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第5章 3 発覚
アイドル引退
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とりあえず、ミライは聖ちゃんに連れて帰ってもらった。
聖ちゃんが出ていくと、男たちは股間を手で押さえ、まるで高所にある吊り橋でも渡っているかのようにもぞもぞしていた。
ミライにゴブリンタイラントの睾丸を渡した聖ちゃんは、すぐに新たな敵の元へ旅立っていった。
罵られたいでおなじみのマーズには警備の役割を与えて強制的に家から締め出すことに成功。
テンションが上がって罵声を飛ばしはじめたファンたちの相手をさせている。
本人も喜んでいるので、これはナイス采配だと思うことにしよう。
そして、聖ちゃんが連れ戻してきた、絶賛スパイ疑惑浮上中のミライはといえば。
「ようやく説明してくれる気になったんですね。誠道さん」
俺の前で仁王立ちして、高圧的な態度で詰問してきていた。
「だから彼氏のフリをしていたら、誰かに写真を撮られただけなんだよ。本当にそれだけなんだよ」
「ミライさん。それは本当なので安心していいですよ」
ソファの上で膝を抱えたままのホンアちゃんも、ミライを宥めるのに協力してくれている。
ああ、なんでいいやつなんだ、ホンアちゃんは。
「だって私は、私が完全に惚れないようにあえて『評判最悪の引きこもりのクズ男』を彼氏役にしたんですから」
「ねぇ、いますぐ彼氏役やめてこいつのすべてをファンにバラしていいですか?」
ああ、なんてクズなんだ、ホンアちゃんは。
「なるほど。それなら納得です。ホンアさん、誠道さん。取り乱してしまい申しわけありませんでした。誠道さんに惚れる人間なんていませんでした」
「ミライはホンアちゃんの意見で納得しないでくれるかな? 俺が悲しくなる……ってか俺の悪い噂は全部お前が吹聴したんだろ!」
「そんなことよりも、ホンアさん」
おい、そんなことで片付けんなよ!
と言おうとしたのだが、いつになく真剣なミライの顔を見て声が喉の奥に引っ込んだ。
ミライがホンアちゃんの方へ歩いていき、ソファの横で止まった。
「え、私?」
ホンアちゃんが首をかしげながら、ミライを見上げる。
「はい。私は、あなたに聞きたいことがあるのです。よろしいですか?」
「えっと……なんですか?」
「これから、ホンアさんはどうなさるおつもりなんですか?」
「あ、えっ……それは……」
ホンアちゃんの顔があからさまに曇っていく。
ふっ、とため息を吐き出すみたいにして笑い、自分の指の爪を見ながら。
「まあ、アイドルは引退ですかね。こうなっちゃった以上は、しょうがないですよ」
「本当にそれでいいんですか? 引退なんて簡単に決めて。もうアイドルでいられなくなるんですよ?」
「いいもなにも、私はアイドルになりたかったわけじゃない。ただ、背徳感のために、アイドルやるのが一番かなぁって思っただけなので」
「でも」
「はぁーあ」
背伸びをしたホンアちゃんは、ミライの言葉を意図的に遮ったように見えた。
「私もついにアイドル引退かぁ。もう背徳感とはおさらばかぁ。他の方法考えないとなぁ」
ホンアちゃんは翳りのある笑みを浮かべる。
目を閉じて二度ゆっくりと頷いたあと、俺に視線を向けた。
「でも、ごめんねナルチーくん。最後にこんなことに巻き込んでさ。彼氏役、いままでありがとう。いま私が出ていくと騒ぎどころじゃすまないから、この騒動のほとぼりが覚めるまではここにいて、次はどこか別の街で暮らすことにするよ。ま、三日もすれば私のファンたちも次のアイドルを探しはじめるだろうし。アイドルのファンなんてそんなもんだよ。みんな新参者が好きだから」
淡々と、これからの予定を語るホンアちゃん。
彼女が浮かべている微笑が、俺の胸をちくちくと刺してくるのはどうしてだろう。
花火大会が終わったあとに夜空から降り積もってくる切なさと同じものが、弓形に曲げられた目からじわりじわりと漏れ出しているように思えるのは、破局を認められない俺の心が見せた幻なのだろうか。
聖ちゃんが出ていくと、男たちは股間を手で押さえ、まるで高所にある吊り橋でも渡っているかのようにもぞもぞしていた。
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罵られたいでおなじみのマーズには警備の役割を与えて強制的に家から締め出すことに成功。
テンションが上がって罵声を飛ばしはじめたファンたちの相手をさせている。
本人も喜んでいるので、これはナイス采配だと思うことにしよう。
そして、聖ちゃんが連れ戻してきた、絶賛スパイ疑惑浮上中のミライはといえば。
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ああ、なんでいいやつなんだ、ホンアちゃんは。
「だって私は、私が完全に惚れないようにあえて『評判最悪の引きこもりのクズ男』を彼氏役にしたんですから」
「ねぇ、いますぐ彼氏役やめてこいつのすべてをファンにバラしていいですか?」
ああ、なんてクズなんだ、ホンアちゃんは。
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「ミライはホンアちゃんの意見で納得しないでくれるかな? 俺が悲しくなる……ってか俺の悪い噂は全部お前が吹聴したんだろ!」
「そんなことよりも、ホンアさん」
おい、そんなことで片付けんなよ!
と言おうとしたのだが、いつになく真剣なミライの顔を見て声が喉の奥に引っ込んだ。
ミライがホンアちゃんの方へ歩いていき、ソファの横で止まった。
「え、私?」
ホンアちゃんが首をかしげながら、ミライを見上げる。
「はい。私は、あなたに聞きたいことがあるのです。よろしいですか?」
「えっと……なんですか?」
「これから、ホンアさんはどうなさるおつもりなんですか?」
「あ、えっ……それは……」
ホンアちゃんの顔があからさまに曇っていく。
ふっ、とため息を吐き出すみたいにして笑い、自分の指の爪を見ながら。
「まあ、アイドルは引退ですかね。こうなっちゃった以上は、しょうがないですよ」
「本当にそれでいいんですか? 引退なんて簡単に決めて。もうアイドルでいられなくなるんですよ?」
「いいもなにも、私はアイドルになりたかったわけじゃない。ただ、背徳感のために、アイドルやるのが一番かなぁって思っただけなので」
「でも」
「はぁーあ」
背伸びをしたホンアちゃんは、ミライの言葉を意図的に遮ったように見えた。
「私もついにアイドル引退かぁ。もう背徳感とはおさらばかぁ。他の方法考えないとなぁ」
ホンアちゃんは翳りのある笑みを浮かべる。
目を閉じて二度ゆっくりと頷いたあと、俺に視線を向けた。
「でも、ごめんねナルチーくん。最後にこんなことに巻き込んでさ。彼氏役、いままでありがとう。いま私が出ていくと騒ぎどころじゃすまないから、この騒動のほとぼりが覚めるまではここにいて、次はどこか別の街で暮らすことにするよ。ま、三日もすれば私のファンたちも次のアイドルを探しはじめるだろうし。アイドルのファンなんてそんなもんだよ。みんな新参者が好きだから」
淡々と、これからの予定を語るホンアちゃん。
彼女が浮かべている微笑が、俺の胸をちくちくと刺してくるのはどうしてだろう。
花火大会が終わったあとに夜空から降り積もってくる切なさと同じものが、弓形に曲げられた目からじわりじわりと漏れ出しているように思えるのは、破局を認められない俺の心が見せた幻なのだろうか。
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