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第5章 3 発覚

やりたい、やりたい、やりたい

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 ストレートに尋ねると、ホンアちゃんの唇が震えはじめる。

「そんなまさか、アイドルなんて、アイドルなんて…………嫌いで、大嫌いで」

「アイドルなんてクソくらえ、二次元最高! ってバカにしてる引きこもり男を魅了してしまえる輝きがホンアちゃんにはあるんだよ。それは、アイドルが大好きで、本気で取り組んでいないと絶対に出せないものだと思う」

「わかったようなこと言わないでって言ってるじゃないですか」

 ホンアちゃんが寄りかかっている壁を拳でたたく。

「私だって、私だって……私は、そんなの!」

 ホンアちゃん顔が涙でぐしゃぐしゃになる。

「アイドル……すごく楽しいに決まってる。でもはじめた理由が理由だから! 本当は男で、ファンを騙してるから! そんな私がアイドルをつづける資格なんてない! だから私は、このまま裏切り者として嫌われた方がいいんだよ!」

「そんなの関係ないさ」

 俺は涙を拭うホンアちゃんの前まで歩いて、肩に優しく手を置く。

「はじめた理由とか関係ないよ。最初はアイドルという存在を恨んでいたかもしれないけど、いざやってみたら楽しかった。それをつづける理由にしてもいいじゃんか。壮大な理由なんて必要ない。ホンアちゃんのライブは本物だよ。ホンアちゃんはあれほどのファンの心を惹きつける、生まれながらの素敵なアイドルなんだよ」

「私は……、私は」

 ホンアちゃんはゆっくりと顔を上げる。

 輝く涙のついた手を胸に添えて、必死で絞り出すように、かすれた声で。

「やりたい。本当のアイドルに、なりたい」

 やっと言えたじゃねぇか。

「私、ライブがしたい。楽しいから。みんなの笑顔を見るのが好きなの」

 だからっ!

 ホンアちゃんが腕で涙をごしごしと拭うと、涙はもう止まっていた。

「ライブ、やりたい。アイドル、死ぬまでつづけたい。ファンを裏切っちゃったけど、誰もいなくてもいいから、ゼロからまた」

「誰もいないわけねぇだろ」

 俺はにやりと笑いながら胸を張る。

「少なくとも一人、ここにぷりちーアイドルホンアちゃんのファンがいるんだから」

「ありがとう。ナルチー」

「いいってことよ」

「私も、もちろん協力させていただきます」

 俺の隣に立っているミライは涼しげな笑みを浮かべている。

「やってみたら楽しかった、でクソみたいな引きこもり生活をつづける決断をした誠道さんが言うんです。今回はものすごく説得力がありますね」

「誰が引きこもりを楽しいと言った?」

「ミライさんも、本当にありがとう」

「ホンアちゃんはそこで感謝しないでね」

 俺たちに向けて、深々とお辞儀をするホンアちゃん。

 顔を上げたホンアちゃんの顔には、覚悟を決めたプロのアイドルの闘志が宿っていた。



 翌朝。

 ホンアちゃんは俺の家を囲んでいたファンたちに向かって、明日ライブをすること、場所は追ってお知らせすること、そのライブですべてをお話しすることを伝えた。

 暴動が起きたり、罵声が飛んだりしてもおかしくなかったはずなのに、ホンアちゃんの覚悟のこもった表情と言葉のおかげで、ファンたちは特に騒ぐことなく、俺の家の周りから退散していった。

 イツモフさんだけが、

「人の商売をなんだと思ってるんだ!」

 と騒いでいた。
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