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第6章 2 旅館にて、契約

ミライの色香にやられて……

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「……んんん」

 まぶたがとにかく重かった。

 深いところにある意識がゆっくりと浮き上がってくる。

 目の上、額のあたりから冷たさが侵食してきて、さらに意識を引き上げてくれる。

 ぼんやりとだが目を開けることができ、指先だけぴくぴくと動かすことができた。

「……ん、あ、れ」

 俺はいったいどうしてしまったんだ。

 たしか……海にきて、クラーケン焼きを食べて、温泉に入って。

「……ミライの色香にやられて」

「そうですよ。誠道さんは私の色香にやられて気絶していたんです」

「……そうか、俺は……ってちげーし! お酒飲んだせいだし!!」

 慌てて飛び起きる。

 なんか高度な情報操作を受けて現実を捻じ曲げられそうになったが、ギリギリ気がついて助かった。

「そうですね。そういうことにしておきましょうか」

 嬉しさを押し隠すように笑っているミライが俺の足元に飛んでいってしまった濡れタオルを拾い、氷水の入ったタライの中に浸す。

 ……まあ、そういうことにしてくれるならありがたい。

「って俺裸じゃん!!」

 ようやく気づく。

 俺はタオルで大事なところだけを隠された状態だった。

「あ、それに関しては気にしないでください。引き上げるときにここにいる全員、もう誠道さんのすべてを見ていますから」

「そういう問題じゃねぇ! なんで裸なんだってことだよ!」

「そりゃあ、誠道さんが温泉で私の色香にやられてのぼせて気を失ったからです。引き上げるの苦労したんですよ」

「あ……」

 そりゃそうだよな。

 すべて思い出した。

 ミライと一緒に温泉に入った俺は、さっきミライが言った通り彼女の色香にやら

「れてねぇわ! お酒のせいだっつってんだろ…………って、ここにいる全員?」

 なんか表現がおかしいことに気づく。

 だってここにはミライと俺だけ。

 それで全員なのだから、ミライが全員というのはおかしい。

 まるで他に誰かいるみたいじゃないか。

「はい。本当に焦りましたよ。人間の体って想像以上に重くて私一人では頭を温泉が沈まないようにするので精一杯。そんなとき、イツモフさんとジツハフくんが来てくれて、誠道さんの救出を手伝ってくれたのです」

 そういうことね。

 部屋の中を見渡すと、テーブルで向かい合うように座ってトランプ? をしているイツモフさんとジツハフくんがいた。

「いいですかジツハフ。これをこうしてこうすると、相手にバレずに手札のカードをすり替えることができます。でも、毎回やってはいけません。適度に負けつつ、勝負所でこの秘奥義を発動させることで、相手に不審がられずに勝利、ギャンブルに勝つことができるんです。しかも子供だからジツハフは疑われにくい!」

「そっか! さすがお姉ちゃん!」

「さすがじゃねぇよ! 子供にズルして勝つことを教えんな!」

「あ、誠道くん。ようやく起きたんですね。大丈夫ですか?」

 イツモフさんは、俺のツッコみを無視して、俺の体調を気遣ってくれる。

 うん。

 バカにされてるのか優しくされてるのかわからないね。

 でも、心配してくれてるのは確実だし、迷惑をかけたのも事実なので、感謝はしておこう。
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