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第5章 2 背徳快感爆走中!

呼吸を忘れるほどに

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 その後も、いろいろと危ない場面はありつつも、なんとか騒ぎにならずにデートを終えた。

 あれからホンアちゃんはフードを三回も取るという笑えないおバカっぷりを見せたので、本当にヒヤヒヤものだった。

 ホンアちゃんと別れ、家に帰るとすぐにリビングのソファの上に倒れ込む。

 いつもより体が深く沈み込む感じがした。

 それだけ疲れていたということだろう。

「あ、お帰りなさい、誠道さん。帰っていたんですね」

 ミライの声が聞こえてくる。

 いままで自室にいたのだろうか。

 俺はソファの座面に顔を埋めたまま答える。

「ああ、ミライ、今日はもう疲れたよ。なんだか僕、とっても眠いんだ」

「それ死んじゃうやつなのでやめてください」

 いやこんなんで死なないから。

「それより誠道さん。今日のライブはそんなに白熱していたんですか?」

「いや、今日は中止だったんだ。ホンアちゃんが体調を崩したってことで」

「え? 中止? じゃあいままでいったいどこに?」

「ああ、実はそのあと、体調を崩したはずのホンアちゃんと会ったんだよ。実は体調を崩したって話がまず嘘で、嘘をついた理由は、体調を崩したと嘘をついて彼氏とデートをしている背徳感がどうとか、言ってたな」

 うん、自分で説明していてなんだが、まったく意味がわからないね。

 背徳感お化けの言っていることをすべて理解しようとすることが間違いか、ははは。 

「なるほど。つまり誠道さんは、いままでホンアちゃんとデートをしていたと」

「それがすごい大変でさ。ホンアちゃん、秘密にしなきゃいけないのにフードを何度も外すんだよ。自分からバラしたいのかって感じだよ」

「なるほど。それは大変でしたね」

 それからミライと何度か言葉を交わしたあと。

「ご飯はこの後作ります。ちょっと失礼します」

 一礼したミライはそそくさとリビングを出ていった。

 俺はソファの上で寝返りを打って、今度はあおむけになる。

 今日のデートで感じた、少しの違和感を頭の中で反芻させる。

 ホンアちゃんって、なんか背徳感で興奮しているときより、ライブで歌って踊ってるときの方が楽しそうなんだよなぁ。

 俺とデートしてるとき、ふいに影のある表情を浮かべてるんだよなぁ。

「誠道さん。お待たせいたしました。いまからご飯を作りますね」

「ああ……頼むっ、って」

 俺はリビングに入って来た逆さのミライを見て飛び上がった。

 ホンアちゃんに対しての思考も、空高く吹っ飛んでいく。

 すぐに起き上がって、今度はちゃんとソファの上に座って、まじまじとミライを見る。

「ちょっと、そんな、見ないでください。恥ずかしいです」

「いや、だって……」

 ミライが、いつものセーラー服姿ではなく、ピンクのフリフリのミニワンピースを着ているからだ。

 そのミニワンピースの裾をぎゅっと掴んで、頬を朱色に染めてうつむいている。

「ふ、服の趣味でも変わったのか? ってかそれ、どこかで見たことあるような」

「これはですね。ホンアさんがライブのときに着ていた衣装です」

 そうかっ!

 それで見たことがあったのか。

「でも……なんでいきなり? もしかしてミライもホンアちゃんのファンなの?」

 元の世界にいるときは、押しのアイドルの衣装を忠実に再現し、ダンスを完コピするタイプのアイドルオタクもいた。

「いえ。私はアイドルなんぞに興味は一切ございません」

「じゃあ、ほんとになんで」

「それは……」

 ミライは俺の目の前まで歩いてきて、上目遣いで見つめてくる。

「ホンアさんは男なので大丈夫だと思っているんですが、誠道さんのあまりの熱中ぶりに不安になりまして。それで……」

「ふ、不安って」

 俺がじりと一歩下がると、ミライはすぐにその距離を詰めてくる。

「この格好、どうでしょうか?」

「どうって……その、まあ、似合ってて、その……可愛いというか、まあ、いいんじゃないの?」

 何度もつっかえながらだったが、なんとか正直にそう伝える。

 ミライの真っすぐな瞳に、ごまかさないでくださいよという圧を感じたのだ。

「か、可愛い。そ、そうです、か……」

 ミライの耳が赤くなる。

 その耳を隠すように両手で押さえ、三歩後ろに下がる。

「ありがとうございます。誠道さんにそう言っていただけて、苦労して準備した甲斐がありました」

 まだ赤い顔をくしゃりと緩ませて本当に幸せそうに笑うミライ。

 俺はその顔から目を逸らす事が出来なかった。

 体中が熱くて、呼吸も忘れていて、ただただミライの笑顔に見惚れていた。
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