誠道くんはなぜか私の言葉を信用していないみたいなので、これなら安心ですよね?」
「なぜ信用していないかを理解していないところが信用できない理由なんだけど……どれどれ?」
書類には甲とか乙とか契約書特有の堅苦しくて難しい文言が何行にもわたって書かれている。
だめだ、目が回りそう。
説明書とか全く読まないタイプの俺が、こんなの読めるわけがない。
一番下の署名の欄にはすでにイツモフさんのサインがされてあった。
「ささ、とりあえずこれに誠道さんもサインを」
「え、あ、ああ……」
言われるがままサインをする。
全文を把握したわけではなかったが、『討伐したクラーケンの部位は折半することを義務づける』と書かれてあることだけは把握したので、問題はないだろう。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ
壬黎ハルキ
ファンタジー
それは、少年が高校を卒業した直後のことだった。
幼なじみでお嬢様な少女から、夕暮れの公園のど真ん中で叫ばれた。
「知らない御曹司と結婚するなんて絶対イヤ! このまま世界の果てまで逃げたいわ!」
泣きじゃくる彼女に、彼は言った。
「俺、これから異世界に移住するんだけど、良かったら一緒に来る?」
「行くわ! ついでに私の全部をアンタにあげる! 一生大事にしなさいよね!」
そんな感じで駆け落ちした二人が、異世界でのんびりと暮らしていく物語。
※2019年10月、完結しました。
※小説家になろう、カクヨムにも公開しています。
兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが
アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。
右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。
青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。
そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。
青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。
三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。
【登場人物紹介】
マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。
ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。
クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。
ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。
デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。
ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。
ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。
ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。
【お知らせ】
◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。
◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。
◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。
◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。
◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。
◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。
◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。
※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
よろしくお願いいたします。
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる